EAPとは|従業員支援プログラムの目的・内容・導入メリットを解説
2025年 12月 5日

「EAPとは何か」「自社にEAPを導入すべきなのか」「具体的にどのようなサービスが受けられるのか」―このような疑問を抱えていませんか。
近年、従業員のメンタルヘルス対策として注目を集めているEAP(従業員支援プログラム)。厚生労働省の調査によると、10%以上の事業所において、メンタルヘルスの不調による1ヶ月以上の休職や退職事例が発生しており、企業にとって従業員の心の健康管理は重要な課題となっています。
本記事では、EAPの基本から目的、具体的なサービス内容、導入のメリット、選び方まで詳しく解説します。人事担当者や経営層の方が、EAP導入を検討する際に役立つ情報を提供いたします。
EAPとは
EAPとは、Employee Assistance Programの略で、日本語では「従業員支援プログラム」と訳されます。
EAPは、従業員のメンタルヘルス不調をケアし、健康維持・向上をサポートする包括的な制度です。ストレスや悩み、健康上の不安など、従業員が抱えるさまざまな問題について、医師やカウンセラーなどの専門家が相談に応じます。また、仕事上のパフォーマンスに影響する可能性のある問題の早期解決を支援するのです。
元々、EAPはアメリカで発展した職場のメンタルヘルスサービスで、アルコール依存などを抱える従業員とその家族を支援した活動に端を発しています。1950年代のアメリカでは、第二次世界大戦やベトナム戦争において心的外傷を負った帰還兵士たちの心のケアが必要とされ、1970年代から1980年代にかけてアメリカ全土に急速に広まりました。
現在では、支援の対象範囲は広がりを見せており、企業に対するメンタルヘルス全般や家庭問題、法律の悩みなど、さまざまな領域をカバーしています。日本においても、従業員の抱える「身体の問題」「こころの問題」を未然に防ぎ、早期解決できるようにEAPを導入する企業が徐々に増えているのです。
EAPは単なるメンタルヘルス対策ではなく、企業にとって戦略的な人材マネジメントツールとして位置づけられます。従業員が健やかに働き続けられるようサポートすることで、組織の活性化を促し、持続可能な経営を目指すための仕組みといえるでしょう。
EAPの目的とメリット
EAPを導入する目的とメリットについて見ていきましょう。
EAPの目的
EAPは、組織や個人における生産性に影響をもたらす課題の解決を支援し、組織と個人の健康保持増進をすることを目的としています。従業員が抱える問題は多種多様です。仕事上のストレスや人間関係のトラブル、家庭の問題、健康上の不安など、さまざまな要因が考えられます。
これらの問題が解決されないまま放置されると、メンタルヘルスの悪化やパフォーマンスの低下につながり、ひいては離職や休職といった事態を招く可能性があるのです。EAPは、従業員が抱える問題を早期に発見し、解決を支援することで、従業員のメンタルヘルスやパフォーマンスの向上を図ります。
また、社内の人間には相談しにくいと感じる従業員も、気軽に専門家によるカウンセリングや健康指導を受けることができます。職場の人間関係やハラスメントなど、社内では相談しにくい問題についても、外部の専門家に安心して相談できる環境を提供するのです。
生産性の向上
EAPを導入することで、従業員の心身の健康が保たれ、業務への集中力が高まります。メンタルヘルスの問題を早期に解決することで、欠勤や休職を防ぎ、生産性の低下を防止できるのです。
健康な従業員は業務効率が高く、創造性や問題解決能力も向上します。結果として、企業全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。
離職率の低下
従業員が安心して働ける環境を整えることで、離職率の低下が期待できます。メンタルヘルスの問題や悩みを相談できる窓口があることで、従業員は「この会社は自分を大切にしてくれている」と感じ、エンゲージメントが高まるのです。
人材の定着は、採用コストの削減だけでなく、組織の知識やノウハウの蓄積にも貢献します。特に、優秀な人材の流出を防ぐことは、企業の競争力維持に不可欠でしょう。
リスク管理
メンタルヘルス不調による労災認定件数は近年増加傾向にあります。EAPを導入することで、従業員のメンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な対応を取ることができれば、労災リスクを軽減できるのです。
また、ハラスメントや職場のトラブルについても、専門家からアドバイスを受けることで、適切な対応が可能になります。企業の法的リスクを低減する効果も期待できるでしょう。
企業イメージの向上
従業員の健康を重視する企業として社会的な評価が高まり、採用活動においても有利に働きます。健康経営優良法人認定を目指す企業にとっても、EAPの導入は重要な取り組みの一つです。
また、従業員やその家族からの信頼も得られ、企業の社会的責任を果たしているという姿勢を示すことができます。
