エンゲージメントサーベイは無駄?形骸化する原因や効果的な活用法を解説

2025年 10月 20日

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エンゲージメントサーベイを導入したものの、「目的が不明確なのに実施している」「調査だけで終わっている」と感じることがあるでしょう。

実際、多くの企業でサーベイが形骸化し、経営層から「意味がない」「無駄ではないか」と指摘されるケースも少なくありません。

ですが、問題はサーベイそのものではなく、結果の活用方法にあります。

本記事では、エンゲージメントサーベイが無駄と言われる背景や失敗パターンを整理します。調査結果を経営課題解決や具体的な施策につなげるための改善策や事例をわかりやすく解説するので、参考にしてみてください。

エンゲージメントサーベイとは

エンゲージメントサーベイとは、従業員が会社に対してどれほどの愛着や貢献意欲を持っているかを測るための調査です。会社への帰属意識や仕事に対するモチベーションの他にも、部署やチーム内の人間関係などの従業員エンゲージメントの現状を多角的に把握できます。

エンゲージメントサーベイの目的と役割

エンゲージメントサーベイの最大の目的は、従業員が組織に対してどれほどの愛着や貢献意欲を持っているかを可視化し、組織の課題を明らかにすることです。単なる満足度調査ではなく、「働きがい」や「心理的安全性」「キャリア成長の実感」といった要素をデータとして捉え、経営に活かすための重要な手段といえます。

サーベイの役割は、現状の把握にとどまりません。結果をもとに離職リスクの高い層を早期に発見し、職場環境やマネジメントの改善へとつなげることができます。株式会社リンクアンドモチベーションと慶應義塾大学ビジネス・スクールの岩本研究室との共同研究では、エンゲージメント向上が一般従業員だけでなく、その管理監督を担う管理職の退職率低下にも寄与することが明らかになりました。つまり、エンゲージメントサーベイは、あらゆる階層の離職防止の観点からも極めて有効な施策なのです。さらに、エンゲージメントの高い従業員は主体的に業務へ取り組み、組織全体の生産性を押し上げることが分かっています。

また、近年注目される「健康経営」とも深い関係があります。経済産業省が推進する健康経営優良法人認定制度では、従業員の健康状態や働きがいに関するデータ活用が評価項目に含まれています。エンゲージメントサーベイは、その基盤となるデータを提供し、心身の健康と組織活力の両面から経営を支える役割を担っています。

▼参考経済産業省 健康経営優良法人認定制度

▼参考:株式会社リンクアンドモチベーション エンゲージメントと退職率の関係

従業員満足度調査との違い

エンゲージメントサーベイと似た言葉に「従業員満足度調査」があります。

従業員満足度調査は、従業員が会社にどのくらい満足しているかを測るもので、会社から従業員への一方的な視点で行われることが多いです。例えば、「給与に満足していますか?」といった質問が中心となります。満足度の高さはわかりますが、必ずしも自律的に会社に貢献しようという意欲が測れるわけではありません。

一方、エンゲージメントサーベイは、会社と従業員が互いに影響を与え、高め合える関係性にあるかを測るものです。給与や福利厚生といった待遇面だけでなく、会社のビジョンへの共感や、仕事へのやりがいなど、より深い精神的な結びつきを重視します。例えば、「会社のビジョンに共感していますか?」「自分の仕事が会社の成長に貢献していると感じますか?」といった質問を通して、従業員の貢献意欲や組織への愛着度合いを測ります。

▼参考:flora株式会社 エンゲージメントサーベイとは

なぜエンゲージメントサーベイは「無駄」と言われがちなのか

株式会社welldayの調査では、約7割の社員がエンゲージメントサーベイを「無駄」「疲れる」「改善を実感できない」と回答していることがわかります。

しかし、問題はサーベイそのものではなく、多くの企業で運用が形骸化している点にあります。

この章では、サーベイが「無駄」と言われる原因を整理し、自社サーベイを意味あるものに変えるヒントを探ります。

目的があいまいなまま実施している

エンゲージメントサーベイが意味を持たなくなる最大の理由は、「目的がはっきりしていないこと」です。例えば「他社もやってるから」「人事施策の一環だから」など、曖昧な理由で始めるケースが多いです。

こうした状態だと、「なぜこのアンケートに答える必要があるのか」が従業員に正しく伝わらず、回答が形式的になったり、「どうせ何も変わらない」とあきらめムードが出たり、結果的に回答率そのものが下がってしまいます。

