離職の予兆をデータで見つける|サーベイが「大丈夫」と答える理由

2026年 9月 11日

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退職の申し出を受けてから振り返ると、思い当たる変化はいくつも出てきます。問題は、その時点では誰も気づいていなかったことです。予兆は本人の行動に表れるより先に、指標のほうに出ています。ただし、多くの企業が見ている指標は動きません。この記事では、離職の予兆がどの指標に先に出るのかを実際の人事データから示し、自社で予兆を捉える手順と、見つけたあとの打ち手を整理します。

!残業時間帯別の継続意欲とウェルビーイングを比べた折れ線グラフ。継続意欲は80.2から65.2へ、ウェルビーイングは63.1から58.3へ推移

予兆は「しんどさ」より先に「辞める気持ち」に出る

Floraが一社の人事データを数年分たどった集計では、月あたりの平均残業時間で5つの層に分けたとき、2つの指標がまったく別の動きをしました。

月あたり残業ウェルビーイング継続意欲人事評価
5時間未満63.180.22.22
5〜15時間58.871.22.14
15〜30時間59.569.22.15
30〜60時間58.366.82.19
60時間以上58.365.22.21

観測数は各層およそ890件から4,750件で、在籍者数×年の延べ件数です。

残業が月5時間未満の層と60時間以上の層を比べると、継続意欲は80.2から65.2へ15ポイント下がります。同じ比較で、ウェルビーイングは63.1から58.3へ5ポイントしか動きません。しかもウェルビーイングは5時間未満から5〜15時間のあいだで4.3ポイント下がったあと、そこから先はほぼ横ばいです。継続意欲だけが最後の層まで下がり続けます。

しんどさとして自覚される前に、この会社で働き続けるかどうかの答えのほうが先に変わっている、と読めます。なお、この集計は各時点の状態を並べたもので、残業が継続意欲を下げたという因果を示すものではありません。継続意欲の低い人が残業の多い部署に残りやすい、という向きでも同じ数字は説明できます。

ウェルビーイングを指標に置くと、異常が出ない

健康施策の効果指標にウェルビーイングや満足度を置いている企業は多くあります。この設計だと、残業の多い部署も「やや低い」程度にしか見えません。5ポイントの差は、判断を変えるほどの幅ではないためです。

結果として、対策の優先順位が上がらないまま時間が過ぎ、退職の申し出で初めて事態が分かります。サーベイは異常を出していません。設計上、出ないようになっています。

ウェルビーイングや満足度が悪い指標だというわけではありません。健康施策の効果を測るには適していますし、経年で追う価値もあります。ただ、離職の予兆を捉える用途には感度が足りません。指標には向き不向きがあり、定着を見たいなら定着に近い問いを立てる必要があります。

もう一つ、この集計で分かったことがあります。自発的に辞めた人と残った人の人事評価の差は−0.16で、ほとんど同じでした。辞めていくのは、評価の低い人ではありません。 「よく働く人ほど評価される」「辞めるのは合わなかった人」という前提は、このデータでは支持されませんでした。

離職の予兆をデータで見つける手順

特別なシステムは要りません。既にある勤怠データと従業員サーベイを突き合わせるところから始められます。

  1. 勤怠データを残業時間の層に分ける。 5時間未満、5〜15時間、15〜30時間、30〜60時間、60時間以上のような層で構いません。
  2. 層ごとに継続意欲の平均を出す。 既存のサーベイに「この会社で働き続けたいか」を尋ねる項目があれば、新しい調査を足す必要はありません。なければ1問だけ追加します。
  3. 同じ表にウェルビーイングや満足度も並べる。 2つの指標の動き方の違いが、そのまま自社の状況になります。
  4. 部署別に同じ表をつくる。 全社平均では打ち手が決まりません。層と部署のどちらに偏りがあるかで、対応が変わります。
  5. 四半期ごとに更新する。 一度の集計では水準しか分かりません。動きを見るには時系列が要ります。

集計の単位は人単位である必要はなく、在籍者×期間の延べ件数で構いません。少人数の部署では個人が特定されないよう、5件を下回る単位は表示しない運用にしてください。

この表を初めて作ると、多くの企業で同じことが起きます。残業の多い層に継続意欲の低さが集中している一方、その層の人事評価はむしろ平均より高い、という並びです。評価が高い人ほど仕事が集まり、集まるほど辞める気持ちが上がっていく。手を打つべき対象が、いちばん失いたくない人たちであることが、この時点で分かります。

