更年期による物忘れ・集中力低下と仕事への影響、企業ができること
2026年 7月 14日

更年期に差し掛かった従業員から「物忘れが増えた」「会議中に集中できない」といった声を聞いたことはないでしょうか。これは気のせいや甘えではなく、更年期に伴うホルモン変動が脳の認知機能に影響を及ぼすことで起こる、医学的にも報告されている症状です。結論から言えば、更年期による物忘れ・集中力低下は本人の意欲や能力の問題ではなく、放置すれば本人のキャリア継続意欲の低下や休職・離職につながりかねない企業全体の課題です。本記事では、更年期がなぜ集中力や記憶力に影響するのかというメカニズム、仕事面でどのような支障が出やすいか、そして企業として取り得る具体的な対応策を解説します。
更年期とは何か——ホルモン変動が脳に与える影響
更年期とは、閉経の前後5年間、一般的には45歳から55歳頃を指す期間です。この時期、卵巣機能の低下に伴い女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌量が大きく変動しながら減少していきます。
エストロゲンは生殖機能だけでなく、脳内の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリンなど)の働きにも関与しているとされています。そのため、エストロゲンの急激な変動は、ほてりや発汗といった身体症状だけでなく、気分の落ち込み、不安感、そして記憶力・集中力の低下といった認知面の症状としても現れることがあります。
厚生労働省が公表している情報でも、更年期症状として「もの忘れをする」「気力がなくなる」といった精神・神経症状が代表的な症状の一つとして挙げられています(執筆時点の情報。詳細は一次情報で要確認)。つまり、物忘れや集中力低下は更年期の症状の中でも比較的知られたものであり、特別な病気ではなく、多くの女性が経験しうる自然な身体変化の一部と理解しておくことが、職場での適切な対応の第一歩になります。
仕事にどう影響するのか——具体的な支障の現れ方
更年期による認知面の症状は、職場では次のような形で現れやすいとされています。
- 会議や商談での集中力の途切れ: 長時間の会議で内容についていけなくなる、以前より疲れやすく感じる
- 物忘れによるケアレスミス: メールの送付漏れ、資料の入れ忘れ、約束の失念など、これまでなかった単純ミスが増える
- マルチタスクの困難: 複数の業務を同時に進める場面で、優先順位づけや切り替えがスムーズにいかなくなる
- 言葉が出てこない感覚: 話している最中に単語が思い出せず、会話にもたつきを感じる
これらの症状は本人にとって「これまでできていたことができなくなった」という自己評価の低下につながりやすく、周囲に相談しづらいという特性もあります。特に管理職や専門職として長年キャリアを積んできた女性ほど、「自分の能力が落ちた」と誤解し、必要以上に自信を失ってしまうケースが見られます。
企業側がこの背景を理解しないまま「最近ミスが多い」「集中力が足りない」と評価してしまうと、本人のモチベーション低下だけでなく、キャリア形成に対する不公平感や、優秀な人材の休職・離職につながるリスクがあります。
企業が抱えるリスク——人材流出とパフォーマンス低下
更年期世代は多くの企業において、管理職や中核人材として重要なポジションを担っている年代と重なります。この世代の従業員が症状を抱えながら適切なサポートを受けられない場合、企業には次のようなリスクが生じます。
第一に、離職・休職による人材損失です。長年培ってきたスキルやノウハウを持つ人材が、体調不良を理由に退職や休職を選択すれば、採用・育成コストの再発生だけでなく、組織としての知見の損失にもつながります。
第二に、生産性の低下です。本人が症状に気づかないまま無理を続けたり、逆に症状を過度に恐れて業務を回避したりすることで、結果的にパフォーマンスが不安定になりやすくなります。
第三に、職場の心理的安全性の毀損です。更年期症状について話題にできない、相談できない雰囲気があると、本人だけでなく周囲の同世代の従業員にも「自分も同じ状況になったら助けてもらえないのではないか」という不安を与えかねません。
これらは個人の健康問題であると同時に、人的資本経営や健康経営の観点からも企業が向き合うべき経営課題だと言えます。
企業ができる具体的な対応
企業が更年期による集中力低下・物忘れに向き合う際に取り得る対応は、大きく分けて「制度」「相談窓口」「教育・研修」の3つの軸で整理できます。
1. 柔軟な働き方を可能にする制度設計
更年期症状は日によって波があることが多いため、フレックスタイム制度やテレワーク、時差出勤、休憩の取りやすさなど、体調に応じて働き方を調整できる制度が有効です。特別な「更年期休暇」を新設する企業も出てきていますが、まずは既存の有給休暇や特別休暇制度を柔軟に使える運用にするだけでも効果があります。
2. 相談しやすい窓口の整備
産業医や保健師との面談機会、外部のメンタルヘルス相談窓口など、症状について相談できるルートを明示しておくことが重要です。相談窓口があっても「更年期の話をしてよい場所」だと認知されていなければ利用されません。窓口の存在だけでなく、利用目的の中に更年期症状も含まれることを周知する必要があります。
3. 管理職・従業員双方への教育・研修
最も効果的でありながら見落とされがちなのが、管理職と従業員本人の双方に対する正しい知識の提供です。管理職が更年期のメカニズムを理解していなければ、部下の不調を「やる気の問題」と誤って評価してしまうリスクがあります。一方、従業員本人も「これは更年期の症状かもしれない」と気づけるだけで、不必要な自己否定を避け、適切なタイミングで婦人科を受診したり、上司に相談したりする行動につながります。
こうした研修は単発の講演だけでなく、継続的に学べる仕組みとして提供することが定着の鍵になります。例えばWellflowのような法人向けの女性の健康研修プログラムでは、更年期を含む女性特有の健康課題について、管理職向け・従業員向けにそれぞれ設計されたコンテンツを提供しており、社内で「話しても大丈夫」という空気を作る土台として活用されています。制度を整えるだけでなく、その制度を使いこなすための理解を組織全体に広げることが、実効性のある対応につながります。
まとめ
更年期による物忘れ・集中力低下は、多くの女性が経験しうる自然な身体変化であり、本人の能力や意欲の問題ではありません。しかし、この理解が組織に浸透していなければ、本人の自己評価低下やキャリア形成への不安、ひいては優秀な人材の離職につながるリスクがあります。企業としては、柔軟な働き方を可能にする制度、相談しやすい窓口の整備、そして管理職・従業員双方への正しい知識の提供という3つの軸で対応を進めることが有効です。更年期世代の従業員が安心して力を発揮し続けられる職場づくりは、個人の健康支援であると同時に、人的資本経営における重要な投資だと言えるでしょう。
出典・参考リンク
- 厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」および更年期症状に関する公表情報(執筆時点の情報。具体的なURL・数値は一次情報で要確認)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「更年期障害」関連ページ(要出典確認)
- 日本産科婦人科学会 更年期に関する情報(要出典確認)
本記事の統計・制度に関する記述は執筆時点の一般的な公知情報に基づいています。最新の制度内容や統計数値については、各省庁・学会の一次情報を直接ご確認ください。





