男性育休の取得を後押しする企業の実務|2025年改正と制度設計
2026年 7月 8日

男性の育児休業取得率は年々上昇していますが、実際に「取得を後押しする」体制が整っている企業とそうでない企業の差は依然として大きいのが実情です。特に2025年は、育児・介護休業法の改正内容が段階的に施行される節目の年であり、人事担当者・経営層には従来以上に踏み込んだ制度設計と運用が求められています。
本記事は、男性本人が「どう育休を取るか」ではなく、企業が「どのように制度を整え、取得を後押しするか」という視点に絞って解説します。個人が知っておくべき制度の種類や取得条件については、男性育休の制度の種類や取得条件で詳しく取り上げていますので、そちらもあわせてご確認ください。
ここでは、2025年の法改正のポイント、産後パパ育休の実務、給付・社会保険の取り扱い、そして「取得率が上がらない本当の理由」まで、企業側が押さえておくべき論点を順に整理します。
2025年の育児・介護休業法改正で企業に何が求められるか
2025年は、育児・介護休業法の改正内容が段階的に施行される年です。人事担当者としてまず押さえておきたいのは、次の2点です。
- 育休取得率の公表義務の対象拡大(2025年4月〜)
- 柔軟な働き方を実現するための措置の義務化(2025年10月〜)
育休取得率の公表義務の対象拡大
2025年4月から、男性の育児休業等の取得率の公表が義務付けられる企業の範囲が拡大されました。従来は常時雇用する労働者数が1,000人を超える企業が対象でしたが、これが「300人超」の企業にまで広がっています。
これまで公表義務の対象外だった中堅企業も、自社の取得率を毎年公表する必要が出てきたということです。公表内容は採用力や企業イメージにも直結するため、単なる法令対応にとどまらず、経営課題として取り組む企業が増えています。
柔軟な働き方を実現するための措置(2025年10月〜)
2025年10月からは、3歳から小学校就学前の子を持つ労働者に対して、事業主が「柔軟な働き方を実現するための措置」を講じることが義務化されます。次のような選択肢の中から、複数を制度化することが求められます。
- 始業時刻の変更
- テレワーク
- 短時間勤務
- 育児目的の休暇の新設
あわせて、従業員本人からの妊娠・出産の申出時や、子が3歳になるまでの間に、個別の意向確認や配慮を行うことも必要になります。これらは男性育休そのものの制度ではありませんが、育休から復帰した後も働き方の選択肢を持たせるという意味で、男性の育休取得のハードルを下げる効果が期待されています。
産後パパ育休(出生時育児休業)の企業側の実務
男性育休を語るうえで欠かせないのが、産後パパ育休(出生時育児休業)です。企業としては、この制度をどう社内で運用するかを具体的に決めておく必要があります。
申出・分割・休業中の就業の扱い
産後パパ育休の主な要点は、次のとおりです。
- 対象期間: 子の出生後8週間以内
- 取得可能日数: 通算4週間(28日)まで
- 取得方法: 1回にまとめて取得、または2回に分割して取得
分割して取得できることで、出生直後の入院・退院のタイミングと、その後の育児が本格化するタイミングの両方に休業を充てるといった使い方ができます。
また、労使協定(会社と労働者代表との間であらかじめ取り決めを結んでいるもの)を締結している場合に限り、休業中であっても労働者が合意した範囲内で就業することが認められています。完全に業務から離れられない役割を担う社員でも、休業と就業を組み合わせることで育休取得のハードルを下げられる仕組みです。
ただし、就業を前提にした運用は休業本来の趣旨を損なわないよう、就業日数や時間の上限に注意しながら設計する必要があります。個人がどのように分割・就業を組み合わせて取得できるかについては、産後パパ育休の期間や取得方法の解説もあわせてご確認ください。
なお、産後パパ育休は、育児・介護休業法上の通常の育児休業とは別枠の制度です。出生後8週間以内に産後パパ育休を取得し、その後にあらためて通常の育児休業を取得するという組み合わせ方も可能であり、企業としては両制度の関係を正しく整理したうえで社員に案内する必要があります。
