健康診断は経費になる?勘定科目・条件・法人と個人事業主の違いを解説
2025年 12月 5日

「健康診断の費用は経費にできるのか」「勘定科目は何を使えばいいのか」「経費にするための条件は何か」―このような疑問を抱えていませんか。
健康診断の費用処理は、税務調査でも確認されやすいポイントであり、適切な処理が求められます。法人が従業員を対象に実施する健康診断の費用は、原則として福利厚生費として経費計上が可能ですが、条件を満たさない場合は給与として課税される可能性があるのです。
本記事では、健康診断費用の経費処理について、勘定科目から経費にできる条件、法人と個人事業主の違い、具体的な仕訳例まで詳しく解説します。経理担当者や人事担当者の方が、適切に処理できる情報を提供いたします。
健康診断の経費処理の基本
健康診断の費用が経費になるかどうかは、法人と個人事業主で異なります。まずは基本的な考え方を確認しましょう。
法人が従業員を対象に実施する健康診断の費用は、原則として「福利厚生費」として経費に計上することが認められています。従業員の健康を守り、心身ともに万全な状態で業務に臨んでもらうためです。レクリエーションやメンタルケアなどと同様に、法定外福利厚生の一環として位置づけられます。
労働安全衛生法により、企業には従業員に対して健康診断を実施する義務が課せられています。ただし、健康診断の費用を企業が負担しなければならないという法律上の義務はありません。しかし、従業員が健康診断を受けやすい環境を作るためにも、福利厚生の一環として企業が費用を負担することが一般的です。
一方、個人事業主本人が受ける健康診断費用については、事業に直接関係しない個人の支出とみなされるため、経費に含められません。個人事業主は法人と異なり、健康診断が義務付けられているわけではなく、あくまでも個人のための健康診断だからです。
健康診断の費用処理を誤ると、源泉所得税の徴収漏れや従業員の所得税・住民税の支払い漏れにつながる可能性があります。税務上の扱いを正しく理解することが重要でしょう。
健康診断の勘定科目
健康診断の費用を処理する際の勘定科目について、法人と個人事業主に分けて解説します。
法人の場合
法人が従業員の健康診断費用を負担する場合、勘定科目は「福利厚生費」となります。仕訳の例は次の通りです。
例:従業員10名の健康診断費用として10万円を医療機関に支払った場合
借方:福利厚生費 100,000円
貸方:普通預金 100,000円
福利厚生費として計上することで、企業の経費として損金算入が可能になります。これにより、企業の税負担を軽減できるのです。
ただし、後述する条件を満たさない場合は、福利厚生費として計上できず、給与や役員報酬として扱われます。その場合、従業員や役員の所得税の対象となるため注意が必要です。
個人事業主の場合
個人事業主自身が健康診断を受けた際に支払った費用は、原則として経費として計上することはできません。事業用の口座から健康診断の費用を支払った場合、勘定科目は「事業主貸」となります。
例:個人事業主自身の健康診断費用1万円を事業用の口座から支払った場合
借方:事業主貸 10,000円
貸方:普通預金 10,000円
事業主貸とは、事業用のお金をプライベートで支出したことを表す勘定科目です。これは経費ではなく、事業資金の個人的な引き出しとして処理されます。
ただし、個人事業主が従業員を雇用している場合は、従業員の健康診断費用を福利厚生費として経費計上できます。この場合は法人と同様の処理となるのです。
経費にできる3つの条件
健康診断の費用を福利厚生費として経費計上するには、3つの条件をすべて満たす必要があります。これらの条件を1つでも満たさない場合、経費として計上できず、給与として課税されるため注意しましょう。
全従業員が対象
健康診断費用を経費で落とすには、全従業員が対象で、全員が同じ検査内容であることが必要です。対象が一部の従業員だけである場合や、一部の従業員だけ別の内容である場合は、経費として計上できない可能性があります。
