心理的安全性の評価方法|7つの質問から測定ツールまで徹底解説

2025年 10月 30日

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「心理的安全性を高めたいが、現状がどの程度なのか分からない」「具体的にどうやって評価すればいいのだろう」―このような悩みを抱えていませんか。

心理的安全性の向上に取り組むには、まず現状を正確に把握することが不可欠です。主観的な印象だけで判断すると、本当の課題を見逃してしまう可能性があります。

本記事では、心理的安全性の評価方法について、エドモンドソン教授の7つの質問から専用の測定ツール、評価結果の活用法まで詳しく解説します。自社の心理的安全性を正しく評価し、改善につなげるための実践的な情報を提供いたします。

心理的安全性とは

心理的安全性とは、組織やチーム内で自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態のことです。ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年に提唱した概念で、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義されています。

具体的には、会議で質問しても馬鹿にされない、ミスを報告しても非難されない、異なる意見を述べても受け入れてもらえる、といった環境です。単に仲が良いということではなく、建設的な議論や率直なフィードバックができる健全な関係性を意味します。

この概念が世界的に注目されたきっかけは、Googleが2012年から約4年間実施した「プロジェクト・アリストテレス」という調査です。180以上のチームを調査し、200以上の要因を分析した結果、効果的なチームに共通する最重要要素として心理的安全性が特定されました。心理的安全性が高いチームは、離職率が低く、多様なアイデアを活用でき、収益性も高いという結果が示されています。

心理的安全性の評価が重要な理由

心理的安全性を評価することの意義を解説します。

課題の可視化

評価を行うことで、組織やチームの具体的な課題が明確になります。「なんとなく雰囲気が悪い」という漠然とした印象ではなく、「ミスを報告しづらい環境がある」「新しいアイデアを出しにくい」といった具体的な問題点が浮き彫りになるのです。

数値化されたデータがあれば、経営層や管理職に対して説得力のある提案ができます。また、部署ごとやチームごとの比較も可能になり、どこに優先的にリソースを投入すべきかの判断材料となるでしょう。

改善効果の測定

定期的に評価を実施することで、施策の効果を客観的に測定できます。研修を実施したり、コミュニケーション施策を導入したりした後、心理的安全性がどの程度向上したかを数値で確認できるのです。

改善が見られない場合は、アプローチを変更する必要があることが分かります。逆に効果が出ている施策は継続・強化することで、さらなる向上が期待できるでしょう。PDCAサイクルを回す上で、評価は欠かせないプロセスなのです。

従業員の意識向上

評価を実施すること自体が、従業員の心理的安全性に対する意識を高める効果があります。アンケートに回答する過程で、自分のチームの状態を振り返り、心理的安全性の重要性を再認識できるのです。

また、組織が心理的安全性を重視していることが従業員に伝わります。評価結果を共有し、改善に向けた取り組みを示すことで、従業員のエンゲージメント向上にもつながるでしょう。

心理的安全性の評価方法①:7つの質問

心理的安全性を評価する最も有名な方法が、エドモンドソン教授が提唱する7つの質問です。

7つの質問の内容

エドモンドソン教授は、チームの心理的安全性を測定するために、以下の7つの質問を提唱しました。

1.チーム内でミスを起こすと、よく批判をされる

2.チームのメンバーは、難しい問題や課題を指摘し合える

3.チーム内のメンバーが、異質なものを受け入れない傾向にある

4.チームに対して、リスクのある行動をとっても安全である

5.チーム内のメンバーに助けを求めづらい

6.チーム内で他者を騙したり、意図的に陥れようとしたりする人がいない

7.チームで業務を進める際、自分のスキルが発揮されていると感じる

これらの質問に対して、メンバーが5段階評価で回答します。「まったく記載のとおり」から「まったく記載のとおりでない」までの段階で、それぞれの項目について評価するのです。

評価方法と解釈

質問1、3、5はスコアが低いほうが良い設問です。つまり、「批判される」「受け入れられない」「助けを求めづらい」という状態が少ないほど、心理的安全性が高いことを示します。

一方、質問2、4、6、7はスコアが高いほうが良い設問です。「課題を指摘し合える」「リスクを取っても安全」「騙す人がいない」「スキルが発揮されている」という状態が強いほど、心理的安全性が高いといえるでしょう。

各質問を集計し、チーム全体の傾向を分析します。ポジティブな回答が多ければ心理的安全性が高く、ネガティブな回答が多ければ低いと判断できるのです。

質問の意図を理解する

質問1

「チーム内でミスを起こすと、よく批判をされる」は、失敗に対する組織の反応を測ります。批判される環境では、メンバーは萎縮してしまい、挑戦する意欲が失われるでしょう。

