安全衛生教育とは|義務となる種類・内容・実施方法を徹底解説

2025年 12月 3日

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「安全衛生教育とは何か」「どのような教育を実施すべきなのか」「実施しないとどうなるのか」―このような疑問を抱えていませんか。

労働安全衛生法により、事業者には労働者に対する安全衛生教育の実施が義務付けられています。厚生労働省の調査によると、労働災害の多くは不安全な行動や知識不足が原因とされており、安全衛生教育は労働災害防止のための重要な施策なのです。

本記事では、安全衛生教育の基本から義務となる種類、具体的な内容、実施方法まで詳しく解説します。人事担当者や安全管理者の方が、適切に安全衛生教育を実施できる情報を提供いたします。

安全衛生教育とは

安全衛生教育とは、労働災害防止を目的として、労働者に安全・衛生に関する知識や技能を付与する教育のことです。

労働安全衛生法により、事業者には労働者に対する安全・衛生に関する教育が義務付けられています。労働災害の対策としては「物的な対策(設備や作業環境等の整備、改善)」と「人的な対策(労働者への技能・知識の付与、作業マニュアル遵守の徹底)」の2つがありますが、安全衛生教育は「人的な対策」において重要なものとなるのです。

安全衛生教育を実施することで、労働者の安全意識の向上や、事業場の安全対策の効果を高めることが期待できます。労働災害防止には、すべての労働者が安全または衛生について理解した上で作業に従事する必要があるため、教育は不可欠な取り組みです。

労働安全衛生法では、事業者がその労働者に対して所定の安全衛生教育を行うことを義務付けており、違反した場合は罰則もあります。安全衛生教育は事業者に義務付けられているため、原則として所定労働時間内に行う必要があり、費用についても事業者が負担するものとされているのです。

安全衛生教育の対象者は、正社員だけでなく、パートやアルバイト、契約社員など、常時・臨時・日雇いなど雇用形態を問わずすべての労働者が含まれます。安全・衛生的に労働する権利は雇用形態によって変わるものではなく、雇用形態によって業務のリスクが変わるわけでもないため、あらゆる雇用形態の労働者に対しての教育が義務づけられているのです。

安全衛生教育の種類

労働安全衛生法により、事業者が行わなければならない安全衛生教育には複数の種類があります。義務となる主な教育を見ていきましょう。

雇入れ時教育

労働安全衛生法第59条第1項により、事業者は労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、その従事する業務に関する安全または衛生のための教育を行わなければなりません。

この教育は、新たに雇用契約を結んだすべての従業員が対象です。正社員はもちろん、パートやアルバイト、外国人労働者など、雇用形態を問わず実施する必要があります。

雇入れ時教育は、労働者が初めてその事業場で働く際に、安全に業務を遂行するために必要な基礎的な知識を習得する機会です。この教育を受けずに業務に就くことは、労働者自身だけでなく、周囲の労働者にも危険を及ぼす可能性があるでしょう。

作業内容変更時教育

労働安全衛生法第59条第2項により、事業者は労働者の作業内容を変更したときについても、雇入れ時教育と同様の教育を行わなければなりません。

事業場における作業内容の変更があった場合や、取り扱う設備機器の入れ替えなどを行った場合は、新たに作業内容変更時の教育が義務付けられています。この教育は新たな雇用者だけではなく、その業務に就くすべての従業員が対象です。

作業内容の変更には、配置転換や異動による業務変更だけでなく、新しい機械の導入や作業手順の変更なども含まれます。労働者が不慣れな作業を行う際には、事故のリスクが高まるため、適切な教育が必要なのです。

特別教育

労働安全衛生法第59条第3項により、事業者は危険または有害な業務で厚生労働省令で定めるものに労働者を就かせるときは、当該業務に関する安全または衛生のための特別の教育を行わなければなりません。

特別教育は、危険性が高い特定の業務に従事するすべての従業員に受講義務があり、同時に雇用者である事業者には受講してもらう義務があります。労働安全衛生規則第36条で定義されている特別教育が必要な危険有害業務には、以下のようなものがあるのです。

研削といしの取替えまたは取替え時の試運転の業務、アーク溶接機を用いて行う金属の溶接・溶断等の業務、最大荷重1トン未満のフォークリフトの運転、機体重量が3トン未満の機械で動力を用い、かつ不特定の場所に自走できるものの運転の業務、動力により駆動される巻き上げ機の運転の業務などが該当します。

職長教育

労働安全衛生法第60条により、建設業、製造業(一部業種を除く)、電気業、ガス業、自動車整備業、機械修理業において、事業者は新たに職務に就くことになった職長その他の作業中の労働者を直接指導または監督する者に対し、特に必要とされる事項についての安全または衛生のための教育を行う必要があります。

