生理休暇とは?おかしい?取りすぎ?女性のための法律で定められた制度
2025年 8月 16日

生理休暇生理休暇とは、労働基準法で定められた法定休暇です。
一方で、実態としては「取りづらい」との声も多く聞かれます。
この記事では、生理休暇制度の概要や運用の工夫、他社事例をもとに、社員が安心して活用できる環境づくりのヒントを紹介します。
生理休暇とは何か?
生理休暇とは、働く女性が月経中の体調不良や不快な症状を理由に休暇を取得することを認める制度です。これは企業が独自に定める福利厚生ではなく、労働基準法によって定められた法定休暇であり、従業員から請求があった場合には、企業は必ず認めなければなりません。
しかし、現実には多くの女性がこの制度を知らなかったり、取得をためらったりしているのが実情です。令和2年度(2020年度)において、生理休暇を請求した女性は0.9%、生理休暇を取得した従業員がいた事業所(女性労働者のいない事業所を除く)は3.3%という厚生労働省の調査結果が、この制度の利用率の低さを物語っています。
多くの企業にとって、生理休暇の制度理解は女性活躍推進や健康経営を実現するための重要な第一歩といえます。法的な義務を正しく理解し、実効性のある制度運用を行うことが、従業員満足度の向上や離職率の改善につながります。
▼参考:厚生労働省 働く女性と生理休暇について
生理休暇は労働基準法の規定がある

生理休暇は労働基準法第68条に明確に規定された法定休暇です。「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者をその生理日に就業させてはならない」と定められており、企業には従業員の請求に応じる法的義務があります。
法定休暇とは、法律で定められている休暇のことを指し、生理休暇以外に、有給休暇や育児休暇、産前産後休暇などが該当します。社員から法定休暇の請求があった場合には、企業は原則として取得を拒否できません。
▼参考:厚生労働省 働く女性と生理休暇について
生理休暇の対象者と取得条件
生理休暇の対象者は、「生理日の就業が著しく困難な女性」に限定されています。ここでポイントとなるのは「著しく困難」という条件です。
労働基準法では、単に生理期間中であることだけでは取得条件を満たされないうえ、「就業が著しく困難な状態」の具体的な定義については、厳密な基準を設けることは困難とされています。
しかし、多くの女性が経験する生理に伴う症状は深刻な業務への影響をもたらします。『普段を10点とすると生理中に約半分まで仕事のパフォーマンスが低下する』と回答している女性が半数近くいて、それは日本医療政策機構の『働く女性の健康増進に関する調査2018』に記されています。
企業としては、従業員の自己申告を基本とし、過度に取得条件を厳しくしないことが重要です。むしろ、取得しやすい環境づくりに注力することで、女性従業員の健康維持と生産性向上の両立を図ることができます。
▼参考:日本医療政策機構 『働く女性の健康増進に関する調査2018』
有給・無給の違いと判断基準

労働基準法には、生理休暇の賃金支払いについて明確な規定がありません。これは年次有給休暇とは大きく異なる点です。年次有給休暇は、同法39条4項において期間所定の賃金等を支払うべきことが定められているのに対し、生理休暇についてはそのような規定が置かれていないため、企業が独自に判断することになります。
実際の企業の対応を見ると、厚生労働省の令和2年度雇用均等基本調査によると、生理休暇中の賃金を「有給」とする事業所の割合は29.0%で、そのうち65.6%が「全期間100%支給」という結果が出ています。
有給・無給の判断基準として、多くの企業では以下のような観点から検討しています。
有給とする場合のメリット
- 従業員の経済的負担軽減
- 取得促進による女性活躍推進
- 企業の健康経営イメージ向上
無給とする場合の考慮点
- 法的義務は休暇取得の保障のみ
- 他の休暇制度とのバランス
- 経営負担の軽減
企業の経営方針や他の福利厚生制度とのバランスを考慮しながら、自社に適した制度設計を行うことが重要です。
▼参考:厚生労働省 令和2年度雇用機会均等調査
取得日数制限と取得方法
労働基準法に基づく生理休暇については、具体的な取得日数の上限は設定されていません。つまり、必要に応じて必要なだけ取得することが可能であり、企業側が日数を制限することは認められません。
生理日のつらさは人によって異なるため、会社側は取得者に対して、「生理休暇が取得できるのは月に○日までとする」というように、生理休暇の日数に上限を設けることができないのです。