質問2

「チームのメンバーは、難しい問題や課題を指摘し合える」は、建設的な議論ができるかを確認します。難しい問題は議論してすぐに解決できるものではなく、もやっとした雰囲気になることもあるでしょう。しかし、メンバー同士の信頼関係が構築されていれば、純粋に取り組むべき課題として、問題や懸念点を指摘してチームで向き合えるのです。

質問3

「チーム内のメンバーが、異質なものを受け入れない傾向にある」は、多様性への対応力を測ります。異なる意見や価値観を排除する組織では、イノベーションは生まれにくくなります。

質問4

「チームに対して、リスクのある行動をとっても安全である」は、挑戦する文化があるかを確認します。失敗を恐れずに新しいことに取り組める環境が、成長には不可欠です。

質問5

「チーム内のメンバーに助けを求めづらい」は、相互支援の状態を測ります。助けを求められない環境では、個人が孤立し、問題が深刻化してしまうでしょう。

質問6

「チーム内で他者を騙したり、意図的に陥れようとしたりする人がいない」は、信頼関係の基盤を確認します。疑心暗鬼の状態では、心理的安全性は成立しません。

質問7

「チームで業務を進める際、自分のスキルが発揮されていると感じる」は、貢献実感を測ります。自分の存在価値を感じられることが、安心して働ける環境の重要な要素なのです。

実施時の注意点

7つの質問を用いる際は、匿名性を確保することが極めて重要です。本名を記載すると、本音で回答できないメンバーが出てきますので、匿名で実施したほうがより正しい現状を把握しやすくなります。

また、評価結果を共有する際は、個人を特定できる情報は除外し、チーム全体の傾向として伝えることが大切です。評価の目的は誰かを批判することではなく、組織を改善することだと明確に伝えましょう。

心理的安全性の評価方法②:測定ツール

7つの質問以外にも、専用の測定ツールを活用する方法があります。

SAFETY ZONE

株式会社ZENTechが提供する「SAFETY ZONE」は、日本の心理的安全性の第一人者である石井遼介氏と慶應義塾大学との共同研究によって開発されたサービスです。

SAFETY ZONEは、日本の組織人を1万人以上調査した豊富なデータと知見から、日本の心理的安全性は4つの因子で成り立つことを見出しました。「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」という4つの因子ごとにスコアを算出し、組織やチームの心理的安全性を向上させる次の一手を講じられるのです。

サーベイによって組織の現状を可視化することで、次のアクションを立案・提案しやすくなります。また、人事施策や人事異動の前後診断にも活用可能です。結果は職階別・年代別など多様な切り口で分析することができ、改善施策へつなげやすい点が特徴でしょう。

その他の測定ツール

心理的安全性評価アセスメント by Attunedは、組織の心理的安全性をアセスメントによって定量的に測定できるサービスです。サーベイの設問は合計42問で、スマートフォンからも回答でき、想定する回答時間は10分から15分程度です。回答はすぐに分析・スコア化されるため、リアルタイムで確認できます。

株式会社スタメンが提供する「TERAS」も、心理的安全性を測定・診断するのに有効なサービスです。多角的な分析により、組織内での心理的安全性の状態を可視化し、従業員が安心して意見を述べられる環境が整っているかを評価します。継続的なサーベイを通じて従業員の変化を把握し、心理的安全性の低下によるエンゲージメント低下や離職の兆候を早期に発見できるのです。

米QuestionPro Survey Software社が提供するアンケートシステム「QuestionPro」には、専門家によって開発された心理的安全性のアンケートテンプレートが用意されています。設問には「あなたの友人や同僚に自分の会社をどれくらい勧めるか」「異なることを理由に拒絶されたことがあるか」といった趣旨のものなどがあります。QuestionProではアンケート結果だけでなく、ページビューや平均解答時間などの指標もレポートとしてまとめてくれるため、無料で簡易的に心理的安全性を測るには便利なシステムといえるでしょう。

心理的安全性の評価方法③:観察による評価

アンケート以外でも、チームの状態を観察することで心理的安全性の傾向を確認できます。

心理的安全性が低いサイン

心理的安全性が低いチームでは、以下のような傾向が見られます。

会議中や面談中でメンバーからの質問や発言が少ない状態は、心理的安全性の低さを示すサインです。メンバーは「こんなことを聞いたら無知だと思われるのでは」と不安を抱き、発言を控えているかもしれません。

メンバーのミスや過ちがあった場合、隠したり認めることに抵抗感があったりする様子も要注意です。失敗を報告すると批判されると感じている可能性があります。

チーム内で相互のフィードバックや報告・連絡・相談などのコミュニケーションが少ない場合も、心理的安全性が低い可能性が高いでしょう。情報共有が滞ると、問題の早期発見や解決が困難になります。

チーム内で新しい取り組みや挑戦に消極的で変化を好まれない傾向がある場合、失敗を恐れる文化が根付いているかもしれません。

心理的安全性が高いサイン

逆に、心理的安全性が高い組織には以下のような特徴が見られます。

困難な状況でも前向きに捉え、ポジティブな発言が交わされている場合は、心理的安全性が高いケースが多いでしょう。成功以外の話も話題になり、失敗から学ぶ姿勢があることも重要なサインです。

