メンタルヘルス研修とは?種類や選び方、実施ステップを解説
2025年 7月 15日

職場のメンタル不調や離職リスクにどう向き合うべきか――。
管理職から「部下との接し方が難しい」といった声が上がったり、ストレスチェックで高ストレス者が目立ってきたり。そんな課題を感じはじめた企業が注目しているのが「メンタルヘルス研修」です。
この記事では、メンタルヘルス研修の基本から種類、導入ステップ、研修選びのポイントまでをわかりやすく解説します。
人事労務、健康経営推進、ダイバーシティ施策を担当する皆さまにとって、現場で活かせる実践知をお届けします。
メンタルヘルス研修とは

メンタルヘルス研修は、企業の人事労務担当者、管理職、産業保健スタッフなどが、社員の心の健康を守り、職場環境を改善するために実施する教育プログラムです。
社内の会議室や研修室で、また近年ではオンラインでの実施も増えており、社員一人ひとりがストレスとうまく付き合う方法を学びます。
研修の対象者は、管理職向けの「ラインケア研修」から一般社員向けの「セルフケア研修」などさまざまです。
実施頻度は、新入社員研修では年1回、管理職研修では昇進時や年1〜2回、一般社員向けでは年1回程度が一般的です。
費用は外部講師を招いた場合、半日で10万円から30万円程度が相場でしょう。社内で実施する場合やオンライン研修を利用すれば、より低コストで導入できます。厚生労働省の「こころの耳」サイトでは、社内で実施するメンタルヘルス研修で活用できるコンテンツも提供されているため、まずはこうした無料ツールから始めることもできます。
企業における実施目的
ここでは、企業がメンタルヘルス研修を実施する主な3つの目的について詳しく見ていきましょう。
社員のメンタル不調を予防・早期対応するため
厚生労働省によると、ストレスチェック制度の目的はメンタルヘルス不調の未然防止にあり、その実現には研修の実施が欠かせません。管理職向けのラインケア研修では、部下の小さな変化に気づき、適切な声かけや専門機関への相談につなげるスキルを学びます。一方、一般社員向けのセルフケア研修では、自分のストレス状態を把握し、適切な対処法やセルフケア手法を身につけることで、不調の予防が期待できます。
職場環境の改善と心理的安全性の向上
メンタルヘルス研修は、職場環境の改善と心理的安全性の向上を目的とした重要な取り組みです。
管理職と従業員の双方がメンタルヘルスへの理解を深めることで、心身ともに健やかに働ける環境づくりが促進されます。特に、心理的安全性—意見や不安、ミスを安心して共有できる職場風土—の醸成には、適切なコミュニケーションスキルが欠かせません。
また、ハラスメント防止の観点からも、心理的影響や予防策を学ぶことは、健全な職場づくりに直結します。
健康経営・法制度・社会的評価への対応
健康経営優良法人認定制度においても、メンタルヘルス対策は重要な評価項目の一つです。研修の実施実績や社員の満足度向上は、企業の社会的評価を高める要因となります。また、女性活躍推進法に基づく行動計画においても、働きやすい職場環境の整備の一環として、メンタルヘルス対策が求められています。
さらに、優秀な人材の確保・定着の観点からも、メンタルヘルス研修は重要です。求職者が企業選びの際に重視する要素として、働きやすさや職場環境の良さが挙げられており、メンタルヘルス対策が充実している企業は、人材獲得競争において有利になるでしょう。
メンタルヘルス研修の種類

メンタルヘルス研修には、さまざまな種類があります。ここでは、メンタルヘルス研修の主要な種類について詳しく見ていきましょう。
テーマ別の種類
メンタルヘルス研修は、扱うテーマによって以下のような種類に分けられます。それぞれのテーマで学ぶ内容と効果が異なるため、社内の課題や目的に応じて選択することが大切です。

セルフケア研修では、従業員自身がストレスやメンタルヘルスについて理解を深め、メンタルヘルスの不調に気づいて適切な対処を行えるよう、研修で正しい知識を伝えます。一方、ラインケア研修では、管理職が部下の異変に気づいて適切な対応を行えるように指導します。
近年特に注目されているのがレジリエンス研修です。レジリエンスとは、困難な状況に直面したときに、しなやかに回復し、成長していく力を指します。ストレスに対する抵抗力を高めることで、メンタル不調の予防効果が期待できるでしょう。
対象者別の種類
メンタルヘルス研修は、対象者によって内容や重点ポイントが大きく異なります。各階層に適した研修内容を提供することで、より効果的な職場のメンタルヘルス対策を実現できます。

