ダイバーシティ経営の基礎と実践方法|性別や健康の多様性を活かす
2025年 7月 15日

人的資本開示の重要性が高まる中、ダイバーシティ経営は企業の競争力を左右する経営戦略となっています。
本記事では、ダイバーシティ経営の基礎から具体的な実践方法まで、経営戦略として成果を上げるためのポイントを解説します。
ダイバーシティ経営に取り組むことで、生産性が上がったり、離職防止に繋がったりとさまざまなメリットがあります。他社の実践事例も参考に、今後の経営方針について検討してみてください。
ダイバーシティ経営の定義と本質
ダイバーシティ経営は「単なる多様性の推進」ではなく、組織の競争力を高めるための戦略的アプローチです。ここでは、ダイバーシティ経営の位置づけからインクルージョンとの関係性まで、体系的に解説します。
ダイバーシティ経営の定義
経済産業省によるとダイバーシティ経営は「多様な人材の能力を最大限発揮させ、価値創造につなげる経営」と定義されています。そのため単に多様な人材を採用するだけでなく、成果を生み出す体制づくりが重要です。
また「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」では、7つのアクションが記載されており、そのうちの一つが「経営戦略への組み込み(トップマネジメントのコミットメント)」です。このようにダイバーシティ経営は、経営戦略に位置付けられており、継続的かつ組織全体での推進がカギとなります。
▼出典:経済産業省 企業の競争力強化のためのダイバーシティ経営(ダイバーシティレポート)を公表しました
▼参考:経済産業省 企業に求められる具体的アクション (ダイバーシティ2.0行動ガイドライン) 新旧対照表
従来の多様性施策との違い
従来の多様性施策では、女性管理職比率の向上や障害者雇用率の達成など、数値目標の達成が主な目的となることが多くありました。しかし、ダイバーシティ経営では、これらの取り組みを経営成果や競争力向上に直結させることが大きな違いです。
ダイバーシティ経営は、企業の持続的成長を支える戦略的投資であり、単なる社会貢献活動ではありません。
◆従来の多様性施策
- 法的義務や社会的要請への対応が目的
- 特定属性(女性、障害者等)の雇用数拡大に焦点
- 制度整備が中心で、活用は個人任せ
- 短期的な数値目標の達成を重視
◆ダイバーシティ経営
- 経営戦略としてイノベーション創出が目的
- すべての従業員の多様性を組織力に変える
- 制度と風土の両面から組織変革を推進
- 中長期的な価値創造を重視
インクルージョンとの関係性
ダイバーシティ経営は、多様な人材を受け入れる「ダイバーシティ(多様性)」だけでなく、その人々が組織の中で尊重され、安心して活躍できる「インクルージョン(包括・受容)」があってこそ成り立ちます。
単に属性の異なる人を集めるだけでは十分ではなく、一人ひとりが能力を発揮できる土壌づくりこそがインクルージョンの役割です。
近年では、これに「エクイティ(公平性)」を加えた“DE&I”という概念が注目されており、心理的安全性の高い職場環境を整えることが、真のダイバーシティ経営の実現に不可欠とされています。
ダイバーシティ経営のメリット
ここでは、ダイバーシティ経営によってどのような効果が期待できるのか、3つのメリットを見ていきましょう。

生産性・創造性の向上
ダイバーシティ経営の最も注目すべき効果は、組織全体の生産性と創造性の向上にあります。
単に多様な人材を受け入れるだけでなく、それぞれの強みや視点を経営戦略に活かすことで、業務プロセスの革新や意思決定の質が高まり、結果として業績にも好影響を与えます。
また、異なるバックグラウンドを持つメンバーが協働することで、新たな価値創出や課題解決のアイデアが生まれやすくなり、変化の激しいビジネス環境において競争力の源泉となります。
離職防止と人材定着
ダイバーシティ経営は、離職防止と人材定着にも大きく寄与します。
