不妊治療と仕事の両立支援制度のつくり方|休暇・就業規則の実例

2026年 7月 8日

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不妊治療と仕事の両立支援は、いまや一部の先進企業だけのテーマではなく、あらゆる企業の人事・経営が向き合うべき制度課題になっています。本記事は「支援制度をこれから新設したい」「既存の休暇規程を不妊治療に対応させたい」という人事・労務のご担当者に向けて、制度の全体像から就業規則への落とし込み、公的支援の活用、当事者への配慮までを実務目線で整理します。

個人が休職や休暇をどう取得するかという当事者視点の実務は別記事で扱っているため、本記事は「企業側がどう制度を設計し、就業規則に落とすか」に絞って解説します。

1. なぜ今「不妊治療の両立支援」が人事の課題なのか

まず押さえておきたいのは、両立支援がないことが「人材の流出」に直結しているという事実です。厚生労働省の令和5年度の調査では、不妊治療を経験した人のうち 約26.1% が、仕事と両立できずに「離職した」「雇用形態を変えた」「不妊治療そのものをやめた」のいずれかを選ばざるを得なかったと報告されています。この中には両立できずに「仕事を辞めた」人も含まれており、不妊治療を理由とした離職やキャリアの中断は、現実に起きています。

その一方で、支援制度が整っている企業はまだ多数派ではありません。不妊治療を行う従業員が受けられる支援制度等がある企業は 26.5% にとどまり、裏を返せば約7割の企業がまだ着手できていない状況です。

つまり現状は、「両立できずに辞めていく従業員が一定数いる」にもかかわらず「制度で受け止められている企業は4社に1社程度」という需給ギャップが生じています。ここに手を打つことは、単なる福利厚生ではなく、採用競争力・定着率・DE&I(多様性)推進のいずれの観点からも経営インパクトのある投資になります。男性側の関与や休暇取得を含めた両立支援の全体像は男性の産休・育休に関する記事、従業員の心身の健康を軸にした経営視点は健康経営に関する記事もあわせてご覧ください。

2. 企業が用意すべき制度の全体像

不妊治療の両立支援は、単発の「不妊治療休暇」を作れば完結するものではありません。治療は通院頻度が読みにくく、数時間の外出で済む日もあれば、採卵・移植のようにまとまった休みが必要な日もあります。この「予定の立てにくさ」に対応するには、複数の制度を組み合わせて設計するのが実務的です。

厚生労働省の調査でも、支援制度等がある企業では、その支援内容は「利用可能な休暇制度(47.8%)」「勤務時間や場所の柔軟性を高める制度(19.4%)」「通院や休息時間を認める制度(14.3%)」と、休暇・柔軟な働き方・通院配慮の3系統に分かれています(いずれも複数回答)。設計時は、次の4つを軸に検討するとよいでしょう。

  • 不妊治療休暇(特別休暇) — 治療・通院を目的とした専用の休暇枠。まとまった休みや、通院日単位の取得に対応する。
  • 時間単位・半日単位の年次有給休暇 — 数時間の通院に、丸1日の休暇を消費させないための仕組み。時間単位の年次有給休暇は労使協定の締結が必要で、取得できるのは年5日分までですが、既存の年休制度に組み込みやすい選択肢です。
  • 時差出勤・フレックスタイム — 午前の診察後に出社する、といった柔軟な始業を可能にする。
  • テレワーク(在宅勤務) — 通院前後の移動負担や体調変動に合わせて働ける。

短時間勤務やシフト調整も、職種によっては有効な選択肢になります。重要なのは、「休む」だけでなく「働き方をずらす・場所を変える」オプションを併せ持たせることです。休暇日数には上限があるため、時間単位有給やフレックスと組み合わせることで、有給が早期に枯渇する事態を防げます。

3. 就業規則・休暇規程への落とし込み方

制度の骨子が決まったら、次は就業規則・休暇規程への明文化です。ここでの設計判断が、制度が「使われるかどうか」を大きく左右します。

有給か無給か

不妊治療休暇を有給とするか無給とするかは、最初に決めるべき論点です。無給でも制度として存在する意義はありますが、当事者にとって経済的負担は治療継続の大きな壁になります。有給とすれば取得のハードルは下がり、制度の利用促進につながります。予算とのバランスを見ながら、「年◯日までは有給、超過分は無給」といった段階設計も現実的です。

日数・付与単位の設計

治療は月をまたいで長期化することが少なくありません。年間付与日数を設ける場合は、1日単位だけでなく半日・時間単位での取得を認めると、通院実態に合致します。付与の起点(年度単位か、申請ベースの都度付与か)、繰り越しの可否、上限日数もあわせて規定します。

呼称・名称への配慮

規程上の休暇名を「不妊治療休暇」と明示するか、あるいは「ライフサポート休暇」「通院休暇」のような汎用的な名称にして不妊治療を含める形にするかは、慎重に検討すべき論点です。名称を直接的にすると制度の意図は明確になる一方、取得すること自体が周囲に治療を知らせてしまう懸念があります。取得時に理由を細かく問わない運用や、汎用名称との併用は、後述するプライバシー配慮と直結します。

対象範囲・証明書類

対象を「本人の治療」に限るのか、配偶者・パートナーの治療への付き添いまで含めるのかを定義します。証明書類の提出を求める場合も、診断名まで開示させるのではなく、通院の事実が確認できる範囲にとどめる配慮が望まれます。

なお、個々の従業員が実際に休暇・休職をどう申請し取得していくかという当事者側の実務は、不妊治療と休職・休暇に関する記事で詳しく扱っています。制度を作る側と使う側の両面から確認しておくと、規程の抜け漏れに気づきやすくなります。

