ストレスチェック実施者とは?選び方や外部委託の判断基準を解説
2025年 8月 20日

ストレスチェック制度の成功は、適切な実施者の選択から始まります。
ストレスチェックの実施者になれる人は決まっており、選定する際に重要なポイントもあります。
本記事では、医師や保健師などの資格要件、外部委託の判断基準、実施フローまで、人事担当者が知っておくべき重要ポイントを詳しく紹介しています。
実施者によって労働者は正直な回答をためらう可能性があり、ストレスチェックの信頼が落ちる可能性もあります。実施の参考にしてみてください。
ストレスチェック実施者とは?
ストレスチェックの実施者とは、ストレスチェックを企画し、結果の評価をする人のことです。多くの担当者が混同しがちですが、実施者は企業内の社員ではありません。
労働安全衛生法では、実施者は「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者」と規定されています。実施者になれる人は、以下の資格を持つ専門職に限られます。
- 医師
- 保健師
- 厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師
ストレスチェック実施者の役割
ストレスチェック実施者は、労働安全衛生法に基づき、質問票や評価方法の選定、実施方法の企画など制度全体の設計に関与します。
実際に従業員へ質問票を配布・回収して回答結果を分析し、高ストレス者を判定します。判定結果は本人のみに通知し、同意がない限り事業者や上司には開示せず、必要に応じて医師による面接指導の受診を勧め、その手続きや連絡も行います。
また、個人が特定されない形で部署や組織単位の集団分析を行い、職場環境改善に向けた助言を事業者に提供します。これらの過程で、守秘義務を徹底し、労働者の健康保持を最優先に考えながら、中立的な立場で記録の安全な保存や廃棄も行うことが求められます。
実施者になれる資格・職種一覧
ストレスチェックの実施者になるための資格と職種は以下の通りです。
医師(産業医・精神科医等)
ストレスチェック実施者の中で、最も一般的なのは医師です。特に産業医は事業場の状況を把握しており、実施者として最適とされています。産業医であれば、ストレスチェック後の面接指導もスムーズに実施できるメリットがあるでしょう。
保健師
ストレスチェック実施者には、職種によっては事前の研修が必要な場合もありますが、保健師は研修なしでストレスチェック実施者になることができます。職域保健の専門家として、労働者の健康管理に関する豊富な知識と経験を備えています。
看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師で研修を修了した者
看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師は、厚生労働大臣が定める研修を修了することで実施者になれます。また、看護師、精神保健福祉士で、平成27年11月30日までに3年以上労働者の健康管理業務に従事した経験を持つ人は研修が免除されます。
実施者になれない人:例外
労働者が安心して率直に回答できる環境確保のため、実施者になれない人が明確に定められています。
人事権を持つ人
例:事業者(会社の社長や経営者)、人事部長、人事課長、上司(直属の管理職)
事業者や人事権を持つ管理職が実施者となると、労働者は正直な回答をためらう可能性があります。結果を不当に利用するおそれがあるため、評価や人事決定に関わる人は除外されています。
資格を持たない医療・福祉関係者
産業医や保健師、公認心理師などの資格を持たず、厚生労働省が認める研修を修了していない人も該当します。要するに、実施者は専門性と中立性を兼ね備えていることが必須条件であり、それを満たさない場合は例外として認められません。
▼参考:厚生労働省 ストレスチェック制度導入ガイド
▼参考:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル
ストレスチェック実施事務従事者とは?
ストレスチェック実施事務従事者とは、実施者の指示を受けて、調査票の回収・集計・データ入力などを行い実施者を補助する役割の人です。
実施者が医師や保健師などの専門職である一方、実施事務従事者には特別な資格は必要ありません。事業者は、実施事務従事者を指名することができ、1〜2名ほど配置するケースが多いです。
ストレスチェック実施事務従事者の役割
実施事務従事者は、あくまで実施者の指示のもとで事務的な業務を担当します。結果の評価や高ストレス者の判定などの専門的判断は実施者が行う業務であり、実施事務従事者が単独で判断することはできません。
ストレスチェック実施事務従事者の主な業務内容
- 実施日程の調整・連絡
- ストレスチェック調査票の配布・回収
- 個人の調査票のデータ入力
- ストレスチェック結果の出力
- 記録の保存
- 受検者への結果通知
- 労働者に面接指導の申し出勧奨
実施事務従事者になれない人:例外
労働者が安心してストレスチェックを受検できるよう、なれない人が明確に定められています。
人事権を持つ人
例:事業者(会社の社長や経営者)、人事部長、人事課長、上司(直属の管理職)
ストレスチェック実施者と同様に、受検者への人事権を持つ者は実施事務に携わってはいけないとされています。人事権を持つ者は、結果を人事評価や処遇に利用するおそれがあるため、例外として実施事務従事者になることは認められていません。実施事務従事者となった場合、労働者は不安を感じ、正直な回答を避ける可能性も考えられます。
▼参考:厚生労働省 ストレスチェック制度導入ガイド
▼参考:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル
ストレスチェック実施者の外部委託の判断基準
ストレスチェック制度を適切に運用するためには、自社での実施と外部委託のどちらを選択するかが重要な判断ポイントです。外部委託を検討すべき状況は4つのケースに分類できます。
事業場内に資格者がいない
最も明確な外部委託の判断基準は、社内にストレスチェック実施者の資格を持つ人材がいない場合です。労働安全衛生法では、ストレスチェックの実施は必ず実施者資格を持つ者が行うこととされており、資格者が社内にいない場合は、自社単独での実施はできません。
社内資格者が人事評価や労務管理に関与している
社内に医師や保健師がいても、人事権を持っていたり労務管理に直接関与したりする場合は外部委託を検討しましょう。労働者が安心して正直に回答するためには実施者の中立性が重要です。
実施者に十分な時間や体制がない
社内に資格を持つ実施者がいても、十分な時間や実施体制が確保できない場合は、外部委託を検討する方が安全かつ確実です。 ストレスチェックは、質問票の配布・回収、結果の評価・通知、高ストレス者への面接指導勧奨、集団分析、記録の安全管理など、多くの工程を伴い、守秘義務や中立性も厳密に求められます。社内実施者の業務負荷が高い状態では、結果通知の遅延や記録管理の不備などのリスクが生じやすく、制度の信頼性にも影響します。
匿名性・中立性をより強く確保したい場合
匿名性を高め労働者が受検しやすくするために、外部委託を選択するケースも増えています。社内窓口では話しにくい内容も外部機関なら相談しやすく、高ストレス者が面接指導を受けやすくなるでしょう。
ストレスチェックはどのように実施される?
