ダイバーシティは必要ない?|企業の本音と推進の障壁を解説

2025年 9月 11日

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ダイバーシティとは、性別や年齢、国籍、障がいの有無、価値観など、多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍できる環境を整えることを指します。

少子高齢化や人材不足が進む中、企業が持続的に成長するためには多様な視点を取り入れ、イノベーションを生み出す力が不可欠です。

一方で、「ダイバーシティは必要ない」という声も現場には根強く残っています。

本記事では、そうした否定的な意見が生まれる背景を整理したうえで、ダイバーシティ推進の本質的な価値や、企業が取るべき具体的なアプローチを解説します。組織の成長と働きやすい職場づくりを両立するためのヒントを見つけてください。

「ダイバーシティは必要ない」と感じる理由

ダイバーシティ推進が注目される一方で、「ダイバーシティは必要ない」という声が上がることも少なくありません。ここでは、多くの企業関係者がダイバーシティに対して懐疑的な視点を持つ理由を客観的に整理します。

経済的コスト負担や効率性の低下

ダイバーシティ推進のための採用施策、研修、制度設計にはコストがかかります。利益を優先する経営層からすると「費用対効果が見えにくい」として不要と考える場合があります。

また、多様なバックグラウンドの人材が集まることで、意見調整や意思決定に時間がかかり、業務やイノベーションの効率が落ちるのではないかと考える人もいます。

公平性に対する逆差別意識

ダイバーシティの推進において性別や国籍など属性を重視することは、実力や成果より優先されているのでは?と感じる人もいます。特に「逆差別だ」と考える層は一定数いるでしょう。

例えば、ダイバーシィの一つである女性活躍推進では、男性中心の職場で女性活躍施策ばかりが強調されると、「自分たちが不利になるのでは?」という不満が男性から出ることがあります。

組織文化・価値観との衝突

ダイバーシティを必要ないとする意見には「同質性の高い組織で成長してきたのだから、わざわざ変える必要はない」という保守的な理由もあります。特に、古くから業績が安定している企業では現状維持への志向が強くなります。

また、言語や宗教、働き方の違いに配慮することが「面倒」「非効率」と受け止められることも理由の一つです。

社内の理解不足

ダイバーシティを「ただ女性を増やすこと」や「外国人を雇うこと」程度に誤解し、本質的価値を理解していないケースもダイバーシティが必要ないと考えられてしまう理由です。

ダイバーシティ経営が業績向上につながった実例を知らないため、単なる理想論と感じてしまう場合があります。

ダイバーシティが進まない障壁

「ダイバーシティは必要ない」とする理由をみると、ある程度必要性は認めているものの、推進に舵を切れないという実情が感じられます。多くの企業が「理想は理解できても現実的に難しい」という状況に直面しているのです。

ここでは、実際に「必要性は理解しているけれど、実行に踏み出せない企業」が抱える現実的な障壁を解説していきます。

経営層・管理職のコミット不足

ダイバーシティが進まない最も根本的な問題は、トップが明確なメッセージを出していないことです。経営陣がダイバーシティを「やった方が良いもの」程度の認識に留まっており、戦略的優先度が低い場合、現場まで浸透しません。

管理職も「業務負担が増える」と感じることで、ダイバーシティの推進が現場に浸透しにくい状態を生んでしまいます。ボストンコンサルティンググループの調査でも、リーダーシップの弱さが施策の形骸化や実行力不足に直結することが明らかになっています。

▼参考:Boston Consulting Group The Mix That Matters(2017)

制度・運用の難しさとリソース不足

ダイバーシティ推進のために、柔軟な働き方制度や新たな評価基準を整えても、既存の仕組みと整合性が取れずに運用が複雑になるケースは少なくありません。

特に中小企業では、人事部門の人員・予算が限られており「やりたいけれどできない」状況になりやすいのが現実です。新制度の設計・導入・運用には専門知識と継続的なリソースが必要で、既存業務との両立が困難になることも多いでしょう。

組織文化・バイアスの壁

アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)や「同質性を好む文化」は、制度を整えるだけでは解決しない根深い問題です。

