男性育休の義務化とは|2025年法改正と企業が対応すべきポイント

2025年 11月 4日

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「男性育休が義務化されたと聞いたが、本当なのか」「企業として何をすべきなのか分からない」―このような疑問や不安を抱いていませんか。

「男性育休の義務化」という言葉が広まっていますが、実は多くの誤解が存在します。正しい理解がなければ、適切な対応ができず、法令違反のリスクも生じてしまうでしょう。

本記事では、男性育休の義務化について、その正しい意味から2025年4月の法改正内容、企業が対応すべき具体的なポイントまで詳しく解説します。人事担当者や経営層の方が、自社で必要な対応を明確にできる情報を提供いたします。

男性育休の義務化とは

「男性育休の義務化」という言葉が一人歩きしていますが、正しく理解することが重要です。

結論から言うと、男性従業員に対して育休取得が義務付けられたわけではありません。2022年の育児・介護休業法改正で義務化されたのは、企業側の対応です。具体的には、企業に対して「男性が育児休業を取得しやすい環境を整備すること」と「個別に取得意向を確認すること」などが義務付けられました。

つまり、「男性育休取得推進のための企業の義務化」が正しい理解です。全ての男性社員に育休取得を強制するものではなく、企業が積極的な働きかけを行う義務が課されたことを指します。

この誤解が生まれた背景には、「男性育休取得推進」と「義務化」という2つのキーワードが同時に使われることが多いためです。法改正の趣旨は、企業ごと・性別ごとの温度差をなくし、男性育休を含めた育児休業の取得促進を図ることにあります。

厚生労働省の令和5年度雇用均等基本調査によると、2023年度の男性の育休取得率は30.1%に達しました。前年度の17.13%から大幅に上昇しており、法改正の効果が表れています。しかし、女性の84.1%と比較すると依然として低く、さらなる取得促進が求められているのです。

企業に義務化された男性育休の内容

それでは、企業に具体的にどのような義務が課されているのでしょうか。2022年4月以降、段階的に施行された内容を確認しましょう。

雇用環境の整備

2022年4月から、育休の申出がしやすい・取得しやすい雇用環境の整備が事業主の義務となりました。企業は以下のいずれかの措置を講じる必要があります。

まず、育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施です。特に管理職を対象とした研修を行うことで、職場全体の理解を深められます。次に、育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備です。相談窓口を設置し、従業員が気軽に相談できる環境を作ることが重要でしょう。

また、自社の育児休業・産後パパ育休の取得事例の収集・提供も有効です。実際の取得事例を共有することで、他の従業員も取得しやすくなります。さらに、自社の育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知も求められます。

これらの措置を講じることで、従業員が「こんなことを聞いたら無知だと思われるのでは」という不安を抱かず、安心して育休を申し出られる環境が整うのです。

個別周知と意向確認

2022年4月から、本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、企業は個別に制度を周知し、休業の取得意向を確認することが義務付けられました。

周知する内容は、育児休業・産後パパ育休に関する制度、育児休業・産後パパ育休の申し出先、育児休業給付に関すること、労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱いです。これらの情報を正確に伝えることで、従業員は安心して育休を取得できます。

個別周知・意向確認の方法としては、面談(オンラインも可)、書面交付、FAX、電子メールなどが認められています。FAXや電子メールは労働者が希望した場合のみ使用可能です。

重要なのは、この個別周知・意向確認が、決して育休取得を控えさせるような形で行われてはならないという点です。取得を促す趣旨で実施することが求められます。

有期雇用労働者の要件緩和

2022年4月から、有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件が緩和されました。

これまで認められてこなかった有期雇用者の育休取得も、労働契約が満了することが明らかではない限り、申し出が可能になったのです。具体的には、育児休業の場合は子が1歳6ヶ月になるまでに労働契約の満了が明らかでないこと、産後パパ育休の場合は子の出生後8週間を経過する日の翌日から6ヶ月を経過する日までに労働契約が満了することが明らかでないことが条件です。

契約社員やパート社員など、有期雇用で働く従業員も育休を取得しやすくなり、より幅広い従業員が制度を利用できるようになりました。

2025年4月:男性育休に関する法改正

2025年4月から、男性育休に関する制度がさらに変わります。企業に求められる対応も拡大するため、しっかりと準備しましょう。

取得率公表の義務化拡大

2023年4月から、従業員1,000人超の企業に対して、年1回、男性の育児休業等の取得状況を公表することが義務付けられていました。2025年4月からは、この義務が従業員300人超の企業に拡大されます。

