テレワーク時代の勤怠管理方法:企業の成長を支える戦略的アプローチ
2025年 8月 25日

新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、多くの企業でテレワークが急速に普及しました。
東京商工会議所の2020年の調査では、7割の企業が在宅勤務に踏み切ったと報告されています。
しかし、その働き方は一過性のものではなく、今や出社と在宅を組み合わせるハイブリッドワークが拡大傾向にあります。この働き方の変化は、従業員に通勤負担の軽減やワークライフバランスの向上といった多くのメリットをもたらしましたが、同時に「勤怠管理」という新たな課題を浮き彫りにしました。従来のタイムカードや対面での管理方法では対応しきれない課題に、人事労務担当者や経営者は頭を悩ませています。
本記事では、テレワーク・在宅勤務における勤怠管理の課題を深掘りし、その解決策がどのように健康経営や女性活躍推進といった企業の持続的成長に貢献するのかを、多角的な視点から詳細に解説します。
テレワーク・在宅勤務における勤怠管理の主な課題
テレワーク導入企業が直面する勤怠管理の課題は多岐にわたります。単に「従業員がサボっていないか」という懸念だけでなく、労働法遵守、公正な人事評価、そして従業員の健康管理といった、企業の根幹に関わる問題に発展しうる深刻なものです。これらの課題を深く理解することが、適切な解決策を見出す第一歩となるでしょう。
勤務時間の把握が難しく「隠れ残業」のリスクが高まる
オフィス勤務では勤務状況を目視で確認できますが、テレワークではそれが困難です。この「見えない」状況が、労働時間管理における最大の課題を生み出しています。
厚生労働省は、PCの使用時間記録などの客観的な記録による労働時間把握を推奨していますが、多くの企業では自己申告に頼らざるを得ないのが現状です。この自己申告は、不正や集計ミスのリスクを高めます。
この客観的なデータがない状況が、従業員の「隠れ残業(サービス残業)」を常態化させるリスクを高めています。ある調査では、テレワーク中に残業代の対象となる時間があったにもかかわらず「申告しなかったことがある」と回答した人が65.1%にも上りました。
これは、管理者が不在の環境では、従業員の真面目さや責任感が過剰な労働に繋がりやすい一方で、「申告しづらい雰囲気」や「時間管理がされていない」といった企業側の問題が背景にあることを示唆しています。
この隠れ残業は、従業員の心身の健康に悪影響を及ぼし、過労やストレスによる体調不良のリスクを高めます。さらに、企業が従業員の労働時間を適正に把握していないと見なされれば、労働法違反として法的リスクに直面する可能性があります。客観的なデータがない状況での勤怠管理は、将来的なトラブルや訴訟の原因にもなりかねません。
業務の「見えない」不安がマネジメントと評価の課題を生む
労働時間の把握が難しいのと同様に、テレワークでは従業員の業務プロセスや態度も「見えにくく」なります。この状況は、管理者と従業員の双方に不安をもたらします。
管理者は、部下がどのように仕事を進めているか、どこでつまずいているのかを把握しにくくなります。その結果、過剰な業務確認や報告を求めてしまい、かえって従業員の業務を妨げ、生産性を低下させてしまうことがあります。また、テレワークでは、業務態度やプロセスといった定性的な評価が難しくなり、成果主義に偏りがちです。成果が明確な職種は評価しやすいものの、事務職などのバックオフィス業務では、成果が見えにくいため評価が曖昧になるという課題があります。
公正な評価が行われないと感じた従業員は、不公平感を抱き、会社への不信感を募らせる可能性があります。日本生産性本部の調査では、テレワーカーが抱える課題として「仕事ぶり(プロセス)についての評価の適切さ」が30.7%で最も高く、次いで「仕事の成果についての評価の適切さ」が29.4%と報告されています。この不満は、従業員のモチベーション低下や、最悪の場合、離職に繋がる深刻な問題です。
コミュニケーション不足がメンタルヘルス不調や離職を招く