さらに、経営層と人事部門で求めている情報にズレが生じることも問題の一つ。経営層が「具体的な経営判断に使いたい」と思っていても、サーベイ設計がそれに応じていないと、調査結果が経営に活かされず、「ただやっただけの調査」と見なされてしまいます。

回答した社員へのフィードバックが不足している

アンケートに回答したにもかかわらず、その後の説明や報告が一切ないと、「なぜ答えたのか分からない」という不満が積もります。実際、バヅクリ株式会社の調査でも「回答した結果が何に活かされているか分からない」という意見が上位に挙げられています。

フィードバックがない状態では、従業員は「会社は意見を聞く気がない」「人事部はただ数字を集めているだけ」と感じ、不信感が生まれます。その結果、次回のサーベイ協力意欲が下がり、調査自体の信頼性が損なわれてしまうのです。

調査結果が具体的な施策に結びついていない

調査を実施し分析したものの、そこで終わってしまう──これがエンゲージメントサーベイが「無駄だ」と言われる主因です。ただ現状を把握して報告するだけでは、組織改善や従業員エンゲージメントの向上にはつながりません。

主な原因は以下の通りです。

  • 分析結果が抽象的すぎて、改善策が見えない(例:「コミュニケーション不足」「マネジメントに課題」)
  • 課題優先順位が明確でなく、どこから手をつけるべきか不明
  • 実行責任者と期限が決まっておらず、具体的な動きが起こらない
  • 予算・人員・時間といった実行リソースが確保されていない

こうした流れでは、「調査して終わった」「何も変わらなかった」と感じられ、実施協力のモチベーションも低下します

サーベイが意味を持つには、分析 → 優先順位 → 具体策の設計 → 実行責任と期限の設定 → リソース確保という流れを設けることが不可欠です。

経営層・現場の双方にギャップがある

エンゲージメントサーベイが「無駄」と感じられる理由には、経営層と現場の間に大きなギャップがあるからです。

前者は「投資に見合っているか」「具体的にどう動くべきか」が見えず、不信感を抱きやすいです。後者は「忙しいのにまたアンケート?」「毎回同じ質問だし意味あるの?」と負担感と虚しさを感じます。特に設問数が多すぎたり頻度が高いと、回答の質が落ちて信頼度も下がるでしょう。

このギャップを埋めるには、サーベイの目的・期待成果を全社で共有し、経営と現場の対話や進捗報告を定期的に行い、具体的な改善策を示すことが不可欠です。これを怠ると、「調査して終わり」で、誰もが「意味ない」と思ってしまうのです。

従業員から正確な回答が得られないことがある

回答の質が低いこと――それがエンゲージメントサーベイが「無駄」と言われる最後の理由です。社員が“サーベイ疲れ”を起こすと、真剣に答えず中間値を選んだり、本音を隠したり、あるいは極端な回答で不満を表すようになります。こうなると、集まったデータは実態を反映せず、分析しても有効な示唆が得られません。

また、「誰が何を答えたか特定されるかも」「否定的回答は評価に響くかも」といった不安があると、心理的に安全ではないため、本音で答えづらくなります。さらに、質問が多すぎたり抽象的だったり、自分に合った選択肢がなかったりすると、「答えたくても答えられない」状態に陥ります。

こうした回答質の問題があると、調査そのものの信頼性が下がり、サーベイは“意味ないもの”になってしまうのです。

▼参考:株式会社wellday 「約7割が従業員・組織サーベイは『無駄』『疲れる』『改善を実感できない』」

▼参考:バヅクリHR研究所 社員の約70%がエンゲージメントサーベイに不満

エンゲージメントサーベイは無駄ではない

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エンゲージメントサーベイは「調査して終わり」になりがちですが、無駄ではありません。重要なのは結果の活用です。ここからは、エンゲージメントサーベイの重要な考え方を紹介します。

現状把握なくして改善はできない

組織を本気で良くしたいなら、まず「今、自分たちはどんな状態にあるのか」をきちんと把握することが最優先です。データがなければ、「どこに問題があり」「何から手をつけるべきか」も見えません

そのために、エンゲージメントサーベイは非常に有効です。社員の満足度やモチベーション、職場環境への感じ方を数値として可視化できるからです。たとえば、経営層が「コミュニケーションは上手くいっている」と思っていても、現場では「上司との会話が足りない」と感じていることがあります。こうしたギャップを浮き彫りにできるのがサーベイの大きな価値です。

