ダイバーシティマネジメントとは?効果や具体的な取り組み方を解説
2025年 7月 16日

グローバル化や価値観の多様化が進む現代において、企業が持続的に成長していくためには、性別・年齢・国籍・ライフスタイルなど、多様な人材が力を発揮できる環境づくりが不可欠です。そこで注目されているのが「ダイバーシティマネジメント」。
この記事では、その基本的な考え方から具体的な制度・施策、実際の導入ステップまで、実践的に解説します。
ダイバーシティマネジメントに取り組もうと考えている企業様はぜひ、参考にしてみてください。
ダイバーシティマネジメントとは?定義や背景

現代の企業が直面する課題として、人材不足やグローバル化への対応が挙げられます。こうした課題を解決する手段として、ダイバーシティマネジメントが注目を集めています。
ダイバーシティマネジメントの具体的な定義や、なぜ今この取り組みが必要なのかについて、詳しく見ていきましょう。
ダイバーシティマネジメントの定義
ダイバーシティマネジメントとは、個人や集団間に存在するさまざまな違い、すなわち「多様性」を競争優位の源泉として生かすために文化や制度、プログラムプラクティスなどの組織全体を変革しようとするマネジメントアプローチです。
より具体的に説明すると、多様性を認めてそれぞれが活躍できる企業運営をおこなうことを指します。性別、年齢、国籍、職歴、価値観など、異なる背景を持つ人材を組織に受け入れ、その多様性を企業の成長に活かす取り組みです。
このマネジメント手法の特徴は、単に多様な人材を採用するだけでなく、その多様性を活かして事業の成長と組織の強化を促進する施策である点にあります。つまり、多様性を企業の競争力向上に直結させる戦略的な経営手法なのです。
多様性を活かしたマネジメントは、資源の獲得やマーケティング、アイデアの創出、課題解決、組織の柔軟さなど、さまざまな分野で力を発揮すると言われています。そのため、企業のさまざまな場面でプラスの効果が期待できるアプローチです。
ダイバーシティマネジメントが必要な背景
ダイバーシティマネジメントが必要とされる背景には、日本社会が直面する深刻な課題があります。特に少子高齢化による労働力不足は深刻で、多くの企業が人手の確保に苦労しています。従来の採用手法だけでは必要な人材を確保できず、女性や高齢者、外国人など多様な人材の活用が求められるようになっています。
さらに、VUCAと呼ばれる変化の激しい時代においては、グローバル化やSDGsなどの社会的要請にも対応しなければなりません。こうした中で、多様な価値観を持つ人材を活かす経営手法として、ダイバーシティマネジメントの重要性が高まっています。
加えて、政府もこの動きを後押ししており、経済産業省が専門会議を設置するなど、政策面からも企業の多様性推進を支援しています。こうした背景から、ダイバーシティマネジメントは単なる理想論ではなく、企業が変化を乗り越え、成長し続けるための現実的な戦略となっているのです。
ダイバーシティマネジメントの効果やメリット

企業がダイバーシティマネジメントを実践することで得られる効果は多岐にわたります。これらの効果を理解することで、ダイバーシティマネジメントのメリットを最大限に活かせるでしょう。
女性活躍を通じた経済・社会価値の創出
ダイバーシティマネジメントを推進することで、女性の労働参加が進み、企業や社会全体に経済的なメリットがもたらされます。
例えば、男女共同参画会議の試算では、就業を希望しながら働いていない約342万人の女性が労働市場に加わることで、雇用者報酬が約7兆円(GDPの約1.5%)増加する可能性があるとされています。
さらに、女性取締役を1人以上有する企業は、そうでない企業に比べて株式パフォーマンスが良好という調査結果もあり、経営判断に多様な視点を取り入れることの有効性が示されています。
このように、女性の活躍を促進することは、企業の競争力強化だけでなく、持続可能な経済成長にもつながります。ダイバーシティマネジメントは、まさにその効果を引き出す鍵となる施策です。
▼参考:厚生労働省 女性の活躍推進が求められる日本社会の背景
社員の満足度・定着率の向上
ダイバーシティマネジメントは、社員の満足度や定着率の向上に効果的です。
