従業員サーベイとは?組織課題を見える化して改善につなげる方法
2025年 9月 2日

企業の持続的な成長において、従業員の心身の健康を保ち、能力を最大限に発揮できる環境を整備することが重要な経営戦略として位置づけられています。
そして、従業員の声を経営に活かすための羅針盤となるのが「従業員サーベイ」です。
この記事では、従業員サーベイの基本的な概念から、その活用が求められる背景、そして組織変革を加速させるための具体的な手法までを解説します。
従業員サーベイを単なるアンケートではなく、企業の成長を支える戦略的なツールとして捉え、組織変革の第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。
従業員サーベイとは?その定義と目的
従業員サーベイとは、企業が従業員を対象に実施する意識調査の総称です。
その目的は、組織が抱える潜在的な課題を客観的なデータとして「見える化」し、戦略的な人事施策につなげることにあります。
従業員サーベイの定義とES調査との違い
従業員サーベイは、人事制度や就業規則の改定、あるいは新たな人事戦略を立案する際に、人事が立てた仮説を検証するために必要な事実情報を収集する目的で実施される調査を指します。その最大の目的は、従業員が日々の業務で感じている不満や要望、提案といった「リアルな声」を聴き、組織の課題を客観的なデータとして把握することです。これにより、経営陣や人事と現場の従業員との間に存在する認識のギャップを明確にでき、効果的な改善策を講じることが可能になります。
従業員サーベイと混同されやすいものに「従業員満足度調査(ES調査)」がありますが、両者には明確な違いがあります。ES調査が「従業員はどの程度満足しているか」という結果の把握を主目的とするのに対し、従業員サーベイは、満足度だけでなく、新制度の浸透度や従業員のモチベーション状態、組織への貢献意欲など、より多角的な視点から調査を行い、新たな課題を顕在化させることを目的としています。
従業員サーベイが今、重視される理由
従業員サーベイがこれほどまでに注目される背景には、社会や経済環境の変化が深く関係しています。企業の持続的な成長のためには、従業員を単なる労働力としてではなく、重要な「資本」として捉え、投資する視点が不可欠です。
人材の確保と定着の課題
少子高齢化が進み、労働人口が減少する日本では、人材確保の競争が激化しています。従業員サーベイを通じて、従業員が抱える不満や問題点を早期に発見し、改善することで、離職率の低下につなげることができます。実際に、健康経営に取り組む企業は全国平均の半分程度に離職率が低い傾向が示唆されています。
生産性向上と企業価値への影響
従業員の心身の健康状態や組織へのエンゲージメントは、生産性に直結します。健康上の問題で欠勤する「アブセンティーズム」や、出社していても心身の不調で業務効率が低下する「プレゼンティーズム」は、組織全体のパフォーマンスを大きく損なう可能性があります。海外の事例では、健康経営への1ドルの投資が3ドルのリターンを生むという試算も報告されており、従業員サーベイはその投資先を特定するための重要な経営指標を提供します。
IT化の進展と人的資本開示の要請:IT技術の進展により、短期間・短サイクルでの調査が可能となり、担当者の負担も大幅に軽減されました。また、近年、企業には従業員の健康状態やエンゲージメントなどの「人的資本」に関する情報を積極的に開示することが求められており、サーベイの結果はこうした外部へのアピール材料としても活用できます。
従業員サーベイの種類
従業員サーベイには、目的に応じてさまざまな種類があります。ここでは、代表的な3種類の特徴と質問項目例をご紹介します。
エンゲージメントサーベイ
エンゲージメントサーベイは、従業員が自身の仕事や組織に対してどの程度の愛着や貢献意欲を持っているかを、多角的に測定する調査です。質問数が多く、組織の全体像や構造的な課題を深く掘り下げるのに適しているため、年に1〜2回の頻度で実施されることが一般的です。
質問項目例
仕事へのやりがい:「現在の仕事にどの程度満足していますか?」
組織へのコミットメント:「会社のビジョンや目標に共感していますか?」
職場環境:「上司や同僚との人間関係は良好だと感じますか?」
パルスサーベイ
