産業医面談とは|義務となる基準・対象者・流れと拒否への対応を解説
2025年 12月 5日

「産業医面談が必要となる従業員の基準は何か」「従業員に拒否されたらどうすればいいのか」「具体的にどのような内容を話すのか」―このような疑問を抱えていませんか。
産業医面談は、従業員の健康を守り、企業の安全配慮義務を果たすための重要な制度です。労働安全衛生法により、長時間労働者やストレスチェックで高ストレスと判定された従業員に対しては、面談の実施が義務付けられています。
本記事では、産業医面談の基本から義務となる基準、対象者、実施の流れ、従業員が拒否した場合の対応まで詳しく解説します。人事担当者や健康経営推進担当者の方に役立つ情報を提供いたします。
産業医面談とは
産業医面談とは、企業に選任されている産業医が従業員と1対1で行う面談のことで、「面接指導」とも呼ばれます。
産業医面談の目的は、従業員の心身の健康状態を確認し、健康を保持するための助言や指導を行うことです。具体的には、健康リスクが高い場合の就業上の配慮や制限の必要性を判断したり、心身の不調の予防や生活習慣改善のための保健指導を行ったりします。
産業医は、労働者の健康管理や作業環境の維持管理などさまざまな職務があり、そのうちの一つに産業医面談があるのです。面談は、従業員が心身の健康を保ちながら安全かつ健康に働けるよう、医学的な専門知識に基づいた助言や指導、就業上の配慮に関する意見を事業者に提供することを目的としています。
また、従業員にとっても、面談を通じて自身に必要な医学的助言を得ることができたり、健康への意識を高められたりするメリットがあります。産業医面談は、自身の健康状態を客観的に把握し、必要な治療や生活改善に取り組むきっかけづくりにもなるでしょう。
重要なのは、産業医には厳格な守秘義務があるという点です。面談で話した内容は、従業員本人の同意なく会社に伝わることはありません。従業員が安心して本音を話せる環境が確保されているのです。
産業医面談が義務となる基準
産業医面談は、すべての従業員に対して任意で実施できますが、特定の条件を満たす従業員に対しては、法律により実施が義務付けられています。義務となる主な基準を見ていきましょう。
長時間労働者
労働安全衛生法第66条の8により、長時間労働者に対する産業医面談の実施が義務付けられています。具体的には、月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる従業員が対象です。
ただし、従業員本人が面談を申し出る必要があります。企業は、月80時間を超える時間外・休日労働を行った従業員に対して、その労働時間を通知し、面談制度の存在を知らせる義務があるのです。従業員から面談の申し出があった場合は、速やかに面談を実施しなければなりません。
慢性化した長時間労働は、脳・心臓疾患、精神疾患の発症につながっているとされ、健康課題として対処する必要があります。また、月45時間超の時間外・休日労働を行った従業員についても、健康への配慮が必要な場合は面談の実施が推奨されているため、心身の不調が見られる場合は、できる限り本人の同意を得て面談を行っていきましょう。
なお、研究開発業務従事者に対しては、月100時間超の時間外・休日労働を行った場合、本人の申し出がなくても面談を実施する義務があります。高度プロフェッショナル制度対象労働者に対しても、健康管理時間が週40時間を超えた場合におけるその超えた時間が月100時間を超える場合、本人の申し出なしに面談の実施が義務付けられているのです。
ストレスチェック
従業員50人以上の事業場で年1回の実施が義務付けられているストレスチェックも、産業医面談の重要な入り口です。ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定された従業員のうち、本人が面談を希望した場合には、産業医面談の実施が義務付けられています。