職長とは、作業現場で労働者を直接指導・監督する立場の人のことです。職長の安全意識や管理能力が、現場の安全レベルに大きく影響するため、特別な教育が義務付けられているのです。

職長教育では、作業方法の決定および労働者の配置に関すること、労働者に対する指導または監督の方法に関すること、リスクアセスメントの実施に関すること、異常時等における措置に関することなどについて学びます。

雇入れ時教育の内容

雇入れ時教育と作業内容変更時教育で実施すべき内容は、労働安全衛生規則第35条で以下の8項目が定められています。

1つ目は、機械等、原材料等の危険性または有害性およびこれらの取扱い方法に関することです。使用する機械や原材料にどのような危険があるのか、安全に取り扱うにはどうすればよいかを学びます。

2つ目は、安全装置、有害物抑制装置または保護具の性能およびこれらの取扱い方法に関することです。安全装置の目的や正しい使い方、保護具の着用方法などを理解します。

3つ目は、作業手順に関することです。業務をどのような順序で、どのように進めるかを明確にし、安全な作業方法を習得するのです。

4つ目は、作業開始時の点検に関することです。作業を始める前に確認すべき事項や点検方法について学びます。

5つ目は、当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因および予防に関することです。業務に起因する健康障害のリスクと、その予防方法を理解します。

6つ目は、整理、整頓および清潔の保持に関することです。作業環境を安全に保つための基本的な習慣について学ぶのです。

7つ目は、事故時等における応急措置および退避に関することです。万が一事故が発生した際の対応方法や、危険な状況からの避難方法を習得します。

8つ目は、前各号に掲げるもののほか、当該業務に関する安全または衛生のために必要な事項です。業務の特性に応じて、追加で必要な教育を行います。

ただし、労働安全衛生規則第35条第2項により、事業者は教育項目の全部または一部に関し十分な知識および技能を有していると認められる労働者については、当該事項についての教育を省略することができます。たとえば、過去に同様の作業を経験しており、安全な作業手順や保護具の使用方法を熟知している場合、教育の一部を省略することが可能です。

また、労働安全衛生法施行令第2条第3号に掲げる業種(その他の業種)の事業場の労働者については、第1号から第4号までの事項についての教育を省略することができます。事務作業などが中心で該当する業務に従事しない労働者には、機械等の危険性や作業手順などの教育を省略できるのです。

努力義務の教育

労働安全衛生法では、義務として定められている教育のほかに、努力義務として推奨される教育もあります。

能力向上教育

労働安全衛生法第60条の2により、事業者は危険または有害な業務に現に就いている者に対し、その従事する業務に関する安全または衛生のための教育を行うように努めなければなりません。

能力向上教育は、安全衛生業務に従事する者の能力を維持・向上させるため、対象者へ実施する安全衛生教育のことをいい、事業者の努力義務とされています。対象者には、安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、衛生推進者などが含まれるのです。

事業者には教育を行う「努力義務」が課せられており、労働者が現場で安全に業務を続けられるよう、定期的な再教育やフォローを行うことが推奨されています。努力義務は法的な義務ではないものの、労働環境の安全性を維持し、労働災害を防ぐためには重要です。

初任時に教育を行ったのち、定期教育や大きな作業替えが生じた際に随時教育をするという流れで実施します。社会経済情勢の変化に対応しつつ、事業場の安全衛生の水準の向上を図るため、継続的な教育が求められるのです。

健康教育

労働安全衛生法第69条により、事業者は労働者に対して健康教育や健康保持増進を図る措置を継続的かつ計画的に実施するように努める必要があります。また、労働者は事業者が講ずる措置を利用して、自身の健康の保持・増進に努めるものとされているのです。

健康教育は、労働者一人ひとりが自身の健康について目を向け、健康維持・増進に努められるようサポートするものです。生活習慣病予防、メンタルヘルス対策、禁煙指導など、労働者の健康保持増進に関する幅広いテーマが対象となります。

厚生労働省は「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」を定めており、健康保持増進措置が適切で有効に実施されるよう、事業者に努力を求めているのです。

安全衛生教育の実施方法

安全衛生教育を効果的に実施するための流れと方法を見ていきましょう。

実施計画の策定

まず、教育の種類ごとに対象者や実施時間、実施場所、講師、教材等を定めた年間の実施計画を作成します。労働者の職業生活を通じての継続的な教育を実施するために、中長期的な教育計画を作成することが望ましいとされているのです。

