不妊治療への企業の支援制度|助成金と休暇制度の設計例
2026年 7月 13日

不妊治療と仕事の両立を支援する企業が増えている背景には、2022年4月の不妊治療の保険適用拡大や、少子化対策の一環として国が企業の両立支援を後押ししている流れがあります。結論から言うと、企業が不妊治療支援に取り組む際は「①国の助成金を活用した制度導入インセンティブの設計」「②休暇・休職制度の柔軟な設計」「③管理職・従業員への理解浸透」の3点をセットで進めることが重要です。ここでいう助成金は、後述のとおり従業員個人の治療費を直接補助するものではなく、企業が就業規則の整備や休暇制度の導入・利用実績を満たした場合に支給される「企業向け」の制度導入助成である点に注意が必要です。助成金だけを整えても、休みづらい職場風土のままでは制度が使われず、逆に休暇制度だけを作っても運用コストが企業の負担として重くのしかかります。本記事では、代表的な公的支援制度の概要と、休暇制度の設計例、両立支援を機能させるための運用ポイントを解説します。
なぜ今、不妊治療と仕事の両立支援が企業課題になっているのか
不妊治療は通院回数が多く、かつ排卵周期に合わせて急な受診が必要になることが多い治療です。厚生労働省の調査でも、不妊治療と仕事を両立できずに離職や雇用形態の変更に至った人が一定数存在することが示されています(執筆時点の情報。詳細な数値は厚生労働省「不妊治療と仕事の両立に係る諸調査結果」等の一次情報で要確認)。
2022年4月からは不妊治療(体外受精・顕微授精等の生殖補助医療を含む)の保険適用が始まり、費用面のハードルは下がった一方で、通院頻度の高さや治療スケジュールの読みにくさという「時間的制約」は残ったままです。ここに企業の両立支援制度が求められる理由があります。人事担当者としては、単なる福利厚生の追加ではなく、優秀な人材の離職防止・採用競争力の強化という経営課題として位置づけることが、社内稟議を通す上でも有効です。
企業が活用できる公的な助成金・支援制度
企業が不妊治療と仕事の両立支援に取り組む際、活用を検討したい代表的な公的支援の枠組みは以下の通りです。制度名・要件・支給額は改正されることが多いため、実際の申請にあたっては必ず厚生労働省や都道府県労働局の一次情報で最新の要件を確認してください。
両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース等)
厚生労働省は、仕事と不妊治療の両立を支援する企業向けに、就業規則の整備や休暇制度の導入・利用実績に応じて助成金を支給する枠組みを設けています(執筆時点で「両立支援等助成金」の関連コースとして整理されている制度。コース名・要件・支給額・対象事業主の範囲は年度により変更されるため、必ず厚生労働省の最新の実施要領で確認してください)。この助成金はあくまで企業(事業主)を対象とした制度導入インセンティブであり、従業員個人が受け取る治療費補助ではありません。一般的に、こうした助成金は以下のような要件を満たすことが前提になります。
- 不妊治療のための休暇制度や両立支援制度を就業規則等に明文化していること
- 労働者による制度の利用実績があること
- 相談窓口の設置など、企業内でのサポート体制が整備されていること
助成金の活用を検討する場合は、就業規則の改定→制度周知→利用実績の蓄積という順序が必要になるため、申請を急ぐよりも、まず制度設計を丁寧に行うことが結果的に近道になります。
くるみん認定・プラチナくるみん等との関連
次世代育成支援対策推進法に基づく「くるみん認定」「プラチナくるみん認定」は、直接的に不妊治療支援を要件とするものではありませんが、両立支援に積極的な企業として認定を受けることで、採用広報や企業イメージの向上につながります。不妊治療支援を含む両立支援制度の整備は、認定基準の達成にも間接的に寄与する場合があるため、人事戦略全体の中で連動させて検討する価値があります(認定基準の詳細は厚生労働省・都道府県労働局の一次情報で要確認)。
自治体独自の助成金・補助金
一部の自治体では、不妊治療と仕事の両立に取り組む企業向けに独自の奨励金・補助金を設けている場合があります。制度の有無や内容は自治体ごとに大きく異なるため、本社・事業所が所在する都道府県・市区町村の産業労働局や商工担当部署のWebサイトで個別に確認することをおすすめします(全国共通の制度ではないため、本記事では具体名の記載を避けています)。
休暇・休職制度の設計例
助成金の活用有無にかかわらず、実務上まず着手すべきなのは自社の休暇制度の設計です。以下のようなパターンが代表的です。
