ハラスメント相談窓口を社内に設置する方法|効果的な運用のポイント

2025年 10月 16日

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ハラスメント防止対策として、企業には相談窓口の設置が義務付けられています。特に社内に相談窓口を設けることで、従業員が気軽に相談でき、問題の早期発見・早期解決につながる効果が期待できるでしょう。

しかし、「どのように窓口を設置すればよいのか」「誰を担当者にすべきか」「実際に相談があったらどう対応するのか」といった疑問を持つ担当者の方も多いのではないでしょうか。

本記事では、社内ハラスメント相談窓口の設置方法から運用のポイント、実際の対応フローまで、実務に役立つ情報を詳しく解説します。機能する相談窓口づくりのヒントとしてお役立てください。

社内ハラスメント相談窓口の必要性

企業にハラスメント相談窓口の設置が求められる背景と重要性を理解しましょう。

2020年6月に施行されたパワーハラスメント防止措置の義務化により、企業は相談窓口の設置や相談に適切に対応するための体制整備が法的に義務付けられました。中小企業も2022年4月からは完全義務化されており、すべての企業が対応する必要があります。

厚生労働省の調査によると、過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した従業員は31.4%に上り、職場のハラスメントは深刻な問題となっています。ハラスメントは被害者の心身の健康を損なうだけでなく、職場の生産性低下、人材流出、企業イメージの悪化など、経営にも大きな影響を及ぼすでしょう。

相談窓口は、ハラスメントの早期発見と迅速な対応を可能にする重要な仕組みです。適切に機能する窓口があることで、問題が深刻化する前に対処でき、従業員が安心して働ける環境づくりにつながります。社内窓口は、従業員との距離が近く、組織の実態を踏まえた対応ができるという利点があります。

社内相談窓口のメリット

社内に相談窓口を設置する際には、その特性を理解しておくことが大切です。

社内窓口の最大のメリットは、相談のハードルが低く、気軽に利用しやすいことです。職場の状況や人間関係を理解している担当者が対応できるため、具体的で実効性のある解決策を提案しやすくなります。また、相談から対応までのスピードが速く、迅速な初動対応が可能です。

社内相談窓口のデメリット

一方で、デメリットとして、相談者が「社内の人に知られたくない」と感じて利用を躊躇する可能性があります。特に相手が上司や経営層の場合、社内窓口では相談しにくいケースもあるでしょう。また、担当者の専門性や対応スキルにばらつきが生じやすく、適切な対応ができない場合は二次被害につながるリスクもあります。

これらのメリット・デメリットを踏まえ、社内窓口と外部窓口を併設し、相談者が選択できる体制を整えることが理想的です。社内窓口を設置する際は、デメリットを最小限に抑える工夫が求められます。

ハラスメント相談窓口の設置方法

社内に効果的な相談窓口を設置するための具体的なステップを見ていきましょう。

相談窓口の担当者の選定

相談窓口の成否は、担当者の選定にかかっていると言っても過言ではありません。

担当者には、人事労務部門のスタッフや産業保健スタッフ、信頼のおける管理職などが適しています。重要なのは、守秘義務を厳守できる人物であること、中立的な立場で公平に対応できること、相談者に寄り添った傾聴ができることです。

複数名を担当者として配置し、相談者が担当者を選べるようにすることが望ましいでしょう。また、男性・女性の両方を配置することで、性別に関わらず相談しやすい環境を整えられます。担当者には定期的な研修を実施し、適切な対応スキルを身につけてもらうことが不可欠です。

相談方法の整備

相談者が利用しやすい複数の相談方法を用意します。

対面での相談、電話、メール、専用フォームなど、さまざまなチャネルを準備することで、相談者の状況や好みに応じて選択できるようにしましょう。特に、匿名での相談を可能にすることで、相談のハードルを下げることができます。

相談受付時間を明確にし、緊急時の連絡方法も整備しておくことが重要です。相談窓口の連絡先や利用方法を記載したカードを配布したり、社内イントラネットに掲載したりして、従業員が必要なときにすぐアクセスできるようにしましょう。

相談対応規程・マニュアルの作成

相談対応の基準となる規程やマニュアルを整備します。

ハラスメント防止規程には、定義、禁止行為、相談窓口の設置、調査・対応の手続き、懲戒処分などを明記します。相談対応マニュアルには、相談受付から解決までの具体的なフロー、記録の方法、守秘義務の徹底、二次被害の防止策などを詳細に記載しましょう。

これらの規程やマニュアルは、担当者によって対応にばらつきが出ないよう、標準化された手順を示すものです。定期的に見直しを行い、法改正や実際の運用で得た知見を反映させることが大切です。

相談窓口設置の周知と啓発

相談窓口を設置しても、従業員に知られていなければ利用されません。

全従業員に対して、相談窓口の存在、利用方法、守秘義務の徹底、相談したことで不利益を受けないことなどを繰り返し周知します。入社時のオリエンテーション、定期的な社内研修、ポスター掲示、イントラネット掲載など、複数の方法で情報提供を行いましょう。

ハラスメント防止研修と合わせて、相談窓口の説明を行うことで、「困ったときは相談していい」という文化を醸成できます。経営層からのメッセージとして、ハラスメントを許さない姿勢と相談窓口の活用を呼びかけることも効果的です。

