ラインケアの具体例と実践方法|メンタルヘルス対策をしよう

2025年 7月 15日

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ラインケアとは、管理監督者(上司)による従業員への相談対応や、職場環境改善のことで、厚生労働省が推奨するメンタルヘルスケア指針のなかの「4つのケア」の一つです。

この記事では、ラインケアの目的やセルフケアの違いなど基本的な内容に加え、ラインケアの実践内容を解説します。

「最近、社員のメンタル不調で休職者が増えている」「ストレスチェックの結果で職場のリスクが見えてきた」そんな悩みを抱えている企業の人事担当者や管理職の方は、ぜひ参考にしてみてください。

ラインケアとは何か

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ラインケアとは、部長や課長などの職責にある管理監督者(=ライン)が主体となり、従業員の健康管理に取り組むメンタルヘルス対策です。

具体的には、管理職が部下の心の健康状態を把握し、必要に応じて相談に乗ったり、職場環境の改善を図ったりすることを指します。

ラインケアの目的

ラインケアの一番の目的は、メンタルヘルス不調の早期発見です。

管理職は日常的に部下と接しているため、体調の変化や行動パターンの変化に気づきやすい立場にあります。「最近、遅刻が増えた」「表情が暗くなった」「仕事のパフォーマンスが下がった」といった変化を察知し、早めに対応することで、深刻化を防ぐことができるでしょう。

次に、職場環境の改善も重要な目的の一つです。

管理職は部下の業務量や人間関係を把握し、ストレス要因を取り除く役割があります。職場環境の改善がメンタル不調の予防につながります。

さらに、部下の職場復帰支援も重要な役割です。

メンタルヘルス不調で休職した従業員が職場に戻る際、管理職のサポートが復帰の成功を左右します。段階的な業務復帰や継続的なフォローアップを通じて、再発防止に努めることが求められるでしょう。

セルフケアとの違い

メンタルヘルス対策では、セルフケアという言葉もよく耳にします。

セルフケアは、労働者自身によるケアです。全ての労働者が教育研修・情報提供などを通じて、ストレスやメンタルヘルスについて理解を深め、ストレスに気づき、対処できるようにするものです。

一方、ラインケアは管理職が主体となって行う対策です。両者の主な違いは以下の通りです。

<主体の違い>

  • セルフケア:労働者本人が主体
  • ラインケア:管理監督者(管理職)が主体

<対象の違い>

  • セルフケア:自分自身のメンタルヘルス
  • ラインケア:部下のメンタルヘルス

<アプローチの違い>

  • セルフケア:自分のストレス状態を認識し、自ら対処方法を実践
  • ラインケア:部下の状況を観察し、必要に応じて支援や環境改善を行う

企業におけるラインケアの位置づけ

厚生労働省は2006年に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を定め、職場におけるメンタルヘルス対策として「4つのケア」の実施を推進しています。これは、①セルフケア、②ラインによるケア、③産業保健スタッフによるケア、④外部資源によるケアの4分類で、継続的かつ計画的な実施が求められています。

中でも「ラインケア」は、管理職が現場と経営層をつなぐ役割を担う重要な要素です。部下の変化に気づき、早期対応できる立場にあるため、メンタル不調の予防や職場環境の改善に大きく寄与します。

健康経営優良法人の認定基準にも含まれており、ラインケアの実施は評価対象となっています。また、結婚・出産・育児など、女性従業員が抱えるライフイベントへの対応や、ジェンダーギャップへの配慮にも重要です。

さらに、2022年施行のパワハラ防止法により、企業には一層の職場改善が求められています。ラインケアは、ハラスメントの防止・早期発見にも有効であり、企業の持続的成長と人材の定着を支える戦略的な取り組みと言えるでしょう。

▼参考:厚生労働省 「こころの耳」

▼参考:厚生労働省 「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

ラインケアが注目される背景

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近年、企業におけるラインケアの重要性が高まっている背景には、メンタルヘルス不調者の増加や働き方の多様化、さらには健康経営への注目など、複数の社会的要因が影響しています。

メンタル不調者の増加と長期化

厚生労働省の労働安全衛生調査によると、メンタルヘルス不調により1カ月以上の連続休業者がいた事業所の割合は10.4%。約10社に1社が、深刻なメンタル不調を抱える社員を抱えている状況です

