人気な福利厚生は?従業員に本当に求められるトレンドと事例
2025年 9月 5日

今や福利厚生は、人材を惹きつけ、定着させ、生産性を向上させるための不可欠な「戦略的投資」です。
本レポートでは、単に人気の福利厚生を列挙するだけでなく、その背景にある戦略的な意図と効果を分析します。
最新の調査データと具体的な事例から、福利厚生が企業価値を高めるための具体的な指針を提示し、持続的な成長への道筋を提示しましょう。
福利厚生で人気を誇る三大カテゴリー
複数の調査結果を統合すると、従業員が最も重視する福利厚生には明確な傾向が明らかになります。
1位は「住宅に関するサポート」で、家賃補助や住宅手当、持ち家支援、社宅制度など、生活費の中でも大きな割合を占める費用を補助する制度が圧倒的な人気です。
2位は有給休暇とは別に付与されるリフレッシュ休暇や記念日休暇、ボランティア休暇といった「休暇制度の充実」が続きます。
3位には、社員食堂や食事手当、置き型社食サービスといった「食事関連の補助」がランクインしています。
これらのデータが示すように、生活に直結する「経済的な支援」と、ワーク・ライフ・バランスを向上させる「時間的なゆとり」へのニーズが特に高いことがわかります。
特に「住宅に関するサポート」は、複数の調査で圧倒的な1位となっており、生活コストの大部分を占める費用を補助する制度が、従業員の経済的な安定に直接的に寄与していることが伺えるでしょう。家賃補助の相場は従業員一人あたり月額17,000円前後とされており、企業の規模が大きくなるほど支給額も増える傾向にあります。
また、若手・中堅層の転職活動において、住宅支援の有無が企業選びの重要な決め手となることも明らかになっています。
【男女・世代別】人気の福利厚生
全体のランキングに加え、性別や世代によってもニーズが異なります。画一的な福利厚生では、全ての従業員の満足度を向上させることは困難であるでしょう。
男性に人気の福利厚生
世帯主となるケースが多い男性は、住宅手当や家族手当といった経済的支援に対する関心が特に高いです。これは、家族を支えるという役割を果たす上で、生活基盤の安定を強く求めているためと考えられます。
女性に人気の福利厚生
女性は、育児との両立や女性特有の健康課題に対応する制度を重視する傾向があります。特別休暇や慶弔支援制度に加え、人間ドックや婦人科検診の補助、メンタルヘルスケアといったヘルスケアサポートが上位にランクインしているのは興味深い点です。女性が働きやすい環境は、育児休業制度の拡充や在宅勤務制度、特別休暇制度(エフ休、妊活休暇など)によって作られることが示唆されています。
世代間の福利厚生へのニーズ
若手・中堅層は「現在の生活を支える経済的支援」(住宅補助、食事補助)と「ワーク・ライフ・バランス」(特別休暇)を重視する一方、ベテラン層は「将来の安心を確保する制度」(退職金制度)をより強く求める傾向が見られます。
これらのデータは、従業員のライフステージや役割に応じた柔軟な制度設計の必要性を示唆しています。
ユニークな福利厚生:企業の個性を表現する事例
従業員の多様な価値観に応え、エンゲージメントを高めるために、ユニークな福利厚生を導入する企業も増えています。
休暇制度
美容業界のチカラコーポレーションでは、失恋の傷を癒やすための「失恋休暇」や、トラストリング株式会社では、飲みすぎた翌日に取得できる「二日酔い休暇」を設けています。また、クルーズ株式会社は、勤続7年の社員に5日間の特別休暇と15万円の旅行代金をプレゼントする「ルーラ制度」を導入しています。
健康・美容
ぺブルコーポレーション株式会社は、週1回、プロの施術者による「カイロプラクティックとネイルケア」を、就業時間中に自己負担3,000円で受けられる制度を導入しています。株式会社サイブリッジは、非喫煙者に月5,000円を支給する「健康維持促進手当」を設けています。
食事関連
ラーメン通販サイトを運営するグルメエックス株式会社には、食べたラーメンの写真を社内共有すると月額最大3,000円が支給される「おソトメン」というユニークな食事補助があります。株式会社ミライユでは、オフィス内のお菓子やアイスが食べ放題になる制度を導入し、従業員間のコミュニケーション活性化にも役立てています。
その他
ITシステム開発のファーレイ株式会社は、猫を飼っている社員に「猫手当」を支給し、猫同伴出勤も認めています。また、面白法人カヤックでは、給与の一部をサイコロの出目で決める「サイコロ給」という制度があり、遊び心を反映した企業風土が特徴です。
これらの制度は、企業の個性やカルチャーを色濃く反映しており、従業員エンゲージメントや企業への帰属意識を高める上で非常に効果的です。また、採用活動において他社との差別化を図る大きなアドバンテージともなるでしょう。
福利厚生導入成功へのロードマップ
福利厚生を戦略的に活用するためには、制度の「導入」だけでなく、その後の「運用」が極めて重要となります。多くの企業が直面する課題の一つに、福利厚生の利用率の低さがあります。総務担当者が利用を推奨する制度と、従業員の実際の利用率には大きなギャップが存在することがデータで示されています。
企業側の推奨と従業員の利用率のギャップ
総務担当者が利用を推奨する福利厚生と従業員の実際の利用率には大きなギャップがあります。総務の推奨度が最も高いのは「両立支援(育児・介護)」ですが、利用率は30.7%にとどまっています。同様に推奨度が高い「リスキリング・キャリア開発」や「ウェルビーイング・健康経営」は、実際の利用率がそれぞれ13.9%、8.7%と大きく差が開く結果となりました。このギャップは、企業が提供する福利厚生の「意図」が、従業員の「実感」と乖離していることを示唆していると考えられます。
ギャップを埋める3つの戦略
この乖離を解消し、福利厚生の投資対効果を最大化するためには、以下の3つの戦略が不可欠です。
従業員アンケートによるニーズの可視化
福利厚生の満足度やニーズを把握する最も有効な手段は、従業員アンケートです。従業員の声を直接聞くことで、本当に求められている制度を特定できるだけでなく、アンケート自体が周知活動となり、従業員に「自分たちの意見が反映されている」という信頼感を与えるでしょう。
分かりやすい周知と手続きの簡素化
どんなに優れた制度でも、その存在が知られていなければ利用率は上がりません。ポスター、社内報、アプリなどを活用した継続的な情報発信が重要です。また、利用手続きが複雑であることも利用率を低下させる大きな要因であるため、電子申請の導入や、会員証の提示だけで利用できる仕組みにするなど、使い勝手の改善が利用率向上に直結するでしょう。
目的と効果の明確なコミュニケーション
福利厚生を導入した経営的な意図や、その制度が個々の従業員の生活やキャリアにどう貢献するかを丁寧に伝えることが重要です。
まとめ
現代社会における福利厚生は、単なるコストセンターではなく、企業の競争力を高めるための重要な戦略的投資です。従業員の多様なニーズに応えることは、人材の確保、定着、生産性の向上に直接的に繋がり、最終的には企業のブランドイメージと企業価値そのものを向上させるでしょう。
今後、労働者のライフスタイルや価値観がますます多様化する中で、一律の福利厚生は限界に達するでしょう。従業員一人ひとりのニーズに応じた、パーソナライズされた福利厚生(例:カフェテリアプラン)が、今後の主流となることが予測されます。
本レポートで提示した分析に基づき、福利厚生を未来への投資として捉え、以下の3つの原則を実践することが、企業と従業員が共に持続的な成長を遂げるための鍵となることを提言します。