ハラスメント相談の対応フロー

実際に相談があった際の具体的な対応手順を確認しましょう。

初期対応と傾聴

相談を受けた際の最初の対応が、その後の解決に大きく影響します。

相談者の話を遮らず、じっくりと耳を傾けることが何より重要です。相談者は勇気を出して相談していることを理解し、「話してくれてありがとうございます」と受け止める姿勢を示しましょう。事実確認は必要ですが、この段階で相談者を責めたり、疑ったりするような言動は避けます。

相談内容、日時、場所、関係者、具体的な言動などを丁寧に聞き取り、記録に残します。相談者の希望する対応方法(正式な調査を希望するのか、助言だけを求めているのかなど)も確認しましょう。守秘義務を守ることを改めて伝え、安心感を与えることが大切です。

事実確認と調査

相談者の同意を得た上で、必要に応じて事実関係の調査を行います。

行為者とされる人物や目撃者などへのヒアリングを実施し、客観的な事実を把握します。調査は中立的な立場で行い、先入観を持たずに双方の話を聞くことが重要です。相談者と行為者のプライバシーに十分配慮し、調査の過程で二次被害が生じないよう注意しましょう。

調査結果は記録に残し、事実関係を整理します。ハラスメントに該当するかどうかの判断は、関係者で慎重に協議し、必要に応じて外部の専門家の意見を求めることも検討します。

対応措置の実施

事実確認の結果に基づき、適切な措置を講じます。

ハラスメントが認められた場合は、就業規則に基づいた懲戒処分を検討します。配置転換や業務変更など、被害者と加害者を引き離す措置も重要です。被害者に対しては、メンタルヘルスケアの提供、休職が必要な場合の支援など、フォロー体制を整えましょう。

加害者には、行為の問題性を理解させ、再発防止のための教育を実施します。職場全体に対しても、再発防止策として研修を行ったり、ルールの再確認を行ったりすることが効果的です。

継続的なフォロー

対応措置を実施した後も、継続的なフォローが欠かせません。

被害者の心身の状態を定期的に確認し、必要なサポートを提供します。職場環境が改善されているか、再発の兆候がないかをモニタリングしましょう。一定期間経過後に、当事者双方の状況を確認することも大切です。

相談対応の一連のプロセスを振り返り、改善点があれば対応フローやマニュアルに反映させます。こうした継続的な改善により、相談窓口の質を高めていくことができるでしょう。

社内相談窓口を機能させるポイント

設置した相談窓口を実効性のあるものにするための重要なポイントをご紹介します。

守秘義務の徹底

相談内容が漏れることへの不安は、利用をためらう最大の理由です。

相談内容は担当者以外に漏らさない、記録は厳重に管理する、調査の際も必要最小限の関係者にとどめるなど、守秘義務を徹底する仕組みを整えます。担当者には守秘義務の重要性を十分に理解させ、違反した場合の責任も明確にしておきましょう。

相談者には、どの範囲まで情報を共有するかを事前に説明し、同意を得ることが信頼関係の構築につながります。

公平・中立な対応

相談窓口の信頼性は、公平で中立的な対応にかかっています。

相談者だけでなく、行為者とされる人物の話も先入観なく聞き、双方の立場を尊重した対応を心がけます。特定の人物や部署に偏った判断をせず、事実に基づいた冷静な対応が求められるでしょう。

担当者自身が当事者と深い関係にある場合は、別の担当者が対応するなど、利益相反を避ける配慮も必要です。

二次被害の防止

不適切な対応により、相談者がさらに傷つく二次被害を防ぐことは極めて重要です。

相談者を責めるような発言、プライバシーの侵害、相談したことによる不利益な取り扱いは絶対に避けなければなりません。「そんなことで悩むなんて」「あなたにも問題があったのでは」といった言葉は、相談者を深く傷つけます。

担当者には、ハラスメントに関する正しい知識と、適切なコミュニケーションスキルを身につけてもらうための研修が不可欠です。

継続的な改善

相談窓口の運用状況を定期的に評価し、改善を続けることが大切です。

相談件数、対応期間、解決率などのデータを分析し、課題を把握します。従業員アンケートで、相談窓口の認知度や利用のしやすさを確認することも有効でしょう。担当者同士で対応事例を共有し、ノウハウを蓄積していくことも重要です。

法改正や社会情勢の変化に応じて、規程やマニュアルを見直し、常に最適な体制を維持しましょう。

まとめ

社内ハラスメント相談窓口は、職場のハラスメントを早期に発見し、適切に対応するための重要な仕組みです。

効果的な窓口を設置するには、適切な担当者の選定、複数の相談方法の整備、明確な規程・マニュアルの作成、そして全従業員への周知が必要です。相談を受けた際は、傾聴、事実確認、対応措置、継続的なフォローという一連の流れを丁寧に進めることが求められます。

守秘義務の徹底、公平・中立な対応、二次被害の防止、継続的な改善といったポイントを押さえながら、自社に合った相談窓口を運用していきましょう。外部の専門機関との連携も視野に入れ、複数の選択肢を従業員に提供することで、より相談しやすい環境が整います。

相談窓口は設置するだけでは意味がありません。実際に機能し、従業員に信頼される窓口であることが重要です。ハラスメントのない健全な職場環境づくりに向けて、まずは相談しやすい体制を整えることから始めてみてはいかがでしょうか。