セクシュアルハラスメントとは?企業が向き合うべき課題と解決策
2025年 9月 4日

職場で発生するセクシュアルハラスメント(以下、セクハラ)は、単なる個人間の問題ではなく、企業全体の経営基盤を揺るがす深刻な課題と言えるでしょう。
この記事では、セクハラの法的定義から企業にもたらす深刻なリスク、そしてその対策がなぜ現代の企業にとって不可欠な経営課題であるのかを解説します。
セクハラが起きた場合の具体的な対応手順も交えながら、健全で活力ある職場を築くための実践的なステップをご紹介しましょう。
セクシュアルハラスメントとは?厚生労働省の定義と2つの類型
男女雇用機会均等法に基づき、厚生労働省は「職場において行われる労働者の意に反する性的な言動」によって、労働条件上の不利益を被るか、就業環境が害されることと定めています。この定義は、正社員だけでなく、契約社員や派遣社員を含むすべての労働者に適用され、男性に対するセクハラも対象となります。
また、セクハラ行為の加害者は上司や同僚だけでなく、取引先や顧客も含まれる場合がある点に注意が必要です。
「対価型」と「環境型」セクシュアルハラスメントの違い
セクハラは、その被害の形態によって「対価型」と「環境型」の2つに分類されます。
対価型セクハラ
性的言動への拒否や抵抗に対して、労働者が解雇、降格、減給などの不利益な扱いを受けるケースです。例えば、上司からの性的な誘いを断ったことを理由に、不利益な配置転換を命じられるといった事例がこれに該当します。
環境型セクハラ
性的言動によって職場の雰囲気が不快なものとなり、労働者の業務遂行能力が著しく阻害されるケースです。具体的には、職場内での執拗な性的な冗談やからかい、ヌードポスターの掲示などが挙げられます。
性的指向・性自認(SOGI)に関するハラスメントも対象に
セクハラの定義において、性的指向(個人の恋愛・性愛の対象がどの性別に向かうか)や性自認(性別に関する自己意識)は、被害を受ける者の属性にかかわらず適用されます。例えば、同性間の嫌がらせや、「ホモ」「オカマ」「レズ」といった性的マイノリティを揶揄する発言も、セクハラの背景になり得ると厚生労働省の指針で示されています。
セクハラが企業にもたらす深刻なリスクと影響
セクハラは、被害者個人の心身に深い傷を負わせるだけでなく、企業全体に計り知れないリスクと負の影響をもたらします。
従業員の心身の不調と生産性の低下
職場のストレスは、多くの労働者が抱える共通の課題です。日本労働組合総連合会(連合)の2022年の調査によると、仕事や職業生活に関してストレスを感じている労働者は74.3%に上り、その最大の要因は「職場の人間関係」(30.9%)でした。特にハラスメントを経験した人の74.8%が、「仕事のやる気がなくなった」「心身に不調をきたした」といった職業生活上の変化を訴えています。
セクハラ被害は、被害者の精神的な苦痛(うつ病、適応障害など)や身体的な症状(頭痛、吐き気、倦怠感など)を引き起こし、これらが欠勤や休職につながる可能性があります。このような心身の不調は、仕事への集中力や効率が低下する「プレゼンティーズム」、そして欠勤や休職を余儀なくされる「アブセンティーズム」という形で企業の生産性に直接的な悪影響を及ぼします。
企業の社会的信用の失墜と採用への悪影響
現代の求職者は、給与や待遇といった目に見える条件だけでなく、企業の社会的責任や働き方への姿勢を重視する傾向にあります。セクハラ問題が表面化すると、企業は「従業員を大切にしない」という負のイメージが定着し、ブランド価値を大きく損なう可能性があります。これは、求職者からの応募減少を招くだけでなく、既存の顧客や取引先、投資家からの信頼失墜にもつながるでしょう。
ハラスメント対策を怠る企業は、競争において不利な立場に置かれ、優秀な人材の獲得が困難となり、企業の長期的な競争力に致命的な打撃を与えかねません。
女性管理職がセクハラ被害に遭いやすい実態