多様な価値観や働き方を尊重する企業風土は、従業員の働きがいや帰属意識を高め、職場に対する満足度を向上させます。特に、女性活躍の推進によりワーク・ライフ・バランスへの意識が高まったことで、副業やリモートワークなど柔軟な働き方を受け入れる企業が、従業員から選ばれやすくなっています。
また、子育てや介護などライフステージの変化にも対応できる制度の整備によって、従業員が長く安心して働ける環境が整い、結果として離職率の低下と人材の定着につながっています。
業績向上・財務パフォーマンスの向上
ダイバーシティマネジメントは、業績や財務パフォーマンスの向上にもつながります。
多様な人材の活用は、売上の拡大やコスト削減といった財務面での成果に直結します。例えば、多様なバックグラウンドを持つ従業員が加わることで、新たな顧客ニーズを捉えた商品・サービスの開発が可能になり、売上増加や市場拡大に貢献します。
さらに、離職率の低下による採用・育成コストの削減や、異なる視点による業務の見直しによって業務効率が高まり、企業全体のパフォーマンス向上が期待できます。
意思決定の質・イノベーション力の強化
ダイバーシティマネジメントは、意思決定の質とイノベーション力の強化にも貢献します。
多様な背景や価値観を持つ人材が関わることで、組織内の議論に幅が生まれ、より深く多角的な意思決定が可能になります。こうした多様な視点は、既存の枠にとらわれない新しい発想やアイデアを生み出し、商品開発や業務改善のイノベーションを促進します。
さらに、異なる視点からのリスク検討によって、従来見落とされていた課題にも対応できるようになり、企業の持続的な成長と安定経営にもつながります。
組織文化・ブランド価値向上
ダイバーシティマネジメントは、組織文化やブランド価値の向上にも寄与します。
多様性を尊重する姿勢は、企業イメージの向上につながり、顧客や投資家からの信頼を高めます。特にESG投資が注目される中で、社会的責任を果たす企業としての評価が重要です。
また、価値観やバックグラウンドの異なる優秀な人材から「選ばれる企業」となり、人材確保の面でも競争力を高めることができます。こうした取り組みは、企業の長期的な成長とブランド強化につながります。
ダイバーシティマネジメントの制度・施策

ここからは、実際にダイバーシティマネジメントの制度や施策を紹介します。
人事制度の整備
ダイバーシティマネジメントを推進するには、多様な働き方やライフスタイルに対応した人事制度の整備が欠かせません。以下は、特に重要な制度の概要です。
◆ 柔軟な勤務制度
- フレックスタイム制度:始業・終業時刻を社員が調整でき、通勤や家庭との両立がしやすくなります。
- 短時間勤務制度:育児や介護中でも無理なく働ける時短勤務を可能にします。
- 在宅勤務・リモートワーク:通勤負担を軽減し、多様な生活に対応。
- 副業解禁:社外での経験やスキルの習得を促進します。
◆ 育児・介護支援制度
- 育児休業/介護休暇:ライフイベントに応じた柔軟な対応で離職を防止。
- 子どもの看護休暇:小さな子どもの体調不良にも対応できます。
◆ 再雇用制度(カムバック制度)
出産や配偶者の転勤などで退職した社員を再び受け入れる制度。優秀な人材の再活用が可能です。
これらの制度は、従業員の多様な事情に寄り添いながら、企業の持続的成長を支える土台となります。整備だけでなく、実際に使いやすい仕組みにすることが大切です。
採用・キャリア開発の多様化
ダイバーシティを推進するには、採用や人材育成の在り方も見直す必要があります。多様な背景を持つ人が、自分らしく成長できる環境づくりが重要です。
◆ 多様な人材の採用
女性、高齢者、外国籍人材、障害のある方、LGBTQなど、属性に関係なく活躍できる人を採用します。多様な価値観を受け入れる姿勢が、組織の柔軟性と創造性を高めます。
◆ アンコンシャスバイアス研修
無意識の偏見(例:「リーダーは男性向き」といった先入観)に気づき、採用や評価の場面で公平な判断ができるようにするための研修です。管理職や人事担当者を中心に実施すると効果的です。
◆ 女性リーダー育成プログラム
