「大丈夫です」の裏にある離職リスク——静かな離職を防ぐ組織づくり

2026年 7月 15日

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「大丈夫です」と笑顔で答えていた社員が、ある日突然「うつ病と診断されました」と退職を申し出る。HRzineが紹介するこうした事例は、離職の予兆が周囲から見えにくくなっている職場の実態を象徴しています。

結論から言うと、こうした「静かな離職」は本人が明確な不満や体調不良を訴えないまま退職に至るため、企業側が異変に気づく機会そのものが減っており、ストレスチェックや面談機会の活用、そして日頃から相談しやすい組織文化づくりが予防の鍵になります。本記事では、静かな離職のメカニズムから、女性社員の離職理由に関するデータ、企業が予兆を掴むための仕組みまでを整理します。

「静かな離職」とは何か - 予兆が見えにくい退職のメカニズム

一般に「静かな退職(quiet quitting)」という言葉は、社員が明確に不満を表明したり退職を申し出たりすることなく、必要最低限の業務のみをこなし、それ以上の関与を避けるようになる状態を指す用法で広まってきました。本記事で扱う「静かな離職」はこれとは区別し、HRzineが紹介するような、メンタル不調や体調不良を周囲に明かさないまま休職・退職に至るケースを指す言葉として使います。

HRzineが紹介する事例のように、真面目に見える社員ほど、上司からの「大丈夫か」という問いかけに対して反射的に「大丈夫です」と答えてしまい、本人も無理をしていることに気づきにくい傾向があります。結果として、退職の申し出があって初めて不調の存在が明らかになり、企業側は対応の機会を失ってしまいます。

女性の離職理由に「体調不良」が上位で挙がる背景

GENIUS JAPANが紹介する民間調査の一例では、女性のリアルな退職理由の3位に「体調不良」が挙げられており、給与や人間関係といった一般的な離職理由と並んで、健康上の理由が退職の決め手になっているケースが一定数存在することがうかがえます。ただし、この種の調査は対象者数や調査方法に限りがあることが多く、女性全体の離職理由の傾向として一般化できるものではない点には注意が必要です。

経済産業省が公表した試算では、女性特有の健康課題による社会全体の経済損失は年間約3.4兆円とされ、そのうち月経随伴症状による損失が約4,500億円、更年期症状による損失が約5,600億円にのぼるとされています。この試算は主に欠勤(アブセンティーズム)やパフォーマンス低下(プレゼンティーズム)による損失を積み上げたもので、民間調査が示す「体調不良を理由とした退職」と直接対応するものではありませんが、健康課題が就業継続に影響し得ることを示す補助的な根拠として参照できます。

なぜ健康課題は「我慢」されやすいのか

女性特有の健康課題が離職の直接的な引き金になっていても、多くの場合、本人はそれを周囲に相談せず、我慢を選びがちです。背景には、月経随伴症状や更年期症状といったテーマが職場で話題にしにくいという心理的なハードルに加え、体調不良を理由に業務量の調整を申し出ることが評価への悪影響につながるのではないかという懸念があると考えられます。

HRzineが指摘するように、リモートワークの浸透によって雑談や非公式な交流の機会が減ったことも、「ちょっとした相談」をしにくくしている要因の一つです。また、ハラスメント対策への配慮から、業務外の話題そのものが職場で話しづらい空気が広がっていることも、体調に関する相談を遠ざける一因になっている可能性があります。こうした構造の中で、本人が「大丈夫です」と答え続けるうちに、企業側が異変に気づく機会自体が失われていきます。

企業が予兆を掴むための仕組み

本人からの自発的な相談を待つだけでは、静かな離職の予兆を掴むことは難しいため、企業側が能動的に把握する仕組みを整える必要があります。

ストレスチェック・産業医面談の活用 ストレスチェックは年1回の実施が労働安全衛生法上義務づけられており、現行では常時50人以上の事業場が対象です(法改正により2028年4月1日からは50人未満の事業場にも義務化される予定です)。高ストレス者と判定された従業員に対しては、本人からの申出に基づき産業医等による面接指導を受けられる仕組みが用意されています。この仕組みを、メンタル不調だけでなく女性特有の健康課題を含めた相談の入り口として位置づけ、実際に活用されやすい環境を整えることが重要です。

管理職が異変に気づくための研修 パソナが指摘するように、静かな離職・静かな退職は本人の意欲低下や業務への関与低下として表れることが多く、日々の勤務態度の変化に管理職が気づけるかどうかが早期発見の分かれ目になります。管理職向けに、体調不良のサインや相談への適切な対応方法を学ぶ研修を実施することは、予兆を掴むための実践的な手段の一つです。

「言える化」を進める組織文化づくり

制度としてストレスチェックや相談窓口を用意しても、実際に従業員が「言える」と感じられなければ機能しません。HRzineが強調するように、社外の産業保健スタッフやカウンセラーといった、社内の人間関係から独立した相談先を用意することは、評価への影響を懸念する従業員にとって相談のハードルを下げる一助になります。

あわせて、管理職自身が体調不良や不調を率直に話せる姿勢を示すことや、女性特有の健康課題について社内で正しい知識が共有されていることも、「言える化」を進める土台になります。知識が不足している職場では、体調不良を訴えても適切に理解されないのではないかという懸念が、かえって相談をためらわせる要因になりかねません。

Wellflowの研修が離職防止に果たす役割

静かな離職を防ぐには、制度の整備と同時に、従業員・管理職双方が女性特有の健康課題について正しく理解していることが前提になります。Flora(フローラ)が提供する法人向け女性の健康研修プログラム「Wellflow」は、月経随伴症状や更年期症状などについて従業員・管理職双方の理解を促す研修を通じて、体調不良を相談しやすい職場の土台づくりを支援するものであり、ストレスチェックや管理職研修と組み合わせることで、静かな離職の予防に向けた取り組みの一つとなり得ます。

まとめ

「静かな離職」は、本人が明確な不満や体調不良を訴えないまま退職に至るため、企業側が予兆を掴みにくいという特徴があります。民間調査の一例では女性の離職理由の上位に「体調不良」が挙げられており、経済産業省が試算する女性特有の健康課題による年間約3.4兆円という経済損失も、健康課題が就業継続に影響し得ることを示す補助的な根拠として参照できます。健康課題が我慢されやすい背景には、相談しにくさや評価への影響への懸念があり、企業としてはストレスチェック・産業医面談の活用、管理職向け研修、社外相談窓口の整備などを通じて、「言える化」を進める組織文化づくりに取り組む必要があります。数値の詳細・最新の改訂状況は、経済産業省をはじめとする公表資料を必ずご確認ください。

出典・参考リンク

  • 経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/jyosei_keizaisonshitsu.pdf
  • GENIUS JAPAN「女性のリアルな退職理由 3位「体調不良」」 https://www.genius-japan.com/blog/ono20231108
  • HRzine「「大丈夫です」と笑顔だった社員が突然退職」 https://hrzine.jp/article/detail/5700
  • パソナ「静かな退職とは?兆候や企業へのリスク、行うべき対策」 https://www.pasona.co.jp/clients/service/column/cs/shizukanataisyoku/