テレワークでは、オフィスで自然発生する雑談や立ち話が失われ、コミュニケーションが業務連絡に偏りがちです。業務外の何気ない会話がなくなることで、従業員はチームの一員であるという意識や安心感を失い、孤独感や孤立感を抱きやすくなります。日本生産性本部の調査では、管理職の46.8%が「孤独感や疎外感の解消策」を課題として挙げています。
コミュニケーション不足は、上司が部下の悩みやストレス、体調の変化に気づきにくくなることにもつながります。ある調査では、テレワーク実施企業は非実施企業に比べて「コミュニケーション不足」が生じやすく、メンタル不調者や休職が増加しているという結果が出ています。
孤独感や不満を抱えた従業員は、誰にも相談することなく離職に至るケースが少なくありません。ハラスメントが離職の主要因であることも知られており、ハラスメント被害者の5人に1人が会社を退職しているというデータもあります。コミュニケーションが不足しがちなテレワーク環境では、ハラスメントの温床となる可能性も否定できません。
テレワーク勤怠管理を成功させるための具体的な方法
テレワークにおける勤怠管理の課題を解決するためには、従来の管理方法を見直し、テレワークの特性に合わせた新たな仕組みを構築する必要があります。ここでは、勤怠管理システムを中心とした具体的な方法を紹介します。
勤怠管理システムの導入による客観的な労働時間の可視化
勤怠管理システムの導入は、テレワークにおける勤怠管理の課題を解決する最も効果的な方法の一つです。これにより、管理者と従業員の双方の不安を解消し、客観的な労働時間管理を実現することができます。
勤怠管理システムの中には、PCのログオン・ログオフ時間を自動的に記録し、打刻と見なす機能を持つものがあります。これにより、手動での打刻漏れや不正申告を防ぎ、客観的な労働時間を正確に把握することが可能です。また、長時間労働が一定時間を超えるとアラートを送る機能や、終業時刻にPCを自動シャットダウンさせる仕組みを導入することで、過重労働を未然に防ぎ、従業員の健康を守ることができるでしょう。
コミュニケーションツールや1on1ミーティングの積極的活用
勤怠管理システムの導入と並行して、従業員の孤立を防ぎ、信頼関係を築くためのコミュニケーション施策も不可欠です。
オフィスで自然に生まれる雑談は、チームの結束や心理的安全性を高める重要な要素です。テレワークでは、オンラインランチ会やバーチャルオフィスに雑談ルームを設けるなど、意図的に雑談の場を作ることが効果的です。上司と部下が定期的に1対1で対話する1on1ミーティングは、業務の進捗確認だけでなく、部下の悩みやキャリアに関する相談にも応じる重要な機会となります。これにより、テレワークで失われがちな信頼関係を構築し、マネジメントに対する従業員の不満を解消することができるでしょう。
就業規則の見直しとルールの明確化
テレワークを円滑に運用し、将来的なトラブルを回避するためには、就業規則やテレワーク規程の整備が不可欠です。在宅勤務の定義、対象者、就業場所、勤務時間、費用負担、服務規律など、テレワーク特有のルールを明確に定める必要があります。特に、テレワークで発生する通信費や電気代などのコスト負担を会社がどう負担するかを明確に定めることは、従業員の不公平感や不満を解消する上で非常に重要です。
勤怠管理の適正化がもたらす企業のメリット
勤怠管理の適正化は、単なる業務効率化や法令遵守に留まりません。それは、企業の競争力そのものを高めるための戦略的な取り組みへと繋がります。
従業員のエンゲージメント向上と離職率の低下
公正で透明性の高い勤怠管理は、従業員の会社への信頼感を高め、離職率の低下に直結します。勤怠管理システムによって客観的なデータに基づいた評価が可能になれば、従業員は「自分の働きが正当に評価されている」と感じ、仕事へのモチベーションや会社への貢献意欲(エンゲージメント)が高まります。働きやすい環境は、企業のブランドイメージを向上させ、柔軟な働き方を求める優秀な人材へのアピールポイントとなるでしょう。これにより、人材採用の競争力を高めることができます。
健康経営と女性活躍推進への貢献
