心理的安全性の取り組み事例7選|課題別の実践方法と成功の秘訣
2025年 10月 27日

「心理的安全性を高めたいが、何から始めればいいか分からない」「他社はどんな取り組みをしているのだろう」―このような悩みを抱えている企業は少なくありません。
心理的安全性は、組織の生産性向上や離職率低下に直結する重要な要素です。しかし、概念を理解していても、実際にどう取り組めばいいかイメージしにくいのが現実でしょう。
本記事では、心理的安全性を高めることに成功した企業7社の取り組み事例を紹介します。各社が抱えていた課題と具体的な施策、そして得られた成果を知ることで、あなたの組織でも実践できるヒントが見つかるはずです。
心理的安全性とは
心理的安全性とは、組織やチーム内で自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態のことです。ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、「チーム内で対人リスクを取っても安全だという信念がメンバー間で共有されている状態」と定義されています。
この概念が世界的に注目されたきっかけは、Googleが実施した「プロジェクト・アリストテレス」という調査です。約4年間にわたる研究の結果、効果的なチームに共通する最重要要素として心理的安全性が特定されました。心理的安全性が高いチームは、離職率が低く、多様なアイデアを活用でき、収益性も高いことが明らかになっています。
単に仲が良いだけの組織とは異なり、心理的安全性が高い組織では建設的な議論や率直なフィードバックが活発に行われます。失敗を恐れずに挑戦でき、ミスを報告しても非難されない環境があるため、イノベーションが生まれやすく、問題の早期発見・解決にもつながるのです。
心理的安全性を高める取り組み7選
ここからは、実際の企業で行われた心理的安全性を高めるための取り組みを紹介します。
心理的安全性の取り組み事例①:メルカリ
フリマアプリを運営する株式会社メルカリでは、感謝を伝える仕組みづくりに注力しました。
課題と取り組み内容
急成長する企業であるメルカリは、組織が拡大する中で、社員が互いの貢献を認め合う機会が減少していることに課題を感じていました。チームの一員として必要とされていることを実感できる環境を作るため、同社は独自のピアボーナス制度「メルチップ」を導入しています。
メルチップは、社員同士がリアルタイムで感謝や賞賛を伝え合うと同時に、インセンティブとして一定の金額を贈り合える仕組みです。カジュアルに感謝を表現できるプラットフォームを提供することで、日常的に「ありがとう」を伝える文化を醸成しました。
取り組みの成果
社内アンケートでは、メルチップに対する社員満足度が約87%に達しました。「カジュアルにお礼を言いやすくなった」「他拠点・他部署と交流しやすくなった」といった声が上がり、社員同士の関係性が強化されています。
互いに仕事を見てくれているという安心感が生まれ、心理的安全性の向上につながっているのです。この取り組みは、感謝を可視化することで、組織全体のエンゲージメント向上にも貢献しているでしょう。
心理的安全性の取り組み事例②:サイボウズ
グループウェアを提供するサイボウズ株式会社は、情報共有の仕組みを工夫しました。
課題と取り組み内容
サイボウズは、働く場所や時間がバラバラで、メンバーが顔を合わせる機会が他社に比べて少ないという課題を抱えていました。オンラインコミュニケーションによってメンバー間の距離感を補う必要があったのです。
同社では自社製品のグループウェア「kintone」を活用し、社員が誰でも書き込める情報共有アプリを公開しています。仕事上でふと感じる"もやもや"をチームの誰にでも伝えられるようにし、情報公開範囲は選択制にすることで、伝えたい相手だけに伝えられる仕組みを整えました。
また、社内研修などの機会に「一人ひとりが感じている"もやもや"や"こうありたい"という理想をお互いに知り合いましょう」という形で、共有を促進しています。
取り組みの成果
離職率を28%から4%へと大幅に改善することに成功しました。立場や役職に関わらず意見を言い合える文化が醸成され、心理的安全性の高い組織づくりが実現しています。
オンラインでも心理的安全性を確保できることを証明し、失敗を歓迎する環境づくりにもつながっているのです。
心理的安全性の取り組み事例③:カクイチ
株式会社カクイチは、トップダウン型の組織文化を変革しました。
課題と取り組み内容
創業140年近い歴史を持つカクイチでは、長年トップダウン型の経営スタイルが浸透していました。その結果、社員たちが受け身で委縮しがちになり、新しいアイデアや意見が自発的に出ない点が課題でした。
現場で働く従業員の小さな気づきがコスト削減のヒントになると考えた同社は、「現場から声を上げられる空気づくり」に着手します。リーダーが自身の弱みを見せて意見を求めたり、チームの意思決定プロセスでメンバーを尊重する姿勢を示したりすることで、心理的安全性の向上を図りました。
取り組みの成果
受け身で萎縮しがちだった現場が変わり、自発的に発言したり挑戦したりする社員が増えてきました。これまで目立たなかった社員一人ひとりの貢献度が見えるようになり、部署や世代の垣根を超えた社員同士のつながりも増加しています。
相手から感謝されたり称賛されたりする習慣が生まれたことで、社内の活動が可視化され、今後の課題発見にも役立っているのです。
心理的安全性の取り組み事例④:電通総研
株式会社電通総研は、全社的なアンケート調査から施策を設計しました。
課題と取り組み内容
電通総研では、働き方に関する課題の解決方法として心理的安全性の向上が重要だと考えました。まずはワークスタイル変革チーム主導でアンケート調査を実施し、ユニット(部署)ごとや年代別での課題を分析しています。
