男性の更年期とは|症状・原因・治療法と企業の健康経営対策を解説
2025年 12月 5日

「最近、疲れが取れない」「やる気が出ない」「イライラしやすくなった」―このような不調を感じていませんか。それは、男性の更年期障害かもしれません。
更年期というと女性特有のものと思われがちですが、実は男性にも更年期があります。厚生労働省の調査によると、男性の8割以上が男性更年期について「知らない」または「詳しく知らない」と回答しており、認知度の低さが課題となっているのです。
本記事では、男性の更年期について、症状や原因、診断方法、治療法から企業の健康経営における対応まで詳しく解説します。自身の健康管理や職場の従業員サポートに役立つ情報を提供いたします。
男性の更年期とは
男性の更年期とは、加齢に伴い男性ホルモンであるテストステロンの分泌が低下することで引き起こされる心身の不調のことです。医学的には「LOH症候群(Late-Onset Hypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)」と呼ばれています。
女性の更年期障害は、女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少する閉経前後のおよそ10年間に起こり、閉経後は徐々に慣れて症状は治まっていきます。一方、男性の場合は男性ホルモン(テストステロン)が一般的に中年以降、加齢とともに穏やかに減少するのです。
減少の速さや度合い、時期は個人差が大きく、女性と似た更年期症状が男性では40歳代以降どの年代でも起こる可能性があります。また、女性は閉経という明確な節目がありますが、男性にはそのような分かりやすい節目がないため、診断が遅れることも少なくありません。
テストステロンは、筋肉や骨をつくる、性機能にかかわるといった働き以外にも、精神面や認知機能などにも深く関わる重要なホルモンです。このホルモンが低下することで、身体的、精神的、性機能関連のさまざまな症状が現れます。
厚生労働省が2022年に実施した調査では、全年代で8割以上の男性が男性更年期について「知らない」または「聞いたことはあるが詳しく知らない」と回答しています。認知度の低さから、心身の不調があらわれても「もしかしたら更年期障害かもしれない」と思い当たらず、実は不調に悩んでいる男性が身近に多く存在している可能性があるのです。
男性の更年期の症状
男性の更年期に伴う症状は、身体的なものから精神的、性機能関連の症状まで幅広く現れます。症状の重さや種類は個人によって異なり、複数の症状が同時に出ることも少なくありません。
身体的症状
身体症状としては、ほてりや発汗といったいわゆる更年期症状が挙げられます。突然の顔のほてりや汗をかきやすくなることで、日常生活に支障をきたすこともあるでしょう。
また、身体がだるい、疲労感が取れない、筋力低下、骨密度低下といった症状も特徴的です。階段の上り下りがつらくなったり、以前と同じ運動をしても疲れやすくなったりする変化を感じる人もいます。
その他、頭痛、めまい、耳鳴り、動悸、関節痛・筋肉痛なども現れることがあります。さらに、内臓脂肪の増加によってお腹がポッコリと出た肥満体型になることもあるのです。テストステロンには筋肉や骨を作る作用があるため、分泌量の減少によって筋力が低下し、代わりに脂肪が増加しやすくなります。
尿の勢いが悪い、頻尿、夜間頻尿などの排尿症状を伴うこともあります。トイレが近くなるなど頻尿の症状を感じている場合も、男性ホルモンの減少を疑う必要があるでしょう。
精神的症状
精神的な症状としては、不眠、無気力、元気がない、怒りやすい、なんとなくイライラする、集中力や記憶力の低下、認知力の低下などが挙げられます。
気分が沈む、憂うつになる、さまざまな不安感を抱く、食欲低下といった症状は、うつ病との鑑別が極めて困難です。実際、男性の更年期障害なのかうつ病なのか、見極めが難しいケースも少なくありません。
仕事へのモチベーションが低下し、出社が億劫になることもあります。職場での責任や子どもの教育問題によるストレスも大きく影響し、体の不調だけでなく、心の不調を訴える人が多いのです。