企業側としては、次の準備を、育休対象者が出てから慌てて行うのではなく、あらかじめ整えておくことが重要です。
- 就業規則への規定整備
- 労使協定の締結
- 申出書のフォーマット整備
- 管理職への周知
特に、就業規則の変更が必要な場合は労働基準監督署への届出も発生するため、対象者が出る前の年次で人事・労務のスケジュールに組み込んでおくと安心です。
育児休業給付・社会保険料免除の企業手続き(2025年の給付拡充を含む)
男性育休の取得を後押しする際、本人が特に不安を感じやすい論点の一つが、「休業中の収入がどうなるか」です。企業の人事担当者は、給付制度の全体像を理解したうえで、対象者に正確な情報を伝えられるようにしておく必要があります。
ここで曖昧な説明や社内の伝聞に頼った案内をしてしまうと、対象者が育休取得の判断そのものを先延ばしにする原因にもなりかねません。
育児休業給付金は雇用保険から支給されるもので、休業開始から一定期間は給付率が高く設定され、その後は給付率がやや下がる仕組みになっています。具体的な給付率や切り替えの時期は制度改定の対象になり得るため、対象者への案内時には、申請時点の最新情報をハローワーク等で確認することが必要です。
さらに2025年4月からは、「出生後休業支援給付金」という新しい給付が設けられました。これは、子の出生後の一定期間内に、被保険者本人とその配偶者がともに一定日数以上の育児休業を取得した場合などに、既存の育児休業給付金に上乗せして給付が行われる仕組みです。
上乗せの結果、休業中の実質的な手取り水準を引き上げる効果があるとされています。ただし、上乗せの率や対象となる日数の要件、配偶者が就労していない場合の扱いなど、支給要件は細かく定められているため、対象者に案内する際は、厚生労働省やハローワークの最新情報と照合して確認しましょう。
あわせて、育児休業中は、所定の手続きを行うことで健康保険料・厚生年金保険料が労使双方について免除される仕組みがあります。免除を受けるための要件や届出のタイミングには細かな規定があり、会社側が年金事務所等に対して所定の届出を行う必要があります。
この手続きは従業員本人ではなく企業側の実務として発生します。届出様式や提出時期を日本年金機構等の案内で確認し、社内のチェックリストに組み込んでおくと安心です。人事担当者は、育休の申出を受けた時点で、給付金の申請支援と社会保険料免除の届出の両方を漏れなく進められるよう、社内フローを整えておくことが望まれます。
「取れる制度」より「取れる空気」——取得率が上がらない本当の理由
制度を整備しても、実際の取得率が思うように上がらない企業は少なくありません。多くの場合、原因は制度の不備そのものよりも、職場の運用や空気にあります。主な要因として、次のようなものが挙げられます。
- 上司や同僚の理解不足: 制度上は取得できても、「自分のチームが忙しい時期に休むのは気が引ける」「昇進や評価への影響が不安」といった心理的なハードルが、実際の取得行動を抑制します。これは本人の意思の問題ではなく、組織としてのメッセージの出し方の問題です。
- 特定の部署・職種への偏り: 管理部門では取得しやすいが、営業や製造の現場では取りづらい、といった偏りがあると、全社的な取得率は伸び悩みます。制度自体は全社員に平等に適用されていても、運用の実態が部署ごとに異なれば、取得率のばらつきとして表れます。
- 経営層・管理職の意識: 経営層や管理職自身が育休を取得した経験がない、あるいは取得を積極的に評価してこなかった場合、部下に対しても「取ってもいい」というメッセージが伝わりにくくなります。取得率を本気で引き上げたい企業ほど、制度設計と同時に、管理職層の意識・行動を変えるアプローチが必要になります。
男性育休の代替要員・業務引き継ぎの設計
育休の取得をためらう最大の理由の一つが、「自分が抜けた間、業務が回るのか」という不安です。企業側がこの不安を取り除く仕組みを用意できるかどうかが、取得率を左右します。
業務の可視化と引き継ぎの標準化
