家族介護とは|現状と課題から仕事との両立と企業支援策まで解説
2025年 12月 5日

「親の介護が必要になったらどうすればいいのか」「仕事を続けながら介護はできるのか」「企業として従業員をどう支援すべきか」―このような不安や疑問を抱えていませんか。
超高齢社会の日本において、家族介護は誰にでも起こりうる問題です。経済産業省の試算によれば、2030年時点で仕事をしながら家族の介護を行う方は約318万人に上り、経済損失額は約9兆円に達すると予測されています。
本記事では、家族介護の現状から課題、仕事との両立方法、企業が取り組むべき支援策まで詳しく解説します。家族介護に直面している方や、企業の健康経営担当者の方に役立つ情報を提供いたします。
家族介護とは
家族介護とは、家族や親族が高齢者や障がい者など、日常生活に支援が必要な人の介護を担うことです。
具体的には、食事、入浴、排泄、着替えなどの身体的なケアだけでなく、掃除、洗濯、料理、買い物、金銭管理、通院の付き添い、話し相手などの日常生活全般の世話を行います。介護サービス事業者が洗髪、入浴介助、身体を拭く行為などに限定している傾向があるのに対し、家族介護者はより広範囲の支援を担っているのです。
日本では、要介護者の半数が在宅で生活しており、在宅で生活する高齢者は基本的に家族によって介護されています。2019年の国民生活基礎調査によると、主な介護者は「同居の配偶者」が23.8%、「同居の子」が20.7%、「別居の家族等」が13.6%、「同居の子の配偶者」が7.5%となっており、家族が介護の中心的な担い手となっている現状が分かります。
かつては、専業主婦世帯が多く、家族内での介護を担いやすい環境がありました。しかし近年では共働き世帯が増加し、家族介護の担い手も変化しています。いわゆる「嫁介護」は減少し、「実子」や「配偶者」が主な介護者となっており、働く誰しもが家族介護を行うことになり得る状況となっているのです。
家族介護の現状
それでは、日本における家族介護の現状はどのようになっているのでしょうか。統計データから実態を見ていきましょう。
要介護者のいる世帯
2019年の国民生活基礎調査によると、要支援・要介護の在宅療養者がいる世帯類型は、「単独」が28.3%と最も多く、次いで「夫婦のみ」が22.2%となっています。要介護者がいる世帯のうち、単独世帯が占める割合は年々増加しており、夫婦のみ世帯の割合も年々増加しているのです。
これは、核家族化の進行や家族構成の変化を反映しています。三世代同居の世帯は12.8%にとどまり、従来のような家族による介護体制が変化していることが分かるでしょう。
介護者の年齢と性別
家族介護者の年齢を見ると、男女とも60代が最も多く、次いで50代の順です。60歳以上の割合は、男女とも約半数となっています。
2022年の国民生活基礎調査によると、「要介護者等」と「同居の主な介護者」の年齢組み合わせを見ると、60歳以上同士が77.1%、65歳以上同士が63.5%、75歳以上同士が35.7%という結果となっています。高齢者同士で介護が当たり前になりつつあり、「老老介護」や「認認介護」という言葉が注目される状況が浮き彫りになっているのです。
性別で見ると、介護を行う男性は増加傾向にあります。これまで、育児や介護という労働上の制約があるのは女性だけと思われていましたが、わが国の人口構成を見る限り、これからは男性も介護を担わなければならなくなることは明らかです。
介護期間
介護がいつまで続くのかは、家族介護者にとって大きな不安要素です。厚生労働省のデータによると、介護期間は個人差が大きく、数か月で終わるケースもあれば、10年以上続くケースもあります。
女性の場合は閉経による急激なホルモンバランスの変化によって更年期障害が起こるため、平均5年程度で症状は治まりますが、介護は期限が見えにくいのが特徴です。「いつまで続けなければならないのか」という先行きへの不安が、介護者の大きな負担となっているでしょう。
家族介護の課題
家族介護には、さまざまな課題や問題点が存在します。主な課題を見ていきましょう。
身体的・精神的負担
家族介護において、まず問題化しやすいのは、排泄、食事、移乗といった日々の介護行為の部分です。介護行為は毎日のように行わなくてはならず、「家族の中の誰が担当するのか」「ミスをしたらどうしよう」「自分の時間がなくなってしまった」「いつまで続けなければならないのか」といった不安や葛藤が生じやすく、心身を疲労させ、トラブルの原因となりやすい部分です。
とりわけ排泄介助を困難に感じている方が多く、男性介護者では料理づくりも困難な行為の一つに挙げられています。高齢の夫が高齢の妻の面倒をみているケースでは、「自身の健康不安・体力の衰えを感じたとき」や「介護をいつまで続けなければならないのかと先行きを考えたとき」に不安を感じる傾向が見られるのです。