4. 使える公的支援を制度に組み込む

自社制度をゼロから設計する負担を減らし、かつ取り組みを社外にも示すために、公的支援を積極的に活用しましょう。

両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)

中小企業事業主向けの代表的な助成金です。従来は「不妊治療両立支援コース」という名称でしたが、2025年(令和7年)4月から 「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」 に再編され、不妊治療に加えて月経(PMSを含む)・更年期といった女性の健康課題への対応も対象範囲に広がりました。両立支援制度を導入し、労働者が実際に利用した場合などに、中小企業事業主に対して支給されます。

注意点として、以前あった「連続20日以上の休暇取得」に対する加算措置は廃止されるなど、支給要件や金額は改定が続いています。具体的な支給額・要件は、申請前に必ず厚生労働省の最新の支給要領で確認してください(年度により変動します)。

くるみんプラス認定

「くるみんプラス」は、子育てサポート企業の認定制度であるくるみん認定(くるみん・トライくるみん・プラチナくるみん)に、不妊治療と仕事の両立支援への取り組みを評価する一類型として、2022年(令和4年)4月に創設されたものです。なお、2025年(令和7年)4月にくるみん認定等の基準・マークの見直しが行われましたが、くるみんプラスの認定基準自体に変更はありません。

認定の主な要件は、不妊治療のための休暇制度と、柔軟な働き方(半日・時間単位の年次有給休暇、時差出勤、フレックスタイム、短時間勤務、テレワークなど)等のいずれかの制度を整えていること、両立支援への理解を深める研修などを実施していること、取り組みを従業員に周知していること、対象従業員のための相談担当者を選任していることです。認定を取得できれば、採用広報や取引先へのアピールにもつながります。くるみん認定全体の基準はくるみん認定に関する記事で解説しています。

マニュアル・研修会・不妊治療連絡カード

厚生労働省は、事業主・人事部門向けの「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」や、両立支援担当者向けの研修会を提供しています。また、従業員が治療の予定や必要な配慮を、詳細な病状を開示せずに職場へ伝えられる「不妊治療連絡カード」も用意されています。制度づくりの初期段階では、まずこれらの公的リソースを土台にすると、設計の手戻りを減らせます。

5. 「職場に伝えていない」層への配慮 — プライバシーと申請フロー

制度設計で最も見落とされがちなのが、「治療していることを職場に知られたくない」という当事者心理への配慮です。厚生労働省の調査では、不妊治療をしていることを職場に一切伝えていない(伝えるつもりがない)人が 約47.1% と半数近くにのぼります。また、職場で治療をオープンにしていない人がその理由として挙げるのは、「伝えなくても支障がないから」(37.1%)、「周囲に気遣いをしてほしくないから」(33.0%)、「治療がうまくいかなかったときに職場に居づらいから」(27.7%)などです。

つまり、いくら手厚い制度を作っても、「使うと治療のことが知られてしまう」設計では利用されません。申請フローを設計する際は、次の点を意識します。

  • 申請ルートを人事部門に一本化できる選択肢を用意する — 直属の上司を必ず経由させると、上司に治療を知らせることになる。人事へ直接申請できる経路を残す。
  • 休暇名称・申請理由の抽象化 — 前述の汎用的な休暇名称の採用や、理由欄で「不妊治療」と明記させない運用にする。
  • 開示範囲を本人が選べるようにする — 誰に、どこまで伝えるかを本人がコントロールできる設計にする。「不妊治療連絡カード」は、詳細を伏せたまま必要な配慮だけを伝える手段として有効です。
  • 情報の取り扱いルールを明文化する — 申請時に得た治療情報を、業務上必要な範囲を超えて共有しないことを規程やガイドラインで担保する。

制度の存在と、それを安心して使える運用は別物です。プライバシー保護をセットで設計してはじめて、制度は「使われるもの」になります。

6. 制度を「使われる」ものにする周知・研修

最後に、作った制度を形骸化させないための運用です。制度を導入しても、従業員がその存在を知らなければ意味がありません。

  • 社内周知 — 就業規則の改定通知だけで終わらせず、イントラネットや説明会、ハンドブックなどで、制度の内容・申請方法・相談窓口を繰り返し案内する。
  • 管理職向けの研修 — 相談を受ける立場になり得る管理職が、不妊治療への基礎的な理解と、プライバシーに配慮した対応(詮索しない、情報を広めない)を身につけられるようにする。
  • 相談窓口の明確化 — 誰に相談すればよいかを明示し、相談したことで不利益が生じないことを併せて伝える。
  • 周知の際の表現 — 特定の従業員を想起させない、あくまで「全員が使える制度」というトーンで伝えることで、当事者が申請しやすい空気をつくる。

制度・就業規則・周知・研修の4つがそろってはじめて、両立支援は「絵に描いた餅」ではなく、離職を防ぎ人材が定着する仕組みとして機能します。

まとめ

不妊治療の両立支援は、休暇制度を1つ作れば終わりではなく、(1) 休暇・時間単位有給・柔軟な働き方の組み合わせ、(2) 有給/無給・日数・呼称を踏まえた就業規則への落とし込み、(3) 助成金・くるみんプラスなど公的支援の活用、(4) 非開示層に配慮した申請フロー、(5) 周知と研修、という一連の設計をセットで進めることが要諦です。

「両立できずに辞めていく従業員」と「制度で受け止められている企業は4社に1社」というギャップは、裏を返せば、いま制度を整える企業にとって採用・定着の面で差をつけられる領域でもあります。自社の現状に合わせて、まずは着手しやすい制度から段階的に整備を始めてみてください。

不妊治療の両立支援制度づくりを進めるなら

Wellflowでは、不妊治療と仕事の両立支援を含む、女性の健康課題に関する制度設計・運用の支援を行っています。自社の現状整理や規程の見直しに関心のある方は、お気軽にご相談ください。

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