また、強い職場ストレスによる精神障害で労災認定された件数は、前年より173件増加し883件に上りました。メンタル不調の深刻化・長期化が進んでいる実態がうかがえます。

特に新入社員や若手社員は、環境変化への適応に不安を感じやすく、放置すれば離職リスクにもつながります。管理職による適切なラインケアが、こうした不調の早期発見・予防に欠かせません。

▼参考:厚生労働省 労働安全調査

▼参考:厚生労働省 過労死等の労災補償状況

健康経営・働き方改革の広がり

「健康経営優良法人2024」では、大規模法人2,988社、中小規模法人16,733社が認定され、健康経営に取り組む企業は年々増加しています。2016年度と比べて約13倍に拡大しており、健康経営が企業戦略として重視されていることがわかります。

認定要件にはメンタルヘルス対策が含まれ、とくにラインケアは重要な評価項目のひとつです。

さらに、働き方改革の進展により、長時間労働の是正やテレワークの普及など、多様な働き方が広がっています。管理職は、勤務形態の異なる部下の状況を正確に把握し、柔軟にサポートする姿勢がこれまで以上に求められています。

▼参考:経済産業省 「健康経営優良法人2024」

多様な人材が共に働く時代

現代の職場では、年齢・性別・国籍・価値観・働き方などが多様化し、一人ひとりの特性に応じたマネジメントが求められています

例えば女性従業員は、妊娠・出産・育児といったライフイベントに加え、職場での男女格差などによるストレスを抱えやすい傾向があります。管理職がこうした背景を理解し、適切なサポートを行うことで、女性が安心して働ける環境づくりが可能になります。

また、外国人労働者の増加により、言語や文化の違いによるストレスや孤立感への配慮も必要です。異文化理解や丁寧なコミュニケーションを意識することが、職場全体の安心感につながります。

さらに、精神障がいのある従業員の雇用が進む中で、継続的な配慮やサポートを行うことも管理職の重要な役割です。ラインケアを通じて、多様な人材が長く安心して働ける職場を整えていくことが求められています

ハラスメント・職場風土への対応

2022年4月に全面施行されたパワーハラスメント防止法により、企業にはハラスメント対策が義務づけられ、管理職の役割は一層重要になりました

ハラスメントは職場全体のメンタルヘルスに悪影響を及ぼします。管理職が日頃からラインケアを実施し、異変に気づける体制を整えることで、早期発見と迅速な対応が可能になります。

また、テレワークの普及で職場のコミュニケーションが希薄になりがちな今、管理職が積極的に関わり、信頼関係を築くことが求められています。部下が安心して相談できる環境は、心理的安全性を高め、メンタルヘルス不調の予防にもつながります。

▼参考:厚生労働省 パワーハラスメント対策

組織の生産性・エンゲージメント向上

メンタルヘルス不調は個人の問題にとどまらず、休職・離職による業務停滞や引き継ぎコストの発生など、組織全体の生産性に深刻な影響を与えます。

一方、適切なラインケアにより、従業員のエンゲージメントが向上します。管理職が部下の状況を把握し、的確にサポートすることで、職場への信頼や仕事への意欲が高まります。

また、メンタル不調による離職を防ぐことで、人材の定着率が改善され、採用・育成コストの削減にもつながります。

さらに、ラインケアを通じて管理職の観察力や対話力といったマネジメントスキルが磨かれ、日常の業務遂行にも好影響を与えるでしょう。

ラインケアの実践内容

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ここでは、管理職が安心して取り組めるよう、ラインケアの具体的な実践内容を段階的に解説していきます。

日常的なコミュニケーションの強化

ラインケアの基本は、日常のコミュニケーションにあります。特別なスキルがなくても、普段の接し方を少し工夫するだけで、部下のメンタル不調に気づきやすくなります。

まずは「おはようございます」「お疲れ様です」といった挨拶を丁寧に交わすことが大切です。声のトーンや表情、反応に普段と違いがあれば、不調のサインかもしれません。

また、雑談を通じて部下の価値観や生活状況を知ることも効果的です。

「最近どう?」といった一言から、ストレスの芽を見つけることができます。日頃から小さな成果に声をかけたり、困っていそうな様子に「何か手伝おうか?」と反応することで、相談しやすい雰囲気が生まれます。

