産業医の探し方|4つの方法とメリット・選任手続きを徹底解説
2025年 12月 5日

「従業員が50人を超えたが、産業医をどこで探せばいいのか」「選任の期限はいつまでなのか」「どの探し方が自社に合っているのだろう」―このような疑問を抱えていませんか。
労働安全衛生法により、常時使用する労働者が50人以上の事業場では、産業医の選任が義務付けられています。選任義務が生じた日から14日以内に選任し、労働基準監督署に届け出なければならず、違反すると50万円以下の罰金が科される可能性があるのです。
本記事では、産業医の探し方について、4つの主な方法とそれぞれのメリット・デメリット、選任手続き、選ぶ際のポイントまで詳しく解説します。人事担当者や経営層の方が、適切な産業医を選任できる情報を提供いたします。
産業医の選任義務
産業医を探す前に、まずは選任義務の基本を確認しておきましょう。
労働安全衛生法第13条により、常時使用する労働者が50人以上の事業場では、産業医を選任しなければならないと定められています。「常時使用する労働者」には、正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員など雇用形態を問わず含まれるため注意が必要です。
「事業場」とは、同じ場所で関連する組織的な作業をする場所の単位を指します。同じ会社であっても、支店、支社、店舗ごとに1事業場となるため、それぞれの事業場で労働者数をカウントして選任義務を判断する必要があるのです。
事業場の規模や業務内容によって、選任すべき産業医の種類や人数が異なります。労働者50人以上999人以下の事業場では、嘱託産業医を1名以上選任する必要があります。労働者1,000人以上、または有害業務を取り扱う業種で労働者500人以上の事業場では、専属産業医を1名以上選任しなければなりません。
労働者3,001人以上の事業場では、産業医を2名以上選任する必要があります。このように、事業場の規模に応じて選任人数が増えていくのです。
選任義務が生じてから14日以内に産業医を選任し、所轄の労働基準監督署に選任届を提出しなければなりません。選任義務を怠った場合、労働安全衛生法第120条により、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
産業医の探し方①医師会
産業医を探す最も伝統的な方法の一つが、地域の医師会に相談することです。
都道府県や郡市区ごとにある医師会に直接問い合わせて、産業医を紹介してもらう方法です。地域によっては、医師会のWebサイトに産業医リストが公開されており、リストの中から探すことも可能です。
地域の医師会では、その地域特有の医療事情や企業の情報を熟知している産業医を紹介してもらいやすいでしょう。また、紹介手数料が不要、もしくは低額であることが多く、選任にかかる費用も抑えられます。コストを重視する企業にとっては、検討する価値のある方法です。
一方で、医師会から産業医の紹介を受けた後の契約や必要書類の作成など、実務的な手続きは自社で行わなければなりません。また、紹介される医師は地域の開業医が中心であるため、十分な訪問時間を確保できなかったり、複数事業場の対応が難しかったりする可能性があります。
医師会は産業医を紹介するのみですので、実際の産業医への依頼や報酬などの費用の交渉は、全て企業が行わなければならないため多くの労力が必要になるでしょう。人事担当者の負担が大きくなる点は考慮すべきポイントです。
産業医の探し方②健診機関
健康診断の実施をお願いしている健診機関に相談する方法もあります。
健康診断の実施をお願いしている健診機関に産業医が所属している場合は、紹介してもらえることがあります。健診機関の紹介であれば、健康診断で異常が発見された従業員がいた場合、意見を聞くこともできるでしょう。
健康診断と産業医業務を同じ機関に依頼することで、従業員の健康情報が一元管理されるメリットがあります。健診結果と産業医面談をスムーズに連携できるため、従業員の健康管理がより効果的になるのです。
また、健康診断と産業医の仕事を同時に依頼できるため、コスト削減につながる可能性もあります。契約先を一本化することで、事務手続きの負担も軽減されるでしょう。
ただし、健康診断の繁忙期には十分な対応ができない恐れもあるため注意が必要です。特に春先や秋口など、多くの企業が健康診断を実施する時期には、産業医業務に十分な時間を割けない可能性があります。
また、すべての健診機関が産業医紹介に対応しているわけではないため、まずは現在契約している健診機関に確認してみることが大切です。
産業医の探し方③紹介会社
近年、最も多く利用されているのが、産業医紹介会社を活用する方法です。
紹介会社のサービス内容
産業医の紹介に特化した人材サービスを利用する方法です。サービスに登録している産業医の中から、企業のニーズに応じた産業医を紹介し、選任後のサポートまで一貫して提供します。