計画を策定する際には、以下の点を考慮しましょう。対象者の特定(新入社員、配置転換者、特定業務従事者など)、実施時期の設定(入社時、配置転換時、定期的な時期など)、教育時間の確保(所定労働時間内での実施)、講師の選定(社内の熟練者または外部の専門機関)、教材の準備(マニュアル、動画、実機など)です。

教材と講師の準備

教育に使用する教材を準備します。カリキュラムや資料を一から作成するのは大変な作業ですが、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では、日本語の安全衛生教育教材のほか、外国語版(13か国語)も掲載されています。これらを活用することで、教材準備の負担を軽減できるでしょう。

講師については、事業場の業務内容と危険を理解している熟練の従業員が教育するのが理想です。ただし、該当者がいない場合や、専門的な内容を教える必要がある場合は、安全衛生団体などへの委託を検討しましょう。

能力向上教育については、当該業務に関する最新の知識と教育技法に関する知識・経験を有する者が講師を務めます。該当者がいれば事業所内で教育を実施することも可能ですが、該当者がいない場合は外部委託が推奨されるのです。

教育の実施

教育は、原則として所定労働時間内に実施します。費用も事業者が負担するものとされているため、労働者に金銭的な負担をかけることは避けるべきです。

教育方法としては、座学だけでなく、実技訓練や実機を使った演習を取り入れることで、より実践的な知識とスキルを習得できます。特に、危険な作業や複雑な手順については、実際に体験しながら学ぶことが効果的でしょう。

近年では、動画講座を活用した教育も増えています。従業員にわかりやすく学べる動画講座を受講してもらう方法は、時間や場所の制約が少なく、繰り返し学習できるメリットがあるのです。

記録の保管

安全衛生教育を実施したら、その記録を適切に保管することが重要です。教育の実施日、受講者名、教育内容、講師名などを記録し、保管しましょう。

労働基準監督署の監督指導において、安全衛生教育の実施状況が確認されることがあります。適切な記録を保管しておくことで、教育を確実に実施していることを証明できるのです。

また、労働災害が発生した場合、事業者が適切な安全衛生教育を実施していたかが問われることがあります。教育記録は、事業者が安全配慮義務を果たしていることを示す重要な証拠となるでしょう。

罰則について

安全衛生教育の実施を怠った場合、どのような罰則があるのでしょうか。

労働安全衛生法では、労働災害や事故を発生させたら罰するといった条文はなく、必要な施策をすべて実行していた場合は発生しても罰しないという構成になっています。しかし、現場で必要な安全対策や安全衛生教育を怠って事故が発生した場合は、罰せられるという構成になっているのです。

労働安全衛生法により、所定の安全衛生教育を行うことは事業者の義務とされており、違反した場合は罰則があります。令和3年の監督指導において、県内で安全衛生教育の違反を指摘された件数は47件にのぼったという報告もあるのです。

具体的な罰則としては、労働安全衛生法第59条(雇入れ時教育、作業内容変更時教育、特別教育)および第60条(職長教育)に違反した場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります。また、労働基準監督署から是正勧告を受け、企業名が公表されるリスクもあるでしょう。

努力義務である能力向上教育や健康教育については、罰則はありません。しかし、労働環境の安全性を維持し、労働災害を防ぐためには、これらの教育も積極的に実施することが推奨されます。

まとめ

安全衛生教育について、基本から義務となる種類、具体的な内容、実施方法まで解説しました。

安全衛生教育とは、労働災害防止を目的として、労働者に安全・衛生に関する知識や技能を付与する教育のことです。労働安全衛生法により、事業者には労働者に対する教育が義務付けられており、原則として所定労働時間内に実施し、費用は事業者が負担します。

義務となる教育の種類は、雇入れ時教育、作業内容変更時教育、特別教育、職長教育です。雇入れ時教育と作業内容変更時教育では、機械等の危険性、安全装置の取扱い、作業手順、作業開始時の点検、疾病の予防、整理整頓、応急措置など8項目について教育を行います。

特別教育は、危険または有害な業務に従事する労働者に対して実施する専門的な教育で、研削といしの取替え、アーク溶接、フォークリフト運転など、特定の業務が対象です。職長教育は、建設業や製造業など特定の業種において、作業を直接指導・監督する者に対して実施します。

努力義務の教育としては、能力向上教育と健康教育があります。これらは法的な義務ではありませんが、労働環境の安全性を維持し、労働災害を防ぐために重要です。

実施方法は、年間計画の策定、教材と講師の準備、教育の実施、記録の保管という流れで進めます。厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では教育教材が公開されており、外部委託も可能です。

義務となる教育を怠った場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります。安全衛生教育は、労働者の安全と健康を守るための重要な取り組みです。本記事を参考に、適切な教育を実施していきましょう。