一般事業主行動計画とは|女性活躍推進法の策定手順と届出方法
2025年 11月 4日

「一般事業主行動計画を策定しなければならないが、何から始めればいいか分からない」「具体的にどのような内容を盛り込めばいいのだろう」―このような悩みを抱えていませんか。
2022年4月から、常時雇用する労働者数が101人以上の企業にも、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の策定・届出が義務化されました。適切に対応しなければ、法令違反のリスクが生じてしまいます。
本記事では、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画について、その内容から具体的な策定手順、届出方法まで詳しく解説します。人事担当者や経営層の方が、自社で必要な対応を明確にできる情報を提供いたします。
一般事業主行動計画とは
一般事業主行動計画とは、女性活躍推進法に基づき、企業が自社の女性活躍を推進するために策定する計画です。
この計画では、企業がまず自社の女性活躍に関する現状を把握し、課題を分析します。その上で、女性活躍に向けた具体的な目標を設定し、その目標を達成するための取り組み内容を明確にするのです。
特に、国が指定する一定規模以上の企業には、この行動計画の策定と関係省庁への届出、そしてその内容の公表・周知が義務付けられています。行動計画を策定・公表することで、企業は女性活躍に向けた取り組みを積極的に推進し、透明性を確保することが求められるのです。
このように、一般事業主行動計画は、企業が女性活躍を推進するための具体的な取り組みをまとめた計画であり、法律に基づいて策定・公表することで、社会全体のダイバーシティ&インクルージョン、そして女性のエンパワメントに貢献することが期待されています。
企業が行動計画を策定する際は、自社の実情に合わせた課題分析を行い、実効性のある目標と施策を設定することが重要でしょう。形式的な計画ではなく、本当に女性が活躍できる環境づくりにつながる内容にすることが求められます。
女性活躍推進法とは
一般事業主行動計画の背景にある、女性活躍推進法について確認しておきましょう。
女性活躍推進法とは、働きたいと望む女性が個性・能力を十分に発揮できる社会の実現を目指して制定された法律です。正式名称を「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」といい、2016年4月1日より全面施行されました。
この法律は2026年3月31日までの10年間の時限立法として施行されています。国が企業に対して、女性が働きやすい環境を整えられているのかの現状把握や、女性活躍を促すための目標や計画の報告を義務づけている点が特徴です。
急速な少子高齢化や労働力不足が懸念される中、女性の活躍推進は日本経済にとって非常に重要な課題となっています。総務省の労働力調査からも、日本の労働市場において女性の力が十分に発揮できているとは言えない状況が明らかです。
2019年5月の改正により、対象事業主が拡大され、2022年4月1日から「常時雇用する労働者数が101人以上300人以下の事業主」も義務の対象となりました。これにより、より多くの企業で女性活躍推進の取り組みが進められることになったのです。
女性活躍推進法の対象企業と義務内容
女性活躍推進法において、どのような企業が対象となり、何が義務付けられているのでしょうか。
女性活躍推進法の対象企業
女性活躍推進法の対象企業は、常時雇用する労働者数によって決まります。2022年4月以降は、常時雇用する労働者数が101人以上の企業が義務の対象です。
ここでいう「常時雇用する労働者」とは、正社員だけでなく、パート、契約社員、アルバイトなどの名称にかかわらず、以下の要件に該当する労働者を含みます。期間の定めなく雇用されている者、または一定の期間を定めて雇用されている者であって、過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者もしくは雇入れの時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者です。
常時雇用する労働者数が100人以下の企業は努力義務となっています。ただし、女性にとって働きがいのある職場環境づくりは、性別を問わない優秀な人材の確保につながるため、義務の対象外でも積極的に取り組むことが推奨されるでしょう。
女性活躍推進法の義務内容
常時雇用する労働者数が101人以上の企業に対して、女性活躍推進法は以下の取り組みを義務付けています。
