PMSでの休暇取得|診断書は必要?企業の休暇制度との関係を解説
2026年 7月 14日

PMS(月経前症候群)による体調不良を理由に休暇を申請された場合、企業側が診断書の提出を求めることは法的に可能ですが、一律に必須とする運用は望ましくありません。PMSは診断名がつきにくく、症状も個人差が大きいため、診断書取得のハードルが高い従業員を追い詰め、かえって「言い出しにくい職場」を作ってしまうリスクがあるからです。本記事では、PMSと休暇制度の関係、診断書提出を求める際の法的な位置づけ、企業が取りうる現実的な対応の選択肢について解説します。
PMSとはどのような症状か
PMS(Premenstrual Syndrome、月経前症候群)は、月経開始の3〜10日ほど前から始まり、月経開始とともに軽減・消失する身体的・精神的な症状の総称です。腹痛や頭痛、むくみといった身体症状に加え、イライラ、抑うつ気分、集中力の低下といった精神症状を伴うことがあり、症状の程度は個人差が非常に大きいのが特徴です。
症状が重く、日常生活や仕事に強い支障をきたす場合は「月経前不快気分障害(PMDD)」と呼ばれる、より重い状態と診断されることもあります。PMDDは精神科領域の診断基準(DSM-5等)に基づいて医師が判断するものであり、単なる「生理前の不調」とは区別されます。
重要なのは、PMSそのものは病名としての診断基準が国際的に統一されておらず、婦人科を受診しても「PMSです」という診断書が必ずしも発行されるとは限らない点です。医師によっては「機能性月経困難症」や「月経前症候群」といった診断名で対応することもありますが、症状の申告に基づく診断であるため、客観的な検査数値で裏付けられるものではありません。この診断の性質を人事担当者が理解しておくことが、後述する休暇制度の設計において重要になります。
休暇取得に診断書は必須にできるか
企業が私傷病休暇や特別休暇の取得にあたり診断書の提出を求めること自体は、就業規則にその旨を明記していれば法的に問題ありません。診断書の提出は、休暇の必要性を客観的に確認し、制度の濫用を防ぐための一般的な手段として広く行われています。
ただし、PMSに関しては診断書提出を一律の必須条件にすることに、実務上いくつかの課題があります。
第一に、前述のとおりPMSは診断書を取得しにくい性質の不調です。婦人科受診のハードル(予約の取りにくさ、心理的抵抗感、費用負担)に加え、症状が出るたびに受診して診断書をもらうという運用は現実的ではありません。
第二に、診断書取得を条件にすることで、本来休暇を必要としている従業員が「診断書をもらうほどではない」「忙しくて受診できない」という理由で休暇取得を諦め、体調不良のまま出勤する(いわゆるプレゼンティーズム)を助長する可能性があります。
第三に、月経随伴症状に関する休暇は労働基準法第68条の「生理休暇」との関係も整理しておく必要があります。生理休暇は「生理日の就業が著しく困難な女性」が請求した場合に企業が付与を拒めない法定の休暇であり、行政解釈上、就業規則等で診断書等の証明書提出を一律に求めることは望ましくないとされています(具体的な通達内容・適用範囲は厚生労働省の一次情報で要確認)。PMSによる不調は月経開始前に生じるため、法律上の「生理休暇」の対象時期そのものではないケースもありますが、生理休暇の運用と矛盾しない制度設計を意識する企業が増えています。執筆時点の情報であり、自社の就業規則への反映にあたっては社会保険労務士等の専門家に確認することを推奨します。
診断書を求める場合の実務上の注意点
診断書の提出をまったく求めない、というのも現実的ではない企業もあるでしょう。長期・頻回の休暇取得や、特別休暇・傷病手当金の申請が絡む場合など、一定の証明を求める必要がある場面は存在します。診断書の提出を求める場合は、以下の点に配慮することが望ましいとされています。
- 一律運用を避ける:単発の体調不良による半日・1日程度の休暇取得にまで診断書を求めず、一定日数以上の連続休暇や頻度が高い場合に限定するなど、段階的な運用にする
