福利厚生にスポーツジムを導入するには?比較ポイントや福利厚生費計上の要件
2025年 9月 11日

に福利厚生としての「スポーツジム導入」は、従業員の心身の健康を支えるだけでなく、採用競争力の向上や離職防止につながります。健康経営・女性活躍推進といった社会的要請にも応える施策として、スポーツジムの導入を検討する企業が増えています。
本記事では、スポーツジム福利厚生の戦略的価値から、導入方法の選択肢、税務・法務上の注意点、成功事例に至るまでを総合的に解説します。単なる福利厚生を超えて、企業の持続的成長を支える投資としての可能性を探っていきましょう。
スポーツジムを福利厚生に導入する意義
企業福利厚生の変革期
現代の労働市場において、福利厚生は単なる付加的な待遇ではなく、企業が従業員の生活や幸福にどれだけ配慮しているかを示す重要な指標として捉えられています。特に、優秀な人材の獲得競争が激化する中で、企業は給与以外の部分で魅力を打ち出す必要に迫られています。2022年の調査によると、多くの求職者が企業選択の際に「安定性」「社風」に次いで「福利厚生の充実」を重視しており、その割合は27.8%に上ります 。
また、人事・総務担当者の約9割が、福利厚生が組織運営に好影響を与えると実感しており、その半数以上が「もっと充実させていくべき」だと考えていることが明らかになっています 。この意識の高まりは、企業が従業員のエンゲージメント向上や人材定着のために、福利厚生を戦略的な経営課題として捉え始めていることを示唆しています 。
一方で、住宅手当のような費用負担が大きい福利厚生は、特に中小企業にとって導入が困難な場合があります 。このような状況下で、健康増進や自己啓発といった分野の福利厚生が注目を集めています。スポーツジムの利用補助は、こうした新しい時代のニーズに応える、費用対効果の高い福利厚生の一つとして位置づけられます。
企業パフォーマンスとフィットネスの相関
スポーツジムの福利厚生は、単に従業員へのサービス提供に留まらず、企業全体のパフォーマンス向上に直結する戦略的な投資となり得ます。
従業員の健康増進と生産性向上
定期的な運動は、心身の健康維持・増進に不可欠です。厚生労働省の調査によれば、日常的に運動する人は、心臓病、肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病の発症率が低いと報告されています 。また、運動はストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑制し、エンドルフィンを分泌させることで、メンタルヘルスの改善にも大きく貢献します 。
このような健康改善は、企業にとって直接的な経済的メリットをもたらします。従業員の健康状態が改善すれば、病気による欠勤(アブセンティーズム)や、体調不良で出社してもパフォーマンスが十分に発揮できない状態(プレゼンティーズム)が減少し、結果として組織全体の生産性が向上します 。あるメタ分析では、職場の運動プログラム実施後に出勤率が向上したというデータも示されています 。これは、スポーツジムの福利厚生が単なる健康サポートを超え、業務効率化や企業業績に好循環を生み出す投資であることを意味します。
優秀な人材の確保と定着
福利厚生の充実は、採用活動において他の企業との差別化を図る強力なツールとなります。健康志向の高まりを背景に、フィットネスジムの利用補助は求職者にとって魅力的なアピールポイントとなります 。
特に、若年層や健康意識の高い人材は、給与だけでなく、働きやすさや自己成長を支援する企業文化を重視する傾向があります。国民の約58.5%が月に1回以上運動を行っているというデータもあり、フィットネス関連の福利厚生は、特定の層に限定されない広範な訴求力を持つことがわかります 。
また、このような取り組みは従業員の企業への信頼感と忠誠心を高め、エンゲージメントと定着率の向上に繋がります 。従業員が企業に大切にされていると感じることで、仕事へのモチベーションが高まり、長期的なキャリア形成を考えるようになります。これにより、人材の流出を防ぎ、採用・教育にかかるコストを削減するという、持続可能な経営基盤を構築することができます 。
健康経営・女性活躍推進への直接的な寄与
スポーツジムの福利厚生は、現代の企業が目指すべき重要な経営方針である「健康経営」と「女性活躍推進」に具体的に貢献します。
健康経営の実践と認定
経済産業省が推進する「健康経営優良法人」の認定は、企業の社会的信用を高め、人材確保にも有利に働きます 。フィットネスジムとの法人契約は、従業員の健康維持・増進に向けた具体的な取り組みとして高く評価される活動です 。実際に、従業員に歩数計を配布して運動促進プログラムを導入した企業が、健康経営銘柄に4年連続で認定された事例も存在します 。この福利厚生は、企業の健康へのコミットメントを明確に示し、外部からの評価向上に寄与します。
女性活躍推進の具体策
女性活躍推進は、多様な働き方を支援することから始まります。福利厚生サービスは、スポーツジム割引に加え、育児・介護補助など多様なニーズに対応できるメニューを包括的に提供しています 。フィットネスの選択肢も、従来の筋力トレーニングに加えて、ヨガやピラティス、オンラインフィットネスなど多岐にわたります。これにより、育児や介護と仕事を両立する従業員も含め、幅広いライフスタイルに対応したワーク・ライフ・バランスの実現を支援し、女性従業員の定着と活躍を促す環境を整えることができます 。