ただし、給与支払いについては別の扱いが可能です。給与の支払いの有無における上限を設けることは違法ではないため、労働者からの虚偽の申告による休暇取得を防ぐ意味でも、会社側が「月に○日までは有給、それを超えた場合は無給」と定めることは可能とされています。
取得方法の一般的な流れ
- 従業員からの申請(事前申請または事後報告)
- 上司または人事部門での受理
- 就業規則に基づく処理(有給・無給の適用)
その他、生理休暇を取得したことで、その日を欠勤扱いとすることをはじめ、昇給・賞与査定時の対象から外すことや、皆勤手当がある場合に不支給(あるいは減額)とすること等は禁止されています。
生理休暇はおかしい?取りすぎ?実態とは
生理休暇について「おかしい」「取りすぎではないか」といった声が聞かれることがありますが、これらの意見は制度の実態を正確に把握していない可能性があります。
人事労務担当者として重要なのは、感情的な議論ではなく、データに基づいた現状把握と適切な制度運用です。生理休暇をめぐる誤解や偏見を解消し、法的義務を果たしながら職場環境を改善することが求められています。
生理休暇の取得状況
厚生労働省の令和2年度雇用均等基本調査によると、生理休暇の取得状況は実際にはわずか0.9%という極めて低い水準にあります。これは「取りすぎ」という批判が実態とかけ離れていることを示しています。
<取得率の推移>

▼出典:厚生労働省「雇用均等基本調査」
- 令和2年度:女性労働者の請求率0.9%
- 平成27年度:女性労働者の請求率0.9%
この数字から分かるように、生理休暇の取得率は長期にわたって1%を下回る状況が続いています。労働政策研究・研修機構の調査でも、生理休暇を取得していない女性の割合が8割を超えていることが明らかになっており、制度の活用が進んでいない実態が浮き彫りになっています。
また、業務への影響を心配する声もありますが、取得率の低さを考慮すると、実際の業務への影響は限定的であることが推測されます。むしろ、体調不良を我慢して働くことによる生産性の低下の方が深刻な問題といえます。
▼参考:厚生労働省 働く女性と生理休暇について
生理休暇が形骸化する理由
生理休暇の取得率が極めて低い背景には、制度が形骸化する構造的な問題があります。
主な形骸化の理由
1. 心理的ハードルの高さ 「上司が男性で相談しづらい」「周りの女性は休んでないのに、自分だけ生理休暇を利用するのは気がひける」といった理由で、女性自身が取得をためらってしまうケースが多く見られます。
2. 職場の理解不足 認知度が低いことや、男性の多い職場では申し出しにくいといった問題が取得率の低さにつながっています。制度があることを知らない従業員や、制度の意義を理解していない管理職の存在も問題となっています。
3. 制度設計の不備
- 申請手続きが複雑
- 取得理由の詳細な説明を求められる
- 無給であることによる経済的負担
4. 職場文化の問題 「体調不良でも頑張るべき」という価値観や、「特別扱い」と捉えられることへの懸念が、制度活用を阻害しています。
これらの要因が複合的に作用することで、法的に保障された権利でありながら、実質的に利用しにくい状況が生まれています。企業としては、制度の存在だけでなく、利用しやすい環境づくりが重要な課題といえるでしょう。
生理休暇に対する男性の声
生理休暇に対する男性の理解度は、女性が活躍する職場環境に大きな影響を与える要素です。
男性から聞かれる主な声と対応
「不公平ではないか」という声 男性からは「男性にはない制度で不公平」という意見が出ることがあります。しかし、これは生理という生物学的特性に基づく必要な配慮であり、法的にも認められた権利であることを説明する必要があります。
「仮病ではないか」という疑念 目に見えない症状のため、制度の悪用を懸念する声もあります。ただし、実際の取得率が0.9%という極めて低い水準であることを考慮すると、むしろ必要な人が利用できていない状況の改善が優先されるべきでしょう。
女性従業員が安心して生理休暇を取得するためには、社内周知を行ったり、生理休暇によるメリットを伝えたりして、社内の理解を深めることが大切です。
男性の理解促進は、単に生理休暇の問題だけでなく、職場全体のダイバーシティ&インクルージョンの推進につながる重要な取り組みといえるでしょう。管理職研修での啓発や、健康経営の観点からの説明などを通じて、組織全体の意識改革を進めることが求められています。
▼参考:厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト
生理休暇のメリットや効果