紹介会社は、企業への十分なヒアリングを元に、数百名から数千名を超える産業医の中から最適な医師を紹介します。また、産業医の選任後も、労働安全衛生活動の円滑な進行をお手伝いし、企業と産業医との良好な関係づくりから、訪問日時の調整といったマネジメントもサポートしてくれるのです。
メリット
紹介会社を利用する最大のメリットは、企業のニーズに合った産業医を効率的に見つけられることです。メンタルヘルス対策に力を入れたい企業なら、その分野に精通した産業医を選んでくれます。女性の多い職場なら、女性の産業医を優先的に紹介してくれる場合もあるのです。
また、定期的な面談のスケジュール調整、衛生委員会の議事録作成、社内研修の企画など、煩雑な業務のサポートを受けられる会社もあります。何かトラブルが起きても、すぐに相談できることが強みです。
法律で定められた選任要件を満たしているか、労働基準監督署への届出は適切かなどの専門的な確認も行います。産業医選びや契約交渉、選任後の実務対応までを行うのは、企業の担当者にとって大きな負担となりますが、紹介サービスを活用することで、人事労務担当者の負担軽減や、実効性のある産業保健体制の構築につながるのです。
産業医の一定の質が保証されていることも重要なポイントです。紹介会社は登録産業医の経験や専門性を事前に審査しているため、一定水準以上の産業医を紹介してもらえる安心感があります。
デメリット
一方で、紹介手数料やサービス利用料が発生するため、コスト面では割高になる傾向があります。また、紹介会社によってサービス内容や料金体系が異なるため、比較検討に時間がかかる点も考慮が必要です。
さらに、紹介範囲が都市部を中心としている傾向にあり、地方では紹介できる産業医が少ない可能性があります。大手の紹介会社でも、サービス提供エリアは主要都市圏に限られていることが多いのです。
ただ近年は、オンラインでの面談や研修なども増えてきているので、物理的な距離の壁は徐々に低くなっています。オンライン産業医面談サービスを提供している会社もあり、地方企業でも利用しやすくなってきているでしょう。
産業医の探し方④知人紹介
最後に、知人や取引先からの紹介という方法もあります。
すでに産業医を選任している取引先や同業他社の知人に相談し、産業医を紹介してもらう方法です。実際に産業医を活用している企業からの紹介であれば、その産業医の人柄や対応力について生の情報を得られるメリットがあります。
信頼できる人からの紹介であれば、安心して契約できるという心理的なメリットもあるでしょう。また、紹介手数料が発生しないため、コストを抑えられる可能性があります。
ただし、紹介してもらった産業医が、必ずしも自社のニーズに合うとは限りません。紹介者の企業と自社では、規模や業種、抱えている健康課題が異なる場合があるためです。
また、契約後に何か問題が発生した場合、紹介者との関係性を考慮して言い出しにくくなる可能性もあります。契約変更や解約を検討する際に、人間関係が障壁となるリスクは考慮すべきでしょう。
産業医を選ぶポイント
産業医を探す際には、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
産業医の資格確認
医師であれば誰でも産業医になれるわけではありません。産業医の要件は、労働安全衛生規則第14条第2項に定められています。
具体的には、厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者、産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業し実習を履修した者、労働衛生コンサルタント試験に合格した者で試験区分が保健衛生である者、大学において労働衛生に関する科目を担当する教授・准教授・常勤講師またはこれらの経験者のいずれかの条件を満たす必要があります。
これらの条件を満たした医師がはじめて、産業医として活動することが可能になるのです。選任前に必ず産業医資格を確認しましょう。
専門性と経験
医師としての専門性だけでなく、産業医としてのスキルを確認することが大切です。具体的には、職場巡視や衛生講話などといった産業医の基本業務に対する理解度や、コミュニケーションスキル、問題解決力などが挙げられます。
また、産業医の能力を担保する専門的な資格は、選任にあたって必須ではないものの判断材料の一つです。たとえば、労働衛生コンサルタントや精神科医などの資格が挙げられます。自社が産業医に求めることから逆算して、あると望ましい資格を整理しておきましょう。
産業医経験が豊富な医師は、さまざまな企業での事例を知っているため、適切なアドバイスを期待できます。初めて産業医を選任する企業にとっては、経験豊富な産業医を選ぶことが安心につながるでしょう。
コミュニケーション能力
産業医の専門性だけでなく、コミュニケーション能力や柔軟性も重要な要素です。産業医は訪問日程や業務内容の調整や確認、従業員との面談など、企業側と意思疎通を図る機会が多くあります。
