離職率の計算方法|分母の決め方と業界平均との正しい比べ方
2026年 9月 11日

離職率を役員会に出すと、決まって「その数字は何人を分母にしているのか」と聞かれます。計算式そのものは割り算ひとつですが、分母をいつ時点の人数にするか、パートを含めるか、定年退職を数えるかで、同じ会社の同じ年の数字が数ポイント動きます。この記事では、厚生労働省の定義にもとづく計算方法、自社で決めておくべき3つの論点、業界平均と比べるときの落とし穴、そして離職率が下がっても安心できない理由を整理します。
離職率の計算方法:基本の式
厚生労働省「雇用動向調査」は、離職率を次のように定義しています。
> 離職率 = 離職者数 ÷ 1月1日現在の常用労働者数 × 100
分母は年初時点の在籍者数です。期中に入社して期中に退職した人は分子に入りますが分母には入らないため、採用を増やした年は離職率が上がって見えます。この非対称は定義上のもので、間違いではありません。ただ自社の数字を説明するときは、この性質を理解しておかないと「採用を頑張ったのに離職率が悪化した」という誤った結論になります。
分母を期首と期末の平均在籍者数にする方法もあります。どちらでも構いませんが、一度決めたら変えないこと、そして外部の統計と比べるときは相手の定義に合わせることの2つが要点です。
自社で決める3つのこと
分母をいつの時点にするか。 年初在籍、期中平均、期末在籍の3通りがあります。厚労省の統計と比較するなら年初在籍に揃えます。
誰を数えるか。 正社員のみか、契約社員やパートを含めるか。パートタイム労働者の離職率は一般労働者より大幅に高く、令和6年の雇用動向調査でも一般労働者12.1%に対しパートタイム労働者23.3%でした。両者を混ぜた全社の数字は、雇用構成が変わるだけで動きます。正社員と非正規を分けて出すのが実務的です。
どの離職を数えるか。 定年退職、契約期間の満了、会社都合の退職を含めるかどうかです。組織の課題を見るのが目的なら、自己都合による退職に絞った数字を別に持つほうが役に立ちます。定年退職者が多い年は全体の離職率が上がりますが、それは対策すべき事象ではありません。
この3点を社内の定義書に一度書いてしまえば、翌年以降の議論が「数字の作り方」から「数字の意味」に移ります。
定義書に書く内容は数行で足ります。分母の時点、対象となる雇用区分、分子に含める離職の種類、集計の対象期間、そして数字を更新する頻度。これを人事の共有フォルダに置き、経営会議の資料には毎回同じ注記を付ける。担当者が代わっても数字が揺れない状態は、この程度の手間で作れます。
出向者と休職者の扱いも決めておいてください。在籍出向は分母に含め、休職中の社員も在籍として数えるのが一般的ですが、社内で認識が割れていると年によって集計が変わります。判断に迷ったら、外部統計に合わせるより社内で一貫させることを優先してください。
目的別に使い分ける計算式
| 見たいこと | 分母 | 分子 |
|---|---|---|
| 全社の人の出入り | 年初の在籍者数 | 期中の離職者すべて |
| 組織の課題 | 年初の在籍者数 | 自己都合による離職者 |
| 新卒の定着 | その年の新卒入社者数 | 3年以内に離職した人数 |
| 中途の立ち上がり | その年の中途入社者数 | 1年以内に離職した人数 |
| 部署別の比較 | 部署の年初在籍者数 | 部署の自己都合離職者 |
新卒3年以内離職率は、分母がその年の入社者だけになる点が全社の離職率と大きく違います。母数が小さいため、1人の増減で数ポイント動きます。20人採用の会社なら1人で5ポイントです。前年との比較を語る前に、実人数を併記してください。
具体的に計算してみます。年初の在籍者が500人、期中の離職者が40人(うち定年10人、契約満了5人、自己都合25人)の会社であれば、全体の離職率は40 ÷ 500 × 100 で8.0%です。自己都合に絞れば25 ÷ 500 × 100 で5.0%になります。同じ年の同じ会社で3ポイントの差が出ます。経営会議に出すのはどちらか、そしてそれをどう説明するかを、集計の前に決めておいてください。
部署別に出すときは、分母が小さくなることに注意します。在籍20人の部署で2人が辞めれば10%です。全社平均の8%と並べて「あの部署は離職率が高い」と結論づける前に、実人数と、その2人が同じ理由で辞めたのかを確認してください。率は人数が少ないほど跳ねます。
業界平均と比べるときの注意
厚生労働省「令和6年雇用動向調査」によると、令和6年1年間の離職率は14.2%、入職率は14.8%でした。産業別では宿泊業・飲食サービス業が29.9%、サービス業(他に分類されないもの)が23.8%と高く出ています。