福利厚生としてスポーツジムを導入する方法
自社のニーズの明確化
スポーツジムの福利厚生を導入するにあたって、最も重要なのは「誰に」「どのような」サービスを提供したいかを明確にすることです。従業員の年齢構成、健康状態、勤務地、ライフスタイル、そして企業の予算を総合的に考慮する必要があるでしょう 。この初期分析が、後の制度の利用率とコスト効率を大きく左右します。
スポーツジムの導入方法の比較検討
スポーツジムの福利厚生には、企業の規模や目的に応じて複数の導入方法が存在します。それぞれの特徴を理解することで、自社に最適な選択肢を見つけることができるでしょう。
- 外部ジム法人契約: 特定のジムと法人契約を結び、従業員が割引価格などで利用できる制度です 。メリットとしては、設備が充実しており幅広い運動に対応できる点です。一方、導入時の比較検討に時間がかかり 、立地が限定的である点がデメリットです。この方法は中小企業から大企業まで適しており、費用目安は月額5,000円から15,000円です 。
- 福利厚生サービス: 外部の専門サービスを通じて多様な福利厚生メニューを提供する方法です 。圧倒的なサービス数と、導入・運用管理の負担が低い点が大きなメリットです 。しかし、ジム利用が他のサービスに埋もれてしまう可能性があるというデメリットも存在します 。この方法はすべての規模の企業に対応し、費用目安は月額500円から2,000円で導入できるでしょう 。
- 社内ジムの設置: 自社内に専用のフィットネス施設を設ける方法です。従業員の利便性が非常に高く、独自の企業文化を醸成できるメリットがあります。一方で、高額な初期投資と維持費 、そして運用に時間と労力がかかる というデメリットがあります。初期投資は500万円以上かかることがあり、資金力に余裕のある大手企業に向いている方法と言えます 。
- オンラインフィットネス: 従業員が自宅などでオンラインのフィットネスプログラムを利用する方法です 。場所を選ばず利用でき、低コストで導入できる点がメリットです 。デメリットとしては、リアルな交流が限定的であることや、マシンなどの機器を利用できないことが挙げられます。この方法はすべての規模の企業に適しており、費用目安は月額1,000円から3,000円です 。
スポーツジム選定のポイント
従業員に実際に利用してもらい、導入効果を最大化するためには、ジムの選定が極めて重要です。以下の点を総合的に評価することが推奨されます。
- 立地とアクセス: オフィスや従業員の居住地から通いやすい場所に店舗があるか、全国展開しているかを確認しましょう 。
- 料金プラン: 従業員数や想定される利用頻度に応じて、月額固定型、従量課金型、チケット制など、最適な料金体系を選択します 。
- サポート体制: 初心者向けのガイダンスや、トレーナーによる個別相談、企業向けの利用状況レポート提供の有無を確認することが大切です 。特に、自己流のトレーニングで効果が出ないとモチベーションが維持しにくいという課題を解決するために、丁寧な指導は不可欠です 。
- 施設・設備の充実度: 従業員の多様な運動ニーズに応えられるよう、プール、スタジオプログラム、サウナ、24時間営業などの設備やサービス内容を比較することも重要です 。
福利厚生費の計上要件や注意点
福利厚生費の基本原則
スポーツジムの利用料を福利厚生費として計上し、節税効果を得るためには、税務署から認められるための厳格な条件を満たす必要があります 。この費用が福利厚生費として認められず、従業員への「給与」や「交際費」と見なされると、所得税の課税対象となったり、法人税の損金算入が認められなかったりするリスクがあります 。税務上のルールは、食事補助や社宅に関する非課税要件と共通する部分が多く、従業員への利益が過大でないこと、特定の人物に限定されていないことなどが求められます 。
経費計上のための4つの要件
スポーツジムの利用料を福利厚生費として計上するための主要な要件は、以下の4つです。これらの要件をすべて満たすことで、税務上のリスクを回避し、制度を適正に運用できるでしょう。
要件1: 従業員全員への平等な機会提供
福利厚生費として認められる大前提は、正社員、契約社員、パート・アルバイトなど、すべての従業員が差別なく利用できる制度であることです 。特定の役員や特定の部署・職種のみを対象とする場合は、給与扱いとなり経費として認められません 。
要件2: 社会通念上の妥当性
利用料が常識的な範囲内の金額であることも重要です 。高額すぎる入会金や月額料金は、福利厚生の目的から逸脱していると見なされる可能性があります 。
要件3: 法人名義での契約と支払い
企業が主体的に福利厚生制度を提供していることを明確にするため、必ず法人名義でジムと契約し、法人口座から費用を支払う必要があります 。従業員が個人で契約し、後から企業が補助金を現金で支払う方法は、給与として課税される可能性があるため注意が必要です 。
要件4: 利用記録の作成と保管
制度が実際に従業員に利用されていることを証明するため、誰がいつ利用したかの記録を残すことが重要です 。利用者が極端に少ない場合や記録がない場合、制度が特定の個人にしか提供されていないと判断され、経費として認められないケースがあります 。