高ストレス者とは、以下のいずれかに該当する人のことです。1つ目は、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が高い者です。2つ目は、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が一定以上の者であって、かつ「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」及び「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」の評価点数の合計が著しく高い者です。
高ストレスによるメンタルヘルス不調や脳・心疾患を予防することを目的に、産業医面談を行います。面談では、ストレスチェックの結果を振り返り、原因や心身のストレス反応について説明を受けるのです。
健康診断の事後措置
健康診断の結果、健康上で問題が見られる従業員に対しては、産業医面談を実施することが望ましいとされています。事業者は健康診断の結果に問題があると判断される従業員の措置について、3ヶ月以内に医師の意見を聴く必要があるのです。
健康診断の結果のみでは十分な情報が得られない場合は、産業医面談を実施して情報を聴取するという活用方法があります。また、医療機関の受診が必要な従業員に対して、面談の場で産業医が受診を促して、保健指導を行うことも可能です。
健康診断での産業医面談は法的に義務付けられているわけではありませんが、従業員の健康管理と企業の安全配慮義務の観点から、積極的に実施することが推奨されています。
産業医面談の対象者
産業医面談の対象者は、義務化されているケースと任意で実施するケースに分けられます。主な対象者を整理しましょう。
義務化されている対象者としては、月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積があり面談を申し出た者、研究開発業務従事者で月100時間超の時間外・休日労働を行った者、高度プロフェッショナル制度対象労働者で健康管理時間が月100時間超の者、ストレスチェックで高ストレス者と判定され面談を希望した者が挙げられます。
任意で実施が推奨される対象者としては、健康診断の結果、有所見や要再検査となった者、休職から復職する際の従業員、メンタルヘルス不調の兆候が見られる従業員、産業医面談を希望した従業員などがあります。
特に復職時の産業医面談は、従業員が安全に職場復帰できるかどうかを判断する重要な機会です。休職理由となった疾病が回復しているか、業務遂行能力が戻っているか、再発リスクはないかなどを確認し、必要に応じて段階的な復職プランを提案します。
また、従業員自身が健康について相談したいと希望した場合にも、産業医面談を実施することが望ましいでしょう。早期の相談により、深刻化する前に適切な対応ができる可能性が高まります。
産業医面談の内容
産業医面談では、具体的にどのような内容を話すのでしょうか。面談で確認する主な項目を見ていきましょう。
勤務状況の確認
産業医は、従業員の勤務状況について詳しく聞き取りを行います。労働時間、時間外労働の状況、休日出勤の有無、業務の繁忙度、業務内容の変化などを確認するのです。
特に長時間労働者の面談では、なぜ長時間労働が発生しているのか、業務量が適切か、業務の効率化の余地はないかなどについて話し合います。企業側は、勤怠管理システムなどを活用して、面談前に正確な労働時間データを産業医に提供することが重要です。
メンタルヘルスの確認
メンタルヘルス不調の原因は、職場内の人間関係や長時間労働、業務の内容などさまざまです。産業医は、「最近ストレスを感じることはありますか」「職場の人間関係で困っていることはありませんか」「睡眠は十分に取れていますか」といった質問を通じて、従業員の精神状態を把握します。
メンタルヘルスの問題は相談しにくいと感じる従業員も多いため、産業医は傾聴の姿勢で丁寧に話を聞きます。メンタルヘルス不調に関する問題は進行が早いので、早期に発見し対処する必要があるのです。
身体的健康状態の確認
疲労の蓄積状況、睡眠の質と時間、食事のリズム、運動習慣、既往歴、現在治療中の疾患などについて確認します。健康診断の結果を踏まえて、生活習慣の改善が必要な点があれば具体的なアドバイスを行うのです。
「最近、体調の変化を感じることはありますか」「慢性的な疲労感はありますか」「頭痛やめまい、動悸などの症状はありますか」といった質問を通じて、身体的な健康リスクを把握します。
生活習慣の確認
