女性のエンゲージメントが低い理由の見つけ方|サーベイを男女別に読み、女性活躍の打ち手に変える
2026年 9月 10日

「女性のエンゲージメントが低い。理由を知りたい」という相談を受けることがあります。ただ、全体のスコアを男女で比べると、多くの企業でその通説は成り立ちません。厚生労働省の分析でも、ワーク・エンゲイジメントのスコアは女性のほうがわずかに高い結果でした。差が出るのは、全体ではなく特定の設問、特定の部署、特定の年代です。この記事では、女性のエンゲージメントが低いという見方がどこから来るのかを整理し、サーベイを男女別に読む方法、スコアと人事データを突き合わせて女性活躍の打ち手に変える手順を解説します。
全体スコアで見ると、女性のエンゲージメントは低くない
厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」は、正社員のワーク・エンゲイジメント(仕事に対する活力・熱意・没頭)のスコアを属性別に分析しています。男女別では女性が3.45、男性が3.39で、女性のほうがやや高い結果でした。要素別に見ると、差の方向が要素で逆になります。
| 男性 | 女性 | |
|---|---|---|
| ワーク・エンゲイジメント・スコア | 3.39 | 3.45 |
| 活力 | 2.81 | 2.73 |
| 熱意 | 3.85 | 4.02 |
| 没頭 | 3.50 | 3.60 |
(出典:厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析」第2-(3)-3図、正社員、スコアは0〜6)
女性は「活力」が男性より低く、「熱意」と「没頭」は高い。役職別では、役職なしの3.33から部長相当職以上の3.76まで、職位が上がるほどスコアが上がります。
この2つの結果を重ねると、企業の中で起きていることが見えてきます。女性は仕事への熱意と没頭が高く、役職が上がればスコアも上がる。それでも「女性のエンゲージメントが低い」と見えるとすれば、女性が多い階層や職種のスコアが低く、それを女性のスコアだと読んでいる可能性があります。全体の平均を男女で比べるだけでは、この取り違えに気づけません。エンゲージメントサーベイの基本は「エンゲージメントサーベイとは?」を参照してください。
女性のエンゲージメントが低いと見える3つの理由
役職と職種の構成が違う。 女性の多くが一般職や非管理職に集中していれば、女性全体のスコアは役職の低い層のスコアに引きずられます。低いのは女性というより、その階層です。同じ役職・同じ職種の中で男女を比べると、差は縮まるか消えます。
設問によって差の方向が違う。 「活力」に関わる設問(朝起きて仕事に行きたいか、エネルギーがあるか)は女性が低く出やすく、「熱意」「没頭」の設問は高く出やすい。活力の低さは、健康課題や家庭との両立による疲労を反映している場合があります。女性の健康課題が離職リスクとして表れる前の兆候は「「大丈夫です」の裏にある離職リスク」で扱っています。
特定の部署・年代に差が集中している。 Floraがある地方銀行(正社員約2,000名規模)の人事データとサーベイを分析した事例では、男性が多数を占める部署に配属された女性は、性格特性や年齢を統制したうえでグレードや月給がわずかに高いにもかかわらず、仕事を続けたいという意欲が6ポイント以上低く出ていました。全体平均では見えない差が、部署の性別構成で切ると現れます。
男女差が出やすい設問と、その読み方
エンゲージメントサーベイの設問は、ツールが違っても大きく5つの群に分かれます。男女差が出たとき、どの群に出たかで原因の当たりがつきます。
- 活力・疲労感。 女性が低く出やすい群です。健康課題、通勤や家事育児との両立による疲労が反映されます。健康に関するサーベイや休職・欠勤のデータと重ねて見ます。
- 成長機会・仕事の裁量。 責任のある仕事や新しい仕事の割り当てに男女差があると、ここに出ます。人事データでは、プロジェクトの配属や異動の履歴と対応します。
- 評価の公平感。 評価と処遇・昇進の間に差がある企業では、評価そのものが同等でもここが低く出ます。昇進率の男女差と重ねます。
- 上司の支援・心理的安全性。 部署の性別構成や上司の対応の個人差が出る群です。部署別に切ると差の偏りが見えます。
- 継続意欲・推奨意向。 上の4つの結果として動く群で、離職の先行指標になります。
差が出た群が1つに絞れれば、打ち手も絞れます。全体スコアの男女差を見るより、群ごとの差を見るほうが、次に何をすべきかがはっきりします。複数の群に同時に差があるときは、役職・職種の構成から先に確認します。
サーベイを男女別に読む4つの切り口
エンゲージメントサーベイを女性活躍の打ち手に使うには、集計の切り口を変えるだけで見えるものが変わります。
| 切り口 | 見るもの | 差が出たときの解釈 |
|---|---|---|
| 同じ役職・職種の中での男女差 | 階層の構成に影響されない男女差 | 差が残るなら、評価・登用・仕事の割り当てに原因がある |