これらの精神的症状は、本人だけでなく周囲の人間関係にも影響を及ぼす可能性があります。家庭や職場でのコミュニケーションに支障をきたし、孤立感を深めてしまうケースもあるでしょう。
性機能の症状
性機能関連の症状としては、性欲の減退が顕著に現れます。これは女性の更年期障害との大きな違いの一つです。
早朝勃起現象(朝立ち)の消失や勃起不全(ED)といった男性機能の低下が起こることが多く、「勃起する時間が短くなった」「朝立ちの回数が減った」などの変化を感じたら、男性ホルモンの減少を疑う必要があります。
男性ホルモン(テストステロン)の減少で起こる代表的な症状にED(勃起障害)があり、60歳代の日本人の60%以上にみられ、珍しいことではありません。女性は閉経によって生殖機能の終わりを迎えますが、男性はその終わりがなく、80歳、90歳になっても勃起します。
EDは、かつては気のもちようだとか、糖尿病などの生活習慣病が悪化して起こるとされてきましたが、近年"血管病"としてもとらえられています。陰茎の動脈は非常に細いため初期の動脈硬化でも影響が現れやすく、EDは"最初に自覚できる生活習慣病"だと考えられるのです。
男性の更年期の原因
男性の更年期は、主に男性ホルモン(テストステロン)の減少によって引き起こされます。
テストステロンは20歳をピークに加齢とともに徐々に減少していきます。一般的には40代後半から症状を感じる方が多いようですが、減少の度合いは個人差があるため、30代で発症する方もいれば、60代を超えてから症状が現れる方もいて本当にさまざまです。
テストステロンの低下には、加齢だけでなく、重度のストレスや環境の変化なども大きく影響します。職場での責任が増す時期や、家庭での役割の変化、経済的なプレッシャーなどが重なると、血液中のテストステロンが急激に減少することがあるのです。
男性ホルモンの分泌が急激に減少すると、男性更年期障害(LOH症候群)の症状が顕著に現れやすくなります。また、加齢とともに徐々に男性ホルモンが減少している場合にも、症状が少しずつ現れてくることがあるでしょう。
最近の研究では、加齢に加えて、肥満や強いストレスがホルモン減少を加速させることもわかってきています。生活習慣の乱れや運動不足、睡眠不足なども、テストステロンの低下を早める要因となるのです。
ただし、テストステロンが低下しても症状には個人差が大きく、症状が起こらない方もいます。同じようにホルモンが低下していても、生活環境や体質によって症状の現れ方が異なるため、一概に判断することはできません。
男性の更年期の診断
男性の更年期障害かどうかを調べるためには、いくつかの診断方法があります。
セルフチェック
男性更年期障害の診断に広く用いられているセルフチェックシートとして、「AMSスコア(Aging Male's Symptoms score)」があります。性機能に関連する質問が5項目、身体機能関連が7項目、心理関連が5項目の計17項目からなるものです。
各項目を5段階評価で、「なし」1点、「軽い」2点、「中等度」3点、「重い」4点、「非常に重い」5点として採点します。27〜36点が軽度、37〜49点が中等度、50点以上が重度と判定されるのです。
このようなチェックリストを活用することで、症状の進行に気づきやすくなります。特に40代後半から50代にかけて、変化が見られる場合は、男性更年期を疑い、早期に医師に相談することが重要でしょう。
受診する診療科
男性更年期障害(LOH症候群)の診療は、主として泌尿器科で行われることが多いです。それ以外では内科や心療内科、精神科、整形外科などでも診療しているところはあるようです。
性機能に関連した症状が中心の場合は泌尿器科、身体症状が中心であれば内科、精神症状が中心であれば心療内科や精神科を受診するとよいでしょう。最近では、性機能専門外来を設けている医療機関もあります。
ただし、希死念慮(死にたいと思うこと)などがある場合にはすぐに精神科専門医へ受診することが大切です。重度のうつ病であれば精神科での治療が優先されます。
