健診受診率とは|現状データから向上施策まで企業の取り組みを解説

2025年 11月 4日

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「健診の受診率が思うように上がらない」「健康経営優良法人の認定基準をクリアするにはどうすればいいのか」―このような悩みを抱えていませんか。

健康診断の実施と受診は法律で義務付けられているにもかかわらず、受診率が100%に達していない企業は少なくありません。従業員の健康リスクを早期に発見し、健康経営を推進するには、受診率向上が不可欠です。

本記事では、健診受診率の現状データから未受診の理由、受診率を上げるための具体的な施策まで詳しく解説します。人事担当者や経営層の方が、自社で実践できる対策を明確にできる情報を提供いたします。

健診受診率とは

健診受診率とは、健康診断の対象者のうち、実際に受診した人の割合を示す指標です。

企業における健診受診率は、「受診者数÷対象者数×100」で算出されます。たとえば、従業員100人の企業で80人が健診を受診した場合、受診率は80%となるのです。

労働安全衛生法第66条により、企業には従業員に対して医師による健康診断を実施する法的義務があります。同時に、労働者にも健康診断を受診する義務が課されています。つまり、健康診断の実施と受診は法律上の義務であり、本来は受診率100%が達成されるべき状態なのです。

健康診断には、雇入れ時に実施する雇入時健康診断と、年に1回定期的に実施する定期健康診断があります。特に定期健康診断は、従業員の健康状態を継続的に把握し、疾病の早期発見・早期治療につなげるための重要な機会です。

健診受診率は、企業の健康経営を評価する重要な指標ともなっています。経済産業省が推進する「健康経営優良法人認定制度」では、「従業員の健康診断の受診(受診率実質100%)」が評価項目のひとつとされているのです。受診率実質100%とは、病気休職や育児休業などやむをえない理由を除いて定期健康診断の受診率が100%の状態、または直近の受診率が95%以上で未受診者には適切な受診勧奨を行っている状態を指します。

健診受診率の現状

それでは、日本における健診受診率の現状はどうなっているのでしょうか。統計データから実態を見ていきましょう。

全体の受診率

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、20歳以上で過去1年間に健診や人間ドックを受けたことがある人は、男性が73.1%、女性が65.7%です。男女ともに半数以上は年に1回健康診断を受診していますが、100%には達していません。

企業における定期健康診断に限ってみると、厚生労働省の労働安全衛生法に基づく定期健康診断のデータによると、健康診断の実施率は91.9%、受診率は81.5%となっており、ともに100%を下回っています。健康診断の実施と受診は法律で義務化されているため、本来は100%になるはずですが、現実には2割近くの従業員が受診していない状況です。

企業規模別の受診率

データによると、事業所の規模によって健康診断の実施率や受診率が異なります。事業所の人数が多いほど実施率、受診率ともに高くなる傾向で、500人以上の事業所では健康診断の実施率が100%となっていますが、それらの事業所でも受診率は80%台に留まっているのが現状です。

最も受診率が高いのは5,000人以上の事業所で87.8%、続いて300〜499人の85.8%、1,000〜4,999人の85.6%です。一方、10〜29人の小規模事業所では受診率が77.0%と最も低い水準となっています。

小規模事業所では実施率自体が89.4%と低く、「健康診断を定期的に行えていないために受診していない従業員もいる」という実態が浮き彫りになっています。一方、大規模事業所では実施率100%であっても受診率が80%台にとどまっているため、「会社が健康診断実施の義務を果たしていても、受診をしない従業員が一定数存在する」ことが分かるでしょう。

業種別・就業形態別の特徴

産業別では、電気・ガス・熱供給・水道業が96.6%と最も高く、次いで建設業91.6%、製造業90.6%といずれも90%以上です。最も受診率が低いのは卸売業・小売業と生活関連サービス業・娯楽業で、同率で74.4%となっています。

就業形態別では、正社員の受診率は94.9%と高いのに対し、パート社員の受診率は58.0%と非常に低い数字です。非正規雇用の従業員への受診促進が大きな課題となっているといえるでしょう。