EAPのサービス内容
EAPでは、具体的にどのようなサービスが提供されるのでしょうか。主なサービス内容を見ていきましょう。
カウンセリング
EAPの中心となるサービスが、専門のカウンセラーによるカウンセリングです。仕事上の悩みや人間関係のトラブル、家庭の問題、健康上の不安など、さまざまな悩みに対応します。
相談方法は、電話、対面、オンラインなど、さまざまな形式が用意されています。プライバシー保護のために匿名での相談ができる場合もあり、従業員は安心して利用できるのです。24時間対応の窓口を設けているサービスもあり、緊急時にも対応可能です。
カウンセリングでは、傾聴型のアプローチだけでなく、認知行動療法など、考え方や行動の変化まで支援する手法を用いるサービスもあります。従業員が抱える問題の根本的な解決を目指すのです。
ストレスチェックのフォロー
年1回の実施が義務付けられているストレスチェックの結果を踏まえて、高ストレス者に対するフォローアップを行います。ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員に対して、専門家による面談や相談の機会を提供するのです。
ストレスチェックの実施自体をサポートするサービスもあります。アンケートの配布から集計、結果の分析、報告書の作成まで、一貫してサポートを受けられるケースもあるでしょう。
セミナー・研修の実施
従業員や管理職向けのメンタルヘルス研修やセミナーを開催します。セルフケアの方法、ラインケアのポイント、ハラスメント防止など、テーマは多岐にわたるのです。
管理職向けには、部下のメンタルヘルス不調のサインに気づくための研修や、適切な声かけの方法、面談のスキルなどを学ぶ機会を提供します。従業員向けには、ストレスマネジメントの方法や、心身の健康を保つための生活習慣などについて学べるでしょう。
職場環境改善のコンサルティング
職場のストレス要因を分析し、環境改善のための提案を行います。組織診断やアンケート調査を通じて、職場の課題を可視化し、具体的な改善策を提示するのです。
長時間労働の是正、業務負荷の適正化、コミュニケーション活性化など、組織全体の健康度を高めるための支援を行います。人事労務担当者や経営層への個別コンサルテーションも実施されるでしょう。
復職支援
休職した従業員の職場復帰をサポートします。復職前の面談、復職プランの策定、復職後のフォローアップなど、段階的な支援を提供するのです。
主治医や産業医と連携しながら、従業員が安全に職場復帰できるよう、きめ細かなサポートを行います。再発防止のためのアドバイスも提供され、長期的な健康管理につながるでしょう。
EAPの種類
EAPには、「内部EAP」と「外部EAP」の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、自社に適した形態を選ぶことが重要です。
内部EAP
内部EAPとは、社内に産業医・看護師・保健師・カウンセラー等の専門スタッフを常駐させ、心身の不調に悩む従業員に対し、カウンセリングやストレスチェックなど、EAPに関するすべての取組を自社で行う方法です。
内部EAPのメリットは、企業の事情や職場の実態を深く理解した上で支援ができることです。従業員との距離が近く、日常的なコミュニケーションを通じて早期に問題を発見しやすい点も利点でしょう。
一方で、専門スタッフを常駐させるには相応のコストがかかります。また、社内の人間に相談することに抵抗を感じる従業員もいるため、プライバシー保護の観点から課題が残る場合もあるのです。
内部EAPは、大企業など、規模が大きく予算に余裕のある企業に適した方法といえます。
外部EAP
外部EAPとは、専門の外部機関と契約し、EAPサービスを委託する方法です。近年、外部EAPを導入する企業が増えており、主流となっています。
外部EAPのメリットは、専門性の高いサービスを受けられることです。カウンセリングや研修など、多様なプログラムが用意されており、企業のニーズに応じて選択できます。また、社外の専門家に相談できるため、従業員は職場の人間関係を気にせず、率直に悩みを話せるのです。
初期投資や運用コストを抑えられる点も魅力でしょう。専門スタッフを自社で雇用するよりも、外部サービスを利用する方が費用対効果が高い場合が多いのです。
厚生労働省が「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で示しているメンタルヘルス対策推進の「4つのケア」において、EAPは「事業場外資源によるケア」に当てはまります。外部の専門機関を活用することで、企業は効果的なメンタルヘルス対策を実現できるのです。
EAPと4つのケア
EAPを理解する上で重要なのが、厚生労働省が推進する「4つのケア」との関係です。
