メンタルヘルス取り組み完全ガイド|職場で実践すべき具体的な施策

2025年 10月 16日

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職場のメンタルヘルス対策は、従業員の健康を守るだけでなく、企業の生産性向上にも直結する重要な経営課題です。しかし、「何から始めればよいのか」「どのような取り組みが効果的なのか」と悩んでいる担当者の方も多いのではないでしょうか。

本記事では、企業が実施すべきメンタルヘルスの取り組みについて、具体的な方法から実践のポイントまで詳しく解説します。ストレスチェック制度への対応はもちろん、従業員が心身ともに健康に働ける職場環境づくりに役立つ情報をお届けします。

メンタルヘルスの取り組みの重要性

職場におけるメンタルヘルス対策は、法的義務としてだけでなく、企業の持続的な成長に欠かせない要素となっています。

厚生労働省の調査によると、仕事や職業生活に関する強い不安やストレスを感じている労働者の割合は50%を超えており、メンタルヘルス不調による休職者も増加傾向にあります。精神障害等の労災認定件数も年々増加しており、2022年度には710件と過去最多を記録しました。

メンタルヘルス不調は、従業員本人の苦痛だけでなく、生産性の低下、離職率の上昇、職場の雰囲気悪化など、企業経営にも大きな影響を及ぼします。一方で、適切なメンタルヘルス対策を実施することで、従業員のエンゲージメント向上、パフォーマンスの改善、優秀な人材の確保といった効果が期待できるでしょう。

また、2015年からは従業員50人以上の事業場でストレスチェック制度が義務化されており、企業には法的な対応も求められています。メンタルヘルスの取り組みは、コンプライアンスの観点からも重要性が高まっているのです。

メンタルヘルス取り組みの4つのケア

職場のメンタルヘルス対策は、「4つのケア」という考え方に基づいて体系的に進めることが効果的です。

厚生労働省が策定した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、セルフケア、ラインケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアの4つを継続的かつ計画的に実施することが推奨されています。それぞれのケアには異なる役割があり、これらを組み合わせることで包括的なメンタルヘルス対策が実現します。

セルフケア

セルフケアとは、従業員自身が自分のストレスに気づき、対処する取り組みです。

具体的には、ストレスやメンタルヘルスに関する正しい知識の習得、自分のストレス状態への気づき、ストレス対処法の実践などが含まれます。企業としては、セルフケアに関する研修や情報提供、相談窓口の周知などを通じて、従業員が自ら健康管理できる環境を整えることが重要でしょう。

ラインケア

ラインケアは、管理監督者が部下の心の健康づくりを支援する取り組みです。

管理職には、部下のいつもと違う様子に気づく、話を聴く、必要に応じて産業保健スタッフや相談窓口につなぐといった役割があります。また、職場環境の改善や業務配分の見直しなど、ストレス要因を減らす取り組みも含まれます。管理職向けのメンタルヘルス研修を定期的に実施し、適切な対応スキルを身につけてもらうことが大切です。

産業保健スタッフによるケア

産業医や保健師などの産業保健スタッフによる専門的なケアです。

具体的には、メンタルヘルス対策の企画立案、従業員への相談対応、職場復帰支援、ストレスチェックの実施と分析などが該当します。産業保健スタッフは、従業員と管理職の橋渡し役として、また専門的な見地から助言を行う役割を担います。外部の産業保健サービスを活用することも効果的でしょう。

事業場外資源の活用

外部の専門機関やサービスを活用したケアです。

EAP(従業員支援プログラム)や外部カウンセリングサービス、メンタルヘルス専門のクリニックなどが該当します。社内では相談しにくい悩みにも対応でき、専門性の高いサポートを提供できるメリットがあります。従業員が気軽に利用できるよう、制度の周知と利用促進が重要です。

メンタルヘルス取り組みの具体的な施策

4つのケアを実践するための具体的な施策を見ていきましょう。

ストレスチェック制度

ストレスチェックは、従業員のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐための制度です。

従業員50人以上の事業場では年1回の実施が義務付けられています。質問票を用いて従業員自身のストレス状態を確認してもらい、高ストレス者には医師による面接指導を実施します。また、集団分析を行うことで、部署ごとのストレス傾向を把握し、職場環境改善につなげることができるでしょう。

実施する際は、従業員のプライバシーに十分配慮し、結果が不利益な取り扱いにつながらないよう注意が必要です。ストレスチェックを形だけのものにせず、結果を活用した具体的な改善策を講じることが効果を高めるポイントとなります。

研修・教育プログラム

メンタルヘルスに関する正しい知識とスキルを身につける研修は、予防の基盤となります。

全従業員向けには、ストレスマネジメントやセルフケアの方法、相談窓口の利用方法などを内容とした研修を実施します。管理職向けには、部下の変化への気づき方、傾聴スキル、ハラスメント防止、適切な業務配分など、ラインケアに必要な知識とスキルを習得する研修が効果的です。