柔軟な働き方を可能にするテレワークと、それを支える勤怠管理の仕組みは、女性活躍推進や健康経営に大きく貢献します。テレワークは、育児や介護といったライフイベントと仕事を両立させたい女性にとって、キャリアを継続する上で非常に有効な手段です。また、勤怠管理システムによる過重労働の抑制やメンタルヘルス対策は、従業員の健康を保護し、健康経営の実践に繋がります。
勤怠管理方法の比較とツール選定のポイント
テレワークにおける勤怠管理の方法は多種多様です。自社の状況に合った最適な方法を見つけるためには、それぞれの特徴を理解し、慎重に選定する必要があるでしょう。
複数の勤怠管理方法とそれぞれのメリット・デメリット
勤怠管理システム以外にも、いくつかの方法があります。ここでは、導入の容易さやコスト、機能の面から3つの方法を比較します。
Excelや出勤簿による自己申告
新しいシステムやツールの導入が不要で、コストをかけずにすぐに始められるというメリットがあります。しかし、勤怠記録が客観的ではないため、不正申告や入力ミスが発生しやすく、隠れ残業のリスクが高まるというデメリットがあります。
メールや電話による報告
新しいシステム導入は不要で、口頭での確認も可能です。しかし、報告を受ける管理者側の確認・集計作業に大きな負担がかかるというデメリットがあります。また、報告漏れや見落としのリスクも高く、非効率的です。
勤怠管理システム
PCログやGPSなどにより客観的で正確な勤怠記録が可能な点が最大のメリットです。集計業務が自動化され、管理者の負担が大幅に軽減されます。働き方改革関連法などの法令改正にもスムーズに対応できるでしょう。デメリットとしては、導入費用や月額のランニングコストがかかることと、従業員にシステムの利用を浸透させるための教育や周知が必要な点が挙げられます。
自社に合った勤怠管理システムを選ぶための視点
勤怠管理システムの選定に失敗しないためには、単に機能の多さや安さだけでなく、自社の実情に合ったものを選ぶことが重要です。
機能の網羅性とカスタマイズ性
テレワーク特有の課題(中抜け時間、裁量労働制、フレックスタイム制など)に対応できる機能が備わっているかを確認しましょう。また、自社の独自の就業規則やルールに柔軟に対応できるカスタマイズ性も重要です。
費用対効果
無料プランや安価なプランから始められるサービスもありますが、ユーザー数や機能に応じて料金が変動するケースが多いため、導入コストとランニングコストを総合的に比較しましょう。
使いやすさ
従業員のITリテラシーに合っているか、直感的に操作できるインターフェースかを確認することが大切です。特に、勤怠管理システムは全従業員が日々利用するツールであるため、使いにくさは定着率に直結します。
連携機能
既存の給与計算システムや人事評価システム、コミュニケーションツールとスムーズに連携できるかを確認しましょう。これにより、勤怠管理から給与計算、人事評価までを一元管理でき、バックオフィス業務全体の効率化を図ることが可能になります。
セキュリティとサポート体制
テレワークでは情報漏洩のリスクが高まるため、システムのセキュリティ対策(多要素認証、暗号化など)が万全かを確認することは必須です。また、導入時や運用時にトラブルがあった際に、手厚いサポートを受けられる体制が整っているかも重要な選定ポイントです。
まとめ
テレワークは、企業と従業員に多くのメリットをもたらす一方で、勤怠管理にまつわる新たな課題も生み出しました。しかし、これらの課題は解決できないものではありません。勤怠管理システムを活用し、客観的で正確な勤怠記録を可能にすること、チャットツールや1on1ミーティングでコミュニケーションを活性化すること、そしてテレワーク規程を整備しルールを明確化することで、安心して働ける環境を構築することができます。
これらの取り組みは、単なる業務効率化に留まらず、従業員のエンゲージメント向上や離職率の低下に繋がり、さらには健康経営や女性活躍推進といった、企業の競争力そのものを高める戦略的な投資となります。テレワーク時代の勤怠管理は、企業の持続的成長のために、従業員の心身の健康とモチベーションを「見守り」、公正で信頼性の高い経営基盤を築くための「攻めの経営戦略」なのです。このレポートを参考に、貴社のテレワーク環境をより良いものへと進化させる一歩を踏み出してみましょう。