コミュニケーション能力や企業側との調整力に優れている産業医を選ぶとよいでしょう。また、産業医が対応しうる業務は多岐にわたり、契約当時に想定外だった問題が起きる場合もあります。そのため、業務内容や訪問時間の変更にも柔軟に応じてくれる医師を選ぶのがおすすめです。
従業員が相談しやすい人柄かどうかも大切なポイントです。産業医面談では、従業員がプライベートな健康情報を話すこともあるため、信頼関係を築けるコミュニケーション能力が求められます。
自社のニーズとの適合性
自社の業種や規模、抱えている健康課題に応じて、適した産業医を選ぶことが重要です。製造業であれば作業環境の評価に詳しい産業医、IT企業であればメンタルヘルス対策に強い産業医といったように、ニーズに合わせた選択が求められます。
また、訪問頻度や対応可能な曜日・時間帯も確認しておきましょう。複数の事業場がある場合は、すべての事業場に対応できるかも重要なポイントです。
産業医選任の手続き
産業医を見つけたら、次は選任の手続きを進めます。具体的な流れを確認しましょう。
産業医との契約が成立したら、選任すべき事由が発生した日から14日以内に産業医を選任しなければなりません。例えば、4月1日に新入社員が入社し、従業員数が50名を超えた場合、4月15日までに選任する必要があるのです。
選任義務が生じてから産業医を探していては間に合わない可能性があります。そのため、事業拡大の計画や従業員数の推移を把握しておき、選任義務が生じる前から準備をしましょう。
産業医を選任したら、産業医選任報告書などの書類を遅滞なく労働基準監督署へ提出しなければなりません。産業医選任報告書に必要事項を記入後、選任する産業医の産業医証・医師免許証控えを同封のうえ、労働基準監督署へ郵送・窓口持参もしくは電子申請(e-Gov)いずれかの方法で届出を行います。
届出様式は厚生労働省ホームページより入手することが可能です。また、現在の産業医が退任し新たに他の産業医を選任する場合でも同様に、届出を提出する必要があります。
選任届の提出を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合には、罰則の対象となる可能性があるため、必ず期限内に適切な手続きを行いましょう。
産業医の費用相場
産業医の選任にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。費用相場を把握しておくことも重要です。
産業医の相場は、専属産業医と嘱託産業医で異なります。専属産業医の年俸はおよそ1,000万円から1,500万円です。勤務日数によって変わりますが、週3〜5日勤務する場合の目安となります。
専属産業医を紹介会社経由で採用する場合、その年俸の一定割合を紹介料として紹介会社が受け取ります。紹介料の目安は30%程度と言われているため、追加で300万円から450万円程度の費用が発生することになるのです。
嘱託産業医の場合、月額料金での契約が一般的です。訪問頻度や事業場の規模によって異なりますが、月額3万円から10万円程度が相場となっています。月1回の訪問で50人〜100人規模の事業場であれば、月額5万円前後が目安でしょう。
紹介会社を利用する場合は、月額料金に加えて初期費用や紹介手数料が発生するケースもあります。一方で、初期費用無料、産業医変更時の追加費用無料といったサービスを提供している会社もあるため、総合的なコストを比較検討することが重要です。
費用だけで判断するのではなく、提供されるサービスの質や、サポート体制の充実度も考慮して選びましょう。
まとめ
産業医の探し方について、4つの主な方法とそれぞれのメリット・デメリット、選任手続き、選ぶ際のポイントまで解説しました。
常時使用する労働者が50人以上の事業場では、産業医の選任が義務付けられており、選任義務が生じた日から14日以内に選任し、労働基準監督署に届け出なければなりません。違反すると50万円以下の罰金が科される可能性があるため、早めの準備が重要です。
産業医の探し方は、医師会への相談、健診機関からの紹介、産業医紹介会社の利用、知人からの紹介の4つが主な方法です。それぞれにメリットとデメリットがあり、医師会や知人紹介は費用を抑えられる一方で手続きの手間がかかります。紹介会社は費用はかかるものの、企業のニーズに合った産業医を効率的に見つけられ、選任後のサポートも受けられる点が魅力です。
産業医を選ぶ際は、産業医資格の確認、専門性と経験、コミュニケーション能力、自社のニーズとの適合性をチェックしましょう。費用相場は、専属産業医で年俸1,000万円から1,500万円、嘱託産業医で月額3万円から10万円程度です。
選任義務が生じてから探し始めると間に合わない可能性があるため、従業員数が50人に近づいてきたら、早めに準備を進めることをおすすめします。本記事を参考に、自社に最適な産業医を選任していきましょう。