特定の役職者や社員のみを対象にした健康診断では、福利厚生費として認められません。会社全体の福利厚生として実施されることが求められます。役員のみに実施される健康診断(人間ドック含む)の料金は、給与や役員報酬として扱われ、所得税が課税されるのです。
ただし、一定の年齢制限を設けることは認められています。たとえば、「40歳以上の従業員には人間ドックを受けさせる」といった年齢による区分は、合理的な理由があれば許容される場合があります。
また、正社員の健康診断のメニューとパート・アルバイトのメニューが異なる場合も、経費とはみなされません。雇用形態に関わらず、同じ条件で健康診断を受けられることが重要です。
常識的な金額
福利厚生費として計上できる健康診断の費用は、常識の範囲で行うものに限るとされています。
高額な宿泊などがセットになった人間ドックの費用に関しては、福利厚生費として認められません。これは、宿泊部分に関しては本来人間ドックと関連はなく、会社と提携していないレクリエーションとみなされるためです。
国税庁の質疑応答事例では、2日間程度の人間ドックについて「給与等として課税する必要はない」と明示しています。しかし、宿泊付きの高額な人間ドックや、通常の健康診断と比較して著しく高額な検査は、福利厚生の範囲を超えるとみなされる可能性があるのです。
また、がん検診などで高額な費用がかかった場合も経費ではなく、自己負担となります。特に、全身を調べる「PET検査」では、費用は10万円前後と高額ですが、これらは全額自己負担となるのです。
会社が直接支払う
会社が直接医療機関などに支払う場合は福利厚生費として処理可能です。しかし、従業員に現金で支給する場合は「給与」とみなされ、所得税が課される可能性があります。
従業員に健康診断の費用を立て替えてもらい、後で支払う場合も、経費とはみなされません。あくまでも企業が医療機関に直接費用を支払うことが条件となっているのです。
この条件は、健康診断の実施を確実にするためのものです。現金支給の場合、従業員が健康診断以外の目的で使用する可能性があり、福利厚生の趣旨から外れてしまうためでしょう。
経費にできないケース
条件を満たさない場合、健康診断の費用は経費として計上できず、給与として扱われます。具体的なケースを見ていきましょう。
役員のみが対象
会社役員のみに福利厚生を適用することに関しては、会社法に定められた役員報酬に関する規定から、経費計上ができないとされています。
役員と従業員が健康診断を受けていても、診断項目に差をつけると福利厚生費ではなく、給与とみなされ課税対象となるのです。役員だけが豪華な人間ドックを受けるといった場合は、その差額部分が役員報酬として課税されます。
ただし、従業員と同様に役員も健康診断を受ける場合、全従業員と同じ条件であれば経費で計上できる場合もあります。重要なのは、全員が同じ条件で受診できることです。
給与として扱われる場合
3つの条件を1つでも満たさない場合は経費計上できず、事業主が払った役員や従業員の健診費用は、給与や報酬として見なされて課税されます。経費にできない健診費用は、事業主が従業員に提供した経済的利益と見なされるからです。
例として、基本給30万円の従業員が1万円の健診を受けたケースをシミュレーションします。
健診費用が給与と見なされた場合の支給額
基本給300,000円+健診費用10,000円=総支給額310,000円
よって、総支給額310,000円に対して、所得税や社会保険料などが計算されます。給与として見なされることを知らないと、源泉所得税の徴収漏れや、従業員の所得税・住民税の支払い漏れにつながるため注意が必要です。
個人事業主本人
個人事業主および青色事業専従者の家族の健康診断は、経費として落とせません。
青色事業専従者とは、青色申告者の事業で働く家族従業員のことを指します。青色事業専従者が受診する健康診断の支出も、個人事業主と同様に経費性が認められないため、経費に計上できません。
個人事業主は法律上、健康診断の受診が義務づけられていないことから、経費性が認められないのです。青色事業専従者は事業主により近い立場にある分、他の従業員とは取り扱いが異なる点に注意が必要でしょう。