運用上の落とし穴と専門家への相談
税務上の要件を満たす上で特に注意すべきケースがいくつか存在します。一人社長や家族経営の法人では、福利厚生を提供する側と受ける側が実質的に同一であるため、原則として経費として認められません 。これは、福利厚生の概念が「全従業員のための制度」であるという前提に基づいているためです。
また、利用規約の作成や就業規則への明記は、制度が正式な福利厚生であることを証明し、税務調査時に有効な証拠となります 。これらの要件の解釈や、個別の事情に応じた判断は複雑なため、最終的には税理士や税務署に事前に相談することが、リスクを回避するための最も確実な方法です 。
スポーツジム導入成功事例と効果
企業規模別導入事例
スポーツジムの福利厚生は、企業規模や業態に応じて多様な形で導入され、成功を収めています。
- 大手企業の事例: 関東ITソフトウェア健康保険組合は、コナミスポーツクラブの運動プログラムを導入し、生活習慣病予防に取り組んでいます 。また、三菱総合研究所はオンラインフィットネスを導入し、在宅勤務が主体の従業員の健康維持をサポートしています 。
- 24時間ジムの活用: GMOインターネットグループは、従業員のライフスタイルに合わせた福利厚生として、24時間営業の「chocoZAP」を導入しました 。これにより、「会社の近くにあり、5分くらいの運動なら続けられた」「筋トレをするきっかけになった」といった、これまで運動習慣がなかった層の行動変容を促す効果が出ています 。
- 社内ジムの設置: 福島県の企業では、社員のための福利厚生施設として社内ジムを設置し、多様なマシンを揃えることで従業員の健康促進を図っています 。
成功の秘訣と従業員のリアルな声
これらの事例から、成功の鍵は「従業員が継続的に利用したくなる仕組み」を構築することにあると分かります。
- 習慣化の支援: 「ルネサンス」の事例では、ウェアラブルデバイスを活用して自分の健康状態を可視化することで、運動継続の動機付けになったと報告されています 。また、「トレーナーが運動メニューを作ってくれたので迷わずに始められた」という声もあり、初心者向けの丁寧なサポートが利用促進に繋がることが示されています 。
- コミュニティの形成: 部署や役職の垣根を超えた社内サークル活動や、部署対抗の運動キャンペーンは、従業員間のコミュニケーションを活性化させ、運動をより楽しいものにします 。これにより、職場の雰囲気が改善され、チームワークの向上にも寄与します 。
こうした事例は、スポーツジムの福利厚生が、単に利用券を配布するだけでなく、企業の健康文化を醸成する上で極めて有効なツールであることを物語っています。
スポーツジム福利厚生の未来展望
社会トレンドとの連動
近年、企業経営におけるキーワードとして「ウェルビーイング経営」や「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」が注目を集めています。従業員の心身の健康や多様性を尊重することが、単なる人材支援にとどまらず、企業価値や競争力を高める要素として重視されているのです。
その流れの中で、スポーツジム福利厚生は「従業員の健康維持」だけでなく、「企業文化の象徴」としての役割を担い始めています。たとえば、運動習慣を推進することがチームの活力やコミュニケーションの円滑化につながり、ひいては企業全体のブランドイメージを高めることも可能です。今後は福利厚生が「企業の魅力そのもの」を示す指標として扱われ、スポーツジムの導入は採用力や定着率の強化に直結する重要施策となるでしょう。
テクノロジーによる進化
さらに、スポーツジム福利厚生はテクノロジーの進化によって大きな変革期を迎えています。AIやウェアラブルデバイスの普及により、従業員一人ひとりの健康データを収集・解析し、パーソナライズされた健康支援を行うことが可能になりつつあります。これにより、従来の「全員に同じサービスを提供する福利厚生」から「個人のライフスタイルに合わせた最適な支援」へとシフトしていくでしょう。
具体的には、オンラインフィットネスの活用や、アプリと連動した運動プログラム、さらには健康データに基づく食事・睡眠アドバイスなどが一般化すると考えられます。企業にとっては、従業員の健康状態を可視化し、長期的な健康リスクを予防できる点も大きなメリットです。テクノロジーを組み合わせたジム福利厚生は、単なるオプションではなく、将来的には「健康経営を実現する基盤」として不可欠な存在となっていくでしょう。
まとめ
福利厚生としてのスポーツジム導入は、従業員の健康増進にとどまらず、生産性向上・人材定着・採用競争力強化につながる「戦略的投資」です。健康経営や女性活躍推進といった社会的要請にも応えることができ、企業価値を高める大きな要素となります。
ただし、導入にあたっては税務・法務上の要件や、従業員の利用ニーズとの整合性を十分に検討する必要があります。自社の状況に合った導入方法を選び、運用ルールを明確化することで、投資対効果を最大化できます。
スポーツジム福利厚生は「守りの施策」ではなく、企業の持続可能な成長を支える攻めの戦略です。これからの時代、従業員の心身の健康を支える取り組みは、単なる福利厚生を超えて企業の競争力を左右する鍵となるでしょう。