このような組織では、多様な人材が活躍しづらい雰囲気が継続します。制度だけではなく、職場風土の変革が必要で、ここが最大のハードルになることも多いのです。

成果の測定と外部環境の制約

ダイバーシティ施策の成果は、短期的に数字で見えにくく「本当に意味があるのか」と社内から疑問視されやすい特徴があります。

また、業界特有の働き方や取引先の要請など、社外環境が足かせとなる場合もあります。企業単独では変えられない外部要因も存在するのが現実でしょう。

ダイバーシティ推進のメリット・重要性

ダイバーシティを推進することにはメリットがあり、企業が取り組むべき重要性も証明されています。ここでは、ダイバーシティがなぜ重要なのかを解説していきます。

長期的な競争力を高める投資である

ダイバーシティ施策は「コストがかかる」「効率が下がる」と捉えられがちですが、むしろ長期的な競争力につながる投資です。

先ほどのBCGの調査に加えマッキンゼーでも、多様性の高い組織は、イノベーション創出や新市場開拓で成果を出す確率が高いことが示されています。短期的にはコストがかかるものの、離職率の低下や優秀人材の確保につながり企業の持続的成長を後押しします。

▼参考:McKinsey & Company Diversity Matters Even More(2023) 

公平な機会提供が真の実力主義を実現する

「属性を重視するのは逆差別だ」「実力主義を否定している」という声もあります。しかし、ダイバーシティ推進の目的は特定の人を優遇することではありません。

これまで無意識のバイアスにより機会を得られなかった層にも公平な土台を整えることで、すべての人が実力を発揮できる環境を実現します。その結果、真の意味での実力主義が強化され、組織全体のパフォーマンス向上につながります。

多様性は組織の危機対応力を高める

「従来のやり方で成功してきた」「文化の違いで摩擦が起きる」という懸念は、変化の激しいビジネス環境ではむしろリスクです。

多様な背景を持つ人材が集まることで視点が広がり、一面的な意思決定を避けられます。その結果、組織の危機対応力が高まり、新しい状況に柔軟に対応できる強さを持つことができます。

経営戦略としての価値を持つ

「表面的で理想論にすぎない」と誤解されることもありますが、ダイバーシティは採用人数の調整にとどまりません。制度、組織風土、リーダーシップの在り方まで含めた経営戦略の一部です。

ユニリーバ・ジャパンやソニー、P&Gといった企業は、ダイバーシティ推進を通じて売上や社員満足度の向上、ブランド価値の強化に成功しています。実際の事例を示すことで、確かな経営成果をもたらす取り組みであることを理解できます。

▼参考:Flora株式会社 ユニリーバ・ジャパンの取り組み ▼参考:ソニーグループ DE&I Initiatives -  Diversity training at Sony/Taiyo for new employees ▼参考:経済産業省 プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社

必要ないは間違い!ダイバーシティ推進の一歩

これまでダイバーシティの取り組みが進んでいなかった企業は、この記事にたどり着いた今こそ、第一歩を踏み出す時です。ここでは、これからダイバーシティ推進を検討する企業に向けたダイバーシティ推進の一歩を紹介します。

現状把握から始める

まずは自社の現状を客観的に知ることが第一歩です。社員アンケートやヒアリングを通じて、「働きにくさ」や「機会格差」を感じている層がいないかを把握します。いきなり全社的な制度改革を行うのではなく、現場の声を収集し、課題の優先順位を整理することで、取り組むべきテーマが明確になります。

小さな制度改定で働きやすさを整える

ダイバーシティは、大がかりな制度変更をしなくても、柔軟な働き方や休暇制度を一部導入するだけでも効果があります。例えば、

  • 在宅勤務を週1日から試験導入する
  • 子育てや介護に配慮した時差勤務制度を一部の部署で先行実施する

といった「小さな制度の実験」を始めることができます。こうした小さな一歩が、ダイバーシティの土台づくりにつながります。

意識改革を促す社内コミュニケーション

ダイバーシティ推進は、制度だけでは不十分です。無意識のバイアスを取り除くために、管理職研修や社内ワークショップを小規模に始めることが効果的です。例えば「異なる立場の人の声を聞く場」を定期的に設けるだけでも、社員の意識に変化が生まれるでしょう。

小さな成功事例を積み上げる

ダイバーシティを推進する際にいきなり「全社導入」を目指すと、負担が大きくなり社内の抵抗も強くなります。まずは一部部署でパイロット的に取り組み、そこでの成果やポジティブな声を社内に共有することが大切です。「うちの部署でもやってみよう」と自然に広がり、推進力が生まれます。

まとめ

「ダイバーシティは必要ない」という声には、さまざまな理由があります。「形だけのダイバーシティなら必要ない」ということには一理ありますが、本質的なダイバーシティは企業の長期的な競争力を高める戦略的投資です。推進の鍵は小さく始めて成果を可視化し、社内の合意形成を図ることでしょう。

ダイバーシティは「やるべきかどうか」ではなく、「どのように取り組むか」が問われる時代になっています。

ダイバーシティ経営に向けて、現状の把握や施策の実行などお困りの企業様は、Wellflowにご相談ください。貴社の課題に合わせてサポートさせていただきます。

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