生理休暇制度の導入は、単に法的な義務を果たすだけではありません。実際には企業の持続的成長と競争力向上に直結する、戦略的な人事施策として機能するのです。
ここでは、生理休暇制度導入による具体的なメリットと効果について詳しく見ていきます。
女性社員の働きやすさ向上
生理休暇制度の最も直接的な効果は、女性社員が安心して働ける環境の実現です。生理にまつわるトラブルは、過多月経、PMS(月経前症候群)、PMDD(月経前不快気分障害)など多岐にわたり、頻度も高いことから、仕事への影響を感じる女性は少なくありません。
生理による身体的・精神的な不調は個人差が大きく、重い症状を抱える女性にとって通常通りの業務遂行が困難な場合があります。制度が整備されていることで、体調に合わせて柔軟に休養を取ることができ、無理をして症状を悪化させるリスクを避けられます。
さらに重要なのは、制度の存在による心理的安心感です。「必要な時に休める選択肢がある」という認識は、日常的なストレスを軽減し、より集中して業務に取り組める環境を作り出します。これは結果として、女性社員のパフォーマンス向上にもつながるのです。
離職防止・定着率向上
生理による体調不良への理解や配慮が不十分な職場では、女性社員の離職リスクが高まります。特に、症状が重い月経困難症やPMSを抱える女性にとって、理解ある職場環境は就業継続の決定的な要因となるでしょう。
経済産業省の『健康経営の推進について』によると、全国平均の離職率が11.4%ですが、健康経営銘柄を取得している会社の離職率は3.3%となっており、従業員の健康に配慮する企業ほど人材定着率が高いことがわかります。
生理休暇制度の適切な運用は、優秀な女性人材の流出を防ぎ、長期的な人材育成投資を無駄にしません。採用から育成にかかるコストを考えれば、制度整備による定着率向上の経済効果は十分に見込まれるはずです。
▼参考:経済産業省 健康経営の推進について
健康経営・人的資本経営への貢献
生理休暇の適切な運用は、健康経営と人的資本経営の両面で効果をもたらします。女性従業員が体調不良を我慢せずに適切に休暇を取得することで、心身の健康維持と組織全体の生産性向上が期待できます。
特に重要なのは、プレゼンティーイズム(体調不良での出勤による生産性低下)の解消です。生理痛やPMS(月経前症候群)による不調を抱えたまま勤務すると、集中力低下やミスの増加により業務効率が悪化する場合があります。適切な休暇取得により、回復した状態で高いパフォーマンスを発揮できるでしょう。
また、職場全体のヘルスリテラシー向上にもつながります。これは経済産業省が推進する「健康経営における女性の健康の取り組み」とも合致し、健康経営銘柄の認定要件にも含まれる重要な要素です。人的資本経営の観点では、女性人材の能力を最大限活用するための基盤整備として位置づけられます。
▼参考:経済産業省 健康経営における女性の健康の取り組みについて
女性活躍推進の基盤になる
生理休暇の制度整備と運用改善は、女性活躍推進の重要な基盤となります。女性活躍推進に不可欠な「女性が長く働きやすい職場環境作り」において、生理休暇は中核的な制度の一つです。
実際の企業事例では、生理休暇を含む女性活躍推進制度のパッケージ化により、女性従業員の定着率向上や管理職登用促進などの成果が見られています。制度の名称変更や取得方法の改善により、利用しやすさを向上させる企業も増えています。
また、PMSでも休暇取得できるよう条件を拡大し、全社周知を図ることで取得率向上を実現した企業もあります。これらの取り組みは、女性活躍推進法に基づく行動計画にも盛り込まれ、ESG経営やダイバーシティ推進の観点からも注目されています。
▼参考:厚生労働省 働く女性と生理休暇企業取り組み事例
生理休暇を取りやすくする工夫
企業が真に女性の働きやすい職場環境を実現するためには、生理休暇の制度設計から運用方法まで、総合的な取り組みが必要でしょう。以下、具体的な工夫と改善策を見ていきます。
就業規則への明記する
生理休暇の制度化において最も重要なのは、就業規則への明確な記載です。労働基準法で定められた法定休暇であっても、企業独自のルールとして詳細を定める必要があります。
就業規則中の「休暇等」の規定に「生理休暇」の条文を設け、「生理日の就業が著しく困難な女性労働者から請求があった時は、必要な期間休暇を与える」といった一文を記載するとよいです。さらに取得対象者、申請方法、給与の取り扱い、取得日数の制限などを具体的に記載することで、曖昧な表現による取得をためらう要因を排除できます。