パターン1: 時間単位・半日単位の特別休暇
不妊治療は通院1回あたりの所要時間が短くても、頻度が高いことが特徴です。1日単位の休暇だけでなく、時間単位・半日単位で取得できる特別休暇を設けることで、有給休暇の消費を抑えつつ通院しやすくなります。既存の「時間単位年休」制度がある場合は、その対象理由に不妊治療を明記するだけでも一歩前進です。
パターン2: 不妊治療専用の休暇制度の新設
年間で一定日数(例:5日、10日など、自社の実情に応じて設定)を「不妊治療休暇」として新設し、有給・無給いずれかを企業の判断で設計する方法です。有給とする場合はコストが発生しますが、上記の助成金活用や、離職防止による採用・教育コストの削減効果と合わせて費用対効果を試算すると、経営層への説明がしやすくなります。
パターン3: フレックスタイム・時差出勤・在宅勤務との組み合わせ
休暇制度だけでなく、フレックスタイム制度や時差出勤、在宅勤務(テレワーク)と組み合わせることで、通院当日でも柔軟に勤務時間を調整できるようにする設計です。制度としての新設コストが低く、既存の働き方改革施策の延長線上で導入しやすいのが利点です。
パターン4: 休職制度(長期の治療・体調不良への対応)
治療の負担が大きく、就労の継続が困難な場合に備えて、通常の私傷病休職とは別に、あるいはその運用の中で不妊治療にも対応できることを明確化しておく方法です。休職からの復職支援(段階的な勤務時間の調整等)まで含めて設計すると、実際に利用する従業員の安心感が高まります。
いずれのパターンも、就業規則への明文化とハラスメント防止(いわゆる「不妊治療ハラスメント」への対応)をセットで整備することが前提になります。
制度を「使われるもの」にするための運用ポイント
制度を作っても、従業員が使わなければ意味がありません。運用面では以下の点が重要です。
- プライバシーへの配慮: 不妊治療は非常にセンシティブな個人情報です。申請理由を詳細に開示させる運用は避け、診断書の提出を求める場合も取り扱う担当者を限定するなど、情報管理を徹底します。
- 管理職への周知: 制度があっても、直属の上司が不妊治療への理解に乏しいと、従業員は取得をためらいます。管理職向けに、不妊治療の基礎知識や、繊細な言動をどう避けるかを研修等で伝えることが有効です。
- 相談窓口の設置: 人事・産業保健スタッフ等、相談先を明確にしておくことで、従業員が一人で抱え込むことを防ぎます。
この「管理職・従業員の理解不足」は、多くの企業で休暇制度そのものより先に壁になりやすい部分です。制度設計と並行して、女性の健康課題(不妊治療・生理・更年期等)への職場全体のリテラシーを高める研修を取り入れる企業も増えています。Wellflowのような法人向けの女性の健康研修プログラムは、こうした管理職・従業員向けの理解促進の一手として、制度整備と組み合わせて検討する選択肢の一つです。
まとめ
不妊治療と仕事の両立支援は、①国や自治体の助成金を活用した費用面の後押し、②時間単位休暇・専用休暇・柔軟な働き方・休職制度といった複数パターンの休暇制度設計、③プライバシー配慮と管理職・従業員への理解浸透という運用、の3点を組み合わせて初めて実効性を持ちます。まずは自社の就業規則を確認し、既存の休暇制度で対応できる部分と、新設が必要な部分を切り分けることから着手するとよいでしょう。助成金の要件は改正が多いため、申請を検討する段階では必ず厚生労働省・労働局の最新情報を確認してください。
出典・参考リンク
- 厚生労働省「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」等、不妊治療と仕事の両立に関する公的情報(要出典確認。厚生労働省Webサイト内の該当ページで最新版を確認してください)
- 厚生労働省「両立支援等助成金」実施要領(コース内容・要件・支給額は年度により改定されるため、要出典確認)
- 厚生労働省「くるみん認定・プラチナくるみん認定」制度概要(要出典確認)
- こども家庭庁・厚生労働省 不妊治療の保険適用に関する情報(2022年4月施行、要出典確認)
- 各都道府県・市区町村の産業労働局等が公表する独自助成金情報(自治体ごとに異なるため個別確認が必要)
(本文中の制度名・要件・支給額は執筆時点の一般的な情報整理であり、数値・詳細要件を捏造せず記載しています。実際の制度活用にあたっては、必ず厚生労働省・所轄労働局・各自治体の一次情報で最新の内容をご確認ください。)





