男女間賃金差異の計算方法|実務担当者向けガイド

2026年 5月 30日

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男女間賃金差異の公表が101人以上企業に義務化された今、最も実務担当者を悩ませるのが「計算方法」です。一見シンプルな「女性平均年間賃金 ÷ 男性平均年間賃金 × 100」という式ですが、賃金項目の線引き・パート社員の換算・除外可能な労働者の判定など、ハマりやすい落とし穴が複数あります。本記事では、厚労省フォーマットに沿った正確な計算手順を、ステップバイステップで解説します。

この記事でわかること

  • 計算式: 女性平均年間賃金 ÷ 男性平均年間賃金 × 100
  • 区分計算: 「正社員」「パート・有期社員」「全労働者」の3区分が必須
  • 賃金に含めるもの・含めないものの線引きを正確に
  • パート社員は所定労働時間で正社員換算が可能(換算した場合は明記必須)
  • ハマりやすい落とし穴: 賞与の年額換算、休職中の扱い、海外赴任者、転籍者

男女間賃金差異の基本計算式

男女間賃金差異 厚労省式の計算ステップ

計算式の意味

男女間賃金差異(%) = 女性労働者の平均年間賃金 ÷ 男性労働者の平均年間賃金 × 100

男性の平均年間賃金を100としたとき、女性の平均年間賃金が何%にあたるかを示す指標です。数値が低いほど男女間の賃金差異が大きいことを意味します。

なぜ「男性÷女性」ではなく「女性÷男性」なのか

この計算式は厚労省告示で定められた形式です。「女性が男性の何%の賃金を得ているか」を表現することで、男性基準の格差を直感的に把握できる設計になっています。「男性÷女性」で計算すると100を超える数値となり、解釈がしにくくなります。

数値の見方(80%以下は要注意ライン)

数値の参考目安は以下のとおりです(業界・規模で差があるため絶対基準ではありません)。

  • 95%以上: 男女ほぼ同等の賃金水準
  • 85〜95%: 一定の差異あり、原因分析推奨
  • 75〜85%: 日本全体の平均的レンジ(特に正社員)
  • 75%未満: 構造的要因の解明と改善計画が必須

1. 計算式の見方ガイド

  • 100% — 意味: 男女完全同等
  • 90% — 意味: 女性が男性の90%の賃金
  • 75% — 意味: 女性が男性の75%の賃金(日本の中央値帯)
  • 50% — 意味: 女性が男性の半分の賃金(要構造的見直し)

計算の3区分|正社員 / パート・有期 / 全労働者

区分1: 正社員のみ

フルタイム・無期雇用の正社員のみを対象に計算します。一般的に「役員ではない正規労働者」を指し、出向中の正社員は出向元基準で扱います。

区分2: パート・有期社員のみ

短時間労働者、有期契約労働者(契約社員・嘱託社員等)を対象に計算します。正社員換算を行う場合と行わない場合があり、換算した場合は注釈必須です。

区分3: 全労働者(正社員+パート・有期)

全労働者を合算した数値です。「合算した結果」を示すもので、区分1・2と並べて開示する3区分体制が法定要件です。

なぜ3区分必須なのか

全労働者の合算数値だけでは、賃金差異の構造的要因が見えなくなる懸念があるためです。たとえば、正社員の中では男女ほぼ同水準でも、パート社員が女性中心の場合、全労働者合算では大きな差異が出る。区分別で見ることで、施策が必要な領域が特定できる仕組みです。

2. 区分計算のサンプル(架空企業A社)

  • 正社員 — 男性平均年間賃金: 620万円 / 女性平均年間賃金: 520万円 / 差異: 83.9%
  • パート・有期 — 男性平均年間賃金: 260万円 / 女性平均年間賃金: 220万円 / 差異: 84.6%
  • 全労働者 — 男性平均年間賃金: 540万円 / 女性平均年間賃金: 360万円 / 差異: 66.7%

※区分内では85%前後だが、全労働者では女性のパート比率が高いため66.7%まで下がる構造例

賃金に含めるもの・含めないもの

含めるもの

計算対象に含める賃金項目は以下のとおりです。

  • 基本給
  • 役職手当・職務手当
  • 残業手当・休日労働手当・深夜労働手当
  • 賞与(夏期・年末・期末・決算等)
  • 扶養手当・家族手当・配偶者手当
  • 住宅手当・地域手当
  • 固定的支給の手当全般