多様な価値観やライフスタイルを尊重し、一人ひとりが自分らしく働ける環境を整えることで、従業員の満足度やエンゲージメントが向上します。
たとえば、育児や介護との両立支援、ハラスメントの防止、LGBTQ+への理解促進など、個人の事情に寄り添う制度や風土は、従業員の心理的安全性と信頼感を生み出します。
結果として、早期離職の防止や経験豊富な人材の定着につながり、人材採用・教育にかかるコスト削減にも貢献します。
採用力・企業価値の向上
現代の人材採用市場では、ダイバーシティ経営への取り組みは企業の魅力度を大きく左右する要因です。特に若い世代の求職者にとって、多様性を重視する職場環境は就職先選びの重要な判断基準です。
また人的資本開示が重要視される現在、投資家や取引先からの評価向上も期待できます。ダイバーシティ経営は社会全体の課題解決に貢献する取り組みだと注目されており、企業価値の向上につながります。
ダイバーシティ経営の実践方法

ダイバーシティ経営を成功させるためには、戦略的かつ段階的なアプローチが重要です。現状分析から継続的な効果測定まで、体系的な実践方法を解説します。
現状分析と目標設定
ダイバーシティ経営の第一歩は、自社の現状を正確に把握することです。従業員構成(性別・年齢・雇用形態など)の分析、既存制度の利用状況、社内アンケートによる従業員の意識調査などを通じて、定量・定性の両面から多角的に現状を診断しましょう。
そのうえで、自社にとって「ダイバーシティ」とは何を意味するのかを明確にし、実現したい姿に基づいた具体的な目標を設定します。たとえば、女性管理職比率や育児・介護と両立できる制度利用率など、成果が測定可能なKPIを設定し、中長期的なロードマップを描くことが重要です。
経営トップが「ダイバーシティは経営戦略そのもの」と位置付け、全社的なコミットメントを表明することが、推進の土台を築く第一歩となります。
段階的導入のロードマップ
◆第1段階:基盤整備(6ヶ月〜1年)
まずは、経営陣の明確なコミットメントを打ち出し、全社的な推進体制を構築します。併せて、従業員構成や制度利用状況、社内意識の把握など、現状分析を実施し、課題と可能性を明確にします。
◆第2段階:制度設計(1〜2年目)
多様な人材が活躍できるよう、柔軟な働き方を支える制度(例:テレワーク、短時間勤務、育児・介護支援制度など)の整備を進めます。制度導入に加え、利用を促進する仕組みづくりも重要です。
◆第3段階:文化醸成(2〜3年目)
制度を形骸化させないために、多様性を尊重し、受容する組織風土を醸成します。管理職向けのDE&I研修や、心理的安全性を高める1on1の推進、ダイバーシティに関する社内啓発活動が効果的です。
◆第4段階:定着・発展(3年目以降)
施策の定着状況を継続的にモニタリングし、効果測定を通じて改善を図ります。指標の見直しや新たな課題への対応を行いながら、ダイバーシティ経営を組織全体に根付かせ、持続的成長へとつなげます。
成果測定指標の設定
目標設定時に立てたKPIを、施策の実行フェーズに合わせて現実的な形に落とし込みましょう。定量指標(例:女性管理職比率、制度利用率、離職率)だけでなく、心理的安全性や従業員の納得感など定性的な観点も含めて、バランスの取れた評価軸を構築することが重要です。
あわせて、「誰が・どのタイミングで・どのように測定し、評価するか」という運用体制を整備することで、施策のPDCAを継続的に回せる仕組みが整います。KPIそのものも定期的に見直し、組織の成熟度に応じたアップデートを行いましょう。
制度設計のポイント
制度は利用しやすく、柔軟性があり、公平性と透明性を確保したものでなければなりません。柔軟な働き方制度、キャリア支援制度、相談・サポート体制を整備し、利用しやすい環境を整えることが大切です。
組織風土の変革アプローチ
ダイバーシティ経営を根付かせるには、制度整備だけでなく、組織の価値観や風土そのものを変えていくことが重要です。特に管理職層に対しては、インクルーシブなリーダーシップを育むための研修やコーチングを実施し、多様な価値観への理解と対応力を高めましょう。