1つ目は、自社の女性の活躍に関する状況を把握し、課題を分析することです。必ず把握しなければならない基礎項目が4つ決められています。
2つ目は、状況把握、課題分析を踏まえた行動計画を策定、社内周知、公表することです。行動計画には、計画期間、数値目標、取組内容、取組の実施時期を盛り込む必要があります。
3つ目は、都道府県労働局に一般事業主行動計画策定・変更届を届出することです。届出は施行前でも受付可能なため、早めに着手することが推奨されます。
4つ目は、自社の女性の活躍に関する情報を公表することです。年に1回以上データを更新する必要があります。常時雇用する労働者数が101人以上300人以下の企業は、指定された項目から1項目以上を選択して公表します。常時雇用する労働者数が301人以上の企業は、採用・継続就業の区分から1項目以上、労働時間等の働き方の区分から1項目以上の合計2項目以上を公表することが求められるのです。
策定手順①状況把握
一般事業主行動計画を策定する前に、自社における女性の活躍状況を数値で把握し、課題を分析することが必要です。
基礎項目の把握
状況把握では、必ず確認しなければならない基礎項目が4つ決められています。これらの項目について、自社の現状を数値化しましょう。
1つ目は、採用した労働者に占める女性労働者の割合です。中途採用を含む直近の事業年度の採用者数に占める女性の割合を算出し、男性優位になっていないか確認します。男女別の採用における競争倍率も参考になるでしょう。
2つ目は、男女の平均継続勤務年数の差異です。女性労働者の平均継続勤務年数を男性労働者の平均継続勤務年数で割って算出します。この数値が低い場合、女性が働き続けにくい環境がある可能性があります。
3つ目は、労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況です。各月の対象労働者の法定時間外労働と法定休日労働の総時間数の合計を対象労働者数で割った平均を算出し、長時間労働になっていないか確認します。
4つ目は、管理職に占める女性労働者の割合です。従業員に占める女性の割合に比較して、管理職に占める女性割合が著しく低い場合、昇進機会の不平等や女性のキャリア形成に課題がある可能性があります。
課題の分析
基礎項目の数値を把握したら、次に課題を分析します。数値が低い項目があれば、その要因を深掘りして課題化することが重要です。
たとえば、事務職の女性の比率は70%を超えているが、技術職の女性の比率が20%未満である場合、技術職の女性を増やす必要があると考えられます。採用女性の割合および就業継続の比率は目安より上だが、管理職割合は15%と低い場合、女性の配属や評価等により女性がキャリアアップする機会が失われている可能性があるでしょう。
必要に応じて、労働者や労働組合等に対するアンケート調査や意見交換を実施するなど、職場の実情の的確な把握に努めることが重要です。数値だけでは見えてこない、現場の生の声を集めることで、より実効性のある行動計画を策定できます。
また、基礎項目以外にも、選択項目として追加で把握できる項目があります。企業の実情に合わせたより深い状況把握は、自社の課題分析に効果的です。役員に占める女性の割合、男女別の育児休業取得率、有給休暇取得率なども参考になるでしょう。
策定手順②行動計画の策定
状況把握、課題分析の結果を勘案し、行動計画を策定します。行動計画には、計画期間、数値目標、取組内容、取組の実施時期を盛り込むことが必要です。
計画期間の設定
女性活躍推進法は2026年3月31日までの時限立法のため、行動計画では、それまでの期間で各企業の実情に応じて2年間から5年間に区切り、定期的に進捗を検証しながら改定するよう求められています。
新たに義務化対象となった101人以上300人以下の企業は、2026年3月までに1回から2回の定期検証期間を設定するとよいでしょう。たとえば、「2025年4月1日から2027年3月31日までの2年間」や「2024年4月1日から2027年3月31日までの3年間」といった設定が考えられます。
計画期間を設定することで、いつまでに何を達成するかが明確になります。また、定期的に見直すことで、社会情勢の変化や自社の状況変化に柔軟に対応できるのです。
数値目標の設定
行動計画には数値目標を定めるよう求められています。働きやすい職場を定性的に定義すると、個人の状況や価値観によって差異が生まれやすくなるためです。