女性社員の昇進意欲を引き出し、リーダーとしてのスキルや自信を育てるプログラムです。ロールモデルとの対話や、マネジメント研修などを通じて、管理職登用を後押しします。
採用から育成まで、一貫して「多様性を力に変える」視点を持つことが、組織全体の競争力向上につながります。必要なのは制度だけでなく、意識のアップデートも含めた取り組みです。
風土づくり・意識醸成
制度だけでなく、職場の空気や日々の関わり方がダイバーシティ推進の土台となります。全員が安心して働ける環境をつくることで、多様な人材が力を発揮できるようになります。
◆ ダイバーシティ研修
全社員を対象に、多様な価値観や背景を持つ人と協働するうえで必要な理解と配慮を学びます。「違い」を受け入れ、尊重する姿勢を育てることで、無意識の偏見や摩擦を減らします。
◆ 心理的安全性の確保
部下が安心して悩みや意見を話せるよう、1on1ミーティングの導入や、気軽に相談できる窓口を整備します。上司との信頼関係が築かれることで、職場全体の風通しもよくなります。
◆ インクルージョン施策
年齢・性別・国籍などの違いを越えて、誰もが受け入れられ、役割を持って働ける環境を整えます。社内イベントや社内報などで、多様な社員の活躍を紹介することも効果的です。
職場の空気を少しずつ変えていくことが、ダイバーシティの定着には欠かせません。制度と意識の両輪で進めていきましょう。
制度運用と評価
ダイバーシティを一過性の取り組みに終わらせないためには、組織的な推進体制と成果の見える化が欠かせません。制度の運用状況を定期的に評価し、効果を検証しながら改善を重ねることが重要です。
◆ ダイバーシティ推進チームの設置
部門横断でメンバーを選出し、施策の立案から実行、全社への浸透までを担います。多様な視点を取り入れながら、全社的なダイバーシティ戦略を推進します。
◆ 数値目標の設定とKPI化
女性管理職比率や外国籍社員の採用数など、具体的な目標を設定し、進捗を可視化します。数字での管理により、組織としての意識と取り組みの持続が可能になります。
◆ 従業員満足度・定着率のモニタリング
アンケートや人事データを活用し、施策が実際に職場で機能しているかを確認します。満足度や定着率を継続的に追うことで、現場の声を反映した改善が行えます。
制度と評価をセットで運用することで、ダイバーシティ推進は形だけでなく実質的な成果へとつながります。
ダイバーシティマネジメントの具体的な取り組み方(PDCA)

ダイバーシティマネジメントを効果的に実践するためには、体系的なアプローチが必要です。PDCAサイクルを活用することで、計画的かつ継続的な改善を実現できます。
【Plan】現状分析と方針策定(基盤づくり)
ダイバーシティマネジメントを効果的に進めるには、まず現状の多様性データを収集することが重要です。
性別・年齢・国籍・職位・勤続年数などの社員データを集め、組織内にどのような傾向や偏りがあるのかを数値で可視化します。次に、得られたデータを分析し、「女性管理職が少ない」「外国籍社員の定着率が低い」などの課題を特定します。そして、取り組むべき課題に優先順位をつけ、重要なものから順に対応していきます。
そのうえで、取り組みを全社に広げるには経営層の関与が不可欠です。経営陣が自ら推進の姿勢を明確にし、目標と実行方針を組織内に示すことで、現場の理解と協力を得やすくなります。
最後に、現状と課題を踏まえ、短期・中期・長期の目標を具体的に設定し、いつまでに何を実現するかを明確にした上で、計画的に戦略を実行していくことが成功の鍵となります。
【Do】制度・施策の導入・運用
計画に基づいて制度や施策を導入・運用していく段階では、組織全体に定着させるための実践的な取り組みが求められます。
まず、多様な人材を採用・評価できるよう、採用チャネルや選考基準を見直し、昇進・昇格の基準も明確にして、公平な人事制度を整えます。また、フレックスタイム制やリモートワーク、時短勤務など柔軟な働き方を導入し、育児・介護との両立支援も含めて「公平性」と「個別の配慮」の両立を図ります。
さらに、全社員を対象にダイバーシティへの理解を深める研修を行い、特に管理職には多様な部下をマネジメントするための実践的なスキル研修を実施します。あわせて、バリアフリー対応や多目的トイレ、祈祷室の設置など、誰もが安心して働ける職場環境を整えることも欠かせません。