血液検査
医療機関では、血液検査を行い、男性ホルモンがどの程度分泌されているかを調べます。その際、男性ホルモンの分泌にかかわる項目も調べるのです。
遊離テストステロン値を測定し、遊離テストステロン7.5pg/ml未満を男性ホルモン低下、7.5〜11.8までをボーダーラインとして、男性更年期障害と診断します。最近では、諸外国と同様に「総テストステロン」の値を測定することも提唱されています。
糖代謝(糖尿病)、脂質(高脂血症)、赤血球(多血症)、肝臓機能、腎臓機能なども測定します。また、前立腺がんが潜んでいないか調べるために腫瘍(前立腺)マーカーであるPSAの測定も行うのです。
症状によっては心電図、睡眠時無呼吸検査を行うこともあります。男性ホルモン低下の原因として精巣の異常が見つかることがあるため、精巣の萎縮がないか診察を行う場合もあるでしょう。
男性の更年期の治療法
男性更年期障害(LOH症候群)の治療方法はいくつかあり、症状の程度や原因に応じて選択されます。
ホルモン補充療法
男性更年期障害(LOH症候群)の治療は、男性ホルモン製剤を投与する「ホルモン補充療法」が中心となります。テストステロンエナント酸エステル製剤を1回125mgもしくは250mgを、2〜4週ごとに筋肉注射で投与するのです。
定期的に採血をして肝機能障害や多血症などの副作用の有無を調べながら、患者の意向を確認して治療を継続していきます。副作用がなければ合計10回投与し、治療の効果を判断するのが一般的です。
体調が悪く、血液検査で男性ホルモンが低い場合は加齢性腺機能低下症と診断されます。著しく男性ホルモンの値が低く、症状が強いときには、テストステロン補充療法を行い、保険治療としてテストステロンの筋肉注射を2から4週間おきに症状が改善するまで行います。
ただし、前立腺がんの治療中の方や睡眠時無呼吸症候群などの場合には、ホルモン補充療法ができないこともあります。治療の適応については、専門医の判断に従うことが重要です。
漢方薬
ホルモン補充療法ができない患者には、漢方製剤(漢方薬)を投与することがあります。加味逍遙散(かみしょうようさん)、八味地黄丸(はちみじおうがん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などの漢方製剤を服用することで、症状が改善する場合があるのです。
補中益気湯エキス(ほちゅうえっきとう)と呼ばれる漢方薬もよく処方されます。気力や体力がない、食欲がない、だるいなどの症状がある方に適しており、男性更年期障害の「疲れやすい」という症状に効果が期待できるのです。
漢方薬には生薬の調合によってさまざまな種類があり、症状に合わせて選ぶことができ、複合的な症状の改善にも役立ちます。ただし、体質に合った漢方薬を的確に判断する必要がありますので、医師の指示に従って服用しましょう。
生活習慣の改善
職場などのストレスのチェックや睡眠、運動や食事の習慣の改善で症状は改善します。男性更年期障害(LOH症候群)は、加齢やストレスによる男性ホルモン(テストステロン)の減少によるものであるため、完全に防ぐのは難しいのが実情です。
しかし、生活の中の少しの工夫で、テストステロンの維持が期待できます。栄養バランスに十分配慮した食事を心がけ、気分転換や疲労回復ができるよう十分な睡眠・休養によってストレスをためず、適度な運動を行って適性体重をキープすることが重要です。
男性ホルモンの分泌量を増やすには、軽いジョギングやウォーキングなどがおすすめです。激しい運動は男性ホルモンを低下させる原因になるので注意しましょう。
喫煙や過度なアルコール摂取も男性ホルモンの生成に影響を与えたり、高血圧や糖尿病などを発症させるきっかけになりかねません。健康的に過ごすためにも、たばこの吸いすぎ、アルコールの飲み過ぎはやめることが推奨されます。
その他の治療
抗うつ薬やED治療薬が処方されることもあります。主治医が性機能障害を主症状と考えた患者には、ED外来への受診を勧められる場合があるでしょう。