この数字と自社を比べるときは、3つを揃えてください。定義(分母の時点)、対象(パートを含むか)、産業です。全社で正社員だけを数えた8%という数字を、パートを含む全産業平均14.2%と並べても、比較になっていません。
規模も効きます。同じ産業でも、採用を継続的に行っている企業は分母に対する入退社の回転が速く、離職率は高めに出ます。事業を拡大している会社の高い離職率と、縮小している会社の低い離職率は、意味が正反対です。
年齢構成も無視できません。定年退職者が集中する年は、組織の状態が何も変わっていなくても離職率が跳ねます。50代後半の在籍者が多い企業では、今後数年の離職率の上昇があらかじめ見込めます。この分を織り込まずに前年比を語ると、対策が必要ない変動に人事の労力を使うことになります。
比較の相手として最も有用なのは、他社ではなく自社の過去です。定義を固定した3年分の推移と、同じ定義で切った部署別の分布。この2つがあれば、外部の平均値がなくても議論は進みます。採用市場での説明が必要な場面では業界平均を添えれば足ります。社内の意思決定に使うなら、自社の推移のほうが情報量が多いと考えてください。
離職率を目標に置くと何が起きるか
離職率を人事の評価指標にしている企業は少なくありません。ただ、この指標を目標に据えると、二つの副作用が出ます。
一つは、辞めさせないことが目的化することです。合わない仕事に就いている人を引き止めれば、その年の離職率は下がります。ただし翌年以降に本人の意欲が戻る保証はなく、周囲への影響も残ります。離職率が低いこと自体は、組織が健全であることを意味しません。
もう一つは、数字の作り方に手が伸びることです。定年退職を含める含めない、分母を期末在籍にする、契約社員を外す。定義を動かせば数ポイントは動きます。目標として設定した瞬間に、定義が交渉の対象になります。
指標として使うのであれば、自己都合による離職に絞ったうえで、部署別と入社年次別に分解した数字を並べてください。全社一本の離職率は、経営に報告する数字としては使えても、対策を決める材料にはなりません。どの部署のどの層で起きているかまで降りて初めて、打ち手が具体化します。
離職率が下がっても、安心はできない
離職率は結果指標です。数字が動いたときには、辞める判断はとうに終わっています。人事が知りたいのは、まだ在籍している人のうち何人が離れかけているかのほうです。
Floraが一社の人事データを数年分たどった集計では、月あたりの平均残業時間で層を分けたとき、残業が月5時間未満の層と60時間以上の層で継続意欲は80.2から65.2へと15ポイント下がりました。同じ比較で、ウェルビーイングの指標は63.1から58.3へ5ポイントしか動きません。ウェルビーイングは最初のひと山で下げ止まり、継続意欲だけが最後の層まで下がり続けます。
自発的に辞めた人と残った人の人事評価の差は−0.16で、ほとんど差がありませんでした。辞めていくのは評価の低い人ではありません。なお、この集計は各時点の状態を並べたもので、残業が継続意欲を下げたという因果を示すものではありません。継続意欲の低い人が残業の多い部署に残りやすい、という向きでも同じ数字は説明できます。
離職率と並べて、継続意欲のような先に動く指標を月次か四半期で持つ。この組み合わせにすると、離職率が上がる前に手を打つ余地が生まれます。サーベイの設計そのものは「エンゲージメントサーベイとは?企業成長を加速させる組織改善ツールを解説」に、形だけの運用に陥る原因は「エンゲージメントサーベイは無駄?形骸化する原因や効果的な活用法を解説」にまとめています。表に出ないまま進む離職の兆しは「「大丈夫です」の裏にある離職リスク——静かな離職を防ぐ組織づくり」で、残業時間そのものの管理は「36協定とは?残業時間の上限と特別条項|罰則と実務の進め方を解説」で扱っています。
Floraの支援:結果指標と先行指標を並べる
Flora株式会社の「Wellflow」は、従業員が日常的に使うヘルスケアアプリと管理職・全社員向けの研修に、導入前後を同じ指標で測る効果検証サーベイを組み合わせた健康経営支援サービスです。離職率のような結果指標に、継続意欲やウェルビーイングといった先行指標を並べ、どの部署で何が先に動いているかを可視化します。生理痛体験研修とあわせて、これまでに150社以上に導入されています。
まとめ
離職率の計算方法でつまずくのは、式より分母です。時点、対象者、離職の種類の3つを社内で決めて文書化し、外部と比べるときは相手の定義に合わせる。これだけで数字をめぐる不毛な議論はなくなります。
そのうえで、離職率は結果指標であることを前提に、継続意欲のような先に動く指標を並べてください。自社での設計は無料相談でご案内しています。
よくある質問
離職率の分母は年初と期中平均のどちらが正しいですか。
定年退職者は離職率に含めますか。
新卒3年以内離職率が高いのは自社だけでしょうか。