健診受診率が低い理由

健診受診率が100%に達しない背景には、どのような理由があるのでしょうか。従業員が受診しない主な理由を見ていきましょう。

時間がとれない

厚生労働省の調査によると、従業員が健康診断を受けない理由のうち、特に回答者の割合が高かったものとして「時間がとれなかった」が挙げられます。健康診断の重要性を理解しており受診する意思があるにもかかわらず、業務が多忙で時間がとれないケースです。

仕事の中断が難しい業界や職種も存在します。健康診断の指定日が決まっている場合は、出張や繁忙期が原因で受診できない従業員もいるでしょう。企業が労働時間外に受診する指示を出したり有給消化扱いになったりすると、従業員の意欲が低下し、健康診断を避けてしまうこともあります。

費用がかかる

費用負担に対する不安も、受診を控える理由のひとつです。特殊健康診断の費用負担は企業の義務ですが、一般健康診断では企業側に必ずしも支払い義務はありません。

自己負担では健康診断を受けたくないと考える従業員もいます。また、健康診断の再検査・精密検査などについても、誰が費用を負担すべきか法令による定めがなく、費用負担者は労使間の協議や就業規則などで決めることとされているのです。

受診費用や健診中の給与について分からないという不安から、受診を控える人もいると考えられます。

心配な時はいつでも医療機関を受診できる

健診や人間ドックを受けなかった者について、性別に受けなかった理由をみると、男は「心配な時はいつでも医療機関を受診できるから」が30.4%と最も高く、女は「心配な時はいつでも医療機関を受診できるから」が34.2%と最も高くなっています。

「病気が見つかってから病院を受診すればよい」と考えている従業員に対しては、健康診断の意義を正しく理解してもらうことが重要です。病気は本人の自覚なく進行する場合もあるため、早期発見・早期治療が大切であると伝える必要があるでしょう。

めんどうだから

男性の20〜29歳では「めんどうだから」が健診を受けなかった理由として最も高くなっています。健康診断の受診の大切さを理解していない従業員への対策が必要です。

特に若年層は、自分の健康に対する関心が低く、健康診断を軽視する傾向があります。健康診断が疾病予防の観点で大切なことや、職場で健康課題を把握するために必要であることを説明し、理解してもらうようにすることが求められるのです。

健診結果への不安

従業員が「健康診断を受診すると病気が見つかるかもしれない」と恐れて受診を避けるという行動も、受診率を下げる原因のひとつです。病気発覚後の生活の変化や就業に関するネガティブな印象から、そもそも受診をしない選択をしてしまう従業員もいます。

また、健康診断の結果、もし有所見者になった場合に「昇進に影響するなど人事評価に不利益に働くのではないか」と考え、健康診断の受診をしない従業員もいるのです。しかし、健康診断結果によって人事評価に不利益を与えることは禁止されています。健康診断の結果は限られた担当者しか閲覧できず、守秘義務があるため、個人情報の漏洩の心配も不要であることを周知する必要があるでしょう。

健診受診率を上げる方法

それでは、健診受診率を向上させるために企業はどのような対策を講じればよいのでしょうか。具体的な施策を見ていきましょう。

個別面談とヒアリング

最初に対象の従業員に対して個人面談を実施し、健康診断を受診しない理由をヒアリングしましょう。健康診断を受診しない理由は人によりさまざまです。

面談にてヒアリングし、受診しない理由を把握することで、適切な対策を講じられます。面談の際に、健康診断は労働安全衛生法第66条の5に基づく義務である旨を伝えることも重要です。

ヒアリングの結果、受診しない理由が「面倒だから」など、健康診断の受診の大切さを理解していない従業員への対策に効果的でしょう。一人ひとりの状況を丁寧に把握することが、受診率向上の第一歩となります。