管理職・リーダー層向けの研修では、ラインケアに必要なことを「誰にでもできる3つのこと」に絞ることで、現場の管理職が負担なく即実践できる内容にすることが重要です。部下のメンタルヘルスを支援する立場として、適切な対応方法を身につけることが求められます。
一般社員・新入社員向けの研修では、自分自身のメンタルヘルスを管理する方法に焦点を当てます。ストレスの早期発見や対処法、周囲への相談の仕方など、実践的なスキルを学ぶことで、メンタル不調の予防につなげることができるでしょう。
実施方式別の種類
メンタルヘルス研修は、実施方式によってもさまざまな特徴があります。

集合研修(対面)は、参加者同士の対話や実践的なロールプレイを通じて、より深い学びを得られる方式です。
eラーニングは、受講の自由度が高く、コスト効率が良いことから、多くの企業で導入が進んでいます。特に全国に拠点を持つ企業や、多様な働き方を取り入れている企業では、時間や場所の制約を受けないeラーニングが重宝されています。
個別指導・コーチング型は、管理職の個別の課題に対応できる点が大きなメリットです。研修だけでは解決できない実践的な課題について、専門家からの継続的なサポートを受けることで、より効果的な職場改善を実現できるでしょう。
メンタルヘルス研修の選び方

メンタルヘルス研修を選ぶ際には、多様な観点から比較し、自社の課題に即した内容を選ぶことが重要です。それでは、具体的な比較ポイントを順に確認していきましょう。
研修の目的と対象者に合っているか
まずは、「なぜ研修を実施するのか」を明確にすることが必要です。
例えば、ストレス予防ならセルフケア中心、管理職強化ならラインケア中心の研修を選ぶべきでしょう。
管理職向け研修なのに、全社員向けの内容では有効性が薄れます。目的と対象者を一致させることで、現場での納得感が高まります。目的が不明瞭な研修は、実施後に“形骸化”しやすいものです。ぜひ、最初に目的・対象を整理してください。
内容が具体的・実践的か
知識だけではなく、現場の行動につながる作りかが重要です。
具体的なケーススタディやロールプレイを含む研修は、知識を行動に落とし込みやすく、効果が高いとされています。
論文調査でも、参加者が「実践できるスキル」を学べる内容が研修効果を左右する重要要素とされています。座学だけで終わらず、「何をどう伝えるか」が明確に示されている研修が望ましいでしょう。
実施形式と受講のしやすさ
研修形式によってアクセス性や定着率が変わります。
- 対面型:質疑応答やロールプレイが可能で、実践重視の場面では効果的です。
- オンラインライブ型:拠点展開企業に便利で、双方向性も保てます。
- eラーニング型:時と場所を選ばず受講でき、受講管理もしやすいです 。
社内状況に応じて、「受講しやすく、続けやすい形式」を選ぶことが受講率向上につながります。
講師・提供会社の専門性や実績
信頼できる研修には、講師や提供会社の専門性や実績が不可欠です。
臨床心理士、公認心理師、産業カウンセラーなどの資格保有者が講師かどうかを確認しましょう。
また、実施後のフォローアップ制度や他企業の導入実績も参考になります。
例えば、Wellflowという健康経営サービスの研修では、企業の課題や目的にも応じた研修を有資格者が行います。導入実績が豊富で、内容のカスタマイズ性にも定評があります。「どんな人が、どんな場数を踏んできたか」をしっかり見極めましょう。
コストと助成金の活用可否
研修費用は、単に安い・高いで判断するのではなく、費用対効果を意識することが大切です。
助成金(例:厚生労働省の人材開発支援助成金)が適用できるかどうかも確認しましょう。
さらに、健康経営認定制度との連携でコスト負担を軽減できる事例もあります。助成金申請が可能な研修プログラムなら、企業にとって負担を減らしながら効果的な導入が可能です。
メンタルヘルス研修導入の進め方
メンタルヘルス研修は、単に「実施すること」が目的ではなく、職場の課題解決や社員の行動変容につなげることが本質です。ここでは、効果的な導入のための3ステップを紹介します。
ステップ①:目的と課題を明確にする(計画フェーズ)
研修を導入する前に、社内の課題を洗い出し、何のために研修を行うのかを明確にすることが重要です。
例えば、「ストレスチェックで高ストレス者が多い」「管理職が部下対応に困っている」といった具体的な背景があるかどうかを確認しましょう。