また、制度の趣旨や企業の姿勢も併記することで、従業員が安心して制度を利用できる環境を整えることができます。不正取得を防止する観点からも、企業側の対策として、生理休暇の不正取得に対する懲戒の規定をあらかじめ盛り込んでおくことも重要です。
特別休暇として有給扱いにする
生理休暇を有給化することは、取得促進の効果的な施策です。労働基準法では無給での提供が原則ですが、企業の判断で有給化することが可能です。
有給化により、経済的な不安なく休暇を取得できるため、利用率の向上が期待できます。また、女性従業員の福利厚生充実として、人材採用や定着率向上にもつながるでしょう。
一部企業では、通常の年次有給休暇とは別に、女性の健康支援を目的とした特別有給休暇として位置づける事例も見られます。このような制度設計により、年次有給休暇の取得を阻害することなく、生理休暇を利用しやすくなります。
取得方法・申請方法を見直す
生理休暇は必ずしも1日単位で取得させなければならないわけではなく、半日単位や時間単位など、柔軟に休暇を取得できるようにすることで、従業員の働き方に関する満足度を高めることができます。
申請方法についても配慮が必要です。上司に口頭で直接申請することに抵抗を感じる女性は多いため、社内システム上で「体調不良」などの選択式申請を可能にする工夫が有効でしょう。匿名性を保ちながら、必要な休暇を取得できる仕組みづくりが重要です。
また、生理は突発的に起こり得る生理現象であるため、当日に口頭での請求も可能とされていることから、事前申請だけでなく、当日の急な体調変化にも対応できる柔軟な申請体制を整備することで、より実用的な制度となります。
生理休暇を名称変更する
制度の名称変更は、心理的ハードルを下げる効果的な方法です。IT大手のサイバーエージェントが2014年に「エフ休」と改称し、さらに休暇取得の対象となる症状を生理に限らず、更年期での不調なども含めたところ、「取得日数が2倍になった」という成果があります。
この動きは近年、他企業にも広がり、大和証券グループやサッポロビール、製薬会社のMSDなどが実施。名称は「エル休暇」「M休暇」「エクイティ休暇」などさまざまです。また、PHONE APPLIでは「YOU休」として、「あなたのための休み」という意味と、「YOU休」が有給休暇の「有給」と同じ読み方のため、言葉や声に出しやすいという理由で命名されています。
女性社員が申請する休暇については、休暇の種類を問わずすべて「エフ休」(エフ=Femaleの頭文字)という名称とし、休暇の利用目的が周りに分からないようにする工夫により、制度利用への抵抗感を大幅に軽減できます。
▼参考:東京都産業労働局 働く女性のウェルネス向上委員会
女性の健康課題の理解や生理痛体験の研修
職場全体の理解促進には、研修の実施が効果的です。生理痛体験研修を実施した企業では、男性従業員が実際に痛みを体験することで、女性従業員への配慮や理解を深めるという効果が報告されています。
生理痛体験研修では、筋電気刺激(EMS)を用いることで、生理時に生じる腹部の痛みを段階的に体験できるVR装置を使用し、男性管理職が実際に痛みを体験することで理解を深めます。
研修内容には、生理の基本知識、PMSや更年期などの女性特有の健康課題、適切なコミュニケーション方法などを含めましょう。産業医を招いた啓発活動を定期的に行い、社内周知を徹底することで対応している企業もあります。研修受講をきっかけとした全社的な取り組みで生理に対する理解を促し、生理=タブーという雰囲気を払拭することが、制度の実効性向上につながります。
▼参考:東京都産業労働局 働く女性のウェルネス向上委員会
まとめ
生理休暇は女性労働者の権利でありながら、取得率は低いままです。
しかし、企業が積極的に取得しやすい環境を整えることで、健康経営や女性活躍推進の効果が高まります。重要なのは、企業が法的制度を提供するだけでなく、就業規則の明記、有給化、申請方法の改善など多角的なアプローチを取ることです。
これにより、女性従業員の健康や働きやすさが向上し、組織の生産性や人材定着率、企業ブランドにも良い影響を与えます。
また、Wellflowは、女性の健康課題に対する理解を深める研修プログラムを提供しており、生理や更年期、不妊治療など、女性特有の課題についての意識改革やダイバーシティ研修をカスタマイズ可能です。
さらに、VRや筋電気刺激装置を使った生理痛体験研修も行い、男性従業員や管理職に対する理解促進を図っています。研修を通じて、相互理解と思いやりのある職場環境の構築をサポートし、真の意味での女性活躍推進と健康経営の実現を目指します。
詳しいサービス内容や導入事例については、お気軽にお問い合わせください。