数値目標は、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」と「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」の2区分から1項目以上(常時雇用する労働者数が301人以上の場合は各区分から1項目以上・合計2項目以上)選択します。
具体的には、「採用した労働者に占める女性労働者の割合を○%以上にする」「管理職に占める女性労働者の割合を○%以上にする」「男性労働者の育児休業取得率を○%以上にする」「労働者一人当たりの各月の平均残業時間数を○時間以内にする」といった目標が考えられるでしょう。
目標値は、自社の現状を踏まえて、達成可能かつチャレンジングな水準に設定することが重要です。高すぎる目標は非現実的で意味がなく、低すぎる目標は形式的になってしまいます。
取組内容と実施時期
掲げた数値目標をどのように実現していくか、具体的な取り組み内容と実施時期を明記します。行動計画は一つに絞る必要はなく、効果的だと思うアプローチが複数あれば複数策定しても構いません。
たとえば、「採用担当者に女性社員を配置し、採用選考過程において女性応募者と女性社員とが直接対話できる場を多く設ける」「採用ホームページおよびパンフレットにおいて活躍する女性社員を積極的に紹介する」「管理職に対して、育児休業法改正について研修を実施する」「育休に係る面談制度やハンドブックの見直し・周知を行い、より育休を取得しやすい環境を整える」といった具体的な施策を盛り込みましょう。
実施時期については、「2025年4月から」「2026年10月から」といった形で明記します。計画期間内のいつ実施するのかを明確にすることで、進捗管理がしやすくなるのです。
策定手順③届出と公表
行動計画を策定したら、届出と公表を行います。
労働局への届出
策定した一般事業主行動計画は、都道府県労働局に届け出る必要があります。届出に使用する様式は「一般事業主行動計画策定・変更届」で、厚生労働省のホームページよりダウンロードが可能です。
届出は電子申請でも可能です。オンラインで手続きできるため、時間と手間を削減できるでしょう。2022年4月1日の施行に伴い、施行前後には労働局の手続受付や確認作業が大変込み合うことが予想されます。届出自体は施行前でも受付可能ですので、早めに着手しておくことが推奨されます。
届出の際は、自社の事業主行動計画の内容を正確に記載し、漏れがないように確認しましょう。不備があると受理されず、再提出が必要になる場合があります。
社内周知
自社でどのような行動計画を立てたのかを社内に周知します。周知方法は就業規則と同様、社内の見やすい場所への掲示・備え付けや社内ネットワークへの掲載など、社内の誰もが閲覧できる状態にしておきます。
社内周知を徹底することで、従業員全員が女性活躍推進の取り組みを理解し、協力体制を築けます。特に管理職層には、行動計画の内容を十分に理解してもらい、部下の女性従業員のキャリア形成をサポートする意識を持ってもらうことが重要でしょう。
また、社内説明会を開催したり、人事部門からのメッセージを発信したりすることで、従業員のエンゲージメント向上にもつながります。
外部への公表
策定した行動計画は、社外にも公表する必要があります。会社のホームページへの掲載でも良いですが、厚生労働省が専用サイト「女性の活躍推進企業データベース」を運営していますので、こちらに登録することで外部への公表を行うことも方法の1つです。
女性の活躍推進企業データベースは、企業の女性活躍に関する情報を一元的に集約し、求職者や投資家などが簡単に検索・閲覧できるプラットフォームです。12万社以上の企業が登録しており、多くの人に自社の取り組みをアピールできる機会となります。
公表することで、求職者に対して「女性が活躍できる企業」としての印象を与え、採用面で優位に立てる可能性があります。また、取引先や投資家からの信頼獲得にもつながるでしょう。
情報公表の義務
行動計画の策定・届出に加えて、自社の女性活躍に関する情報の公表も義務付けられています。
公表項目の選択
常時雇用する労働者数が101人以上300人以下の企業は、指定された項目から1項目以上を選択して情報を公表します。公表する項目は、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」と「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」の2つの領域から選べます。
具体的には、採用した労働者に占める女性労働者の割合、男女別の採用における競争倍率、労働者に占める女性労働者の割合、係長級にある者に占める女性労働者の割合、管理職に占める女性労働者の割合、役員に占める女性の割合、男女別の職種または雇用形態の転換実績、男女別の再雇用または中途採用の実績などから選択できます。
