SSBJ基準と人的資本開示|2027年3月期からの適用で女性活躍3項目はどう扱われるか

2026年 9月 10日

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2027年3月期から、時価総額3兆円以上のプライム市場上場企業は、SSBJ基準に従ったサステナビリティ情報を有価証券報告書に記載することになります。その翌年には第三者保証も始まります。人事・経営企画の担当者が気にしているのは、人的資本の開示がSSBJ基準でどう扱われるのか、そして2023年3月期から続けてきた女性管理職比率・男性育児休業取得率・男女間賃金差異の開示はどうなるのか、という2点でしょう。この記事では、金融審議会の報告と2026年1月に公表された人的資本可視化指針(改訂版)をもとに制度を整理し、適用対象でない企業も含めて、今のうちに準備しておくことを解説します。

SSBJ基準とは何か、いつから適用されるか

SSBJはサステナビリティ基準委員会の略称で、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が2023年6月に最終化したIFRSサステナビリティ開示基準を踏まえ、日本版の基準を開発してきた組織です。2025年3月に、基準の適用全般を定めるユニバーサル基準、一般的な開示を定めるテーマ別基準第1号、気候関連を定める第2号が最終化されました。

適用時期は、金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」の報告で示され、2026年2月の内閣府令改正で制度化されました。対象はプライム市場上場企業のうち時価総額の大きい企業からで、段階的に広がります。

対象(時価総額)SSBJ基準の適用開始第三者保証の義務化
3兆円以上2027年3月期2028年3月期
1兆円以上3兆円未満2028年3月期2029年3月期
5,000億円以上1兆円未満2029年3月期2030年3月期
5,000億円未満のプライム企業今後検討今後検討

時価総額は、前期末から遡った過去5事業年度の末日における時価総額の平均で判定します。適用開始から2年間は、有価証券報告書の提出後に別途サステナビリティ情報を開示する二段階開示が経過措置として認められています。2026年3月期からは任意適用も可能です(出典:金融庁「サステナビリティ情報の開示・保証に関する制度整備」2026年4月)。

スタンダード・グロース市場の上場企業や非上場企業は、現時点では対象になっていません。ただし、対象企業の取引先や子会社としてデータの提出を求められる場面は増えます。

SSBJ基準で人的資本開示はどう扱われるか

まず押さえておきたいのは、SSBJ基準にもISSB基準にも、人的資本を扱う個別の基準がまだ存在しないことです。気候関連には第2号がありますが、人的資本にはそれにあたる基準がありません。

では人的資本は開示しなくてよいのかというと、そうではありません。人的資本に関するリスクや機会が企業の見通しに影響を与えると合理的に見込まれる場合、企業はテーマ別基準第1号「一般開示基準」に基づいて、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標の4つの要素で開示することになります。何を重要と判断し、何を開示するかは、企業ごとの判断に委ねられています。

この判断を助けるために、内閣官房・金融庁・経済産業省は2026年1月に人的資本可視化指針(改訂版)を公表しました。改訂版は2部構成で、第1部が経営戦略と人材戦略の連動、第2部が4つの要素に従った開示です。改訂前の指針は連動の重要性を強調していたものの、どう関連付けて書くかまでは示していませんでした。改訂版では、経営戦略を達成するために将来必要になる人材ポートフォリオを「あるべき組織・人材の姿」として描き、そこに向けた「必要となる人的資本投資」を整理する、という考え方が示されています。

注意点として、この指針は規範性を持たず、チェックリストや開示テンプレートとして使われることを想定していません。掲載されている「考えられる開示」をすべて書いてもSSBJ基準に準拠したことにはならず、書かなくても準拠になる場合があります。指針は投資家が何を期待しているかを知るための資料だと理解しておくのが正確です。

女性管理職比率・男性育休取得率・男女間賃金差異はどうなるか

結論は、従来どおり開示が続きます。この3項目は2023年1月の企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)の改正で有価証券報告書の「従業員の状況」に加わったもので、SSBJ基準とは別の枠組みです。2026年の府令改正でも、金融庁の資料に「『女性管理職比率』等については、従来どおり開示」と明記されています。

変わる点は2つあります。1つは記載場所で、「従業員の状況等」が第一部第1「企業の概況」から第4「提出会社の状況」に移ります。もう1つは追加項目で、2026年3月期から「人材戦略に関する基本方針」「従業員給与等の決定方針」「平均年間給与の対前年増減率」の開示が求められます。

項目根拠2026年改正後
女性管理職比率・男性育児休業取得率・男女間賃金差異開示府令(2023年改正)従来どおり。記載場所が第4へ
人材戦略に関する基本方針、従業員給与等の決定方針、平均年間給与の対前年増減率開示府令(2026年改正)2026年3月期から追加
人材育成方針・社内環境整備方針と、その指標及び目標開示府令(2023年改正)SSBJ適用企業は基準に従った記載に含まれない場合、従来どおり別途開示

3項目の定義は、女性活躍推進法と育児・介護休業法にもとづく公表項目と同じです。2026年4月施行の改正女性活躍推進法では、常時雇用する労働者101人以上の企業に男女間賃金差異と女性管理職比率の公表が義務づけられ、有価証券報告書の対象でない企業にも同じ数字が求められるようになりました。改正の全体像は「女性活躍推進法改正2026|公表義務拡大(101人以上)と企業の実務対応」、賃金差異の算出は「男女間賃金差異の計算方法|実務担当者向けガイド」を参照してください。