対象企業は約5万社となり、より多くの企業で男性の育児参加が促進されることが期待されているのです。公表する内容は、以下のいずれか一方の割合を選択して算出します。

1つ目は、育児休業等の取得率です。計算式は「育児休業等をした男性労働者数÷配偶者が出産した男性労働者数×100」となります。2つ目は、育児休業等と育児目的休暇の取得率です。計算式は「小学校就学前の子の育児を目的とした休暇制度等を利用した男性労働者数と育児休業等をした男性労働者数の合計÷配偶者が出産した男性労働者数、小学校就学前の子を育てる男性労働者数の合計×100」です。

育児目的の休暇制度は、企業が独自に設けている制度のため、制度がない場合は1つ目の計算式を用います。

公表はインターネット上で実施し、対象となる事業年度が終了してから3ヵ月以内を目安に行いましょう。厚生労働省は、公表の場として12万社以上の企業が登録する「両立支援のひろば」を推奨しています。

公表しない企業には指導や勧告、企業名の公表を行うことができ、虚偽の取得率を公表するなど悪質な企業には罰則もあります。対象企業は、早めに準備を進めることが重要です。

目標設定の義務化

2025年4月から、従業員100人超の企業に対し、男性従業員の育児休業取得率の目標を設定し、公表するよう義務付けられます。従業員100人以下の企業は努力義務となるのです。

目標は「一般事業主行動計画」の中に明記し、労働局に届け出て公表します。一般事業主行動計画とは、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るために策定する計画のことです。

計画には、男性の育休取得率の目標だけでなく、フルタイム労働者1人当たりの時間外・休日労働時間などの目標も明記するよう求められます。これにより、働き方改革と両立支援を一体的に推進することが狙いです。

対応しない企業には、厚生労働省が公表を求めて勧告できる仕組みとなっています。政府は男性の取得率について「2025年までに50%」との目標を掲げているため、企業ごとに目標を設定し、取得促進に取り組むことで社会全体での育休取得率向上を目指しているのです。

出生後休業支援給付金の創設

2025年4月から、「出生後休業支援給付金」が新たに創設されます。これは経済的な支援を強化し、男性の育休取得をさらに促進するための制度です。

子の出生直後の一定期間に、被保険者とその配偶者がそれぞれ14日以上の育児休業を取得した場合、被保険者の休業期間について28日間を限度に支給されます。従来の育児休業給付(休業開始時賃金の67%相当)に、休業開始時賃金の13%相当が上乗せされるのです。

つまり、既存の育児休業給付金(67%)と合わせると、手取りで休業前とほぼ同額(約80%)の収入が得られることになります。経済的な不安が軽減されることで、男性の育休取得がさらに促進されることが期待されているのです。

ただし、給付金の支給率は賃金の80%であり、100%相当が給付されるわけではありません。手取り額に換算すると100%相当となる点に注意が必要です。また、給付金には支給の上限があるため、もともとの給与が高い方は育休中の受取額が手取りの80%に満たないことがあります。

企業が男性育休に向けて対応すべきこと

2025年4月の法改正に向けて、企業はどのような準備をすべきでしょうか。具体的な対応ポイントを解説します。

取得率の算出と公表準備

従業員300人超の企業は、男性の育休取得率を算出し、公表する準備を進める必要があります。

まず、過去の実績データを整理しましょう。配偶者が出産した男性労働者数と、育児休業等をした男性労働者数を正確に把握します。人事システムやタイムカードの記録を確認し、漏れがないようにデータを収集することが重要です。

次に、公表方法を決定します。自社のウェブサイトに掲載するか、厚生労働省が運営する「両立支援のひろば」を利用するかを検討しましょう。両立支援のひろばは無料で利用でき、多くの企業が活用しているため推奨されています。

公表時期も確認が必要です。対象となる事業年度が終了してから3ヵ月以内を目安に公表することが求められるため、社内のスケジュールを調整しておきましょう。

一般事業主行動計画の策定

従業員100人超の企業は、一般事業主行動計画を策定し、男性の育休取得率の目標を設定する必要があります。

計画策定にあたっては、まず自社の現状を分析しましょう。現在の男性の育休取得率はどの程度か、取得期間はどのくらいか、取得しにくい要因は何かを明確にします。従業員へのアンケート調査やヒアリングを実施することも効果的です。

次に、具体的な目標を設定します。「2027年度までに男性の育休取得率を50%にする」といった、達成期限と数値目標を明確にしましょう。目標は高すぎても低すぎても意味がないため、自社の実情に合わせた現実的な設定が大切です。

さらに、目標達成のための具体的な施策を盛り込みます。「管理職向け研修を年2回実施する」「育休取得事例を社内イントラで毎月紹介する」など、実行可能な取り組みを明記しましょう。