また、対象者(管理職のみか、全社員か)や、ゴール(不調の予防か、対話力の強化か)も定めておく必要があります。ここが曖昧なままだと、研修の方向性が定まらず、“やったけど効果が見えない”という結果になりがちです。
このフェーズでは、人事・経営層・産業保健スタッフなど多部署との連携が鍵になります。「全社的に取り組むテーマである」と共有できれば、研修の意義が社内に浸透しやすくなるでしょう。
ステップ②:内容と実施方法を決める(設計フェーズ)
目的と対象が定まったら、次はそれに合った研修内容と形式を選定する段階です。
テーマがセルフケアであれば、ストレスとの付き合い方や自己理解が中心に。ラインケアであれば、部下への声かけや相談対応が中心になります。
実施形式についても、自社の勤務形態や受講環境に合わせて検討しましょう。対面型かオンライン型か、あるいはeラーニングとの併用か。忙しい現場でも受講できる工夫が必要です。
また、講師選定や実施スケジュール、費用面もこの段階で整理します。場合によっては、助成金の対象になる研修もあるため、提供会社に確認しておくとよいでしょう。
さらに、経営層や部門責任者への事前説明も忘れずに行いましょう。「現場の協力」が得られるかどうかが、受講率と成果に直結します。
ステップ③:実施・フォローアップを行う(実行フェーズ)
実際の研修実施では、受講者が「学んで終わり」にならないような工夫が必要です。
事前に研修の目的を共有しておくことで、受講者の意識が高まり、学びの質が向上します。
研修後には、アンケートを実施し、満足度や理解度を把握しましょう。可能であれば、事後面談や1on1での振り返り、ストレスチェック結果との関連性分析なども行うことで、効果測定がしやすくなります。
さらに、「学んだことをどう現場で活かすか」についてのディスカッションや、月次での振り返りミーティングを設定すると、学びを定着させるサイクルが生まれます。
フォローアップ資料やeラーニングの再受講、相談窓口の周知など、継続的な支援策も併せて設計しておくと、研修の成果が組織に根づきやすくなるでしょう。
メンタルヘルス研修のよくある課題と対処法
ここでは、企業でよく聞かれる不安や課題について、具体的な対処法とともに紹介します。
メンタルヘルス研修の効果が見られない気がする
「研修を実施したが、具体的な変化が見えない」——このような声は少なくありません。
ただし、メンタルヘルス対策は短期間で数値として結果が出にくいものでもあります。離職率やストレスチェックの数値変化は、中長期的に見ていく必要があります。
効果を見える化するには、研修前後でのアンケート比較や、管理職によるフィードバックの記録などを取り入れるとよいでしょう。また、事後の1on1ミーティングやケーススタディ共有会を通じて、実践の場での小さな変化を捉えることも大切です。
研修が“形骸化”しないか心配
義務的に実施した研修は、受講者に「やらされ感」を与えてしまいがちです。形骸化を防ぐには、現場のリアルな悩みに寄り添った内容にカスタマイズすることが有効です。
例えば、管理職が実際に困っている「部下との関係」や「注意の伝え方」といった具体的なケースを扱う研修にすることで、納得感と参加意欲が高まります。
さらに、研修の実施を単発で終わらせず、継続的な対話の場や社内の共有文化につなげることが、形骸化を防ぐ大きなポイントです。
受講者の反応はどのように今後に活かす?
研修後のアンケートやヒアリングで得た反応は、次回以降の改善材料として非常に貴重です。「参考になった内容」「もっと深掘りしてほしかった部分」「実践が難しかったポイント」などを抽出し、次の企画やフォローアップの設計に役立てましょう。
また、受講者の声を人事や経営層にフィードバックすることで、社内全体の理解とサポート体制の強化にもつながります。「声を活かす」姿勢が、社員の信頼感や研修への前向きな印象につながるでしょう。
まとめ|継続的な実施が組織を変える
メンタルヘルス研修は、社員のストレス対処力や職場の風土を改善するための強力なツールです。しかし、その効果を最大化するには、「導入の理由を明確にする」「対象や内容を適切に選ぶ」「実施後の定着を重視する」といった、丁寧な運用と継続的な取り組みが求められます。
研修は一過性ではなく、社内に根づく文化として育てていくものです。社員一人ひとりが安心して働ける環境をつくることは、結果として企業全体のエンゲージメントや生産性の向上にもつながります。
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