eNPSとは?計算方法と日本企業でマイナスになる理由・運用の設計
2026年 9月 11日

eNPSを初めて集計して、マイナス40という数字を見て固まる。よくある光景です。この指標は設計上マイナスに振れやすく、日本企業ではほとんどがマイナスになります。問題は数字の低さより、その数字をどう使うかです。この記事では、eNPSの計算方法、他社と比べても意味が薄い理由、既存のエンゲージメントサーベイとの使い分け、そして継続意欲と組み合わせた運用の設計をまとめます。
eNPSとは:計算方法と3つの区分
eNPS(employee Net Promoter Score)は、「現在の職場を親しい友人や知人にどの程度すすめたいか」を0から10の11段階で聞き、回答を3つに分けて計算する指標です。顧客ロイヤルティの指標であるNPSを従業員向けに転用したものです。
| 回答 | 区分 |
|---|---|
| 9〜10 | 推奨者 |
| 7〜8 | 中立者 |
| 0〜6 | 批判者 |
計算式は、推奨者の割合から批判者の割合を引いたものです。中立者は計算に入りません。
> eNPS = 推奨者の割合(%)− 批判者の割合(%)
100人が回答し、推奨者15人、中立者35人、批判者50人であれば、15% − 50% = −35 となります。取り得る範囲は−100から+100です。
全員が10を付ければ+100、全員が6以下なら−100になります。全員が8を付けた場合はどうなるかというと、推奨者も批判者もいないため0です。8という決して低くない評価が並んでも、スコアは0にしかなりません。この一点を理解しておくだけで、自社のスコアの読み方が変わります。
日本企業でマイナスになるのは設計上の性質
7と8が中立者として計算から外れる点が、この指標の効き方を決めています。日本の回答者は7や8といった中庸の選択肢を選びやすく、その票はスコアに一切反映されません。一方で6以下はすべて批判者に入るため、控えめな回答が批判者側に流れ込みます。
結果として、日本企業のeNPSはマイナスで出るのが通常です。マイナスであること自体は組織の異常を意味しません。ここを取り違えて「うちは−40だから危機的だ」と報告すると、対策の議論が空回りします。
回答文化の差もあります。同じ満足度でも、米国の回答者は9や10を選びやすく、日本の回答者は7や8で止める傾向が知られています。国をまたいだ拠点を持つ企業がグローバルで一本のスコアを出すと、この差が組織の差として読まれてしまいます。拠点別に分けて時系列で追うほうが実態に近づきます。
この性質から導かれる使い方は一つです。他社や公開されている平均値ではなく、自社の時系列と部署間の差で見る。 同じ設問、同じ選択肢、同じ時期に取り続ければ、絶対値がマイナスでも変化は正しく読めます。ベンダーが公表する業界平均は、設問文や回答形式が揃っていないことが多く、比較の土台になりません。
エンゲージメントサーベイとの使い分け
eNPSは1問で済むため、四半期や月次といった短い間隔で回せます。設問数の多いエンゲージメントサーベイを高頻度で回すと回答率が落ちますが、eNPSなら負担が小さく、変化の察知に向きます。
一方で、eNPSは理由を教えてくれません。スコアが下がったことは分かっても、何が起きたのかは分かりません。ここは設問数のあるサーベイの領域です。実務では、eNPSを頻度の高い体温計として使い、動いた部署に対して詳細なサーベイやヒアリングを当てる、という組み合わせが機能します。
頻度を上げる場合は、回答の負担と同時に「聞かれたのに何も変わらない」という感覚にも注意してください。毎月聞いておきながら結果も対応も返さない運用は、回答率を下げるだけでなく、組織への信頼そのものを損ないます。聞く頻度は、返せる頻度に合わせるのが原則です。四半期に一度しか動けないのであれば、四半期に一度で構いません。
サーベイ全体の設計は「エンゲージメントサーベイとは?企業成長を加速させる組織改善ツールを解説」に、取っているのに使われない状態に陥る原因は「エンゲージメントサーベイは無駄?形骸化する原因や効果的な活用法を解説」にまとめています。
導入時によくある3つの失敗
他社の平均値を目標に置く。 公開されている数値は、設問文も選択肢も回答者の属性も揃っていません。−20を目標に据えても、その−20がどう測られたものかが分からなければ、達成しても意味を読めません。目標を置くなら、自社の前回値からの変化幅にしてください。
スコアだけを部門長に共有する。 数字だけを渡されると、受け取った側にできることは回答者を推測することくらいです。自由記述の要約と、前回からの変化、他部署との相対位置をセットにして初めて、行動の材料になります。