アンケート結果から「縦割り・相互理解不足」が各ユニット、各年代で共通の課題だと判明しました。この解消のため、「タグトーーク!」と題したテーマ別リレー投稿を実施。社員同士が持っている共通の趣味をハッシュタグで表現し、そのタグをテーマにリレー形式で自由に投稿する取り組みです。
業務では知りえないプライベートな一面を垣間見ることで話題につながり、コミュニケーションが円滑に取れるようになることを目指しました。
取り組みの成果
OpenWork働きがい研究所が発表した「新卒入社の若手社員がおすすめする企業ランキング」で1位を獲得しました。部署を超えたコミュニケーションが活性化し、心理的安全性の高い職場環境が評価されています。
データに基づいた施策設計により、効果的に組織の課題を解決できたのです。
心理的安全性の取り組み事例⑤:アース製薬
アース製薬株式会社は、企業理念の浸透と心理的安全性を連動させました。
課題と取り組み内容
2020年4月、社長から役員および管理職に送られた1通のメールがきっかけでした。「埋もれがちな社員の貢献を全社に伝えられるような仕組みが欲しい」という内容です。
このメールを受けて動き出したプロジェクトは、社員の貢献を可視化する仕組みづくりに注力しました。同時に企業理念を社内に浸透させることで、社員が同じ目標に向けて歩みを進めていく土台づくりにもつながっています。
トップのメッセージを起点に、組織全体で心理的安全性を高める取り組みを展開したのです。
取り組みの成果
埋もれがちだった社員の貢献が全社で共有されるようになり、心理的安全性が向上しました。企業理念が浸透したことで、社員が共通の目標に向かって進める環境が整っています。
経営層の明確なコミットメントが、組織変革を加速させる要因となったのです。
心理的安全性の取り組み事例⑥:東京ガス
東京ガス株式会社は、メンバー同士の関係強化に取り組みました。
課題と取り組み内容
大規模な組織である東京ガスでは、メンバー同士の関係が脆弱でチームワークが生まれにくいという課題を抱えていました。社員一人ひとりの動きが見えにくく、共通の目標に向かって協力する体制が整っていなかったのです。
この課題を解決するため、チーム内のコミュニケーション機会を意図的に増やし、メンバー同士が互いを理解する場を設けました。定期的な対話の機会を通じて信頼関係を構築し、チームとしての一体感を醸成していきます。
取り組みの成果
メンバー同士の関係性が強化され、チームワークが生まれるようになりました。組織が大きいからこそ、意識的にコミュニケーションの場を設けることの重要性が証明されています。
相互理解が深まったことで、心理的安全性が向上し、協力して業務に取り組む文化が育っているのです。
心理的安全性の取り組み事例⑦:静岡鉄道
静岡鉄道株式会社は、離職率の高さという深刻な課題に向き合いました。
課題と取り組み内容
静岡鉄道では、離職率の高さが大きな課題となっていました。社員が安心して働き続けられる環境を整えるため、心理的安全性の向上に着手します。
新入社員へのサポート体制を強化し、失敗した際のフォローや明確な役割の付与、仕事への悩みをヒアリングするメンター制度などを実施しました。社員が孤立せず、いつでも相談できる環境を整えることで、安心感を提供したのです。
取り組みの成果
心理的安全性の向上により、離職率が改善しました。新入社員が安心して働ける環境が整ったことで、人材の定着率が向上しています。
メンター制度などのサポート体制が、社員のエンゲージメント向上にも寄与しているのです。
取り組み事例から学ぶ成功の秘訣
7社の取り組み事例から、心理的安全性を高めるための共通点が見えてきます。
リーダーの積極的な関わり
心理的安全性を醸成する上で、リーダーの役割は極めて重要です。カクイチの事例では、リーダーが自身の弱みを見せて意見を求めることで、メンバーが発言しやすい環境を作りました。
「無能だと思われないだろうか」となかなか意見を伝えられないメンバーに対し、リーダーが率先して脆弱性を示すことで、組織全体の心理的安全性が大きく向上するのです。チームの意思決定プロセスでメンバーを尊重する姿勢を示すことも、施策成功の鍵となっています。
感謝と承認の仕組み化
メルカリやアース製薬の事例に共通するのは、感謝や承認を日常的に伝える仕組みを整えたことです。ピアボーナス制度や貢献の可視化により、社員同士が互いの価値を認め合える環境が生まれました。
感謝を伝えることが文化として定着すると、社員は自分の存在価値を実感できます。その結果、心理的安全性が高まり、エンゲージメントの向上にもつながっているのです。
コミュニケーションの場づくり
サイボウズや電通総研の事例では、情報共有の仕組みやテーマ別の交流機会を設けることで、コミュニケーションを活性化させました。オンライン・オフラインを問わず、社員が気軽に意見を交換できる場を用意することが重要です。
特にリモートワークが一般化した現代では、意図的にコミュニケーションの機会を創出する必要があります。形式にとらわれず、社員が参加しやすい場を設計することで、心理的安全性は着実に向上していくでしょう。
まとめ
心理的安全性の取り組み事例から、実践的なヒントを得ることができました。
メルカリのピアボーナス制度、サイボウズの情報共有アプリ、カクイチのリーダーシップ変革、電通総研のデータドリブンなアプローチ、アース製薬の経営層のコミットメント、東京ガスの関係強化、静岡鉄道のメンター制度―各社の取り組みは、それぞれの課題に応じた施策を展開している点が特徴です。
共通する成功の秘訣は、リーダーの積極的な関わり、感謝と承認の仕組み化、コミュニケーションの場づくりの3つです。これらの要素をバランス良く取り入れることで、あなたの組織でも心理的安全性を高められるでしょう。
重要なのは、自社の課題を正確に把握し、それに適した施策を選択することです。他社の成功事例を参考にしながら、継続的に改善を重ねていくことで、心理的安全性の高い組織を実現できます。まずは小さな一歩から始めてみましょう。