受診しやすい環境づくり

従業員が「時間がないから健康診断を受診できない」という状況に対しては、企業側が業務負担を考慮することが必要です。

予約時間に融通を利かせる、また当該従業員の上司や同僚などにサポートを依頼することで健康診断の時間を捻出しやすくなります。従業員へ仕事量や繁閑についてヒアリングし、健診日を設定することも効果的です。

また、健診場所も職場近くや定期券内など、従業員の負担にならない場所を設定するとよいでしょう。近年増加したリモートワークの従業員に対しては、自宅近くの健診施設で受診できるようにすると効果的です。

巡回健診を導入することで、従来受診率が低かった拠点でも改善が見込めます。また、総務部門にとっても予約管理や集計の効率化につながり、事務負担の軽減にも寄与するのです。

健診の重要性を周知

従業員に健康診断を受診するメリットを提示しましょう。健康診断の受診によって自覚症状のない病気を発見できることを伝えると、「病気が見つかってから病院を受診すればよい」と考えている従業員に対し受診を促せます。

病気は本人の自覚なく進行する場合もあるため、早期発見・早期治療が大切であると伝えましょう。早期に発見できれば治療法の選択肢が広がり、従業員の心身や費用面の負担が少なくなります。

また、定期的に健康情報を社内に発信したり、健康セミナーを開催したりすることで、従業員の健康リテラシーを高めることも効果的です。健康診断が疾病予防の観点で大切なことや、職場で健康課題を把握するために必要であることを説明し、理解してもらうようにしましょう。

就業規則への明記

就業規則に健康診断の受診義務に関する項目を定めましょう。企業が従業員に健康診断を受けさせない場合には、「安全配慮義務違反」と判断され、労働安全衛生法第120条の1により、50万円以下の罰金の支払いを命じられる可能性があります。

就業規則に明記することで、健康診断の受診が企業の方針であることを明確に示せます。ただし、強制的な印象を与えすぎないよう、従業員の健康を守るための施策であることを丁寧に説明することが大切です。

従業員が会社の用意した健康診断を受診しない場合には、個人で医療機関を探し健康診断を受けに行く必要があることもアナウンスしておきましょう。その際には、健康診断の結果を会社に提出することもあわせてお願いしておきます。

費用負担の明確化

健康診断の費用を企業で負担することを明示しましょう。受診率を上げるためには、健康診断の費用を企業で負担することが望ましいといえます。

企業が費用を負担する場合にはその旨を周知しておくことで、従業員にとっての再検査や精密検査のハードルが下がります。健康診断に関する福利厚生制度を設けることも、受診率を向上させるために有効な方法です。

オプション検査や人間ドックは自費で受けることになりますが、検査にかかる費用を会社が負担する制度を設けると、「健康診断だけでは物足りない」と考えている従業員も受診しやすくなるでしょう。人間ドック受診の補助制度は、福利厚生制度のなかでも従業員から最も望まれている制度です。

インセンティブの活用

受診に対する「ちょっとしたご褒美」がモチベーションになることもあります。たとえば、受診者に対してクオカードや社内ポイントを付与する、福利厚生メニューと連動させるなど、インセンティブの活用は有効な手段のひとつです。

ただし、制度設計の際は公正性や不公平感の回避にも注意が必要でしょう。あくまで「全員が受診しやすい」環境整備の一環として活用する視点が大切です。

デジタルツールの活用

健診の申込状況や未受診者の管理には、手作業では限界があります。クラウド型の健診管理ツールや社内ポータルとの連携を活用しましょう。

デジタルツールを導入することで、従業員の健康診断受診状況の管理が一元化できるほか、健康に関する相談窓口を社外に設けることが可能です。企業は人事の作業・管理コストが大幅に削減でき、従業員は自身の健康状態が企業の担当者に知られてしまうリスクを減らせます。

また、健診結果をデータ化することで、個人の健康状態を経時的に分析できます。データをもとに、AIが将来的な健康リスクを予測し、次回の健診を促進することも可能です。

産業医の活用

医療や健康の専門家ではない人事担当者の立場から健康診断の必要性を伝えるのが難しいケースもあります。その場合は、労働衛生の専門家である産業医の導入を検討するとよいでしょう。