食事、睡眠、運動、飲酒、喫煙などの生活習慣について聞き取りを行います。不規則な生活習慣は、健康リスクを高める要因となるため、改善が必要な点があれば具体的な指導を行うのです。
たとえば、「朝食を抜くことが多い」「夜遅くまでスマートフォンを見ている」「運動する習慣がない」といった問題があれば、改善のための具体的なアドバイスを提供します。
就業上の配慮の検討
面談の結果を踏まえて、産業医は従業員が健康を保ちながら働き続けるために必要な就業上の配慮について意見を述べます。業務内容の調整、労働時間の短縮、休憩時間の確保、配置転換、一時的な業務軽減などが検討されるのです。
この意見は、事業者に対して提供され、企業は産業医の意見を尊重して適切な措置を講じる必要があります。ただし、具体的な面談内容は、従業員本人の同意なく会社に伝わることはありません。
産業医面談の流れ
産業医面談は、どのような流れで実施されるのでしょうか。企業側の対応も含めて、ステップごとに見ていきましょう。
対象者の選定と通知
まず、産業医面談の対象となる従業員を選定します。長時間労働者やストレスチェックの高ストレス者など、法律で義務化されている基準に該当する従業員をリストアップするのです。
対象者には、労働時間の通知や面談制度の案内を行います。通知は、他の従業員の目に触れないよう、個人メールや封書で行うことが望ましいでしょう。通知文には、面談の目的、産業医の守秘義務、面談が任意であること(義務の場合を除く)などを明記します。
特に重要なのは、「面談を受けても人事評価に影響しない」「個人情報は保護される」ことを明確に伝えることです。従業員の不安を払拭し、面談への協力を得ることが大切です。
産業医への情報提供
面談をスムーズに進めるため、企業は産業医に必要な情報を事前に提供します。具体的には、労働時間の記録、健康診断の結果、ストレスチェックの結果、過去の面談記録などです。
ただし、個人情報の取り扱いには十分注意し、本人の同意を得た範囲での情報提供を行うことが重要です。産業医は、これらの情報を基に、面談で確認すべき事項を整理します。
面談の実施
面談は、原則として産業医と従業員の1対1で行われます。人事担当者や上司の同席は、従業員が本音を話すことを妨げる可能性があるため、原則として避けるべきです。
面談時間は通常30分から1時間程度で、対面またはオンラインで実施されます。対面の場合は、面談内容が他の従業員に聞こえないよう、個室を確保することが必要です。オンライン面談の場合も、プライバシーが確保される環境で実施しましょう。
産業医は、勤務状況、メンタルヘルス、身体的健康状態、生活習慣などについて確認し、必要な指導や助言を行います。従業員は、自身の健康上の悩みや職場での困りごとを率直に相談できるのです。
事後措置の実施
面談後、産業医は面談結果をまとめ、必要に応じて事業者に対して就業上の配慮に関する意見を提供します。企業は、産業医の意見を尊重し、適切な事後措置を実施する必要があるのです。
事後措置の具体例としては、労働時間の短縮、時間外労働の制限、深夜業の回数の減少、昼間勤務への転換、作業の転換、就業場所の変更などがあります。重度の健康障害がある場合は、療養のための休業を命じることもあるでしょう。
企業は、事後措置の実施状況を記録し、従業員の健康状態の変化を継続的に把握することが重要です。必要に応じて、フォローアップの面談を実施することも検討しましょう。
従業員が産業医面談を拒否した場合
産業医面談の実施を通知しても、従業員が拒否するケースがあります。この場合、企業はどう対応すべきでしょうか。
義務と権利のねじれ
ここで人事担当者が直面するのが、「義務のねじれ」です。企業には、法律で定められた対象者に対して産業医面談の機会を提供する義務があります。一方で、一部の例外(研究開発業務従事者の月100時間超労働など)を除き、従業員に面談を受ける義務はなく、拒否することが可能なのです。
つまり、企業は面談の機会を提供しなければ法律違反になりますが、従業員が面談を拒否すること自体は違法ではありません。ただし、企業は従業員の健康を守る安全配慮義務を負っているため、面談を拒否されたからといって何もしなくてよいわけではないのです。
拒否された場合の対応