SSBJ基準の適用企業にとって3項目の位置づけが変わるとすれば、それは「指標及び目標」の中で使われるときです。女性管理職比率を人材戦略の目標として掲げるなら、なぜその指標なのか、経営戦略とどうつながるのか、目標までの進捗はどうか、を4つの要素の枠組みで説明することになります。府令にもとづく数字の開示と、SSBJ基準にもとづく戦略の説明は、同じ数字を使いながら求められる説明の深さが違います。

第三者保証が始まると、数字のつくり方が変わる

SSBJ基準の適用義務化の翌年から、開示したサステナビリティ情報に第三者保証が義務づけられます。保証の範囲は当初2年間は限定され、3年目以降は国際動向を踏まえて検討されます。保証業務を行うのは登録制の法人で、監査法人でなくても要件を満たせば登録できます。保証基準は国際サステナビリティ保証基準(ISSA5000)と整合したものになります。

人事にとっては、数字を出せばよかった段階から、数字の出し方を説明できなければならない段階に変わります。財務諸表の監査と同じように、保証業務実施者は次のようなことを確認します。

  • 指標の定義が文書化され、前年と同じ定義で集計されているか
  • 母数と分子の抽出条件(管理職の範囲、対象期間、出向者や非正規の扱い)が明確か
  • 人事システムのデータから開示数値まで、集計の過程を再現できるか
  • 数字の変動を説明できるか(女性管理職比率が上がった理由が登用なのか、管理職の定義変更なのか)

女性管理職比率は、管理職の定義が会社ごとに違うため、定義の開示と一貫性がとくに問われます。男女間賃金差異は、公表義務化の実務で議論されてきた注記や補足説明がそのまま保証の論点になります。詳しくは「男女間賃金差異 公表義務化|2026年改正の実務」にまとめています。

保証の対象になる範囲がまだ確定していない今の段階でも、定義と集計手順を文書にしておくことは無駄になりません。任意適用や保証を早めに受ける企業は、投資家との対話でその点を評価されます。

対象外の企業も含めて、今から準備する4つのこと

適用対象は時価総額3兆円以上から始まりますが、投資家や取引先の目線は先に変わります。準備は、対象かどうかにかかわらず次の4つから始めるのが現実的です。

  1. 3項目の定義と算出手順を文書にする。 管理職の範囲、対象期間、出向・休職・非正規の扱いを明記し、担当者が代わっても同じ数字が出る状態にします。
  2. 経営戦略と人材戦略のつながりを1枚にまとめる。 可視化指針の改訂版が示す順番は、あるべき組織・人材の姿、必要な人的資本投資、指標と目標、です。女性管理職比率を掲げるなら、それが経営戦略のどの部分を支える指標なのかを言葉にします。
  3. 指標を結果と過程に分ける。 女性管理職比率は結果の指標で、単年では動きません。候補者となる層の女性比率、昇進率の男女差、離職率の男女差といった過程の指標を並べると、進捗の説明ができます。
  4. 数字の説明責任を人事だけに置かない。 4つの要素のうちガバナンスとリスク管理は、取締役会や経営会議での監督の仕組みを問います。人的資本の指標を誰がいつ見て、何を判断しているかを記録に残します。

よくある失敗は、可視化指針の例をそのまま書き写して「考えられる開示」を網羅しようとすることです。指針自身が、比較可能性を追求するあまり独自性のある開示が抑制されることを投資家は懸念している、と書いています。自社の経営戦略から出てこない指標は、いくら並べても評価されません。

もう1つは、女性管理職比率の目標だけ掲げて要因の分析がないケースです。目標値との差が毎年開いていく開示は、保証が入る前から投資家に見られています。要因の見つけ方は「更年期による女性管理職の離職・昇進辞退——企業が取り組むべき支援策」や、えるぼし認定の評価項目を解説した「えるぼし認定とは?3段階の基準・プラチナえるぼしの違いを解説」も参考になります。

Floraの支援:ダイバーシティデータプログラム

Flora株式会社の「ダイバーシティデータプログラム」は、企業の人事データを分析し、女性管理職比率が上がらない要因を採用・配置・評価・昇進・退職のどの段階にあるかを特定するコンサルティングです。SSBJ基準の「戦略」と「指標及び目標」に書けるのは、要因が分かっている指標だけです。

ある地方銀行(正社員約2,000名規模)の分析では、主任から係長への昇進率に男女で48.8ポイントの差があり、人事評価は同等なのに処遇に差が出ている段階が特定されました。この結果があれば、女性管理職比率の目標に対して、どの階層のどの制度に手を打つかを開示の中で説明できます。分析結果は開示資料や投資家との対話の根拠として使える形でお渡しします。

まとめ

SSBJ基準は2027年3月期に時価総額3兆円以上のプライム上場企業から適用され、翌年から第三者保証が始まります。人的資本の個別基準はなく、重要と判断した企業が一般開示基準の4つの要素で開示します。女性管理職比率・男性育児休業取得率・男女間賃金差異は開示府令にもとづき従来どおり開示が続き、2026年3月期からは人材戦略の基本方針と給与関連の項目が加わりました。

保証が視野に入ると、数字を出すだけでなく、定義と集計手順を説明できることが求められます。対象外の企業も、3項目の定義の文書化、経営戦略と人材戦略のつながりの整理、結果指標と過程指標の分離から始めてください。

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