人事KPIツリーのつくり方|定義を先に決める3つの手順

2026年 9月 24日

人事KPIツリーとは、経営が追う結果の指標を、それを動かしている人事の指標に分解し、木の形に並べたものです。女性管理職比率のように一つの数字だけを眺めていると、どこに手を打てばよいかが分かりません。分解すると、動かすべき段が見えてきます。この記事では、架空のグループ企業のデータで実際にツリーを組み、分解の手順と、指標の定義が一つずれるだけで答えが変わる理由を示します。

人事KPIツリーとは

人事KPIツリーは、上に結果の指標、その下に結果を左右する中間の指標、いちばん下に日々の人事施策で動かせる指標を置いた図です。営業のKPIツリーと同じ考え方で、上の数字が下の数字の組み合わせで決まるように並べます。

人事の場合、上に来るのは女性管理職比率、離職率、男性育休取得率といった、経営会議や開示で問われる数字です。その下に、昇進率や滞留年数、部署ごとの配属比率が入ります。

一覧表との違いは、指標どうしのつながりが書かれていることです。人事KPIを並べただけの一覧では、ある数字が悪いときに、その原因がどこにあるかまでは分かりません。開示が義務づけられた指標と社内で追う指標の整理は人事KPI一覧|開示義務のある指標と社内用の指標で扱っています。ツリーはその次の段階で、並べた指標を因果の順に組み直す作業にあたります。

ツリーは結果から下へ、定義は根元から固める

組み立ては上から始めます。経営がいちばん気にしている結果の数字を一つ選び、それを割り算の形に分けていきます。女性管理職比率は、管理職に占める女性の数です。ですから、管理職の手前の段に何人の女性がいて、そのうち何人が上がってくるか、という形に分けられます。

定義のほうは、下から固めます。いちばん下の指標が何を数えているかがあいまいなままだと、上の数字も同じだけあいまいになります。管理職は課長級からか、課長代理を含むのか。在籍者は期末時点で数えるのか、期中の平均か。こうした取り決めを先に文書にしておかないと、同じツリーから部署ごとに違う数字が出てきます。

手順は3つです。

  1. 結果の指標を一つ選び、割り算の形に分ける
  2. 分けた各段について、何を、いつ時点で、どの範囲で数えるかを決めて記録する
  3. 各段の数字を実際のデータで埋め、どこで落ちているかを確かめる

2番目を飛ばして3番目に進むのが、いちばん多いつまずきです。

サンライズHDで人事KPIツリーを組む

ここからは、製造業を中心とする12社・従業員8,420名のグループ、サンライズHDのデータで組んでみます(サンプルデータ・架空のグループ)。グループの女性管理職比率は9.8%で、業種平均の8.9%はわずかに上回ります。ただし同業同規模での位置は、この3年で47パーセンタイルから41パーセンタイルへ下がりました。比率そのものは上がっているのに、相対的には後退しています。

結果の指標は女性管理職比率です。これを職位の段ごとの女性比率に分けると、次のようになります。

在籍者うち女性女性比率
スタッフ2,680名1,104名41.2%
主任・担当2,420名1,096名45.3%
係長・課長代理1,120名270名24.1%
管理職(課長級以上)840名82名9.8%

出典:サンライズHDのサンプルデータ(架空のグループ)。この記事の数字はすべて同じデータから計算しています。非正規(1,240名)と経営・上級専門職(120名)は表から省いています。

管理職の9.8%は、840名のうち女性が82名という数字から出ています(82÷840)。この一番上の数字だけを見ていると、打てる手は管理職への女性の登用くらいしか思いつきません。段ごとに並べると、落ちている場所が別にあることが分かります。

分解して初めて、手を打つ段が見える

表をたどると、女性比率がいちばん大きく下がるのは管理職の直前ではありません。主任・担当の45.3%から、係長・課長代理の24.1%へ、21.2ポイント落ちています。係長・課長代理から管理職へはさらに14.3ポイント下がりますが、最初の落差のほうが大きい。

この段をもう一つ下に分けると、理由が見えてきます。主任・担当から係長・課長代理へ5年以内に上がった人の割合は、女性が41.6%、男性が63.9%で、22.3ポイントの開きがあります。人事評価は女性が3.61、男性が3.57(5点満点)です。評価ではほぼ差がないのに、昇進で差がついています。

係長級にとどまっている年数も違います。平均で男性3.9年、女性6.1年。5年を超えてとどまっている人は、男性の24.6%に対して女性は44.8%です。女性管理職比率を押し下げている要因を洗い出すと、いちばん大きかったのがこの係長級での5年超の滞留でした。