何より重要なのは「聞く姿勢」。話し相手に集中し、目を見てしっかり耳を傾けることで、信頼関係が深まり、早期の気づきにつながります。

定期的な面談や1on1の活用

1on1が形だけになっていたり、部下が相談しづらい雰囲気がある場合、職場に心理的安全性が欠けている可能性があります。その改善には、1on1の“質”の向上が鍵となります。

適切な頻度と時間の確保

月1回、30分〜1時間を目安に定期的に実施しましょう。忙しい時期でも15分程度は確保し、部下の変化に継続的に気づける体制を整えることが大切です。

安心できる環境づくり

話が他人に聞かれない個室や、カフェスペースなどリラックスできる場所を選びましょう。部下が安心して話せる雰囲気づくりが重要です。

話題は業務以外にも広げる

進捗だけでなく、キャリアの悩みや体調、家庭の状況なども話題に含めましょう。「最近どう?」といった自然な問いかけから本音を引き出す工夫が効果的です。

“聞く姿勢”を忘れずに

話の腰を折らずに最後まで聞き、「それは大変だったね」といった共感の言葉を返すことで、信頼関係が築かれます。上司のリアクション一つで、部下の発言の質も変わります。

部下の変化に早く気づく

部下の変化に気づくためには、普段の状態をしっかりと把握しておくことが必要でしょう。

<行動面での変化>

  • 遅刻や欠勤が増える
  • 仕事の能率が下がる
  • ミスが増える
  • 報告・連絡・相談が減る
  • 会議での発言が少なくなる

<身体面での変化>

  • 表情が暗い、険しい
  • 服装が乱れている
  • 体重の急激な変化
  • 疲れた様子が続く
  • 身体の不調を訴える

<感情面での変化>

  • イライラしやすくなる
  • 落ち込んでいる様子
  • 感情の起伏が激しい
  • 意欲や関心の低下
  • 不安そうな表情

これらの変化は、一時的なものである場合もあります。しかし、複数の変化が同時に現れたり、2週間以上続いたりする場合は、メンタルヘルス不調の可能性を疑う必要があるでしょう。

変化に気づいた時は、記録を残すことも大切です。いつ、どのような変化があったかをメモしておくことで、専門家に相談する際の重要な情報となります

不調のサインに気づいた時の対応

部下に不調の兆しが見られた場合、早期の対応が重要です。ただし、管理職が医師のような判断をするのではなく、慎重で配慮ある対応を心がけましょう。

優しく声をかける

個別に面談の時間を取り、「最近お疲れのようですが、何か気になることはありますか?」など、思いやりのある声かけを。責めるような口調は避け、心配していることを伝えましょう。

しっかり“聞く”姿勢を持つ

話し出したら遮らず、最後まで聞きます。「それは大変でしたね」などの共感を示し、解決を急がず、まずは気持ちに寄り添うことが大切です。

業務上の一時的な配慮を

業務量の調整や残業削減、期限の延長など、負担を軽くする措置を検討します。ただし根本解決には、専門家(産業医や保健スタッフ)の支援が不可欠です。

記録を残す

面談内容や気づいた変化は記録しておきましょう。後に専門家に相談する際の判断材料になります。

必要に応じて社内外の支援につなげる

管理職だけでは対応が困難な場合、適切な支援機関につなげることが重要です。早期の段階で専門家の支援を受けることで、深刻化を防ぐことができるでしょう。

<社内の支援機関>

  • 産業医:医学的な観点からのアドバイス
  • 産業保健スタッフ:保健師や看護師による健康相談
  • 人事部:制度面でのサポート
  • EAP(従業員支援プログラム):専門カウンセラーによる相談

<社外の支援機関>

  • 精神科医・心療内科医:専門的な診断と治療
  • 臨床心理士・公認心理師:心理カウンセリング
  • 労働局:労働問題に関する相談
  • 地域の保健所:メンタルヘルス相談