- 取得コストへの配慮:診断書発行にかかる費用を従業員負担とする場合、金額や取得の手間が休暇取得を萎縮させていないか点検する
- プライバシーへの配慮:診断書に記載される病名や症状の詳細が、必要以上に人事・上司間で共有されないよう、取り扱い範囲を明確にする
- 代替手段の検討:診断書に代えて、本人の申告書や上長の口頭確認など、より簡便な確認方法を用意する
診断書取得を絶対条件にするのではなく、「なぜ確認が必要なのか」という制度の目的(業務調整、法定休暇との切り分け、給与計算上の扱い等)に立ち返り、目的に対して過剰な証明を求めていないかを定期的に見直すことが重要です。
企業が整備すべき休暇制度の選択肢
PMS関連の不調に対応する休暇制度には、いくつかの設計パターンがあります。自社の状況に応じて組み合わせることが現実的です。
- 生理休暇の運用見直し:労働基準法上の生理休暇は「生理日」が対象ですが、運用上PMSによる不調にも一定範囲で適用できるよう、就業規則の解釈や社内周知を柔軟にする企業もあります
- 私傷病休暇・特別休暇の新設:生理休暇とは別に、月経随伴症状を含む体調不良を対象とした有給・無給の特別休暇枠を設ける
- 時間単位・半日単位の休暇取得:PMSの症状は数時間〜1日程度で軽快することも多いため、時間単位年休や半休制度を活用しやすくする
- 柔軟な働き方との組み合わせ:テレワーク、フレックスタイム、時差出勤など、休暇取得以外の選択肢を用意し、「休むか出社するか」の二択にしない
どの制度を採用するにせよ、「取得しやすさ」と「濫用防止」のバランスを取ることが設計上の要点です。診断書の要否は、その一部の論点にすぎません。
制度だけでなく職場理解も欠かせない
制度を整えても、上司や同僚がPMSについて正しい理解を持っていなければ、従業員は休暇や配慮を申し出にくいままです。「生理くらいで休むのか」といった無理解な反応が一度でもあれば、その後の相談は途絶えてしまいます。
人事・労務担当者としては、休暇制度の整備と並行して、管理職層を含めた研修や情報提供を行い、PMS・PMDDが本人の意思でコントロールしにくい医学的な不調であることの理解を広げることが有効です。Wellflowのような法人向け女性の健康研修プログラムを活用し、管理職と従業員双方がPMSをはじめとした女性特有の健康課題について正しい知識を持てる機会を設けることも、休暇制度が形骸化せず実際に使われる制度になるための一つの手段です。
まとめ
PMSを理由とする休暇取得に対して診断書提出を一律に義務付けることは、法的には可能であっても実務上のハードルとリスクが大きく、推奨されません。生理休暇に関しては診断書提出を要件とできないという行政解釈もあり、PMS対応の休暇制度を設計する際もこの整合性を意識する必要があります。診断書を求めるかどうかを個別に判断するのではなく、休暇制度全体の目的に立ち返り、取得しやすさと運用の適正さを両立する設計を検討することが、企業にとって現実的な対応と言えます。あわせて管理職層の理解促進にも取り組むことで、制度が実際に機能する土台が整います。
出典・参考リンク
- 厚生労働省「労働基準法における母性保護規定について(生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置)」(要出典確認・厚生労働省サイト内の該当ページURLは変動するため、厚生労働省公式サイトで最新情報をご確認ください)
- 厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」(要出典確認)
- 日本産科婦人科学会「月経前症候群(PMS)」関連情報(要出典確認)
- 労働基準法第68条(生理休暇規定)
※本記事の法令解釈に関する記述は執筆時点(2026年7月)の一般的な情報に基づくものです。自社の就業規則・制度設計への反映にあたっては、必ず社会保険労務士等の専門家、および厚生労働省・所轄労働基準監督署の一次情報でご確認ください。