含めないもの

計算対象から除外する賃金項目は以下のとおりです。

  • 退職手当(退職金・退職一時金)
  • 通勤手当の実費分
  • 旅費・出張手当(実費弁償的なもの)
  • 結婚祝金・出産祝金など臨時的なもの
  • 会社負担分の社会保険料

グレーゾーン: ストックオプション・業績連動賞与・長期インセンティブ

判断に迷いやすい項目について整理します。

  • ストックオプション: 行使時の現金化分を賃金として扱うかは社内ルール次第。通常は含めない
  • 業績連動賞与: 確定支給分は含める。予定額は含めない
  • 長期インセンティブ(LTIP): 当期支給確定分のみを含める
  • 退職金前払い(DC・iDeCo拠出): 賃金とみなさず除外することが一般的

自社規定との照合チェックポイント

自社の就業規則・賃金規程と厚労省告示の定義を突き合わせ、含/不含の判定を社内文書化が実務上のポイントです。年度ごとに判定基準を変えないことが時系列比較の妥当性を保ちます。

3. 賃金項目 含/不含 一覧表

  • 基本給 — 含/不含: 含める / 備考: -
  • 残業手当 — 含/不含: 含める / 備考: 休日・深夜含む
  • 賞与(確定支給分) — 含/不含: 含める / 備考: 年間支給合計
  • 扶養手当・住宅手当 — 含/不含: 含める / 備考: 固定的支給
  • 退職手当 — 含/不含: 含めない / 備考: 退職一時金含む
  • 通勤手当(実費) — 含/不含: 含めない / 備考: 実費弁償的なもの
  • 旅費・出張手当 — 含/不含: 含めない / 備考: 実費弁償的なもの
  • ストックオプション — 含/不含: 原則含めない / 備考: 社内規程確認
  • 業績連動賞与(予定) — 含/不含: 含めない / 備考: 確定額のみ

出典: 厚生労働省告示・実務解釈より整理

除外可能な労働者の判定

月途中の入退社者(除外可)

事業年度中の途中入社・退社で、賃金が部分的にしか発生していない労働者は集計から除外することができます。除外する場合は集計ルールを明文化し、毎年同じ基準で運用します。

傷病・育児休業中(除外可、注釈付与推奨)

傷病休暇・育児休業・介護休業など、長期間の休業に入っている労働者は除外可能です。ただし女性に多く該当するため、除外すると賃金差異が改善方向に見える偏りが生じることがあります。除外する場合は公表時に注釈で明示することが透明性確保の観点から推奨されます。

役員兼任者の扱い

取締役・執行役員などの役員は「労働者」ではないため、計算対象から除外します。ただし「使用人兼務役員」(労働者性が認められる兼任者)は労働者部分の賃金のみ計算対象に含めることがあります。判定は社労士・弁護士へ確認が安全です。

出向者の扱い

出向者は賃金支払い元でカウントします。出向元から賃金支払いを受ける「在籍出向」は出向元の集計対象、出向先での支払いに切り替わる「転籍出向」は出向先の集計対象になります。

短時間勤務制度利用者の扱い

育児・介護のための短時間勤務制度を利用している労働者は通常勤務として集計対象に含めます。短時間勤務分の賃金がそのまま計算に反映されますが、これは「就業継続支援の取組」を示す指標としても活用できます。

4. 除外可能 / 不可 判定フローチャート

  • 月途中入退社 — 判定: 除外可 / 備考: 社内ルール明文化
  • 傷病休業中 — 判定: 除外可 / 備考: 除外時は注釈で明示
  • 育児・介護休業中 — 判定: 除外可 / 備考: 除外時は注釈で明示
  • 取締役・執行役員 — 判定: 対象外 / 備考: 労働者ではない
  • 使用人兼務役員 — 判定: 労働者部分のみ含む / 備考: 判定は専門家確認
  • 在籍出向(出向元支払い) — 判定: 出向元で集計 / 備考: -
  • 転籍出向(出向先支払い) — 判定: 出向先で集計 / 備考: -
  • 短時間勤務制度利用 — 判定: 集計対象に含む / 備考: 短時間分の賃金で計算

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パート・有期社員の正社員換算方法

換算方法の基本(所定労働時間ベース)

パート・有期社員を計算に含める際、所定労働時間に応じて正社員換算を行うことができます。換算をする場合の基本式は以下です。

換算係数 = パート社員の所定労働時間 ÷ 正社員の所定労働時間

計算例(パート週20時間→正社員週40時間→係数0.5)