また、異なる立場や背景を持つ従業員が交流できるワークショップや社内イベントを設けることで、相互理解と信頼関係の醸成につながります。こうした取り組みを継続することで、多様性を自然に受け入れる文化が育ちます。
データ活用による効果測定
人事データ、業績データ、従業員意識調査データなどを統合的に分析することで、取り組みの成果と課題を客観的に評価できます。相関関係と因果関係を適切に区別した分析が重要です。
Floraが提供しているサービス「Wellflow」では、勤続意欲・エンゲージメントなど従業員の具体的な効果検証データを取得できます。それらを使用して取り組みの効果を測定することも可能です。
導入時の課題と解決策
ダイバーシティ経営の導入過程では、経営層や管理職の理解促進、適切な配慮と甘やかしの境界線設定、制度の活用促進といった課題に直面することが予想されます。
経営層・管理職の理解が得られない
ダイバーシティ経営を進める上で、経営層と管理職の理解が得られないという課題を抱える企業は少なくありません。自分ごととして考え、必要性や危機感を持ってもらうためには「なぜダイバーシティ経営が必要なのか」を自社を取り巻く環境変化と関連付けて説明し、成功事例やデータを活用した説明が効果的です。
定期的な研修やワークショップを通じて、多様性の価値とインクルーシブなマネジメントスキルを身につけてもらいましょう。
配慮と甘やかしの境界線がわからない
ダイバーシティ経営のための制度を作る中で、企業の中で「配慮」と「甘やかし」の区別がつきにくいという課題が生じる場合があります。
「配慮」は個人の能力を最大限発揮できる環境を整えることであり、「甘やかし」は基準を下げることです。この違いを明確にし、公平性と一貫性を保った運用が求められます。
境界線を明確にするポイントは、「組織の生産性向上に寄与するか」という視点です。配慮は個人の能力を最大限発揮させるための環境整備です。個別対応が必要な場合でも、透明性のあるプロセスと明確な基準に基づいて判断することが重要です。
制度の活用が進まない
どんなに素晴らしい制度があっても、それが企業の中で活用されていないという課題もあるでしょう。
制度を使いやすくするためには、周知と利便性を高めることが不可欠です。実際に利用している成功事例を積極的に共有し、制度の効果を実感してもらうことが大切です。また、管理職やリーダーの理解とサポートを得ることが、制度の浸透を加速させます。利用者に対して不利益が生じないことを示し、制度活用がキャリアに与える影響についても明確にすることが重要です。
制度の活用が進まない
制度があっても利用されなければ意味がありません。利用しやすい環境づくり、成功事例の共有、管理職の理解促進などを通じて、制度活用を促進しましょう。
利用者への不利益がないことを明確に示し、キャリア形成への影響に透明性を確保することも大切です。
ダイバーシティ経営の成功事例
実際にダイバーシティ経営で成果を上げている企業の事例を通じて、具体的な取り組み方法と成功のポイントを学んでいきましょう。
性別特有課題への理解とサポートに関する研修|ユニリーバ・ジャパン
ユニリーバ・ジャパンは、従業員向けに生理や更年期障害に関する正しい理解を深める研修を実施。性別に関わらず学び合うことで、心理的安全性の高い職場づくりにつなげています。研修を実施して、困りごとや体調変化に対する声かけや配慮が自然に生まれるようになりました。その結果、心理的安全性が高まり、誰もが安心して働ける職場環境の実現に寄与しています。
▼参考:Flora株式会社 ユニリーバ・ジャパンの取り組み
ライフステージの健康課題と仕事に関するQ&A集|LINEヤフー