ストレスチェック制度の全体的な流れを理解することで、実施者や実施事務従事者の役割がより明確になります。6つのステップでのそれぞれの役割分担を明確にして、1年以内ごとに1回、行われる効果的なストレスチェック制度を構築しましょう。
1. 実施体制の整備(事前準備)
事業者 衛生委員会で実施方法・時期・対象者・質問票などを決定し、実施者・実施事務従事者を選任します。この段階での決定が制度全体の成功を左右するため、慎重な検討が必要です。
ストレスチェック実施者 実施計画の策定に助言し、匿名性確保のための実施体制をチェックします。 具体的な、質問票や評価方法の選定、実施スケジュールの設計、判定基準の設定も行います。 特に個人情報の取り扱いや結果の管理方法について、専門的な観点からアドバイスを行います。
ストレスチェック実施事務従事者 事務フローの整備、記録管理方法の準備、従業員リストや配布スケジュールの準備を行います。
2. ストレスチェックの周知・説明
事業者 従業員へ制度の目的・方法・結果の取扱いを説明します。労働者の理解と協力を得るため、制度の意義や個人情報保護などを丁寧に説明することが大切です。
ストレスチェック実施者 質問票内容や面接指導の流れを補足説明し、プライバシー保護を強調します。専門的な観点から従業員の不安を解消する説明を行います。
ストレスチェック実施事務従事者 実施日程・配布方法の案内を行い、実施がスムーズに進むよう事務的なサポートをします。
3. ストレスチェックの実施
事業者 ストレスチェックの実施に関わることはできません。
ストレスチェック実施者 回答内容の評価を行います。また、法定基準や職場状況を考慮して高ストレス者の判定も行いましょう。これらは実施者にしか行えない専門的業務です。
ストレスチェック実施事務従事者 回答用紙の配布や回収、データ入力、評価点数の算出などストレスチェック結果の出力を担当します。
4. ストレスチェックの結果通知
事業者 会社の社長や経営者、人事部長、人事課長、上司などは、従業員の個人結果を受け取りません。本人が同意した場合のみ情報を知ることができます。
ストレスチェック実施者・実施事務従事者 個人ごとに結果を作成し、実施者の名前で実施事務従事者が直接本人へ通知します。高ストレス者に面接指導の申出方法を案内することも重要な業務です。
従業員 面接指導を希望する場合は申出を行います。申出は任意ですが、メンタルヘルス不調の予防のため積極的な活用が推奨されます。
5. 高ストレス者に対する面接指導
事業者 従業員からの申出受付、面接指導の実施手配を行います。医師意見書に基づく就業上の措置の検討も重要です。
ストレスチェック実施者(または産業医) 面接指導を実施し、就業上の措置を事業者に意見書で提出します。労働者の状況を専門的に評価し、適切な配慮事項を提案します。
6. 集団分析・職場改善
事業者・衛生委員会 集団分析結果を受け、必要に応じて職場環境改善策を実施します。ストレスの高い部署や要因を特定し、具体的な改善策を検討しましょう。 ただし、集団規模が10人未満の場合は個人が特定されるおそれがあります。全員の同意がない限り結果の提供を受けてはいけません。
ストレスチェック実施者 部署別など集団単位で集計し、個人が特定できない形で事業者へ報告します。
ストレスチェック実施事務従事者 集団分析用データの整理、資料作成補助を行います。
▼参考:厚生労働省 ストレスチェック制度 導入マニュアル ▼参考:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル
まとめ:適切な実施者選択で健康経営を成功させよう
ストレスチェック制度の成功は、適切な実施者の選択から始まります。自社の状況に応じた最適な実施体制の構築が重要です。
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ストレスチェックは従業員のメンタルヘルス向上と組織の生産性向上を実現する健康経営の重要なツールです。適切な実施者を選択して、従業員が安心して働ける職場環境を構築しましょう。