従業員が産業医面談を拒否した場合、まずは拒否の理由を丁寧に聞き取ることが重要です。「面談を受けると人事評価に影響するのではないか」「健康問題があると周囲に知られたくない」「忙しくて時間が取れない」など、さまざまな理由が考えられます。
これらの不安を払拭できるよう、改めて面談の目的や守秘義務について説明しましょう。面談を受けても評価に影響しないこと、個人情報は厳格に保護されることを明確に伝えるのです。また、面談の日時を柔軟に調整したり、オンライン面談を提案したりすることで、受けやすい環境を整えることも効果的です。
それでも拒否が続く場合は、産業医や人事担当者が定期的に声をかけ、いつでも相談できる体制があることを伝え続けることが大切です。従業員の健康状態の変化に注意を払い、必要に応じて再度面談を勧めましょう。
記録の重要性
従業員が面談を拒否した場合でも、企業が面談の機会を提供したこと、拒否されたことを記録として残しておくことが重要です。この記録は、企業が安全配慮義務を果たしていることを示す証拠となります。
もし面談を怠った結果として従業員が心身の健康を損なった場合、企業は安全配慮義務違反を問われる可能性があるのです。適切に対応したことを示す記録を保管しておくことで、企業のリスクを軽減できます。
企業が行うべき対応
産業医面談を効果的に実施するために、企業が行うべき対応を整理しましょう。
労働時間の適正な把握
企業が従業員の労働時間を正確に把握することは、非常に重要です。2019年から「客観的な記録による労働時間の把握」が法的な義務になりました。企業は、勤怠管理システムなどを活用して、従業員の時間外労働を適切に管理しなければなりません。
フレックスタイム制度やリモートワークなど、柔軟な働き方を導入している企業も、労働時間を把握できるシステムの構築をしておくことが大切です。労働時間の正確な管理は、従業員の健康を守るだけでなく、企業のリスク低減や労務管理の健全化に寄与します。
雇用環境の整備
産業医面談を実施しやすい雇用環境を整備することも企業の責任です。産業医面談に関する研修の実施、相談体制の整備(相談窓口設置)、自社の面談取得事例の収集・提供、面談制度と支援に関する方針の周知などを行いましょう。
従業員が気軽に相談できる雰囲気を作ることが、早期発見・早期対応につながります。「面談を受けることは悪いことではない」という認識を組織全体で共有することが大切です。
産業医との連携
産業医と企業が密に連携することで、従業員の健康管理がより効果的になります。定期的に産業医と情報交換を行い、職場の健康課題について共有しましょう。
産業医の意見を尊重し、提案された事後措置を確実に実施することも重要です。また、産業医が職場巡視を行う際には、積極的に協力し、労働環境の改善につなげていきましょう。
まとめ
産業医面談について、義務となる基準から対象者、実施の流れ、拒否への対応まで解説しました。
産業医面談とは、企業に選任されている産業医が従業員と1対1で行う面談で、従業員の心身の健康状態を確認し、健康を保持するための助言や指導を行うことを目的としています。産業医には厳格な守秘義務があり、従業員が安心して相談できる環境が確保されているのです。
義務となる基準は、月80時間超の時間外・休日労働を行い疲労の蓄積がある従業員(本人の申し出が必要)、ストレスチェックで高ストレス者と判定され面談を希望した従業員などです。研究開発業務従事者や高度プロフェッショナル制度対象労働者で月100時間超の場合は、本人の申し出なしに面談が義務付けられています。
面談では、勤務状況、メンタルヘルス、身体的健康状態、生活習慣などを確認し、必要に応じて就業上の配慮について産業医が意見を述べます。実施の流れは、対象者の選定と通知、産業医への情報提供、面談の実施、事後措置の実施です。
従業員が面談を拒否した場合は、拒否の理由を聞き取り、面談の目的や守秘義務について改めて説明することが重要です。企業は面談の機会を提供したことを記録として残し、安全配慮義務を果たしていることを示す必要があります。
企業は、労働時間の適正な把握、雇用環境の整備、産業医との連携を通じて、従業員の健康を守る体制を構築しましょう。産業医面談を単なる義務ではなく、従業員の健康を維持・増進し、組織全体の生産性を高めるための戦略的投資と位置づけることが重要です。