精神的な負担も深刻です。認知症のケアでは、認知症の人への身体的なケアが大変になるだけではなく、何度も同じ事をたずねたり、何回も同じ事を言わなければならないなど、コミュニケーションの難しさによるストレスが起こってきます。介護疲労や介護ストレスが虐待や無理心中など、重大な影響をもたらす可能性があることも、よく問題にされているのです。
経済的負担
介護には、直接的な費用だけでなく、仕事を休むことによる収入減少など、経済的な負担も伴います。「仕事と介護の両立に困難が生じたとき」や「経済的状況が悪化したとき」に特に不安を感じる傾向が見られます。
介護サービスを利用するには費用がかかり、その自己負担額は家計を圧迫する要因となるでしょう。また、仕事を休んだり、勤務時間を短縮したりすることで、収入が減少するケースも少なくありません。
孤立と非対称性の問題
家族介護者は認知症の当事者のマネジメント役・調整役を引き受けざるを得ませんが、当の家族介護者の生活をマネジメント・調整してくれる人はいません。ここに圧倒的な非対称性があります。
介護サービスを利用して、「多少自分の時間が確保できればリフレッシュできるでしょ」と考えられがちですが、そんな単純な話ではありません。家族介護者が二者関係に閉塞されることなく、いかに社会関係を切り結び直し、別様な世界を構築するか、そのマネジメント・調整を誰がいかに担うかの問題なのです。
家族介護者の中には、他のタイプよりもストレスの解消策を見つけられなかったと答えた方が多い傾向が見られます。「介護する側-介護される側」の二者関係の中では孤独感を深め、社会的に孤立してしまうリスクがあるのです。
家族内の協力体制
家族同士で意識がズレていたり、考えがバラバラであったりすると、家族介護問題も深刻化、複雑化しやすくなります。また、家族内の誰か一人に介護を押し付けていたり、非協力な人がいたりする場合も、問題の種になりやすいのです。
まずは家族同士で集まり「介護をどのように行っていくか」「どのような悩みや課題を抱えているか」などを一度よく話し合うことが大切です。話し合うことで家族各々の状況や苦労がよくわかり、解決に進むこともあります。
仕事と家族介護の両立
働きながら家族介護を行う「ビジネスケアラー」が増加しています。仕事と介護の両立について見ていきましょう。
介護離職の現状
家族介護が原因で仕事を辞めなければならないことを「介護離職」といいます。介護離職する人の数は年間約10万人で、このうち約7割が女性です。
介護離職の理由として最も多いのが、「仕事と介護の両立が難しいため」となっています。24時間介護が必要となれば深夜、早朝であっても、ケアが求められます。家事と併行して介護を行うことで、仕事まで手が回らなくなってしまうのです。
特に、介護と仕事の両立を余儀なくされる世代は、年齢的に組織の中核を担う存在であることが多く、企業の生産性や業績に与えるダメージは計り知れません。経済産業省は、ビジネスケアラー発生による経済損失額を、2030年時点で約9兆円に迫ると推計しているのです。
介護休業制度
育児・介護休業法に基づき、労働者は介護休業を取得できます。介護休業とは、労働者が要介護状態の対象家族を介護するために取得できる休業制度で、対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割して取得できます。
また、介護休暇という制度もあります。労働者が要介護状態の対象家族の介護や通院の付き添い、介護サービスの手続きなどの世話を行うために取得できる休暇で、取得可能日数は、対象家族が1人の場合は年5日まで、2人以上の場合は年10日までです。時間単位での取得も可能となっています。
その他、所定外労働の免除、時間外労働の制限・深夜業の制限、所定労働時間の短縮措置等といった制度も用意されています。これらは育児・介護休業法に基づく制度であり、勤務先の業種や規模にかかわらず、従業員は原則として利用できることになっているのです。
介護保険サービスの活用
仕事と介護を両立させるには、介護保険サービスの活用が欠かせません。訪問介護(ホームヘルパー)、訪問看護、福祉用具のレンタル、通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)など、さまざまなサービスがあります。
これらのサービスを適切に組み合わせることで、家族の介護負担を大幅に軽減できるでしょう。ケアマネジャーに相談し、個々の状況に合わせたケアプランを作成してもらうことが重要です。
政府は介護離職の状況を大きな社会問題と考え、育児・介護休業法等に基づく「仕事と介護の両立支援制度」によって仕事の負担を減らし、介護保険制度に基づく介護保険サービスによって介護の負担を減らすことで、「介護離職ゼロ」をめざしています。
企業による家族介護支援
企業の健康経営において、従業員の家族介護支援は重要な課題となっています。企業が取り組むべき支援策を見ていきましょう。
2025年4月の法改正