精神神経症状が強いと診断した場合には、心療内科・精神科の医師と協力して診断・治療に当たります。カウンセリングによるメンタル面のリハビリテーションなども行われ、男性更年期障害(LOH症候群)の症状が軽い場合などは、精神面をコントロールすることで症状を改善させることも可能です。
企業の健康経営と男性更年期
企業の健康経営において、男性更年期への対応は重要な課題となっています。
職場への影響
男性更年期は、40代から60代の働き盛りの年代に多く発症します。この年代は企業の中核を担う管理職やベテラン社員が多く、彼らの不調は組織全体のパフォーマンスに大きく影響するのです。
症状が悪化すると、高血圧や動脈硬化、狭心症など他の病気を併発する原因にもなり、長期休職につながる可能性もあります。また、「年齢のせいだろう」と我慢している方も多いですが、男性の更年期障害は放っておいても自然に良くなることは少なく、症状が長引くことで仕事や家庭にも支障をきたすことがあるのです。
女性の場合は閉経による急激なホルモンバランスの変化によって不調が起こるため、更年期が過ぎると症状が軽くなり、平均5年程度で症状は治まってきます。しかし男性の場合は女性の更年期障害とは異なり、長期間症状が続くこともあり、適切な治療を行わずに40代〜70代まで症状に苦しんだという方も少なくありません。
企業ができる支援
企業は、男性更年期についての正しい知識を従業員に提供することが重要です。社内セミナーや健康情報の発信を通じて、認知度を高めることで、不調を感じた従業員が早期に対応できるようになります。
産業医や保健師による相談窓口を設置し、従業員が気軽に相談できる環境を整えることも効果的でしょう。定期健康診断の際に、男性ホルモンの検査を追加するオプションを提供することも検討できます。
また、柔軟な働き方の導入も有効です。症状が重い時期には、テレワークやフレックスタイム制度を活用することで、通勤や勤務時間の負担を軽減できます。治療のための通院時間を確保しやすくする配慮も大切です。
管理職研修において、男性更年期について取り上げることも推奨されます。部下の変化に気づき、適切にサポートできるようにすることで、職場全体でのサポート体制が整うでしょう。
男性ホルモンは男性の健康維持に働いています。もし男性更年期障害やEDを自覚されたら、生活を見直し、改善するのはもちろん、定期的に健康診断や、前立腺腫瘍マーカー検査(PSA検査)を受けるなど、自身の健康により一層気遣うように従業員に促すことが重要です。
まとめ
男性の更年期について、症状や原因、診断方法、治療法から企業の健康経営における対応まで解説しました。
男性の更年期とは、加齢に伴い男性ホルモン(テストステロン)の分泌が低下することで引き起こされる心身の不調で、医学的にはLOH症候群と呼ばれています。40歳代以降どの年代でも起こる可能性があり、女性と異なり明確な終わりがないことが特徴です。
症状は身体的、精神的、性機能関連の3つに大別され、ほてり、疲労感、筋力低下、気分の落ち込み、イライラ、性欲減退、EDなど多岐にわたります。これらの症状はうつ病との鑑別が困難な場合もあり、専門医の診断が必要です。
原因は主にテストステロンの減少で、加齢だけでなく、ストレスや生活習慣の乱れも影響します。診断にはAMSスコアによるセルフチェックや血液検査が用いられ、主に泌尿器科で診療が行われます。
治療法としては、ホルモン補充療法が中心となり、漢方薬や生活習慣の改善も有効です。症状に応じて抗うつ薬やED治療薬が処方されることもあります。
企業の健康経営においては、男性更年期についての認知度向上、相談窓口の設置、柔軟な働き方の導入、管理職研修などの対応が求められます。40代から60代の働き盛りの従業員の健康を守ることは、組織全体のパフォーマンス維持につながるでしょう。
男性更年期は決して特殊な病気ではなく、中高年の6人に1人が隠れ男性更年期と言われています。気になる症状があれば、年齢のせいと諦めずに、早めに医療機関を受診することが重要です。