こうした取り組みを丁寧に積み重ねていくことで、ダイバーシティマネジメントは単なる制度にとどまらず、組織文化として根づいていきます。
【Check】モニタリングとギャップ分析
ダイバーシティマネジメントの施策を導入した後は、その効果を定期的に評価し、当初の目標との差を分析することが重要です。
まず、女性管理職比率や外国人従業員比率、離職率、従業員満足度などの定量的な指標を継続的に測定し、KPIの達成状況を確認します。これにより、各人の目標達成が組織全体の成果につながる仕組みを構築できます。
あわせて、アンケートやヒアリングなどによる定性的な調査も行い、従業員の意識や職場の包摂感(インクルージョン)の変化を把握します。
また、他社や先進企業との比較(ベンチマーキング)を通じて、自社の取り組みの水準を客観的に確認し、改善のヒントを得ることも有効です。最終的には、目標と実績の差が生じた要因を丁寧に分析し、どこに課題があるのかを明らかにすることで、次の改善ステップに繋げていきます。
【Act】改善・浸透・巻き込み
ダイバーシティマネジメントの取り組みを継続的に発展させるためには、評価結果をもとに改善を加え、組織全体に浸透させていくことが不可欠です。
例えば、女性管理職比率が目標に届いていない場合には、キャリア支援の充実やメンター制度の導入といった具体的な対策を講じます。また、うまくいった事例は社内で積極的に共有し、他部門の参考とすることで、組織全体の意識向上につなげます。
こうした取り組みを一過性で終わらせず、多様性を受け入れる企業文化として根付かせていくには、継続的な変革が求められます。そのためには、改善結果を次の施策や目標設定に反映させながら、PDCAサイクルを絶えず回し続けることが重要です。組織全体が共通の理解を持ち、具体的に行動することで、ダイバーシティマネジメントは確実に定着していきます。
ダイバーシティマネジメントの事例
東急電鉄は、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)を経営戦略の柱と位置づけ、単なる人材の多様化ではなく、「多様な人材の活躍が企業の成長力そのものを高める」という視点でダイバーシティマネジメントを推進しています。
同社が直面していたのは、夜勤や不規則勤務を伴う鉄道業務における、女性従業員の体調管理や育児との両立といった健康課題。これらの課題に対し、女性向けヘルスケアアプリ「Wellflow」の導入と、実践的な対面研修を組み合わせた施策を展開しました。この取り組みは、従業員のウェルビーイング向上にとどまらず、「働きやすさ」を通じたエンゲージメント向上と離職防止という、人的資本の最適活用に直結しています。
さらに注目すべきは、上司向け・女性社員向け双方への対面研修を通じ、健康課題への理解と職場での対話力を高め、多様な人材が安心して力を発揮できる職場文化の醸成を進めた点。制度だけでなく現場の意識を変え、実際の行動変容につなげる実践的なダイバーシティマネジメントのよい例です。
また、DEI施策を推進する中で社内に生じた「女性だけが優遇されているのでは」といった声に対しても、同社はエクイティ(公平性)という視点を丁寧に説明・共有。多様な背景や事情を持つすべての従業員が、能力を最大限に発揮できる環境づくりに取り組んでいます。
東急電鉄のこの事例は、健康支援を通じて多様性を活かし、組織の競争力とサステナビリティを高めるダイバーシティマネジメントのモデルケースといえるでしょう。
▼参考:東急電鉄事例
まとめ
ダイバーシティマネジメントは、単なる「多様な人材の受け入れ」ではなく、その多様性を組織の力に変える経営戦略のひとつです。
業績向上やイノベーション創出、企業ブランドの強化など、多くのメリットが期待できる一方で、効果を引き出すには、計画的かつ継続的な取り組みが欠かせません。自社の現状を正しく把握し、明確な目標を掲げ、制度の整備から職場風土の醸成まで多角的に推進することが、真に活かされたダイバーシティの実現につながります。
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