新入社員研修や昇格時研修など、節目のタイミングで実施することで、継続的な意識づけができるでしょう。外部講師を招いたり、eラーニングを活用したりすることで、質の高い教育機会を提供できます。

相談窓口の設置

気軽に相談できる窓口の存在は、早期発見・早期対応の鍵となります。

社内に産業保健スタッフによる相談窓口を設けるほか、外部のEAPや電話・メールでの相談サービスを導入する方法があります。匿名での相談を可能にするなど、利用しやすい仕組みづくりが重要です。相談窓口の存在を定期的に周知し、「困ったときは相談していい」という文化を醸成しましょう。

相談窓口を利用したことが人事評価などに影響しないことを明確にし、安心して利用できる環境を整えることが大切です。

職場環境の改善

ストレス要因となる職場環境そのものを改善する取り組みです。

長時間労働の是正、業務量の適正化、ハラスメント防止対策、コミュニケーション促進などが含まれます。ストレスチェックの集団分析結果を活用し、職場ごとの課題に応じた改善策を実施することが効果的でしょう。

具体的には、定時退社日の設定、業務分担の見直し、1on1ミーティングの導入、休憩スペースの整備などが挙げられます。従業員の意見を聞きながら、継続的に改善を進めることが重要です。

復職支援プログラム

メンタルヘルス不調で休職した従業員が円滑に職場復帰できるよう支援する取り組みです。

主治医や産業医との連携のもと、復職可否の判断、職場復帰支援プランの策定、段階的な業務負荷の調整などを行います。復職後も定期的な面談を実施し、再発防止に努めることが大切でしょう。

復職支援は、本人の回復だけでなく、受け入れる職場の準備や理解も重要です。周囲の従業員への配慮の仕方を伝えるなど、職場全体でサポートする体制を整えましょう。

メンタルヘルス取り組みを成功させるポイント

効果的なメンタルヘルス対策を実現するために押さえておきたいポイントをご紹介します。

経営層のコミットメント

トップのメッセージと姿勢が、組織全体の意識を変えます。

経営層がメンタルヘルスの重要性を認識し、積極的に取り組む姿勢を示すことが、施策の浸透と継続には不可欠です。経営方針や健康宣言にメンタルヘルス対策を明記する、経営層自らが研修に参加するなど、具体的な行動で示しましょう。予算や人員の確保も、経営層の理解があってこそ実現します。

計画的な推進体制

場当たり的な対応ではなく、計画的に進めることが重要です。

メンタルヘルス対策の推進責任者を明確にし、産業保健スタッフ、人事部門、各部署の管理職が連携できる体制を構築します。年間の実施計画を立て、PDCAサイクルを回しながら継続的に改善していきましょう。衛生委員会などで定期的に進捗を確認し、課題があれば速やかに対応することが大切です。

偏見や誤解の解消

メンタルヘルス不調は「気の持ちよう」ではなく、誰にでも起こりうる健康問題です。

しかし、職場にはまだ偏見や誤解が残っており、それが相談や支援を受けることへの障壁となっています。正しい知識の普及を通じて、「心の不調も体の不調と同じように対処すべきもの」という認識を広めることが重要でしょう。

相談することは弱さではなく、早期対応による回復の第一歩であることを伝え、心理的安全性の高い職場づくりを目指します。

プライバシーへの配慮

メンタルヘルス情報は特に慎重な取り扱いが必要です。

ストレスチェックの結果や相談内容は、本人の同意なく人事部門や上司に共有されることがないよう、厳格に管理しなければなりません。情報を取り扱う担当者を限定し、アクセス制限や守秘義務の徹底を図ります。

従業員が安心して制度を利用できるよう、プライバシー保護の仕組みを明確に説明し、信頼を得ることが利用促進につながります。

継続的な見直しと改善

一度施策を導入したら終わりではありません。

従業員アンケートやストレスチェックの結果、面談での声などを分析し、施策の効果を検証します。うまくいっている点は継続し、課題がある部分は改善策を講じましょう。社会環境や働き方の変化に応じて、新たなニーズも生まれます。

リモートワークの増加によるコミュニケーション不足への対応など、時代に合わせた柔軟な見直しが、効果的なメンタルヘルス対策には欠かせません。

まとめ

職場のメンタルヘルス取り組みは、従業員の健康を守り、企業の生産性や競争力を高める重要な投資です。

効果的な対策のためには、セルフケア、ラインケア、産業保健スタッフによるケア、事業場外資源によるケアの4つの観点から、ストレスチェック、研修、相談窓口、職場環境改善、復職支援などの具体的な施策を計画的に実施することが大切です。

経営層のコミットメント、推進体制の整備、偏見の解消、プライバシー保護、継続的な改善といったポイントを押さえながら、自社の状況に合わせた取り組みを進めていきましょう。メンタルヘルス対策は一朝一夕には成果が出ませんが、地道な努力の積み重ねが、従業員も企業も健康な組織づくりにつながります。

まずは現状を把握し、できることから始めてみてはいかがでしょうか。従業員が心身ともに健康に働ける職場環境は、必ず企業の持続的な成長を支える基盤となるはずです。