人間ドックの扱い
人間ドックの費用も、条件を満たせば経費計上が可能です。
国税庁の質疑応答事例では、2日間程度の人間ドックについて「給与等として課税する必要はない」と明示しています。つまり、通常の健康診断と同様に、人間ドック代も経費計上可能なのです。
ただし、特定の人だけ人間ドックを受ける際は注意しましょう。この場合も、先ほど解説した「経費にできる3つの条件」を全部満たすことが必要です。全従業員が対象で、常識的な金額で、会社が直接医療機関に支払うという条件です。
宿泊付きの高額な人間ドックや、一部の役員だけが受ける豪華な人間ドックは、福利厚生の範囲を超えるとみなされます。あくまでも「常識の範囲内」であることが重要です。
また、人間ドックのオプション検査についても、全従業員に提供されるものであれば経費計上が可能ですが、一部の従業員だけが受けるオプションは給与として扱われる可能性があるでしょう。
医療費控除との関係
健康診断費用と医療費控除の関係について理解しておきましょう。
健康診断費用は、原則として医療費控除の対象外です。これは、健康診断は病気の治療に伴う費用ではないため、医療費控除の対象とはならないからです。
医療費控除とは、一定の医療費を支払った個人が、その金額を所得から差し引くことができる制度です。病気やケガで大きな医療費が発生した場合に、税負担を軽減するために設けられています。
ただし、健康診断で万が一、病気が見つかり治療が必要になったときには、健康診断の費用も医療費控除の対象になります。健康診断の結果、重大な疾病が見つかり治療を行った場合、その健康診断費用は「医療費控除」の対象となるのです。
この場合、健康診断が病気の発見につながったとみなされ、治療の一環として医療費控除が認められます。健康診断の領収書は大切に保管しておきましょう。
消費税の扱い
健康診断の費用には消費税がかかるのでしょうか。
結論から言うと、健康診断には消費税がかかります。国税庁は、非課税となる取引の一つに「社会保険医療の給付等」を挙げています。その内容は、「健康保険法、国民健康保険法などによる医療、労災保険、自賠責保険の対象となる医療など」というものです。
健康診断は、これらの社会保険医療の給付には該当しないため、消費税の課税対象となります。企業が医療機関に健康診断の費用を支払う際には、消費税込みの金額を支払うことになるのです。
仕訳の際には、消費税を含めた金額で処理するか、消費税を区分して処理するかは、企業の会計方針によります。税込経理方式を採用している場合は、消費税込みの金額を福利厚生費として計上します。税抜経理方式を採用している場合は、本体価格を福利厚生費、消費税額を仮払消費税として処理するのです。
まとめ
健康診断費用の経費処理について、勘定科目から条件、法人と個人事業主の違いまで解説しました。
法人が従業員を対象に実施する健康診断の費用は、原則として「福利厚生費」として経費に計上することが認められています。ただし、経費にするには3つの条件をすべて満たす必要があります。全従業員が対象であること、常識的な金額であること、会社が直接医療機関に支払うことです。
これらの条件を1つでも満たさない場合、健康診断の費用は給与として扱われ、従業員や役員の所得税の対象となります。役員のみが対象の健康診断、宿泊付きの高額な人間ドック、従業員が立て替えた費用の後払いなどは、経費として計上できません。
個人事業主本人が受ける健康診断費用は、事業に直接関係しない個人の支出とみなされるため、経費に含められません。事業用の口座から支払った場合は「事業主貸」として処理します。ただし、個人事業主が従業員を雇用している場合は、従業員の健康診断費用を福利厚生費として経費計上できます。
人間ドックの費用も、条件を満たせば経費計上が可能です。国税庁は2日間程度の人間ドックについて、給与等として課税する必要はないと明示しています。
健康診断費用は税務調査でも確認されやすいポイントです。適切な勘定科目の選定と仕訳を心がけ、条件を満たした形で福利厚生費として計上しましょう。不明な点がある場合は、税理士に相談することをおすすめします。