支援機関につなげる際は、部下の同意を得ることが重要です。「一人で抱え込まず、専門家に相談してみませんか?」といった提案をし、部下の意向を尊重しましょう。

ハラスメントにならない配慮

近年はコンプライアンス意識の高まりを背景に、ハラスメントリスクへの懸念が強まっており、ラインケアを実施する際にも十分な配慮が求められます。

まず、部下の個人情報やメンタルヘルスに関する情報は、他の職員に漏らすことなく、必要最小限の関係者間で慎重に取り扱う必要があります。また、受診や休職を無理に勧めるなど、強制的な対応は避け、あくまで選択肢として提案し、本人の意思を尊重する姿勢が重要です。

さらに、プライベートな領域に過度に踏み込むことは避け、業務上必要な範囲での関わりにとどめることが基本です。面談の記録についても、主観的な推測を排除し、事実に基づいた内容を適切に管理し、不要になった際は速やかに破棄することが望まれます。

状況によっては、人事や産業保健スタッフの同席を検討することで、対応の公平性を担保し、不要な誤解やリスクの回避にもつながるでしょう。

管理職自身が健康を保つ

ラインケアを効果的に行うためには、管理職自身の心身の健康が欠かせません。自身のメンタルヘルスを良好に保つことが、部下への適切なサポートや判断力の維持につながります。管理職は多くの責任を抱えやすく、ストレスを感じやすい立場にあるため、定期的に自分の状態を見直し、必要に応じて休息を取ることが大切です。

また、上司や同僚、産業医など、悩みを共有できる相手を確保しておくことで、問題を一人で抱え込まずにすみます。仕事とプライベートの境界を意識し、休日は意図的に仕事から離れる時間をつくることも重要です。

ラインケア導入の進め方

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ここでは、ラインケア導入を成功させるための6つのステップを詳しく解説します。それぞれのステップで「何を、誰が、どのように進めるか」を明確にし、貴社の状況に合わせて活用してください。

ステップ① 経営層・管理職の理解を得る

ラインケア導入の第一歩は、経営層と管理職の理解と協力を得ることです。厚生労働省の「令和4年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス対策に取り組む事業所は全体の63.8%にとどまり、依然として4割近くの企業が十分な対応を行っていません。

経営層には、休職や離職による生産性低下や採用・育成コストなど、具体的な損失を提示することで、ラインケアの重要性を伝えましょう。これは単なるコストではなく、リスク対策としての投資です

管理職には、ラインケアは新しい負担ではなく、日常のマネジメントの延長であることを説明します。部下とのコミュニケーションや体調管理は、本来の役割の一部です。

あわせて、「法令上の義務であること」「健康経営優良法人の認定要件であること」「早期対応が深刻化を防ぐこと」「職場の生産性向上につながること」を伝えると、納得感が高まります。

ステップ② 管理職への教育・研修を実施

管理職の理解が得られたら、次は実践的な知識とスキルの習得が必要です。教育・研修は、基礎から応用まで段階的に行うことで、現場での実践につながります。

まずは、メンタルヘルスの基礎知識(うつ病や不安障害の理解)、ストレスサインの見極め方、傾聴スキルや声かけの方法、職場環境の改善ポイント、専門機関との連携などを学びます。

次に、ロールプレイやケーススタディを通じて、面談対応や職場復帰支援の進め方、ハラスメントとの関係性といった実践的な内容を習得します。

研修は一度で終わらせず、年2回程度の集合研修や、eラーニングを活用した継続的な学習機会を設けることが大切です。継続することで、現場での対応力が確実に高まります。

ステップ③ 現場に活用できるツールを用意

理論的な知識だけでは、現場での実践は困難です。管理職が日常業務の中で活用できる具体的なツールを用意することで、ラインケアの実効性が高まります。

<チェックリスト>

  • 部下の変化を見逃さないための観察ポイント一覧
  • 面談時の確認項目チェックリスト
  • メンタル不調が疑われる際の初期対応マニュアル

<面談ツール>

  • 1on1ミーティングの進め方マニュアル
  • 面談記録用テンプレート
  • 適切な質問例・避けるべきNG質問集

<情報共有ツール>

  • 人事・産業保健スタッフとの連携フローチャート
  • 社外の相談窓口・支援機関リスト
  • 医療機関紹介の流れと留意点

<職場環境改善ツール>

  • 職場ストレス要因チェックシート
  • 職場改善計画の作成テンプレート
  • 部署内コミュニケーション活性化ガイド

これらのツールは、管理職が迷わず、安心して対応できるよう、できるだけ具体的で実用的なものにしましょう。

ステップ④ 社内制度や体制を整備

ラインケアを機能させるには、社内制度と支援体制の整備が欠かせません。

管理職が一人で抱え込まずにすむよう、組織全体で支える仕組みを構築することが重要です。

まず、相談・支援体制としては、産業医や保健師、カウンセラーなどの産業保健スタッフを配置し、外部EAP(従業員支援プログラム)を活用することで、専門的なサポートを受けられる環境を整えます。人事部門内にメンタルヘルス専用の相談窓口を設置することも効果的です。