また、厚生労働省によると、エンゲージメントの高い企業は離職率が低く、生産性が高くなる傾向にあります。

“なんとなく”で動くのではなく、「この数値だからこそ、この施策を優先する」という根拠を持って動くことが、成果につながる組織改善を可能にします。

▼参考:厚生労働省 「働きがい」をもって働くことのできる環境の実現に向けて

健康経営や女性活躍の基盤になる

エンゲージメントサーベイは、健康経営や女性活躍推進を実効性のあるものにするための基盤となります。

従業員のストレスや労働時間の満足度、心理的安全性といった現状を把握することで、「何を目指すのか」を明確にできます。経済産業省の「健康経営優良法人認定制度」や厚生労働省の「女性活躍推進法」でも、従業員の健康状態や働きがい、女性活躍の実態把握と課題分析が求められています

単に数値目標を掲げるだけではなく、育児との両立への不安やキャリア機会の不足といった背景をデータで明らかにすることが重要であり、サーベイはそのための土台となります。

▼参考:経済産業省 「健康経営優良法人認定制度」

▼参考:厚生労働省 「女性活躍推進法特集ページ」

コストではなく未来への投資

エンゲージメントサーベイにかかる費用や時間を「コスト」と捉える方もいるかもしれません。しかし、適切に活用すれば、確実にリターンを生む「投資」になります。

米国のギャラップ社の調査では、エンゲージメントが高い組織は、低い組織と比較して生産性が最大21%高く、離職率は最大59%低いという結果が示されています。離職率が下がれば採用・教育コストが削減でき、生産性向上は売上や利益に直結するでしょう。

エンゲージメントサーベイは、離職率低下、モチベーション向上、生産性向上といったROIを生み出す戦略的な取り組みです。未来の組織力を高めるための第一歩として、その価値を改めて捉えることが重要です。

▼参考:Gallup 「State of the Global Workplace」

エンゲージメントサーベイを無駄にしないためのポイント

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エンゲージメントサーベイは、進め方を誤ると形だけで終わってしまいます。ここでは、サーベイを意味ある施策に変えるための4つの実践ポイントを解説します。

目的を明確化する

エンゲージメントサーベイを成功させるには、まず「何のために調査をするのか」を明確にすることが不可欠です。目的が曖昧だと質問や分析がぼやけ、結果も活かせません

例えば「満足度を知りたい」ではなく、「離職率を20%削減するために退職リスク層を特定する」「女性管理職比率向上のためにキャリア障壁を把握する」といった具体的なゴールが必要です。

さらに、その目的を経営層・マネージャー・従業員に事前共有することで回答率や実行率が高まります。「声を経営に反映する調査」というメッセージが協力を促し、正確なデータ収集につながるのです。

適切な質問を設定する

目的が明確になったら、次はその目的を達成するための質問設計が重要です。「なんとなく良さそうな質問」を並べるのではなく、欲しいデータを確実に得られる質問項目を厳選したいです。

質問設計で注意すべきポイントは以下の通りです。

1. 質問数は最小限に絞る 質問が多すぎると回答者の負担が増え、回答率の低下や適当な回答につながります。本当に必要な項目だけに絞り込むことが大切です。

2. 具体的で測定可能な質問にする 「職場環境に満足していますか?」という抽象的な質問よりも、「上司との1on1ミーティングは定期的に実施されていますか?」「業務量は適切だと感じますか?」といった具体的な質問の方が、改善策を導きやすくなります。

3. 属性別の分析を想定する 年齢、性別、部署、役職などの属性情報を取得することで、「どの層にどんな課題があるのか」を特定できます。例えば、女性活躍推進を目指すなら、男女別、年代別の分析が不可欠です。

結果を具体策に落とし込む

エンゲージメントサーベイが「無駄」と言われる最大の理由は、結果を集計して報告するだけで終わってしまうケースが多いからです。データを集めること自体が目的化してしまい、肝心の「では何をするのか」が決まらない——これでは意味がありません。

結果を活かすには、分析→課題特定→施策立案→実行という流れを明確にすることが不可欠です。

1. データを多角的に分析する 全体の平均値だけを見るのではなく、部署別、年代別、役職別などでクロス集計を行います。例えば、「全体のエンゲージメントスコアは平均的だが、30代女性社員のスコアが著しく低い」といった具体的な課題が見えてきます。

