男女間賃金差異 公表義務化|2026年改正の実務

2026年 5月 30日

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2026年4月、女性活躍推進法の改正により、常時雇用労働者101人以上のすべての企業に男女間賃金差異の公表が義務化されました。これまで301人以上だった対象が拡大し、新たに数万社が対応を迫られています。本記事では、対象企業の確認方法、計算式と賃金項目の含/不含、公表時期と方法、悪い数値が出た場合のリスクと対応まで、人事・労務担当者が実務で迷わないポイントを網羅します。さらに、賃金差異の根本原因=女性のキャリア継続を阻む健康課題への対応まで踏み込んで解説します。

この記事でわかること

  • 2026/4から101人以上の企業も男女間賃金差異の公表が必須
  • 計算式は「女性平均年間賃金 ÷ 男性平均年間賃金 × 100
  • 正社員・パート/有期社員を区分して計算(合算ではない)
  • 賃金に含めるもの/含めないものの線引きが重要
  • 公表は事業年度終了後おおむね3ヶ月以内、自社サイト or 厚労省データベースで
  • 「悪い数値の公表」は原因分析と改善計画の同時公表が王道

男女間賃金差異の公表義務化とは|2026年4月改正の概要

男女間賃金差異 公表義務の対象と必須項目(3区分)

改正の背景(女性活躍推進法の趣旨)

男女間賃金差異の公表は、女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)に基づく取り組みの一つです。「働きたいと考える女性が、能力を十分に発揮できる社会の実現」を目的とし、企業に女性活躍に関する情報の見える化を求める制度です。男女間賃金差異の公表は2022年7月から301人以上企業に義務化されていましたが、2026年4月改正により対象が拡大しました。

何が変わったか(301人以上→101人以上に拡大、女性管理職比率も追加)

2026年4月以降、以下のように公表義務の範囲が拡大しました。

  • 男女間賃金差異の公表義務 → 301人以上から101人以上へ対象拡大
  • 女性管理職比率 → 新たに101人以上企業の公表必須項目に追加
  • 女性活躍推進法の有効期限が2036年3月31日まで延長

なぜ今このタイミングか(OECD比較で日本の差異の大きさ)

OECD加盟国の中で、日本の男女間賃金差異は下位グループに位置しています。国の労働政策として男女間賃金差異の見える化を加速させる狙いから、対象企業が拡大されました。新たに義務対象となる101〜300人企業約1.7万社にとって、今回の改正は実務上の大きなインパクトを伴います。

1. 改正前後の比較表

  • 男女間賃金差異の公表 — 改正前(〜2026/3): 301人以上のみ / 改正後(2026/4〜): 101人以上に拡大
  • 女性管理職比率の公表 — 改正前(〜2026/3): 選択項目 / 改正後(2026/4〜): 101人以上は必須
  • 有効期限 — 改正前(〜2026/3): 2026年3月31日 / 改正後(2026/4〜): 2036年3月31日

出典: 厚生労働省「女性活躍推進法 改正のポイント」より作成

対象企業の判定|「常時雇用労働者」のカウント方法

「常時雇用労働者」の定義

「常時雇用労働者」とは、雇用期間の定めなく雇用されている労働者、または1年以上継続して雇用されることが見込まれる労働者を指します。正社員のみではなく、契約社員・パート・アルバイトも、上記条件を満たせば該当します。雇用形態を問わない点に注意が必要です。

101-300人 vs 301人以上の義務範囲の差

101〜300人企業は「男女間賃金差異」「女性管理職比率」の2項目が必須、加えて全15項目から1項目を選択して公表します。301人以上企業は2必須項目に加え、区分①と②から各1項目以上を公表する必要があります。義務範囲の差は項目数だけでなく、開示の粒度(事業所別・職種別等)にも違いがあるため、自社規模で必要範囲を正確に把握が実務上のポイントです。