ここまで分解すると、手を打つべき段は、管理職への登用ではなく、主任から係長への昇進だと分かります。

自社の在籍者数と昇進率を入れて、どの段を動かせば比率がいくつになるかを試せる女性管理職比率シミュレーターも用意しています。段ごとの見方そのものは、女性管理職パイプラインの可視化で詳しく扱っています。

定義が一つずれると、同じデータから別の答えが出る

ツリーの数字は、根元の定義に左右されます。サンライズHDでは、管理職を「課長級以上、課長代理・課長補佐を除く」と定義しています。この取り決めを変えて、係長・課長代理の段まで管理職に含めて数えてみます。分母は840名に1,120名を足した1,960名、女性は82名に270名を足した352名です。352÷1,960で、比率は18.0%になります。

同じ名簿から、定義を変えただけで9.8%と18.0%が出ました。どちらかが誤っているわけではありません。数えている範囲が違います。困るのは、部署や年度によって使う定義が揃っていないときです。前年より伸びたように見えて、実は数える範囲が変わっていただけ、ということが起こります。

順位のつけ方でも同じことが起きます。サンライズHDで上位10%を次世代リーダー候補とする判定を、全体の順位で行うと、女性の該当率は8.9%、男性は15.4%です。同じデータ、同じスコアのまま、順位を同性の中でつけ直すと、女性12.1%、男性12.4%になります。変えたのは順位をつける集団だけです。この仕組みはAI人事評価のデメリット|同じデータで選ばれる人が入れ替わる理由で詳しく扱っています。

だから定義は、版として管理しておく必要があります。管理職の数え方に版の名前をつけ、どの数字がどの版で計算されたかを後から追えるようにしておく。Floraの人事データ基盤であるCapLeadは、指標の定義を版ごとに持ち、開示用の数字も社内の分析も、同じ定義から出すようにつくられています。

開示する指標と社内で追う指標を分ける

ツリーに並ぶ指標は、外に出すものと、社内で追うものに分かれます。女性管理職比率、男女間賃金差異、男性育休取得率は、有価証券報告書や女性活躍推進法にもとづく公表で数字を求められます。一方で、段ごとの昇進率や滞留年数には開示の義務がありません。結果の指標を動かすために、社内で追う数字です。

この2つを分けて考えておかないと、開示のために計算した数字と、社内の分析で使う数字が食い違います。開示には法令が決めた定義を使い、社内の分析にも同じ定義を使う。そのうえで、社内でだけ追う中間の指標を足していく。この順番にすると、数字どうしの矛盾が生まれにくくなります。

どの指標が開示義務の対象で、どれが社内用か。定義と分母を一覧にした資料として、人事KPI 指標カタログを公開しています。女性活躍に絞った指標の選び方は、女性活躍推進のKPI設計も参考になります。

人事KPIツリーをつくるときのつまずき

いちばん多いのは、定義を決めないまま数字を埋め始めることです。部署ごとに管理職の数え方が違えば、ツリーの上で足し合わせた数字には意味がありません。

二つ目は、分解を一段で止めてしまうことです。サンライズHDでも、段ごとの女性比率までで止めていれば、主任から係長で落ちていることまでは分かります。けれども、それが昇進の遅れなのか、離職なのかは分かりません。5年昇進率と滞留年数まで下りて、ようやく打ち手が決まります。

三つ目は、グループの合計だけを見ることです。サンライズHDの女性管理職比率を押し下げている分のうち、約7割はサンライズ製造(マイナス1.1ポイント)とサンライズ物流(マイナス0.8ポイント)の2社から来ています。合計の9.8%だけを追っていると、手を打つべき会社がどこかが見えません。なお会社ごとの比率は管理職の母数が違うため、単純に平均してもグループの9.8%にはなりません。

四つ目は、指標が効くまでの時間を見ないことです。サンライズHDでは、新卒総合職の採用に占める女性の比率が、2016年度の13.2%から2026年度には44.6%まで上がりました。10年で3.4倍です。ところが管理職に上がるまでには平均14年かかるため、2026年度に採用した人たちが管理職比率に効いてくるのは2040年前後になります。採用の比率をツリーに入れても、今期の9.8%は動きません。どの指標がいつ結果に効くのかをツリーの横に書き添えておくと、期待と実際の数字のずれを経営に説明できます。

ツリーは一度つくって終わりではありません。施策を打ったら、どの段の数字が動いたかを、同じ定義のまま測り直します。定義を揃えて測り続けることで、その施策が効いたのかどうかを判断できるようになります。

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