例: 正社員の所定労働時間が週40時間、パート社員が週20時間の場合、換算係数は0.5になります。パート社員の年間賃金を換算する場合は、賃金 × (1 / 0.5) = 2倍 として正社員相当の水準を算出します。

換算した場合は必ず注釈で明記

換算をして計算した場合は、公表時に「パート・有期社員は正社員換算で計算」と注釈を必ず記載します。換算なしの場合と比較してパート・有期区分の数値が大きく変わるため、透明性確保のために必須です。

換算をしない選択肢とその場合の表記

換算を行わない選択も認められています。その場合は「パート・有期社員は実支給額で計算(換算なし)」と注釈し、低い数値で出ることへの誤解を避けるため補足説明を添えます。

5. パート換算サンプル計算

  • 年間賃金(実支給) — 正社員: 500万円 / パート(週20h): 200万円 / パート(換算後): 400万円
  • 所定労働時間(週) — 正社員: 40h / パート(週20h): 20h / パート(換算後): 40h相当
  • 換算係数 — 正社員: 1.0 / パート(週20h): 0.5 / パート(換算後): -

計算例|厚労省モデルケースの全工程

仮想会社A社の従業員データ

A社の従業員構成(仮想例):

  • 正社員: 50人(男性32人、女性18人)
  • パート・有期社員: 20人(男性5人、女性15人)
  • 合計: 70人(男性37人、女性33人)

ステップ1: 各労働者の年間賃金算出

各労働者について、含/不含のルールに従って年間賃金(基本給+手当+賞与等)を集計します。

ステップ2: 男女別の平均年間賃金算出

男性労働者・女性労働者それぞれの年間賃金を合計し、人数で割って平均値を算出します。

ステップ3: 区分別の差異算出

正社員のみ・パート/有期のみ・全労働者の3区分それぞれで、女性平均 ÷ 男性平均 × 100 を計算します。

ステップ4: 公表用フォーマットへの記載

厚労省の標準フォーマットに沿って、3区分の数値・注釈・補足説明を記載します。

厚労省例: 男性533.3万円 vs 女性295.4万円 = 55.4%

厚労省リーフレットでは、以下の計算例が示されています。

  • 男性平均年間賃金: 533.3万円
  • 女性平均年間賃金: 295.4万円
  • 男女間賃金差異 = 295.4 ÷ 533.3 × 100 = 55.4%

6. 完成サンプルの公表フォーマット

  • 正社員のみ — 男性平均年間賃金: 620万円 / 女性平均年間賃金: 500万円 / 差異: 80.6%
  • パート・有期(換算後) — 男性平均年間賃金: 320万円 / 女性平均年間賃金: 290万円 / 差異: 90.6%
  • 全労働者 — 男性平均年間賃金: 540万円 / 女性平均年間賃金: 360万円 / 差異: 66.7%

注釈例: ①パート・有期社員は正社員換算で計算 ②育児休業中の3名を集計から除外 ③事業年度は2025/4/1〜2026/3/31

ハマりやすい計算ミスTOP4

ミス1: 賞与の年額換算が抜ける

賞与を年間ではなく月次平均で集計してしまうケースが頻発します。賞与は年間支給確定額をそのまま年間賃金に加算するのが正解です。月次給与だけで集計すると、賞与比率の大きい職位が過小評価され、差異が実態とずれます。

ミス2: パート社員の換算をせず単純合算

パート・有期社員の賃金を「実支給額のまま」合算するケースが頻発します。これだとパート比率の高い女性側の数値が大きく下がり、実態以上に差異が大きく見えます。換算するか、しないかを社内で決め、注釈で必ず明示が実務上のポイントです。

ミス3: 休職中の労働者を含めて平均が下がる

育児休業・傷病休業中の労働者を集計に含めてしまい、女性の平均賃金が大きく下がるケースがあります。除外可能なルールを正しく適用することが必要です。

ミス4: 賃金項目の含/不含を統一していない

事業所・部署ごとに賃金項目の集計ルールが異なり、結果として男女比較の精度が落ちるケースがあります。全社統一の判定基準を社労士・人事システム担当と連携して決めることが必須です。

計算後のセルフチェ��ク5項目

  1. 賞与は年額確定額で集計したか
  2. パート社員の換算ルールを社内で統一したか
  3. 除外可能な労働者は注釈で明示したか
  4. 3区分すべての数値を算出したか
  5. 賃金項目の含/不含が全事業所で統一されているか

参考リンク・出典

本記事の法令・制度・統計に関する記述は、以下の公的機関の公表資料を主な出典としています。最新の情報は各リンク先をご確認ください。

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