時短・育休の「しわ寄せ」で不公平感が出る職場の立て直し方
2026年 7月 8日

両立支援制度そのものは順調に整っているのに、現場からは「またあの人の分をカバーするのか」という声が漏れる。人事としては制度を否定されたわけではないとわかっていても、対応に悩む場面は多いはずです。しわ寄せは制度の欠陥ではなく、その背景には「運用設計の空白」があります。
なぜ両立支援が「周囲のしわ寄せ」になるのか
時短勤務や育休の利用者が増えるほど、周囲の負担が増えるように見えるのは、制度自体の問題ではなく要員設計が利用実態に追いついていないためです。多くの職場では、時短勤務者や育休取得者の抜けた分の業務量を「誰かが調整してくれるはず」という前提のまま運用してきました。
その調整役を担ってきたのが、特定のベテラン社員や周囲の同僚に依存した属人的な対応(特定の人しかできない状態で業務が回っていること)です。属人化した状態では、誰か一人が抜けるだけで負荷が別の一人に集中しやすく、しわ寄せが特定のメンバーに偏ります。
さらに近年は、女性の時短勤務だけでなく男性の育休取得も広がりつつあり、休業や時短の対象者は一部の層に限られなくなっています。男性育休の広がりを前提にした要員計画の考え方は、男性育休を後押しする企業実務でも詳しく取り上げていますが、根本にある課題は共通しています。「誰が抜けても業務が回る設計」になっているかどうかです。
不公平感の正体 —— "制度そのもの"ではなく"負担の見えなさ"
現場の不満の多くは、「時短勤務や育休を取ること」自体への反発ではありません。自分が肩代わりしている分が、誰にも把握されていないことへの不満です。
不公平感が強まりやすいのは、次のような状態が重なったときです。
- 誰がどれだけカバーしているか、上司や人事が業務量や負担感として把握していない
- カバーした分の業務量や難易度が、評価や処遇に反映される仕組みがない
- 「お互い様だから」という言葉だけで済まされ、具体的な調整がされない
- 時短勤務者・育休取得者本人も、周囲への影響を正確に把握できていない
これは女性の時短勤務や育休に限った話ではありません。不妊治療と仕事の両立支援でも、不妊治療と仕事の両立支援制度のように配慮が必要な場面は増えていますが、いずれの制度でも「利用する人」と「支える人」の間の負担が見える化されていないと、同じ構造の不公平感が生まれます。制度の是非ではなく、負担の可視化と分配の設計が不公平感を左右する本質だといえます。
業務の再配分と代替要員の設計(時短・育休を前提にした人員計画)
しわ寄せを構造的に防ぐには、時短勤務や育休の利用を「例外対応」ではなく、最初から人員計画に織り込んでおくことが有効です。
具体的には、以下のような順序で見直すことができます。
- 業務の棚卸し: チーム内の業務を洗い出し、誰か一人にしかできない業務(属人化業務)を特定する
- マニュアル化・引き継ぎ準備: 属人化業務について、最低限の手順を文書化し、複数人が対応できる状態にしておく
- 代替要員の確保方法の検討: チーム内異動、派遣・応援人員の活用、業務委託など、休業・時短が発生した際の選択肢をあらかじめ整理しておく(派遣法・請負契約上の整理を踏まえて選ぶ)
- 早めの引き継ぎ・代替体制の相談: 取得時期の変更を前提にせず、育休・時短の予定が分かった段階で、業務引き継ぎや代替体制を早めに相談できる関係性をつくる
このプロセスは、時短勤務者や育休取得者が「悪い」わけでは決してなく、そもそも一人が抜けても回る設計になっていなかった組織側の課題を直視するものです。人事が主体的にこの棚卸しを主導することで、現場任せの調整から一歩進んだ体制に変えられます。
カバーする側を評価する仕組み(人事評価への織り込み)
しわ寄せ対策で見落とされがちなのが、カバーする側の貢献を評価に反映する仕組みです。時短勤務者や育休取得者への配慮は語られても、その分を支えたメンバーの負荷は評価面談で言及されないままになりがちです。
評価制度に組み込む際に検討したい観点は次の通りです。
- 目標設定の段階で、チームメンバーの休業・時短による業務量変動を織り込んでおく
- 上司が定期的な1on1で、カバー業務の量や内容を具体的に確認する機会を設ける
- カバー対応を「当然の助け合い」で終わらせず、評価コメントや処遇の検討材料として言語化する