予兆以外に見ておく変化

指標の外側にも、目視で拾える変化があります。

  • 有給休暇の取得パターンの変化(急に取り始める、逆にまったく取らなくなる)
  • 残業時間の急な減少(業務量が減ったのでなければ、意識の切り替わりであることがある)
  • 1on1の記録で、将来の話が減り目の前の業務の話だけになる
  • 社内の勉強会や任意の集まりへの参加が止まる

これらは単独では判断材料になりません。継続意欲の低い層に属する人に、こうした変化が重なったときに意味を持ちます。順序としては、データで範囲を絞り、そこに目視を重ねるのが効率的です。

逆の順序で進めると、現場の管理職に「部下の様子をよく見るように」と伝えるだけの取組になります。何を見るのかが定まらないまま観察を求められた管理職は、印象で報告するようになり、その印象が人事の判断材料になっていきます。データで層を絞ってから現場に問い合わせるほうが、管理職の負担も小さく済みます。

表面上は問題なく見えたまま関与だけが下がっていく状態は「「大丈夫です」の裏にある離職リスク——静かな離職を防ぐ組織づくり」で扱っています。予兆の発見と地続きの話です。

予兆を「個人の問題」にしない

データで層を絞ると、次に来るのは「該当した人に個別に当たろう」という発想です。ここで止まるかどうかで、取組の性質が変わります。

個人を特定して面談を設定すると、監視されていると受け取られます。継続意欲を尋ねる設問への回答も、翌回から本音でなくなります。一度そうなると、この仕組みは二度と機能しません。

順序を逆にしてください。まず部署や層の単位で業務量と配分を見直し、その変更を全体に伝える。個別の面談は、変更が届いているかを確かめる場として使います。対象者を狙い撃ちにせず、層に対して環境を変えたうえで変化を確認する。この形であれば、回答の信頼性を保ったまま運用を続けられます。

集計結果を管理職に共有する場合も、個人の回答が推測できない粒度に丸めてください。部署の人数が少ない場合は、複数部署をまとめた単位で出します。

見つけたあとに何をするか

予兆を捉えても、面談を増やすだけでは変わりません。継続意欲が下がっている層に共通しているのは業務量の絶対値であることが多く、話を聞くことと仕事を減らすことは別の行為です。

打てる手は3つに整理できます。業務量の再配分、業務そのものの削減、そして要員の追加です。面談はどれを選ぶかを決めるための情報収集であって、それ自体は対策ではありません。

このうち最も早く効くのは、業務そのものの削減です。再配分は受け手側の負荷を上げるだけになりがちで、要員の追加は採用と立ち上がりに時間がかかります。定例会議の頻度、報告書の粒度、承認の段数といった、やめても誰も困らない業務を先に落とすほうが、同じ月のうちに効果が出ます。

もう一つ、効果を確かめる設計を先に決めておいてください。手を打った部署の継続意欲が、次の四半期にどう動いたかを同じ表で見る。動かなければ、打ち手が的を外していたか、量が足りなかったかのどちらかです。施策を打ったこと自体を成果として報告してしまうと、この検証が抜けます。

なお、予兆の把握は健康施策の効果検証とも地続きです。研修やアプリの導入前後で同じ指標を取っていれば、施策の効果と業務量の影響を切り分けて見られます。

残業時間そのものの管理と、超える前に気づく仕組みは「残業時間の上限規制|2〜6か月平均の数え方と超える前に気づく管理」にまとめました。サーベイを取っているのに使われない状態に陥る原因は「エンゲージメントサーベイは無駄?形骸化する原因や効果的な活用法を解説」、設問設計の基本は「エンゲージメントサーベイとは?企業成長を加速させる組織改善ツールを解説」で解説しています。

Floraの支援:先に動く指標を持つ

Flora株式会社の「Wellflow」は、従業員が日常的に使うヘルスケアアプリと管理職・全社員向けの研修に、導入前後を同じ指標で測る効果検証サーベイを組み合わせた健康経営支援サービスです。勤怠データを層に分け、層ごとに継続意欲とウェルビーイングを並べる集計から、どの部署で何が先に動いているかを可視化します。生理痛体験研修とあわせて、これまでに150社以上に導入されています。

まとめ

離職の予兆は、ウェルビーイングより先に継続意欲へ出ます。残業の多い層で15ポイント下がる指標と、5ポイントしか動かない指標を同じ「従業員の状態」として扱うと、前者の動きが見えなくなります。

勤怠データを層に分け、層ごとに継続意欲を並べる。この一枚の表を四半期ごとに更新するところから始められます。自社での進め方は無料相談でご案内しています。

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