パルスサーベイは、「脈拍(パルス)」を測るように、短いスパンで従業員の心身の状態をリアルタイムに把握するための簡易的な調査です。質問数が少なく、従業員の負担を抑えられるため、週1回から月1回程度の頻度で継続的に実施することで、ストレスや不満の兆候を早期に察知し、迅速な対応につなげることが可能です。
質問項目例
メンタルヘルス:「業務においてストレスやプレッシャーを感じることが多いですか?」
ワークライフバランス:「現在の業務量は適切だと感じますか?」
成長実感:「今週さらに成長するためにできることは何だと思いますか?」
モラールサーベイ
モラールサーベイは、従業員の士気や意欲、団結力といった内面的な要素を測定することに特化した調査です。従業員の士気を数値化することで、組織目標の達成に必要なモチベーションの引き上げに役立ちます。
従業員サーベイを成功させるためのステップ
従業員サーベイは、ただ実施するだけでは意味がありません。その効果を最大限に引き出すためには、戦略的な準備と、結果に基づいた継続的な改善活動が不可欠です。
実施前の準備:目的の明確化と経営層の合意
サーベイを成功させるための最初のステップは、目的を明確にすることです。
目的の明確化:「離職率の低下」「メンタルヘルスの改善」など、サーベイで何を明らかにしたいのかという目的を一つに絞り、具体的に設定することが重要です。
経営層の合意形成:サーベイの結果は全社的な人事戦略に活用されるため、事前に経営層の理解と合意を得ることが必須です。
結果の分析と改善:PDCAサイクルの構築
サーベイ結果を単なるデータで終わらせないためには、継続的な改善活動が不可欠です。
結果の集計・分析
回答が集まったら、全体傾向だけでなく、部署、役職、年齢などの「属性ごと」に分析することが重要です。これにより、組織全体の課題だけでなく、特定の部署が抱える固有の問題点や強みが明確になります。
改善策の実行とフィードバック
分析結果を基に、具体的な改善策を策定・実行します。例えば、「上司と部下のコミュニケーション不足」が課題として浮上すれば、1on1ミーティングの導入を検討するといった対応が考えられます。また、サーベイ結果と今後の改善策を全社にフィードバックすることは、従業員の当事者意識を高め、信頼関係を築く上で非常に重要です。
PDCAサイクル
サーベイは一度きりでなく、定期的に実施して改善のサイクル(PDCA)を回し続けることが重要です。
回答率を高め、本音を引き出すための工夫
従業員から正直で精度の高い回答を得るためには、回答者の心理的な負担を減らす配慮が必要です。
回答の負担軽減
質問数を少なくしたり、繁忙期を避けて実施したりする配慮が必要です。パルスサーベイのような短時間で回答できる形式も有効でしょう。
透明性の確保とフィードバック
従業員にサーベイの目的を事前に丁寧に説明し、結果が人事評価に影響しないことを明確に伝えることで、正直な回答を得やすくなります。また、サーベイ後には、結果と今後の改善策を全社にフィードバックし、「自分たちの声が組織を動かしている」という実感を持たせることが、信頼関係の構築に繋がり、次回以降の回答率向上にも貢献します。
従業員サーベイの具体的な活用事例
従業員サーベイは、様々な企業の経営課題の解決に活用されています。
メンタルヘルス改善
ある企業では、従業員の不満をサーベイで把握したことをきっかけに、部門長の意識改革を促しました。その結果、従業員と課題を話し合う風土が醸成され、残業時間の削減だけでなく、会社の一体感も向上したという事例があります。
女性の健康支援
株式会社ニチレイでは、従業員アンケートで生理や更年期などの不調を抱えつつ対処していない女性が多いことを把握しました。これをきっかけに婦人科のオンライン診療サービスを導入し、女性従業員のQOLや生産性改善に一定の成果をあげています。
まとめ
従業員サーベイは、現代の企業経営において、単なるアンケートではなく、企業の持続的成長を支える上で不可欠な戦略的ツールです。従業員の声を客観的なデータとして捉え、課題の特定、施策の立案、効果測定を繰り返すことで、企業は組織の課題をより実効性の高いものにできるでしょう。
従業員一人ひとりの健康とエンゲージメントへの投資は、離職率の低下、生産性の向上、企業価値の向上という形で、確実に企業に利益をもたらします。従業員サーベイは、この好循環を生み出すための「羅針盤」であり、「企業の健康診断」です。
本レポートが、貴社の従業員サーベイ導入・活用の一助となり、従業員の健康と企業の成長を両立させるための具体的な行動を促すきっかけとなれば幸いです。