- 人事評価制度全体の中で、チーム貢献を測る項目を明確に位置づける
これは制度利用者の評価を下げるという意味ではなく、支える側の貢献も同じように見えるようにする、という趣旨です。評価に反映されること自体が、「見てもらえている」という納得感につながります。逆に、どれだけ負荷を引き受けても評価上まったく変化がない状態が続くと、不公平感は制度そのものへの不満に転化しやすくなります。
しわ寄せを放置すると起きること(ハラスメント・離職)
しわ寄せを可視化・分配せずに放置すると、負担が特定のメンバーに偏り続け、職場の人間関係が悪化していく傾向があります。その延長線上で起こりやすいのが、時短勤務者や育休取得者本人への嫌がらせや冷遇です。これは育児・介護休業等に関するハラスメント(いわゆる時短ハラスメント)につながるおそれがあります。
こうした行為は、当人に直接的な悪意がない「ちょっとした嫌味」や「業務からの排除」であっても、状況によってはハラスメントや不利益取扱いと評価されるリスクがあります。しわ寄せへの不満のはけ口が制度利用者本人に向かってしまう構造や、実際に起こりやすい言動については、時短ハラスメントの実態と防止策で詳しく解説しています。
こうした状態を放置すると、以下のような連鎖が起きやすくなります。
- カバーする側の疲弊 → チーム内の関係悪化 → 制度利用者への風当たりの強化
- 制度利用者の心理的負担増加 → キャリア継続への不安や退職検討
- 「カバーして当然」という空気の定着 → カバー側の離職やモチベーション低下
いずれの経路でも、最終的に組織全体の離職リスクや生産性低下の一因になり得ます。しわ寄せは個人間のトラブルではなく、人事が関与すべき組織課題として扱う必要があります。
立て直しの進め方(人事が今日から着手できるステップ)
しわ寄せの立て直しは、いきなり評価制度や人員計画全体を変える必要はありません。まずは現状を把握するところから始められます。
- 現状把握: 時短勤務者・育休取得者がいるチームで、誰がどの業務をどれだけカバーしているかをヒアリングする
- 属人化業務の特定: カバー業務のうち、特定の人しかできない業務を洗い出す
- 管理職への聞き取り: 現場の管理職が負荷分散にどこまで関与できているか、権限や情報が足りているかを確認する
- 評価制度との接続確認: 現行の評価制度で、カバー業務の貢献が反映される余地があるかを人事側で点検する
- 小さな試験運用: 1〜2チームで業務の棚卸しとマニュアル化を試験的に行い、効果と課題を検証する
- 展開判断: 試験運用の結果を踏まえ、対象範囲を広げるかどうかを判断する
このステップの共通点は、**「制度を変える」前に「実態を把握する」**ことを優先している点です。実態が見えないまま制度だけを変えても、現場の納得感にはつながりにくいためです。
まとめ
時短勤務・育休のしわ寄せは、制度そのものの問題ではなく、要員設計と負担の可視化が追いついていないことから生じます。以下のチェックリストで、自社の状況を確認してみてください。
- 時短勤務者・育休取得者のいるチームで、誰がどれだけカバーしているか把握できているか
- カバー業務が特定の人に偏る「属人化」が起きていないか
- カバーした分の貢献が、評価や処遇の検討材料として言語化されているか
- 制度利用者本人への風当たりが強まる兆候(時短ハラスメントの芽)がないか
- 人員計画の段階で、時短勤務や育休の可能性をあらかじめ織り込めているか
未整備の項目があれば、そこが立て直しの出発点になります。
両立支援の設計を見直すなら
Wellflowは女性の健康・両立支援の観点から、制度設計・運用を支援しています。自社の要員設計や評価制度の見直しに関心のある方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問
時短勤務のしわ寄せは、そもそもどこまで人事が介入すべきですか。
カバーしている社員に、手当や特別な報酬を出すべきですか。
時短勤務者本人にも、周囲への配慮を求めてよいのでしょうか。
属人化を解消するには、まず何から着手すればよいですか。
しわ寄せへの不満が、すでに特定の社員への冷遇として表面化している場合はどうすればよいですか。
小規模なチームでは代替要員の確保が難しいのですが、どう考えればよいですか。