また、男女の平均継続勤務年数の差異、10事業年度前およびその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合、男女別の育児休業取得率、労働者の一月当たりの平均残業時間、有給休暇取得率なども選択肢に含まれます。
常時雇用する労働者数が301人以上の企業は、各領域から1項目以上、合計2項目以上を公表することが求められます。さらに、2022年7月の法改正により、「男女の賃金の差異」が情報公表の必須項目となりました。
公表方法と更新頻度
情報公表はインターネット上(女性の活躍推進企業データベースや自社ホームページなど)にて行い、年1回以上を目安に更新しましょう。公表する際は、いつの情報なのか分かるよう更新時点を明記することが必要です。
その時点に得られる最新の数値(特段の事情がない限り、古くとも公表時点の前々年度の数値)を公表します。古い情報を掲載しても意味がないため、定期的に更新することが重要でしょう。
公表義務のある項目のほかに、女性の活躍の一助となる社内制度を公表している企業もあります。たとえば、テレワーク制度、フレックスタイム制度、短時間勤務制度、育児休業制度の拡充内容などです。これらの情報を積極的に公表することで、自社の女性活躍推進への姿勢をアピールできます。
えるぼし認定
一般事業主行動計画の策定・届出を行った企業のうち、女性の活躍推進に関する取り組みの実施状況が優良な企業は、申請により厚生労働大臣の認定を受けられます。
えるぼし認定とは
えるぼし認定は、女性の活躍推進に関する取り組み状況が優良であると認められた企業に付与される認定です。女性活躍推進法に基づく行動計画の策定・届出を行った企業が申請できます。
えるぼしには、さまざまな企業や社会の中で活躍し、星のように輝く女性への「エール」と、そんな輝く女性が増えていくようにとの願いが込められています。認定を受けた企業は、商品や広告、名刺などに認定マーク(えるぼし)を使用できるのです。
えるぼし認定には3段階あり、評価項目の達成状況に応じて星の数が決まります。採用、継続就業、労働時間等の働き方、管理職比率、多様なキャリアコースの5つの評価項目について、達成している項目数に応じて1つ星から3つ星までの認定を受けられるのです。
プラチナえるぼし認定
2020年6月1日から、えるぼし認定を受けた企業のうち、女性の活躍推進に関する取り組みの実施の状況が特に優良な企業は、特例認定(プラチナえるぼし認定)を受けることができるようになりました。
プラチナえるぼし認定を受けた企業は、一般事業主行動計画の策定・届出が免除されます。ただし、情報公表は引き続き義務となります。プラチナえるぼしマークは、えるぼしマークよりもさらに上位の認定として位置づけられ、企業の女性活躍推進への強いコミットメントを示すシンボルとなるのです。
認定を取得することで、企業イメージの向上や優秀な人材の確保につながります。女性が活躍できる企業として社会的な評価が高まり、求職者からの応募増加や取引先からの信頼獲得が期待できるでしょう。
まとめ
女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画について、その内容から具体的な策定手順、届出方法まで解説しました。
一般事業主行動計画とは、企業が自社の女性活躍を推進するために策定する計画で、現状把握、課題分析、目標設定、取り組み内容の明確化が求められます。2022年4月から、常時雇用する労働者数が101人以上の企業に対して、策定・届出・公表が義務化されました。
策定手順は、まず基礎項目(採用女性割合、男女の平均継続勤務年数の差異、労働時間の状況、管理職女性割合)を把握し、課題を分析します。次に、計画期間、数値目標、取組内容、実施時期を盛り込んだ行動計画を策定しましょう。そして、労働局への届出、社内周知、外部への公表を行います。
加えて、自社の女性活躍に関する情報を年1回以上公表することも義務です。常時雇用する労働者数が101人以上300人以下の企業は1項目以上、301人以上の企業は2項目以上を選択して公表します。
優良な取り組みを行っている企業は、えるぼし認定やプラチナえるぼし認定を受けることができ、企業イメージの向上や優秀な人材の確保につながるでしょう。
一般事業主行動計画の策定は、単なる法令遵守にとどまらず、女性が活躍できる職場環境を整備し、企業の持続的な成長につながる重要な取り組みです。自社の実情に合わせた実効性のある計画を策定し、着実に実行していきましょう。