グループ会社・派遣労働者の扱い

グループ会社は個社単位で判定します。親会社のみが101人以上で子会社が100人以下の場合、子会社は努力義務にとどまります。派遣労働者は、派遣元(派遣会社)の常時雇用労働者としてカウントし、派遣先のカウントには含めません。

100人以下の努力義務

100人以下企業も努力義務として行動計画策定・情報公表が推奨されています。義務ではないものの、採用ブランディングや認定取得(えるぼし)を狙う企業にとっては、自主的な取り組みのメリットがあります。

2. 対象企業判定フローチャート

  • 1. 常時雇用労働者数を集計 — 確認内容: 正社員+契約社員+パート/アルバイト(1年以上見込み) / 結論: 合計数を確定
  • 2. 合計が101人以上か — 確認内容: 個社単位で判定(グループ全体ではない) / 結論: Yes→義務 / No→3へ
  • 3. 合計が100人以下 — 確認内容: 努力義務(推奨) / 結論: 採用ブランディング目的で対応推奨

男女間賃金差異の計算方法|実務担当者向けステップ解説

基本計算式

男女間賃金差異(%) = 女性労働者の平均年間賃金 ÷ 男性労働者の平均年間賃金 × 100

男性の平均賃金を100としたときの女性の比率です。100に近いほど差異が小さく、低いほど差異が大きいことを示します。

区分計算(正社員 / パート・有期社員 / 全労働者)

計算は3区分で実施します。会社全体(全労働者)の数値だけでは実態が見えにくいため、雇用区分別の内訳まで開示することが法定要件です。

  • 正社員のみ: フルタイムの無期雇用労働者
  • パート・有期社員のみ: 短時間労働者および有期契約労働者
  • 全労働者: 正社員+パート/有期社員の合算

賃金に含めるもの・含めないもの

賃金の集計対象は厚労省告示で定められています。実務でよく迷うポイントを表でまとめます。

3. 賃金項目 含/不含 一覧表

  • 基本給 — 含めないもの: 退職手当
  • 残業手当・休日手当 — 含めないもの: 通勤手当(実費分)
  • 賞与(夏期・年末・期末) — 含めないもの: 旅費・出張手当
  • 扶養手当・家族手当 — 含めないもの: 結婚祝金など臨時的なもの
  • 住宅手当・地域手当 — 含めないもの: 会社負担の社会保険料
  • 役職手当・職務手当 — 含めないもの: 退職金準備金(積立分)

出典: 厚生労働省「男女の賃金の差異の算出及び公表方法について」

除外可能な労働者(月途中入退社、傷病・育休中)

以下の労働者は集計から除外することが認められています(除外時は注釈で明記)。

  • 事業年度途中の入退社者
  • 傷病休暇・育児休業・介護休業中(賃金が実質的に発生していない期間)
  • 出向中で出向元と異なる賃金支払いを受ける者

パート社員の正社員換算方法

パート・有期社員を含む計算では、所定労働時間に応じた正社員換算を行うことがあります。例: 週20時間勤務のパート社員は、週40時間勤務の正社員の0.5人分として換算。換算をした場合は公表時に必ず注釈を明記します。

計算例(厚労省例: 男性533.3万円 vs 女性295.4万円 = 55.4%)

厚労省リーフレットでは、以下の計算例が示されています。

  • 男性労働者の平均年間賃金: 533.3万円
  • 女性労働者の平均年間賃金: 295.4万円
  • 男女間賃金差異 = 295.4 ÷ 533.3 × 100 = 55.4%

この数値だけを見ると差異が大きく見えますが、女性比率の高いパート社員と男性比率の高い正社員の構成比、職種分布などの構造的要因が背景にあることが多いため、原因分析が重要です。

4. 計算ステップ フロー

  • 1 — 作業: 事業年度の全労働者リストを抽出
  • 2 — 作業: 除外可能な労働者をフラグ付け
  • 3 — 作業: 雇用区分別(正社員/パート・有期/全体)に分類
  • 4 — 作業: 各労働者の年間賃金を集計(賃金項目の含/不含を統一)
  • 5 — 作業: 男女別の平均年間賃金を算出
  • 6 — 作業: 区分ごとに差異を計算(女性÷男性×100)
  • 7 — 作業: 公表フォーマットへ記載+注釈・補足を記述