2. 優先順位をつける すべての課題に一度に取り組むことはできません。影響度が大きく、改善可能性の高い項目から着手することが重要です。

3. 具体的なアクションプランを策定する 「コミュニケーション不足」という課題が見つかったら、「月1回の1on1ミーティングを全部署で実施する」「部門横断のランチ会を四半期に1回開催する」といった具体的な施策に落とし込みます。

4. 実行責任者と期限を明確にする 誰が、いつまでに、何をするのかを明確にしなければ、アクションプランは絵に描いた餅になってしまいます。

繰り返し実施し、PDCAを回す

エンゲージメントサーベイは1回実施して終わりではありません。継続的に実施し、PDCAサイクルを回すことで、組織は着実に改善していきます。

Plan(計画):サーベイで明らかになった課題に対して施策を立案する

Do(実行):具体的なアクションを実施する

Check(評価):次回のサーベイで効果を測定する

Action(改善):結果を踏まえて施策を改善する

このサイクルを回すことで、「前回はこうだった、今回はこう変わった」という変化が可視化され、施策の効果を客観的に評価できます。また、データが蓄積されることで、組織の状態を経年で比較し、トレンドを把握することも可能になります。

さらに、定期的なサーベイの実施は、経営層と従業員の対話を促進する効果もあります。データという共通言語があることで、「なんとなく」ではなく、事実に基づいた建設的な議論ができるようになります。

成功事例から学ぶ活用のヒント

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エンゲージメントサーベイを「無駄」にしないためには、実際に成果を上げている企業の事例から学ぶことが最も効果的です。ここでは、健康経営、女性活躍推進、中小企業という3つの観点から、具体的な成功事例をご紹介します。

日東ベスト株式会社の健康経営推進事例

日東ベスト株式会社は、5年間にわたりエンゲージメントサーベイを継続実施し、健康経営施策の効果測定と組織改善に取り組みました。サーベイ結果を経営層への説得材料として活用し、予算や人員の確保を実現。部署ごとの課題を可視化し、きめ細かい対応を進めた結果、従業員の健康経営への認知度が大幅に向上しました。

健康経営におけるサーベイ活用のポイントは、データの連動分析、定期的な実施、経営層への根拠提示、そして「会社が自分たちを考えている」という実感を従業員に与えることにあります。

▼参考:Wevox 「エンゲージメント推進で従業員の『健康経営』認知度がアップ!日東ベスト株式会社」

資生堂ジャパン株式会社の女性活躍推進・キャリア支援事例

資生堂ジャパン株式会社では、女性活躍推進においてエンゲージメントサーベイを活用したキャリア意識の把握に取り組んでいます。女性従業員のキャリア志向に関する定期調査を実施し、ライフステージごとの課題と不安を可視化しました。

サーベイによって、「管理職になりたくない」という回答の背景にある具体的な不安が明らかになりました。それは、長時間労働への懸念やロールモデル不足といった、表面的な調査だけでは見えてこなかった課題でした。この結果を受けて、同社では働き方の見直しや女性管理職によるメンタリングプログラムを導入し、管理職候補者の早期発掘とサポート体制を構築しています。

こうした取り組みにより、女性管理職比率の向上に繋がっているだけでなく、女性従業員が「公平に評価されている」と感じる環境づくりが進んでいます。

▼参考:資生堂ジャパン株式会社 女性活躍推進

株式会社丸菱電子の事例

株式会社丸菱電子は、新潟県長岡市で金属熱処理加工を手がける従業員50名の企業です。かつては10年間で100人以上が退職する深刻な状況に直面していましたが、エンゲージメントサーベイを導入し、組織の課題を可視化しました。調査では、連帯感の欠如や経営層への不信感が明らかになり、経営陣との信頼構築を最優先に据えて1on1面談を実施。従業員の声を迅速に施策へ反映させることで職場環境が改善されました。その結果、エンゲージメントスコアが向上し、売上は2年間で118%増加、離職率も大幅に低下するなど、劇的な組織改善を実現しました。

▼参考:株式会社丸菱電子 エンゲージメントサーベイ実施例

まとめ

エンゲージメントサーベイが「無駄」と言われるのは、結果を活かせていないからです。目的が曖昧なまま集計だけで終われば意味がなく、そのような状況が「無駄」と受け止められます。一方で、目的設定・質問設計・結果の施策化・PDCAを実践すれば、サーベイは組織改善の有力なツールとなります。健康経営や女性活躍推進の分野でも、データに基づく意思決定が成果につながっているのです。

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