計画は労働局に届け出て公表する必要があります。届出手続きの流れや必要書類を事前に確認し、期限内に対応できるよう準備を進めてください。

就業規則の見直し

法改正に伴い、就業規則(育児休業規程)の見直しが必要になるケースもあります。

産後パパ育休や育児休業の分割取得、柔軟な働き方の措置などについて、規定が最新の法律に対応しているか確認しましょう。特に、2025年10月からは3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対する措置も義務化されるため、その内容も盛り込む必要があります。

就業規則を変更した場合は、労働基準監督署への届出が必要です。また、変更内容を従業員に周知することも忘れずに行いましょう。社内イントラへの掲載や説明会の開催など、確実に情報が伝わる方法を選択してください。

職場風土の醸成

制度を整備するだけでなく、実際に男性が育休を取得しやすい職場風土を醸成することが重要です。

厚生労働省の調査では、男性が育児休業制度を利用しなかった理由として、「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから、または会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから」が2番目に多い結果となっています。育児休業を職場に相談しようとしても、周りの従業員、特に上司である管理職からの理解が得られないような状況だと取得が難しくなってしまうのです。

そのため、管理職向けの研修を充実させることが効果的でしょう。管理職自身が男性育休の意義を理解し、部下の取得を積極的にサポートする姿勢を持つことが大切です。

また、経営層からのメッセージ発信も重要です。トップが男性育休推進の方針を明確に示すことで、組織全体の意識が変わります。実際の取得事例を社内で共有し、「育休を取得することが当たり前」という文化を作り上げていきましょう。

男性育休の取得促進のメリット

企業が男性育休の取得促進に取り組むことには、多くのメリットがあります。

採用力の強化

男性の育休制度が整っているかや実際に使われているかどうかは、採用において重視されるポイントの1つです。積水ハウス「男性育休白書 2021 特別編」によると、男性就活生の77.5%が「男性の育休制度注力企業を選びたいか」という問いに対して、「選びたい」と回答しています。

この数字からもわかるように、男性育休の取得促進は、優秀な人材の確保に直結します。特に若い世代ほど、ワークライフバランスを重視する傾向があるため、育休制度の充実は採用面で大きなアドバンテージとなるでしょう。

また、育休取得率を公表することで、「従業員を大切にする企業」として社会的な評価も高まります。企業イメージの向上は、ブランド力強化にもつながるのです。

従業員満足度の向上

男性育休を推進することで、従業員満足度やワークエンゲージメントが向上します。

育休取得率向上に向けた取り組みによる効果として、「職場風土の改善」「従業員満足度・ワークエンゲージメントの向上」「コミュニケーションの活性化」が確認されています。男性育休の取得促進は、当事者だけでなく、他の従業員の満足度やワークエンゲージメントへも貢献する波及効果があるのです。

育休を取得することで、従業員は仕事と家庭生活を円滑に両立することが可能となり、結果として企業への満足度やロイヤルティが高まります。それは仕事へのモチベーションへとつながり、生産性の向上に寄与するでしょう。

離職率の低下

男性育休をはじめとした制度が活用されることで、休業や時短勤務への理解も深まり、従業員が働きやすさを感じられる職場環境が整備されます。

従業員が「この会社なら長く働き続けられる」と感じることで、離職率の低下につながるのです。人材の定着は、採用コストの削減だけでなく、組織の知識やノウハウの蓄積にも貢献します。

また、多様な働き方を受け入れる柔軟さを持っている企業として、社内外から好印象を与えることにもつながります。これは長期的な企業価値の向上にも寄与するでしょう。

まとめ

男性育休の義務化について、正しい理解と企業が対応すべきポイントを解説しました。

「男性育休の義務化」とは、男性従業員に育休取得が義務付けられたわけではなく、企業に対して「男性が育児休業を取得しやすい環境を整備すること」と「個別に取得意向を確認すること」などが義務付けられたことを指します。

企業に義務化された内容は、雇用環境の整備、個別周知と意向確認、有期雇用労働者の要件緩和です。これらは2022年4月から段階的に施行されており、すでに対応が求められています。

2025年4月からは、従業員300人超の企業に取得率公表が義務化され、従業員100人超の企業には目標設定が義務付けられます。また、出生後休業支援給付金が創設され、経済的な支援も強化されるのです。

企業は、取得率の算出と公表準備、一般事業主行動計画の策定、就業規則の見直し、職場風土の醸成に取り組む必要があります。これらの対応は、単なる法令遵守にとどまらず、採用力の強化、従業員満足度の向上、離職率の低下といったメリットをもたらすでしょう。

男性育休の取得促進は、企業の持続的な成長にもつながる重要な取り組みです。正しい理解のもと、計画的に準備を進めていきましょう。