公表方法と時期|どこにいつ公表するか

公表時期(事業年度終了後おおむね3ヶ月以内)

公表は事業年度終了後おおむね3ヶ月以内に行う必要があります。3月決算の企業なら毎年6月末頃、12月決算なら3月末頃が目安となります。データ集計と監修確認だけで1ヶ月以上かかることも珍しくないため、決算月の前から準備を進めることを推奨します。

公表方法1: 自社サイト(推奨)

自社のコーポレートサイト・IR情報・サステナビリティページなどでの公表が一般的です。検索エンジンから見つけられる場所への掲載と、過年度との比較が分かる時系列での公表が望ましいです。

公表方法2: 厚労省「女性の活躍推進企業データベース」

厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」への登録でも要件を満たします。自社サイトと併用することで採用市場での認知効果が高まります。

公表時の注釈・補足説明の記載ポイント

数値だけでなく、以下のような注釈・補足を添えることで読者の正確な理解を促せます。

  • 計算対象期間(事業年度)
  • 除外した労働者の範囲
  • パート社員の正社員換算の有無
  • 差異の主要因(職種構成・勤続年数差など)
  • 今後の改善計画(任意だが効果大)

行動計画と一体公表のメリット

男女間賃金差異の数値だけを公表するより、女性活躍推進法に基づく行動計画と一体で公表することで「課題認識と改善取組のセット」として受け止められやすくなります。採用ブランディングや投資家対応にも有効です。

5. 公表タイムライン(3月決算企業の例)

  • 3月末 — アクション: 事業年度終了
  • 4月上旬〜中旬 — アクション: 賃金データ集計・労働者リスト確定
  • 4月下旬〜5月 — アクション: 計算・社労士チェック
  • 5月下旬〜6月 — アクション: 公表文書作成・社内承認
  • 6月末 — アクション: 自社サイト・厚労省DBへ公表

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悪い数値が出た場合の対応|採用ブランドリスクと改善計画

「悪い数値」とは(業界平均との比較・OECD比較)

絶対値で「何%以下なら悪い」という基準はありませんが、業界平均との比較・OECD平均との比較が参考になります。日本全体の正社員平均で75%前後が中央値とされ、これを大きく下回る場合は「業界比でも数値が劣る」と認識されることが多くなります。

なぜ単純公表だけでは不十分か(採用・離職への影響)

男女間賃金差異の数値は、求職者・取引先・株主などのステークホルダーが直接参照する情報です。数値だけが切り取��れて報道・SNSで拡散するリスクもあるため、「なぜその数値なのか」の文脈付きで開示しなければ、誤解を招くおそれがあります。

推奨される追加開示「改善計画とコミットメント」

悪い数値が出る企業に推奨される開示パターンは以下です。

  1. 数値の現状認識: 数値とその年次推移
  2. 原因分析: 職種構成、勤続年数差、管理職比率差など構造的要因の説明
  3. 改善計画: 何を、いつまでに、どこまで改善するかのKPI設定
  4. 具体的施策: 女性管理職登用・両立支援・健康支援などの取組内容
  5. 経営層のコミットメント: 代表からのメッセージ

数値より「説明と改善計画」が評価される開示パターン

業界平均より悪い数値であっても、丁寧な原因分析と継続的な改善計画の開示が、求職者・株主からは肯定的に受け止められる傾向にあります。「数値を隠すリスク」より「数値と説明を併記するリターン」のほうが高いというのが現在のスタンダードです。

数値が良いだけで安心しない(属人的な要因の可能性)

逆に、数値が良すぎる場合も注意が必要です。女性管理職が1〜2名しかおらずたまたま平均が高い、男性が新卒中心で平均年齢が低い、などの属人的・構造的偶発要因で良い数値が出ているケースもあります。良い数値こそ「再現性のある仕組み」を補足することで信頼性が増します。