| 設問群ごとの男女差 | 活力/熱意/没頭、成長機会、評価の公平、上司の支援 | 活力だけ低ければ健康・両立の負荷、成長機会だけ低ければ仕事の割り当て |
| 部署の性別構成別 | 男性多数部署・女性多数部署・混在部署の女性のスコア | 男性多数部署で継続意欲が低ければ、配置と受け入れ側の運用 |
| 年代・ライフイベント別 | 30代・40代、育休復職後、時短勤務中の女性のスコア | 復職後や時短中に下がるなら、キャリアトラックからの離脱の兆候 |
サーベイが形骸化していると言われる企業の多くは、全体スコアの推移しか見ていません。属性別の切り口を持つと、同じサーベイが女性活躍のデータになります。形骸化の原因と対策は「エンゲージメントサーベイは無駄?形骸化する原因や効果的な活用法」に、従業員サーベイ全般の設計は「従業員サーベイとは?」にまとめています。
スコアと人事データを突き合わせる
サーベイのスコアだけでは、原因は特定できません。人事データと突き合わせて初めて、スコアの差がどの制度や運用から来ているかが分かります。
同じ銀行の分析では、人事評価は男女で同等(統制後は女性がわずかに高い)にもかかわらず、5年後のグレードと月給には差があり、主任から係長への5年昇進率は女性29.1%、男性77.9%でした。評価が同じで処遇と昇進に差がある状態は、サーベイでは「評価の公平」や「成長機会」の設問の低さとして表れます。スコアの低さの原因が本人の意欲より評価から処遇・登用への変換の段階にあることは、人事データを見て初めて言えることです。
突き合わせの手順は次のとおりです。
- サーベイの回答に、役職・職種・部署・年代・雇用形態・育休や時短の利用歴を紐づける。 個人が特定されない粒度で集計する前提で、人事データ側のキーを持ちます。
- スコアが低い層を特定し、その層の人事データを見る。 昇進率、評価分布、残業時間、休職・離職率を男女別に出します。
- 原因の仮説を1つに絞る。 評価の公平感が低く昇進率にも差があれば登用の運用、活力が低く休職率が高ければ健康、継続意欲が低く特定部署に偏っていれば配置。
- 打ち手を運用に置く。 選抜基準の透明化、時短中でも就ける管理職ポジション、男性多数部署への配属時の受け入れ側の研修など。
- 次回のサーベイで同じ切り口を見る。 打ち手の後にその層のスコアが動いたかを確認します。
管理職候補の年代と更年期が重なる問題は、活力の設問に表れやすい要因の1つです。「更年期による女性管理職の離職・昇進辞退——企業が取り組むべき支援策」もあわせて参照してください。
よくある失敗
女性向けの施策でスコアを上げようとする。 女性のエンゲージメントが低いと決めて女性向けの研修やネットワーキングを増やすと、原因が評価や配置にある場合は動きません。差が出ている設問と層を先に特定してください。
サーベイのツールを変えれば解決すると考える。 切り口の問題はツールでは解決しません。属性を紐づけて集計できるかどうかがツール選定の条件です。ツールの比較は「エンゲージメントツールとは?おすすめ7選から成功ポイントまで」を参照してください。
回答の匿名性を守れない粒度で切る。 人数の少ない部署・年代で男女別に出すと個人が特定されます。最小人数の基準を決め、それ以下は上位の単位にまとめます。
1回の差で結論を出す。 差は年によって揺れます。2〜3回の推移で見て、打ち手の前後で動いたかを判断します。回答率が男女で大きく違う場合は、差の前に回答率の偏りを直すほうが先です。
Floraの支援:ダイバーシティデータプログラム
Flora株式会社の「ダイバーシティデータプログラム」は、企業の人事データとサーベイを分析し、女性管理職比率が上がらない要因を採用・配置・評価・昇進・退職のどの段階にあるかを特定するコンサルティングです。エンゲージメントサーベイの結果を役職・部署・年代・ライフイベントで切り、人事データと突き合わせて、スコアの差がどの制度や運用から来ているかを報告書の形でお渡しします。この記事の銀行の事例は、そのプログラムの一環として実施した分析です。
まとめ
全体スコアで見ると、女性のエンゲージメントは低くありません。厚生労働省の分析では女性がわずかに高く、要素別では活力が低く熱意と没頭が高い傾向でした。「女性が低い」と見えるのは、役職や職種の構成、設問ごとの差の方向、特定の部署・年代への差の集中を、全体平均が隠しているからです。
同じ役職の中での男女差、設問群ごとの差、部署の性別構成、年代・ライフイベントの4つの切り口でサーベイを読み、人事データと突き合わせて原因を1つに絞り、打ち手を運用に置く。次回のサーベイで同じ切り口を見れば、女性活躍の進捗を測る指標になります。
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よくある質問
女性のエンゲージメントスコアが男性より低い場合、何から確認すべきですか。
サーベイの回答を人事データと紐づけることは、匿名性の面で問題ありませんか。
エンゲージメントの男女差を、女性活躍推進の指標として使えますか。