次に、情報共有・連携体制では、管理職から人事、産業保健スタッフへとスムーズにつなぐ連携フローを整備します。定期的にケース検討会議を実施し、対応の質を高めるとともに、個人情報の取り扱いルールを明確にしておくことも欠かせません。

職場復帰支援制度としては、段階的な復職プログラムや、復帰前面談、復帰後のフォローアップ体制を用意し、円滑な職場復帰をサポートします。

さらに、評価・インセンティブ制度の整備も有効です。管理職の対応力を人事評価に反映させたり、優れた対応事例を表彰する仕組みを導入することで、ラインケアへの積極的な関与を促すことができます。

制度設計の際は、法令遵守を前提としながらも、現場の実情や課題に応じて柔軟に対応できる運用を心がけましょう。

ステップ⑤ 現場での実践とフィードバック

制度とツールが整ったら、いよいよ現場での実践フェーズへと移ります。

この段階では、管理職が実際にラインケアを行いながら、経験を積み、スキルを磨いていくことが重要です。

【日常的な観察と声かけ】

部下の小さな変化に気づくためには、日常的な観察が欠かせません。「おはよう」「最近どう?」といった自然な声かけを重ねることで、相手の変化を捉えやすくなります。ただし、過度な詮索や干渉にならないよう、配慮を忘れずに。

【適切なタイミングでの面談】

気になる兆候が見られた際には、できるだけ早い段階で個別面談を行いましょう。また、定期的な1on1ミーティングを通じて、体調やメンタル面の変化を確認することも有効です。面談時には、安心して話せる環境(個室や静かな場所など)を整えることが基本です。

【専門機関との連携】

管理職だけで抱え込まず、必要に応じて人事部門や産業保健スタッフへ相談しましょう。医療機関の受診が必要と判断される場合は、無理強いではなく、あくまで提案として勧めます。職場内での業務調整や配慮も重要です。

【フィードバックの収集と改善】

ラインケアの質を高めるには、管理職からの実践報告や課題の共有が役立ちます。また、部下からの匿名フィードバックや、産業保健スタッフによる定期的な評価を通じて、取り組みの改善につなげていきましょう。

実践初期は、管理職が不安や戸惑いを感じやすいため、人事や産業保健スタッフが積極的に伴走し、相談しやすい体制を整えることが成功のカギとなります。

ステップ⑥ 評価と改善を繰り返す

ラインケアの導入は、一度実施すれば終わりというものではありません。効果的に機能させるためには、継続的な評価と改善のサイクルが欠かせません。導入後は、具体的な指標に基づいて定期的に取り組み状況を振り返り、必要に応じて制度や手法の見直しを行っていきます。

評価の際には、休職者数の推移や復職率、ストレスチェック結果などの定量的なデータだけでなく、管理職や部下の意識変化、職場の雰囲気といった定性的な視点も重視します。管理職がラインケアに自信を持てているか、部下が安心して相談できる環境が整っているかなど、現場の実感に即した観点で把握することが重要です。

改善にあたっては、年に2回程度の頻度で評価を実施し、課題の洗い出しと原因分析を行います。そのうえで、具体的な改善計画を立て、研修内容や運用ルール、支援ツールなどを必要に応じてアップデートしていきます。

改善策はトップダウンで決めるのではなく、現場の声を反映させながら柔軟に設計することが、実効性を高めるポイントです。

ラインケアのよくある課題と解決策

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ラインケアの導入を進めても、実際の運用段階では様々な課題が発生することがあります。多くの企業が直面する共通の課題と、それに対する実践的な解決策をご紹介します。