産業医の選任は従業員が50人以上になってからですが、先んじて選任しておくことで定期的な健康診断の重要性についての説明を委ねたり、周知のタイミングの決定などでサポートが受けられたりと、健康診断の実施においてさまざまなメリットが生まれるはずです。

産業医と健診結果データを共有できるほか、健診後の産業医面談もオンラインで対応が可能です。健康診断結果をスムーズに把握できるだけではなく、その後の面談をオンラインで行えることは、従業員にとってもメリットといえます。

健診受診率向上のメリット

健診受診率を向上させることには、企業と従業員の双方に多くのメリットがあります。

従業員の健康リスク軽減

一般健康診断における所見率(検査項目において異常が見つかった者の率)は増加傾向にあります。平成18年には48.0%だった有所見率は徐々に上昇し、令和2年では63.6%になりました。健康診断を受診していない従業員の中に健康上の異常が見つかる可能性は大いにあるといえるでしょう。

受診率を向上させることで、疾病の早期発見・早期治療が可能になります。従業員の健康を守ることができ、重症化を防ぐことにもつながるのです。

千葉産業保健推進センターの調査結果によれば、健康診断の受診率が年々向上した企業では、比例して肥満の従業員が減少し、HbA1cや血糖値などの数値が改善された事例があります。さらには、仕事中の事故(労災)の件数も減少しているのです。

生産性の向上

従業員の健康が保たれることで、欠勤や休職が減少し、生産性が向上します。健康な従業員は集中力が高く、業務効率も上がるため、企業全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。

また、従業員が安心して働ける環境が整うことで、モチベーションやエンゲージメントも向上します。企業が従業員の健康を真剣に考えていることが伝わり、組織への帰属意識も高まるのです。

健康経営の推進

健診受診率の向上は、健康経営の第一歩となります。経済産業省の認定制度「健康経営優良法人」は、健康診断の受診率が高いこと(実質100%)が認定基準のひとつになっているのです。

健康経営優良法人の認定を受けることで、企業イメージが向上し、優秀な人材の確保にもつながります。健康経営に取り組む企業として社会的な評価が高まり、取引先や投資家からの信頼獲得も期待できるでしょう。

また、健康保険組合の保険料率にも影響する可能性があります。従業員の健康状態が良好に保たれることで、医療費の削減にもつながるのです。

まとめ

健診受診率について、現状データから向上施策まで詳しく解説しました。

健診受診率とは、健康診断の対象者のうち実際に受診した人の割合を示す指標で、「受診者数÷対象者数×100」で算出されます。企業における定期健康診断の受診率は81.5%と、法律で義務化されているにもかかわらず100%に達していない現状です。

企業規模が大きいほど受診率は高くなる傾向にあり、500人以上の事業所でも80%台にとどまっています。業種別では電気・ガス・熱供給・水道業が最も高く96.6%、就業形態別では正社員94.9%に対しパート社員58.0%と大きな差があります。

従業員が健診を受診しない主な理由は、時間がとれない、費用がかかる、心配な時はいつでも医療機関を受診できる、めんどうだから、健診結果への不安などです。これらの理由に対して、個別面談とヒアリング、受診しやすい環境づくり、健診の重要性の周知、就業規則への明記、費用負担の明確化、インセンティブの活用、デジタルツールの活用、産業医の活用といった施策が有効です。

健診受診率を向上させることで、従業員の健康リスク軽減、生産性の向上、健康経営の推進というメリットが得られます。健康経営優良法人の認定基準にも受診率実質100%が含まれており、企業の社会的評価向上にもつながるでしょう。

健診受診率の向上は、単なる法令遵守にとどまらず、従業員の健康を守り、企業の持続的な成長を支える重要な取り組みです。本記事で紹介した施策を参考に、自社に合った対策を実践していきましょう。