特定の担当者に業務が属人化していると、休業中の代替が難しくなります。日頃から業務マニュアルや進行中案件の情報を共有しておき、誰か一人が数週間から数か月不在になっても対応できる体制を整えておくことが基本です。育休の取得が決まってから引き継ぎを始めるのではなく、日常的な業務の可視化を進めておくことで、突発的な休業にも強い組織になります。
代替要員の確保と応援体制
育休中の業務を、既存メンバーの残業や兼務だけでカバーしようとすると、周囲の負担が増し、「育休を取ると周りが大変になる」というマイナスの印象が社内に広がりかねません。次のような選択肢を組み合わせて、負担を分散させる設計が求められます。
- 派遣や契約社員による一時的な補充
- 部署をまたいだ応援体制
- 繁忙期を避けた取得時期の調整
国の助成金制度の中には、育休取得者の代替要員を確保した企業などを対象にしたものもあるため、人事担当者は自社が活用できる制度がないか、あわせて確認しておくとよいでしょう。
取得時期の調整と業務量の平準化
育休の取得時期そのものを、繁忙期を避けて本人と相談しながら決められる余地を持たせておくことも有効です。もちろん出産のタイミングは調整できませんが、育休の取得期間や復職後の働き方の一部については、業務の繁閑を踏まえて本人と相談する余地があります。こうした調整を「特別扱い」ではなく、育休対象者に共通する標準プロセスとして運用することが、社内での不公平感を防ぐポイントです。
取得を推進するための社内ルールと周知
制度と体制が整っても、それが社内に正しく伝わっていなければ、取得率の向上にはつながりません。最後に、推進のための社内ルールと周知のポイントを整理します。
まず、育休の対象者が発生した場合に、上司から本人へ個別に制度を説明し、取得意向を確認するプロセスをルール化することが有効です。本人からの申し出を待つ受け身の運用ではなく、企業側から情報提供と意向確認を行う**「プッシュ型」**の運用に切り替えることで、取得のハードルは大きく下がります。実際に、2025年の法改正でも、個別の周知・意向確認の取り組みが企業に求められています。
また、経営層が男性育休の取得を推進する方針を社内外に明確に発信することも重要です。社内報や全社会議での言及、人事評価における育休取得への配慮の明文化など、具体的な形でメッセージを示すことで、現場の管理職も動きやすくなります。あわせて、こうした取り組みを対外的にアピールする手段として、次世代育成支援対策推進法に基づくくるみん認定の取得を目指す企業もあります。認定基準には育児休業の取得に関する要件が含まれるため、社内の制度整備を進める際の指標としても活用できます。
最後に、一度制度を整えて終わりにせず、取得率や取得期間の推移を定期的にモニタリングし、課題があれば運用を見直し続けることが大切です。男性育休の推進は、単発の施策ではなく、継続的な組織運営の一部として位置づける必要があります。
まとめ
2025年は、育休取得率の公表義務の対象拡大や、柔軟な働き方を実現するための措置の義務化など、企業に求められる対応が一段と広がる年です。男性育休を「取れる制度」で終わらせず「取得が進む運用」に変えるには、産後パパ育休の実務整備、給付・社会保険手続きの正確な案内、代替要員の確保、そして管理職を含めた社内の意識づくりを、あわせて進める必要があります。
制度は整えて終わりではなく、運用し続けて初めて効果が出ます。まずは自社の現状を、次のステップで確認していくことをおすすめします。
- 公表義務の対象に該当するか
- 就業規則・労使協定に産後パパ育休の運用が反映されているか
- 対象者への個別周知・意向確認のフローがあるか
- 代替要員や引き継ぎの手順が決まっているか
出典・参考リンク
本記事の内容に関連する、厚生労働省の公式情報は以下のとおりです。
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よくある質問
「常時雇用労働者300人超」はどう数える?
産後パパ育休と通常の育休は何が違う?
男性育休の取得は会社の義務ですか?
育休取得中の社会保険料はどうなる?
代替要員の確保に使える助成金はある?
取得率が上がらない場合、何から見直すべき?