下がった月に設問を変える。 スコアが悪かったときに設問文や選択肢を見直したくなりますが、変えた時点で時系列は切れます。指標として使い続けるつもりなら、少なくとも2年は同じ形で取り続けてください。改善すべきは設問より、聞いたあとの動き方です。
自由記述を必ずセットにする
eNPSの設問の直後に「そのスコアを付けた理由」を自由記述で聞いてください。1問だけでは施策につながらないという弱点を、ここで補います。
自由記述は集計の手間がかかるため省かれがちですが、部署別にスコアが動いた月の記述を読むだけでも十分に価値があります。全件を分類する必要はありません。動いた場所だけを読む、という運用にすれば負担は小さく収まります。
読むときは、件数の多い話題より、複数の部署で同時に出てきた話題に注目してください。特定の部署だけで挙がる不満はその部署の事情ですが、複数部署で同じ月に同じ話題が出たなら、制度や全社の方針が原因である可能性が高くなります。人事が動くべきなのは後者です。
匿名性の担保にも注意が必要です。部署別に集計する場合、回答者が5人を下回る部署は個人が特定されかねません。一定人数を下回る単位では集計を公表しない運用ルールを、最初に決めておいてください。
回答率にも気を配ってください。eNPSは回答した人の中での割合を計算するため、回答率が低いと、不満を持つ人だけが答えている集計になりがちです。回答率が5割を下回る調査のスコアは、部署間の比較に使わないほうが安全です。回答率そのものも指標として並べておくと、スコアの読み方を誤りません。
継続意欲と組み合わせる
eNPSは「人に勧めたいか」を聞く指標で、「自分が働き続けたいか」とは別のことを尋ねています。勧めたくはないが自分は続ける、という回答はよくあります。定着を見たいのであれば、継続意欲を直接聞く設問を併せて持つほうが早いです。
Floraが一社の人事データを数年分たどった集計では、月あたりの平均残業時間で層を分けたとき、残業が月5時間未満の層と60時間以上の層で継続意欲は80.2から65.2へと15ポイント下がりました。同じ比較で、ウェルビーイングの指標は63.1から58.3へ5ポイントしか動いていません。ウェルビーイングは最初のひと山で下げ止まり、継続意欲だけが最後の層まで下がり続けます。
自発的に辞めた人と残った人の人事評価の差は−0.16で、ほとんど差がありませんでした。辞めていくのは評価の低い人ではありません。この集計は各時点の状態を並べたもので、因果を示すものではない点は補足しておきます。
満足度やウェルビーイングを見ているだけでは動きが小さすぎて判断材料になりません。eNPSと継続意欲を同じ調査に入れ、残業時間や部署と突き合わせて読む。この組み合わせが、数字を施策につなげる最短の形です。
集計の切り口としては、部署のほかに残業時間の層、勤続年数、雇用区分の4つを用意しておくと使い勝手がよくなります。スコアが下がったときに、どの切り口で説明がつくかを順に当てていけるためです。全社平均が2ポイント下がったという報告だけでは、次の一手が決まりません。特定の層で10ポイント下がっているのか、全体が薄く下がっているのかで、打つべき手はまったく変わります。表に出ないまま進む離職の兆しは「「大丈夫です」の裏にある離職リスク——静かな離職を防ぐ組織づくり」で、研修と組み合わせた改善の進め方は「エンゲージメント研修とは?離職防止・健康経営に効果的な実施方法を解説」で扱っています。
Floraの支援:短い設問で変化を追う
Flora株式会社の「Wellflow」は、従業員が日常的に使うヘルスケアアプリと管理職・全社員向けの研修に、導入前後を同じ指標で測る効果検証サーベイを組み合わせた健康経営支援サービスです。eNPSや継続意欲のような短い設問を定期的に取り、勤怠や属性と突き合わせて、どの部署で何が動いているかを可視化します。生理痛体験研修とあわせて、これまでに150社以上に導入されています。
まとめ
eNPSは、推奨者の割合から批判者の割合を引くだけの単純な指標です。日本企業でマイナスになるのは設計上の性質で、他社比較には向きません。自社の時系列と部署間の差で読み、自由記述をセットにし、継続意欲と併せて持つ。この3つで、1問のサーベイが施策につながります。
まず1回取ってみて、絶対値に驚かないこと。そのうえで同じ形で2回目、3回目と続け、変化を見る。この指標が役に立ち始めるのは2回目以降です。自社での設問設計と運用は無料相談でご案内しています。
よくある質問
eNPSがマイナスなのは問題ですか。
どのくらいの頻度で測るのがよいですか。
eNPSだけで離職を予測できますか。
部署ごとの目標値を設定してもよいですか。