賃金差異の根本原因|女性キャリア継続を阻む健康課題

賃金差異の構造的原因

男女間賃金差異の構造的原因は、多くの場合以下の4つに集約されます。

  1. 管理職比率差: 女性管理職が少なく、給与水準の高い職位への到達が限定的
  2. 勤続年数差: 結婚・出産・育児を機にキャリアが中断され、平均勤続が短い
  3. 労働時間差: 育児期の時短勤務・休暇取得で総労働時間が短い
  4. 職種差: 給与水準の高い職種(営業・エンジニア等)の男性偏在

女性管理職への昇進前段階で起きる「機会喪失」

賃金差異の主要因である「管理職比率差」は、30代前半〜40代の昇進機会喪失で発生します。妊娠・出産・育児期に責任ある業務から外されたり、自ら離職する選択をする女性が多い構造があります。この時期の「キャリア継続支援」の質が、その後の賃金差異に直結します。

健康課題(PMS/不妊治療/更年期)が見えにくい影響を与える

キャリア継続を阻む見えにくい要因として、女性特有の健康課題があります。

  • PMS・月経関連症状: 20代〜40代女性の約7割が業務影響を実感
  • 不妊治療: 通院による業務調整で評価への影響を懸念する声多数
  • 更年期: 40〜50代の管理職候補が静かに離職する大きな要因

経済産業省の試算では、女性特有の健康課題による日本全体の労働損失は年間約3.4兆円とされています。

ライフステージ別の健康課題と就労影響

20代〜30代はPMSや不妊治療、40代〜50代は更年期、いずれのフェーズでも適切な配慮・休暇制度・健康データ管理がキャリア継続に直結します。これらは「働き方改革」だけでは解決できず、健康支援の仕組みが必要です。

フェムテック導入による健康課題対応がキャリア継続率を上げる事例

近年、女性の健康課題に対応するフェムテックサービスを福利厚生として導入する企業が増えています。利用社員のキャリア継続率向上、休職期間の短縮、両立支援の評価項目スコアアップなど、定量的な効果が報告されています。賃金差異の根本原因に踏み込んだ施策として、フェムテックは有効な選択肢になります。

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改善のための実務アクション|行動計画への反映

ステップ1: 自社の数値を業界平均と比較

厚労省「女性の活躍推進企業データベース」で業界・規模別の平均値を確認できます。自社の位置を客観視することが第一歩です。

ステップ2: 原因分析(管理職比率/勤続/時間/職種)

4つの構造的要因(管理職比率/勤続年数/労働時間/職種構成)のうち、自社の差異を最も大きく説明している要因を特定します。複数要因が重なっているケースが多いため、優先順位を付けます。

ステップ3: 行動計画への目標反映

女性活躍推進法に基づく行動計画に、賃金差異改善の数値目標を盛り込みます。例: 「3年後の正社員賃金差異75%以上」「女性管理職比率15%以上」など。

ステップ4: 健康支援・両立支援を含む施策設計

賃金差異の根本原因への対処として、両立支援だけでなく健康支援を取組に含めます。PMS・不妊治療・更年期への対応をフェムテック導入で実装することで、複数評価項目を同時にカバーできます。

ステップ5: 翌年度の改善状況の追加開示

初年度公表後は、翌年度に「前年比でどう変わったか」の追加開示が信頼性を高めます。改善のスピードが評価される時代になっており、毎年の数値開示が「企業の女性活躍への本気度」の指標となっています。

えるぼし・プラチナえるぼし認定との連動

男女間賃金差異の改善計画は、「えるぼし認定」「プラチナえるぼし認定」の取得要件にも連動します。認定取得を狙う企業は、本改正対応を起点に行動計画を組み直すことが効率的です。

参考リンク・出典

本記事の法令・制度・統計に関する記述は、以下の公的機関の公表資料を主な出典としています。最新の情報は各リンク先をご確認ください。

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