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、メンタルヘルス対策として以下の4つのケアが示されています。1つ目はセルフケア、2つ目はラインによるケア、3つ目は事業場内産業保健スタッフ等によるケア、4つ目は事業場外資源によるケアです。
セルフケアとは、従業員自身がストレスに気づき、適切に対処することです。企業は、ストレスチェックやセルフケアに関する研修を実施し、必要な情報を提供します。
ラインによるケアとは、管理職や上司など の監督者が行う、従業員に対するケアのことです。部下の変化に気づき、適切に声をかけたり、相談に乗ったりすることが求められます。
事業場内産業保健スタッフ等によるケアは、産業医や保健師など、社内の専門スタッフが行うケアです。健康診断の結果に基づく保健指導や、メンタルヘルス不調者への対応などを行います。
事業場外資源によるケアは、社外の専門機関を活用したケアで、EAPがこれに該当するのです。医療機関や産業保健総合支援センターと同様に、外部の専門家によるサポートを受けることで、より効果的なメンタルヘルス対策が可能になります。
メンタルの悪化を未然に防ぐ「一次予防」、早期対応としての「二次予防」、再発を防ぐ「三次予防」と、EAPはどの段階でも活用可能です。予防から治療、復職支援まで、包括的な支援を提供できる点がEAPの強みといえるでしょう。
EAPの選び方
外部EAPを導入する際には、どのような点に注意して選べばよいのでしょうか。選定のポイントを見ていきましょう。
サービス内容の確認
まず、提供されるサービスの内容を詳しく確認しましょう。カウンセリング、ストレスチェック、研修、コンサルティング、復職支援など、自社が必要とするサービスが含まれているかをチェックします。
相談方法も重要なポイントです。電話、対面、オンライン、チャットなど、従業員が利用しやすい方法が用意されているかを確認しましょう。24時間対応や多言語対応など、働き方の多様化に対応したサービスも検討する価値があります。
専門性と実績
EAP提供会社の専門性と実績を確認することも大切です。臨床心理士や精神保健福祉士など、専門資格を持つカウンセラーが在籍しているか、導入企業の業種や規模、導入実績の豊富さなどをチェックしましょう。
認知行動療法など、科学的根拠に基づいたアプローチを用いているかも重要なポイントです。傾聴型のカウンセリングだけでなく、問題解決に向けた具体的な支援を提供できるかを確認するとよいでしょう。
プライバシー保護
従業員が安心して相談できるよう、プライバシー保護の仕組みが整っているかを確認します。相談内容が会社に伝わらないよう、守秘義務が徹底されているかをチェックしましょう。
匿名での相談が可能か、相談記録の管理方法はどうなっているかなど、具体的な仕組みを確認することが重要です。
費用対効果
EAPの導入には費用がかかりますが、従業員の健康を守り、生産性を向上させる投資と考えるべきです。初期費用、月額費用、利用料など、費用体系を明確に把握し、予算に合ったサービスを選びましょう。
利用者数に応じた従量課金制や、定額制など、料金体系はサービスによって異なります。自社の規模や利用頻度を考慮して、最適なプランを選択することが大切です。
サポート体制
導入後のサポート体制も重要なチェックポイントです。利用状況のレポート提供、定期的な振り返りミーティング、改善提案など、継続的なサポートが受けられるかを確認しましょう。
また、緊急時の対応体制も確認が必要です。従業員に深刻なメンタルヘルス不調が発生した場合、迅速に対応できる仕組みが整っているかをチェックするとよいでしょう。
まとめ
EAPについて、基本から目的、サービス内容、種類、選び方まで解説しました。
EAPとは、Employee Assistance Programの略で、従業員支援プログラムと訳されます。従業員のメンタルヘルス不調をケアし、健康維持・向上をサポートする包括的な制度で、専門家が相談に応じ、仕事上のパフォーマンスに影響する問題の早期解決を支援するものです。
EAPの目的は、組織や個人における生産性に影響をもたらす課題の解決を支援し、組織と個人の健康保持増進をすることです。導入のメリットとしては、生産性の向上、離職率の低下、リスク管理、企業イメージの向上などが挙げられます。
サービス内容は、カウンセリング、ストレスチェックのフォロー、セミナー・研修の実施、職場環境改善のコンサルティング、復職支援など多岐にわたります。EAPには内部EAPと外部EAPの2種類があり、近年は外部EAPを導入する企業が増えています。
厚生労働省が推進する4つのケアのうち、EAPは「事業場外資源によるケア」に該当し、一次予防から三次予防まで包括的な支援を提供できる点が強みです。
外部EAPを選ぶ際は、サービス内容の確認、専門性と実績、プライバシー保護、費用対効果、サポート体制をチェックしましょう。従業員のメンタルヘルス対策は企業の重要な責務であり、EAPは効果的な解決策の一つです。本記事を参考に、自社に適したEAPの導入を検討してみてはいかがでしょうか。