LINEヤフーは、妊娠・育児・更年期などの多様な健康課題により、仕事を続けにくい状況が見られました。そのため、社内向けにQ&A集を作成し、よくある質問や対応方法をまとめて展開しました。従業員が必要な情報にすぐアクセスできるようになったことで、不安が軽減され、離職の防止や生産性の向上にもつながっています。
▼参考:Flora株式会社 LINEヤフーの取り組み
女性向けヘルスケアアプリ「Wellflow」の提供| MS&ADインターリスク総研株式会社
MS&ADインターリスク総研株式会社では、女性従業員の健康管理やセルフケアが不十分で、体調不良による業務パフォーマンスの低下が課題となっていました。そこで、女性の体調管理や健康リテラシー向上を支援するヘルスケアアプリ「Wellflow」を福利厚生として導入しました。自己管理意識が高まり、健康課題への理解も深まったそうです。働きやすさとエンゲージメントの向上につながっています。
▼参考:Flora株式会社 MS&ADインターリスク総研株式会社の取り組み
勤務・評価制度の見直しと女性管理職比率向上|株式会社由利
株式会社由利は、新卒が5年前後で離職したり、コロナ禍で鞄業界が不振となったり経営に課題がありました。
そんな中、3時間勤務制度などを導入したり、職人の仕事を細分化したり、多様な人が働ける環境を整えました。また、評価制度を見直して成果に応じた昇給を可能にし、管理職の役割を明確化しました。女性管理職を増やす取り組みも進めた結果、有休消化率83%、残業は月平均2時間、管理職の女性比率は50%に達し、働きやすい企業だと評価されています。
▼参考:経済産業省 中小企業のためのダイバーシティ経営
見えにくい多様性が組織に与える影響
多様性には、性別や年齢といった「表面的な多様性」と、価値観や信念などの「深層的な多様性」があります。
性別や国籍といった目に見える多様性に注目しがちですが、実際に組織のパフォーマンスに大きな影響を与えるのは「見えにくい多様性」です。
ここでは年齢、健康状態、価値観など、表面化しにくい個人の違いが組織に与える影響を解説します。
・年齢
現代の職場では、20代から70代まで幅広い年齢層が共に働いています。この多様性を活かすことで、組織に新しい視点や革新をもたらし、仕事のアプローチにおいて多角的な意見交換が可能となります。
・健康課題
健康課題を抱える従業員に対して、柔軟な勤務体系を導入することが重要です。治療を受けながら働くことができる環境を整えることで、従業員が長期的に組織に貢献できるようになります。これは戦略的な判断であり、企業の持続的な成長に寄与します。
・価値観
従業員のライフステージや考え方は多様化しており、従来の画一的なライフコースは過去のものとなっています。異なる価値観を持つ従業員が共存することにより、新たなアイデアの創出やリスクの多角的な検討が可能となり、組織のイノベーションを促進します。
・文化背景
グローバル化が進む中、異なる文化背景を持つ従業員が集まることで、コミュニケーションスタイルや問題解決のアプローチも多様化します。この多様性を活用することが、新たな市場開拓の可能性を広げ、組織の視野を広げます。
・LGBTQ+
LGBTQ+の多様性に配慮した職場づくりは、全ての従業員が安心して自分らしく働ける環境を作ることに繋がります。これにより、心理的安全性が向上し、従業員一人一人の創造性や能力が最大限に発揮される環境を提供することが可能になります。
まとめ:持続可能な組織への転換
ダイバーシティ経営は、単なる社会貢献活動ではなく、企業の持続的成長を支える戦略的投資です。多様な人材が自分らしく能力を発揮できる環境を整えることで、組織の創造性、持続可能性、競争力を向上させることができます。
成功のポイントは、経営戦略としての明確な位置づけ、段階的な導入、継続的な効果測定です。制度整備だけでなく、組織文化の変革まで含めた包括的な取り組みにより、真のダイバーシティ経営を実現しましょう。
ダイバーシティ経営に向けて、現状の把握や施策の実行などお困りの企業様は、Wellflowにご相談ください。貴社の課題に合わせてサポートさせていただきます。