2025年4月1日から、改正育児・介護休業法が段階的に施行されました。4月から施行されたものの中には、介護離職防止のための支援に関する改正も含まれ、企業に対し、仕事と介護の両立支援制度が強化されています。
企業に新たに義務付けられたのは、以下の3つの措置です。1つ目は、従業員が家族の介護に直面した旨の申し出をした場合の個別周知・意向確認です。2つ目は、介護に直面する前の従業員(40歳頃)への早期の情報提供です。3つ目は、雇用環境の整備です。
この個別周知・意向確認は、介護休業や介護両立支援制度などの利用を円滑に進めることが目的であり、企業は取得や利用を控えさせるような働きかけをおこなってはなりません。
雇用環境の整備
仕事と介護の両立支援制度を十分に活用できないまま従業員が離職することのないよう、事業主は制度を利用しやすい環境を整備することが必要です。具体的には、以下のいずれかの措置を講じる義務があります。できれば、複数の措置を行うことが望ましいでしょう。
介護休業・介護両立支援制度などに関する研修を実施すること、介護休業・介護両立支援制度などに関する相談体制を整備すること(相談窓口設置)、自社の介護休業・介護両立支援制度などの取得事例の収集・提供、自社の介護休業・介護両立支援制度などと介護両立支援に関する方針の周知です。
情報提供と啓発活動
従業員の介護リテラシーを高めるため、早期の情報提供が重要です。親が元気なうちから、介護に関する知識を身につけておくことで、いざという時に慌てず対応できます。
社内セミナーの開催、介護に関するリーフレットの配布、イントラネットでの情報発信など、さまざまな方法で従業員に情報を提供しましょう。厚生労働省が情報提供に活用できるリーフレットなどを公開しているので、それらも参考にできます。
また、介護保険制度についても併せて知らせることが推奨されています。介護保険の申請方法、利用できるサービスの種類、費用負担などについて、分かりやすく説明することが大切です。
相談窓口の設置
従業員が気軽に相談できる窓口を設置することも効果的です。人事部門や産業保健スタッフが相談に応じる体制を整えましょう。
専門家による相談窓口を外部に委託するという方法もあります。社内では相談しにくいことも、外部の専門家になら話しやすい場合があるのです。介護とファイナンシャルプランニング両面の専門家への相談ができる窓口を設置している企業もあります。
柔軟な働き方の推進
仕事と介護を両立するには、柔軟な働き方が不可欠です。テレワーク、フレックスタイム制、短時間勤務制度などを導入し、従業員が介護の状況に応じて働き方を選択できるようにしましょう。
突然の介護の発生に備えて、業務の属人化を防ぎ、チーム内で情報共有や業務の引き継ぎがしやすい体制を整えておくことも重要です。介護も含めた休職者が出たときの対応を各職場で話し合い、事業継続の施策を検討することが推奨されます。
経営層のコミットメント
仕事と介護の両立を巡る問題は、高齢化の進展に伴い、まさにこれからが本番となり、その解決には全ての企業の協力が必要となります。一方で、介護両立支援の充実について企業経営上の優先順位が低いことが要因となり、企業内での取組が進まないという構造的な課題が存在し、その解決のためには経営者のコミットメントが不可欠です。
経営陣がメッセージを発して助け合える文化・風土づくりと制度整備で社員皆で輝きあう環境を作ることが重要でしょう。仕事と介護の両立支援宣言を社長名で出し、従業員の理解促進から取組を開始している企業もあります。
まとめ
家族介護について、現状から課題、仕事との両立方法、企業の支援策まで解説しました。
家族介護とは、家族や親族が日常生活に支援が必要な人の介護を担うことで、食事、入浴、排泄などの身体的ケアから家事全般まで幅広い支援を行います。在宅で生活する高齢者は基本的に家族によって介護されており、主な介護者は配偶者や子が中心です。
現状を見ると、要介護者がいる世帯のうち単独世帯が28.3%、夫婦のみ世帯が22.2%となっており、高齢者同士の老老介護が当たり前になりつつあります。60歳以上同士が77.1%、65歳以上同士が63.5%という数字が、その深刻さを物語っているのです。
家族介護の課題としては、身体的・精神的負担、経済的負担、孤立と非対称性の問題、家族内の協力体制などがあります。介護離職は年間約10万人に達し、経済損失額は2030年時点で約9兆円に達すると予測されています。
仕事との両立には、介護休業制度や介護保険サービスの活用が不可欠です。2025年4月の法改正により、企業には個別周知・意向確認、早期の情報提供、雇用環境の整備が義務付けられました。企業は、研修の実施、相談窓口の設置、柔軟な働き方の推進、経営層のコミットメントなどに取り組む必要があります。
家族介護は誰にでも起こりうる問題であり、個人だけでなく、企業や社会全体で支えていく必要があります。健康経営の観点からも、従業員の家族介護支援は重要な課題です。本記事を参考に、適切な対策を講じていきましょう。





