人事データの出どころ|その数字を説明できる状態

2026年 9月 14日

経営会議で人事データの数字を出したとき、いちばん答えにくい質問があります。「その数字、どこから来たの」です。水準の良し悪しより先に、これを聞かれます。

答えられないのは、担当者が把握していないからではありません。人事データは複数のシステムと複数のExcelに分かれて存在し、集計のたびに誰かが手で組み合わせています。組み合わせ方が記録されていなければ、後から辿れないのは当然です。

この記事では、人事データの出どころを構成する要素を整理し、それを付けるための手順をまとめます。数字はCapLeadのデモで使っているサンプルデータ(架空のグループ「サンライズHD」12社・従業員8,420名)です。実在の企業のデータではありません。

人事データは、集めた時点では説明できない

人事データが社内にないという会社は、ほとんどありません。在籍者名簿、等級、評価の履歴、勤怠、健康関連の記録。たいてい全部あります。

問題は、それらが別々の場所で、別々の粒度で、別々の基準日で保持されていることです。グループ会社があれば、会社ごとに等級体系も違います。給与システムの在籍者と、勤怠システムの在籍者と、人事台帳の在籍者は、微妙に数が合いません。出向者の扱い、休職者の扱い、月の途中の入退社。どれも扱いのルールが違います。

だから集計のたびに、誰かが判断しています。「出向者は含める」「休職者は分母に入れる」。その判断は正しいことが多いのですが、記録されません。翌年、別の人が別の判断をして、数字が動きます。

数字が動いた理由が施策の効果なのか判断の違いなのか。これが分からなくなった状態が、人事データを説明できない状態です。

この状態は、データの量とは関係ありません。よく整備された大企業でも起きますし、200名の会社でも起きます。分かれ目は、集計の判断が記録されているかどうかだけです。

出どころがないと、何ができなくなるか

抽象的な話に聞こえるので、具体的に3つ挙げます。

開示で説明できません。 公表した数字に対して、根拠を問われる場面は増えています。監査でも、投資家との対話でも、聞かれるのは水準そのものより「どう算出したか」です。抽出条件が残っていないと、その場で答えられません。

施策の効果が測れません。 研修を入れた、制度を変えた、それで指標が0.6ポイント動いた。この0.6が施策の効果なのか、集計の判断が変わっただけなのかを切り分けられません。効果が測れなければ、次の予算の根拠も作れません。

AIに読ませられません。 生成AIは与えられた表と整合する文章を書きます。表が間違っていても、自然な日本語で、根拠らしい説明つきで出てきます。人が書いた間違いより気づきにくく、しかも速く大量に出ます。

3つに共通するのは、困るのが集計の瞬間ではなく、半年後や1年後だという点です。集計している時点では誰も困りません。だから後回しになり、困ったときには当時の担当者がいない、という順番をたどります。

出どころを構成する4つ

「どこから来たか」に答えるには、4つが揃っている必要があります。

要素何を記録するか
指標名その指標が何を数えているか
分母誰を母数にしたか
時点いつの状態か、どの期間か
抽出条件元データから何をどう絞ったか

4つのうち、現場でいちばん抜けるのは抽出条件です。指標名と分母は資料に書かれることが多く、時点も年度として書かれます。しかし「出向者を除いた」「非正規を含めた」は、作業した人の頭の中にしか残りません。

もうひとつ、4つに加えて記録しておきたいのが、定義を決めた日付です。定義は必ず変わります。組織再編、等級制度の改定、法令の変更。どれも定義を動かします。いつ変えたかが残っていないと、前年比が説明できません。

記録する場所は、集計ファイルの中ではなく別の場所にしてください。ファイルは上書きされます。指標ごとに1枚の定義書を作り、そこに4つと日付を書く。これだけで、翌年の作業は大きく楽になります。

サンプルデータで見る:同じ指標、違う数字

具体例で見ます。「女性管理職比率」という同じ指標名で、2つの数字が出る場合です。

サンプルデータのグループでは、管理職(課長級以上)が840名、うち女性が82名で9.8%です。同じグループには、係長・課長代理1,120名(うち女性270名)という段があります。

管理職の範囲に係長・課長代理を含めると、(82+270)÷(840+1,120)=18.0%になります。

分母の取り方女性管理職比率
課長級以上9.8%
係長・課長代理を含む18.0%

8.2ポイントの差です。どちらも計算としては正しく、どちらも「女性管理職比率」と呼べます。違うのは分母だけで、その違いが資料に書かれていなければ、読んだ人には区別がつきません。