笑いとユーモアで職場が明るい雰囲気である場合も、メンバーが安心して働けている証拠といえます。チームメンバーの会話や雰囲気などを観察し、上記のサインが見られるか確認すると、心理的安全性の高低を把握できるはずです。

活発な情報共有や意見交換が行われ、誰もが自由に発言できる環境が整っている状態も、心理的安全性の高さを示しています。

評価結果の分析と活用

心理的安全性を評価した後、その結果をどう活用するかが重要です。

データの分析方法

評価結果を部署別、チーム別、職階別、年代別などの切り口で分析すると、組織内のどこに課題があるかが明確になります。全社的に低い項目がある場合は、組織文化に根ざした課題として捉える必要があるでしょう。

特定の部署やチームだけでスコアが低い場合は、そのチームのリーダーシップやコミュニケーションスタイルに原因がある可能性があります。職階別で差がある場合は、階層間のコミュニケーションに課題があるかもしれません。

4つの因子(話しやすさ、助け合い、挑戦、新奇歓迎)で評価している場合は、どの因子が特に低いかを確認しましょう。因子ごとに適切な改善策が異なるため、優先順位をつけて取り組むことが効果的です。

結果のフィードバック

評価結果は、必ず従業員にフィードバックすることが重要です。評価を実施しただけで何もアクションがなければ、従業員の信頼を失ってしまいます。

フィードバックの際は、全体的な傾向を共有し、組織としてどのような改善策を講じるかを明確に伝えましょう。個人を特定できる情報は除外し、チーム全体の課題として捉える姿勢を示すことが大切です。

改善に向けた具体的なアクションプランを提示することで、従業員は組織が本気で心理的安全性向上に取り組んでいることを実感できます。

継続的な測定

心理的安全性の評価は、一度実施して終わりではありません。定期的に測定を繰り返すことで、施策の効果を検証し、継続的な改善につなげられます。

半年から1年に一度のペースで評価を実施し、変化を追跡することが推奨されます。スコアの変化を確認することで、どの施策が効果的だったか、どの部分がまだ改善が必要かが明確になるのです。

評価を継続することで、組織全体に心理的安全性を重視する文化が根付いていきます。PDCAサイクルを回し続けることが、持続的な向上の鍵となるでしょう。

評価を実施する際の注意点

心理的安全性の評価を効果的に行うために、いくつかの注意点があります。

匿名性の確保

評価の匿名性を徹底的に確保することが最も重要です。本名や部署が特定される形でアンケートを実施すると、従業員は本音を答えられず、正確な現状把握ができません。

匿名性が保証されていることを明確に伝え、個人が特定されることはないと従業員に安心してもらうことが必要です。結果の公表時も、個人や小さなグループが特定できないよう配慮しましょう。

評価の目的を明確に伝える

評価を実施する前に、その目的を従業員に明確に伝えることが大切です。「誰かを評価するため」ではなく、「組織をより良くするため」という目的を共有しましょう。

評価結果を基に改善策を講じること、従業員の声を真摯に受け止めることを約束することで、協力を得やすくなります。評価への参加率が高まれば、より正確なデータが得られるのです。

結果を改善につなげる

評価を実施しただけで満足せず、必ず具体的な改善アクションにつなげることが重要です。評価しっぱなしでは、従業員の期待を裏切ることになり、次回以降の評価への協力も得られなくなってしまいます。

評価結果を基に、リーダー研修を実施する、1on1ミーティングを導入する、コミュニケーション施策を強化するなど、具体的なアクションを起こしましょう。小さなことからでも良いので、確実に実行することが信頼構築につながります。

まとめ

心理的安全性の評価方法としては、エドモンドソン教授の7つの質問が最も有名で、広く活用されています。「ミスをすると批判される」「課題を指摘し合える」といった7つの項目に5段階で回答してもらい、チームの心理的安全性を測定するのです。

専用の測定ツールとしては、SAFETY ZONEやAttuned、TERAS、QuestionProなどがあります。4つの因子(話しやすさ、助け合い、挑戦、新奇歓迎)で評価するSAFETY ZONEは、日本の組織に特化した分析が可能です。

アンケート以外にも、チームの会議での発言状況や、ミスへの対応、コミュニケーションの活発さなどを観察することで、心理的安全性の傾向を把握できます。

評価結果は部署別・職階別などで分析し、従業員にフィードバックすることが重要です。定期的に測定を繰り返し、PDCAサイクルを回すことで、継続的な改善につなげられるでしょう。

評価を実施する際は、匿名性の確保、目的の明確化、結果を改善につなげることを忘れずに実践してください。正しい評価があってこそ、効果的な心理的安全性向上の取り組みが可能になります。