現場での定着が難しい

ラインケアが現場で定着しない背景には、「実践方法が不明確」「業務が多忙」「組織的支援の不足」などが挙げられます。対策としては、小さな行動から始めて習慣化を促す、実務に使えるツールを提供する、人事や産業保健との連携体制を整えるといった工夫が有効です。また、ラインケアを特別扱いせず、既存業務に自然に組み込むことが継続の鍵となります。

管理職の負担・不安が増えてしまう

「部下のメンタルヘルスまで対応するのは荷が重い」と感じる管理職は少なくありません。背景には、知識不足や「全てを自分で解決しなければ」という誤解、責任の重圧、そして自身の余裕のなさがあります。

そのためにはまず、ラインケアの役割は「気づき・つなぐ・環境整備」であり、治療や判断は専門家に任せるべきであると明確に伝えることが重要です。

また、観察や傾聴、連携などのスキルは一度にすべて身につけようとせず、段階的に学べる仕組みが求められます。加えて、失敗を恐れず取り組める心理的安全性や、管理職自身へのサポート体制の整備も欠かせません。

理論だけでなく、ロールプレイや実例を取り入れた研修と継続的なフォローアップにより、安心して実践に移せる環境づくりが鍵となります。

社員の声をどう活かしたらいいか分からない

「ストレスチェックの結果はあるが改善策が見えない」「社員の声を聞いても組織的対応につながらない」といった課題は多くの企業に共通しています。背景には、情報の分析・活用方法が不明確であったり、個人と組織の課題を区別できていないことが挙げられます。

有効な対策としては、ストレスチェックやアンケート、離職面談などから体系的に情報を収集し、緊急性や影響度に応じて優先順位をつけて対応することが基本です。PDCAサイクルを回しながら、職場環境改善委員会や改善提案制度を活用して社員参加型の取組みにし、必要に応じて外部専門家と連携しましょう。

完璧を目指すのではなく、現場に合った小さな改善を積み重ねることが成功の鍵です。

ラインケア導入で得られる効果

最後に、ラインケア導入によって実現できる3つの主要な効果について、改めて確認しておきましょう。

メンタル不調の予防と早期対応

ラインケアを適切に行うことで、メンタル不調の早期発見と対応が可能になり、職場全体にさまざまな好影響をもたらします。特に、本人が不調に気づきにくい場合でも、管理職が日常的に部下の様子を観察し、声をかけることで変化をいち早く察知できます

早期対応により、症状の重症化を防ぎ、短期間での回復が期待できます。休職や離職の予防にもつながり、長期的に見て人材の損失や代替コストを抑える効果があります。また、健康的な職場環境を保つことで、チーム全体の生産性やモチベーションの維持にも寄与します。

このように、ラインケアは個人の健康支援にとどまらず、組織全体の安定と成果にも大きく貢献する取り組みです。

組織の風土・エンゲージメント向上

ラインケアは、職場の信頼関係を深め、組織風土の改善や従業員のエンゲージメント向上に寄与します。管理職と部下の対話が増えることで、悩みや課題を共有しやすくなり、心理的安全性が高まります。

その結果、離職率の低下や採用・教育コストの削減にもつながります。従業員のモチベーションや帰属意識も高まり、組織全体の生産性や活力を押し上げる効果が期待できます。

経営戦略・制度対応に寄与

ラインケアの導入は、経営戦略や法的対応の面でも重要です。メンタルヘルス対策は今や福利厚生ではなく経営課題であり、健康経営優良法人の認定や社会的評価の向上にも直結します。

また、労働安全衛生法やパワハラ防止法への対応としても有効です。働きやすい環境は採用力を高め、ESGやCSRの観点からも投資家や取引先の信頼獲得に繋がります。

まとめ|ラインケアは健康経営の第一歩

ラインケアは、企業のメンタルヘルス対策の中核を担う重要な施策です。

管理職による適切なケアは、従業員のメンタル不調の予防と早期対応を可能にし、組織全体の健康な運営を支えます。

導入により得られる効果は多岐にわたります。メンタル不調の予防と早期対応により、休職・離職の防止と生産性の維持が実現できるでしょう。

健康経営の取り組みを強化したい、メンタルヘルス対策をしたいという企業様は、Wellflowにご相談ください。ラインケアのために研修をはじめ、従業員向けのヘルスケアアプリや健康経営優良法人の認定支援などさまざまなサービスを提供しています。

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