そして厄介なのは、9.8%と18.0%が同じ資料の中で並ぶことがある点です。片方はグループ全体の集計から、もう片方は各社の報告を足し上げたもの。出どころが違うのに、同じ指標名で並びます。数字が合わないという議論は、たいていここから始まります。

同じことは離職率でも起きます。分母を期首在籍にするか平均在籍にするか、定年退職を含めるかで別の数字になります。考え方は「離職率の計算方法」にまとめました。公表側の定義の扱いは「女性管理職比率の公表」で整理しています。

出どころを付ける手順

全社のデータを一度に整える必要はありません。順番があります。手を動かす量より、決める順番のほうが効きます。

  1. いま経営会議に出している指標を数える。 たいてい5個から10個です。この範囲から始めます。
  2. 指標ごとに4つを書き出す。 指標名、分母、時点、抽出条件。書けない欄が出てきます。それが今の状態です。
  3. 書けなかった欄を、作業した人に聞く。 聞ける相手がいるうちに聞いてください。異動や退職で失われる情報です。
  4. 元データまでの経路を1本に決める。 どのシステムのどのファイルから、どの手順で作るか。手順が2本あるなら、片方を捨てます。
  5. 決めた日付をつけて保存する。 次に定義を変えるとき、前の版と比べられるようにします。

この作業でいちばん時間がかかるのは4です。同じ指標を別の部署が別の手順で作っていることが、ここで分かります。どちらが正しいかの議論になりますが、正しさより「どちらを今後使うか」を決めるほうが早く進みます。捨てるほうの手順も、捨てた事実を記録しておいてください。

5段階のうち、3で止まる会社が多くあります。聞ける相手がいない、当時の担当が辞めている。その場合は、元データから作り直して新しい定義を決めるほうが早く済みます。過去の数字は、遡って再計算できる範囲だけ直します。

厚生労働省が求める公表項目のように、法令で定義が決まっている指標は、この作業が楽です。分母も時点も決まっているので、書き出すのは抽出条件だけで足ります。開示側の全体像は「人的資本開示の女性活躍3項目」と「SSBJ基準と人的資本開示」で扱いました。

よくある失敗

  • 全社のデータ整備から始める。 終わりません。経営会議に出ている指標に絞れば、数か月で形になります。
  • 担当者の異動前に引き継がない。 抽出条件は頭の中にあります。異動が決まってから聞くのでは間に合わないことがあります。
  • ツールを入れれば解決すると考える。 定義を決めるのは人の仕事です。ツールは決まった定義を固定して配る役割で、決める作業そのものは代替できません。順番を逆にすると、定義が決まらないまま高い基盤だけが残ります。
  • 分母を書かずに比率を配る。 「女性比率42%」とだけ書かれた数字は、他の数字と並べられた時点で意味が変わります。比率には必ず分母を添えてください。
  • 定義の変更を注記なしで行う。 数字が跳ねた年に注記がないと、施策の効果として読まれます。翌年、効果が消えたように見えて説明できなくなります。
  • 合成指標に出どころを求めない。 エンゲージメントスコアのような合成指標も、設問と集計方法が出どころです。指標の性格は「eNPSとは」で扱っています。

Floraの支援:元ファイルの行まで遡れる状態にする

Flora株式会社の「CapLead」は、グループ各社に散在する人事・人的資本のデータを一つの基盤で管理し、指標ごとの定義を版で固定して、元ファイルの行まで遡れる出典を残します。集計や生成の出力には、その定義と出典が紐づきます。人数の少ない区分は、画面にも書き出しにも出ません。

「その数字どこから来たの」に、その場で答えられる状態にする。開示でも分析でもAIでも、必要になるのは同じこの部分です。まず30分、貴社グループで今どの指標を出しているかをお聞かせください。

まとめ

人事データは、集めただけでは説明できません。指標名、分母、時点、抽出条件の4つが揃って初めて、その数字の出どころを答えられます。加えて、定義を決めた日付を残してください。

サンプルデータでは、分母の取り方ひとつで女性管理職比率が9.8%と18.0%に分かれました。どちらも正しい計算で、記録がなければ区別がつきません。整備は全社からではなく、いま経営会議に出している指標から始めるのが現実的です。困るのは集計の瞬間ではなく半年後なので、後回しにすると当時の担当者がいない状態で探すことになります。

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