セクハラの問題は、単純な権力関係だけでは説明できない側面も持ち合わせています。日経BPコンサルティングの調査によると、日本の女性管理職は非管理職の女性に比べ、セクハラを経験する比率が約2倍も高いという驚くべきデータが示されています。また、ハラスメントが起きやすい職場には、「上司と部下のコミュニケーションが不足している」「女性管理職の比率が低い」といった特徴が指摘されています。
この事実は、セクハラが根深い「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」や、伝統的な権力構造が背景にある可能性を示唆しています。この現象は、女性リーダーを増やすことが、組織の多様性を尊重し、従業員の心理的安全性を高める上で不可欠な戦略であることを強く示唆していると言えるでしょう。
企業が取るべきセクハラ防止策
事業主には、男女雇用機会均等法に基づき、以下の10項目の措置を講じる義務があります。
方針の明確化と周知・啓発:セクハラの内容や防止方針を就業規則に規定し、社内報や研修を通じて全従業員に周知します。
相談窓口の設置
相談窓口をあらかじめ定め、広く相談に応じる体制を整備します。社内窓口だけでなく、外部の専門機関と連携した相談窓口の設置も有効です。
迅速かつ適切な事後対応
相談があった場合、事実関係の確認、被害者への配慮、加害者への厳正な措置、再発防止策を講じます。
プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
相談者や関係者のプライバシーを保護し、相談や協力によって不利益な扱いをしないことを明文化し、周知します。
セクハラが起きた場合の対応方法
セクハラが疑われる事案が発生した場合、企業は以下のステップで慎重かつ公正に対応する必要があります。
相談受付と初期対応
相談窓口の担当者は、先入観を持たずに被害者の話を傾聴し、プライバシー保護を徹底します。
事実関係の確認と証拠収集
被害者と加害者双方から詳細な事実関係を聴取します。その際、客観的な証拠(メール、SNSのやり取り、録音、写真、診断書など)の有無を慎重に確認することが重要です。特に、精神的な不調や身体的な症状がある場合、医師の診断書は有力な証拠となります。
適切な措置の検討と実行
事実関係が確認された場合、被害者の意向に沿って適切な措置を講じます。具体的には、加害者との接触機会を減らすための配置転換、労働条件の不利益の回復、心身のケアのための産業医やカウンセリングの機会提供などが挙げられます。加害者に対しては、就業規則に基づき、指導や懲戒処分を厳正に検討し、実行します。
再発防止策の策定
事案の有無にかかわらず、再発防止策を講じることが重要です。定期的なハラスメント防止研修や、無意識の偏見に気づく「アンコンシャス・バイアス研修」は、全従業員の意識を継続的に高め、多様な人材が共存する組織風土を築く上で効果的です。
まとめ
セクハラ対策は、法令遵守という最低限のラインを超え、企業の持続的成長に不可欠な重要な経営課題であると言えます。厚生労働省の指針に基づいた厳格な対応はもちろん、従業員が安心して声を上げられる相談体制の構築や、アンコンシャス・バイアス研修による意識改革、そして柔軟な働き方や男性育休の促進といった包括的な施策が、健全な組織文化を育む鍵となります。
ハラスメントのない、風通しの良い職場は、従業員の心身の健康を保ち、離職率の低下、生産性やエンゲージメントを高めるという「好循環」を生み出します。これらの取り組みは、企業価値そのものを高める無形資産なのです。セクハラのない、全ての従業員が公正な機会を得て活躍する職場を築くことは、従業員からの信頼を獲得し、優秀な人材を引き付け、イノベーションを創出する土壌を耕すことを意味します。
貴社の人的資本を最大限に活かし、持続的な成長を実現するために、今こそセクハラ対策を戦略的な経営課題として捉え直すことが求められます。