女性管理職が増えない本当の理由|データで見る「壁」と打ち手

2026年 9月 10日

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女性管理職が増えない理由を社内で問うと、「本人が管理職を望まない」「候補になる女性がいない」という答えが出てきがちです。ところが人事データを追っていくと、意欲の低下も候補者の不在も、たいていは原因ではなく結果です。差が生まれているのは、評価、配属、働き方、職場の慣習といった会社側の仕組みのほうです。この記事では、公的統計で現在地を確かめたうえで、女性が管理職になるまでに立ちはだかる「56の壁」という考え方と、ある地方銀行の人事データを分析した事例を手がかりに、女性管理職が増えない本当の理由と、自社の壁を特定してから打ち手を選ぶ順番を整理します。

数字で見る現在地:課長相当職12.3%、目標には届いていない

厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」によると、管理職等に占める女性の割合は部長相当職8.7%、課長相当職12.3%、係長相当職21.1%です。前年からはそれぞれ0.8ポイント、0.3ポイント、1.6ポイント上昇しましたが、政府が第5次男女共同参画基本計画で掲げた「2025年までに課長相当職18%」には届きませんでした。帝国データバンクの2025年調査でも、企業の女性管理職割合の平均は11.1%で、30%以上に達している企業は11.9%にとどまります。係長相当職では2割を超えているのに、課長相当職では12%まで落ちます。問題はこの段差です。

一方で、開示の圧力は強まっています。2026年4月の女性活躍推進法改正で情報公表義務の対象が従業員101人以上の企業に広がり、女性管理職比率と男女間賃金差異は外から比較される指標になりました。改正の内容は「女性活躍推進法改正2026|公表義務拡大(101人以上)と企業の実務対応」、賃金差異の公表は「男女間賃金差異 公表義務化|2026年改正の実務」で解説しています。数値を公表する以上、なぜその水準なのかを社内外に説明できなければならない段階に入っています。

「女性の意欲」で説明しようとすると間違える

いちばんよく聞くのは「女性側に昇進意欲がない」という説明です。管理職候補層の女性に昇進意向を尋ねると、男性より低い数字が出ることは珍しくありません。ただ、ボストン コンサルティング グループの調査(2017年)では、入社時点の昇進意欲は男女で同水準で、入社2年を超えたあたりから女性だけが有意に下がっています。意欲の差は入社前からあったものというより、職場での経験の積み重ねで生まれています。

もう一つの誤解は「施策は十分にやっている」です。ダイバーシティ施策を実施している企業は約9割に上る一方、その恩恵を感じている女性従業員は4人に1人程度という調査結果があります。人事データを施策の設計に使えている企業も1〜2割にとどまるとされます。施策の数はあっても、どこに壁があるかが見えていないのです。当事者が「女性活躍」という言葉そのものに抵抗を感じる背景も、ここにあります。詳しくは「女性活躍にうんざりするのはなぜ?」をご覧ください。

「今の若い世代が上がってくれば自然に解消する」という見方も根強くあります。ただ、評価も能力も年齢も勤続年数も男性と同じ条件なのに女性の役職者が少ない状態が続いているなら、世代交代を待っても変わりません。条件をそろえてもなお残る差は、仕組みの側の問題です。

壁の8割は組織の側にある:「56の壁」という考え方

Floraは、150社以上・のべ20万人超の従業員データを分析してきた実績をもとに、女性が管理職に就くまでに直面する阻害要因を56個の壁として整理しています。種類で分けると次の6つです。

課題カテゴリ壁の数内容
慣習的課題23表面化していない偏見・暗黙の了解、仕事配分の偏り
制度的課題11評価基準・労働時間・昇進タイミングなど明文化されたルール
身体的課題9月経・妊娠・産後・更年期や、男性身体を前提とした就労環境がもたらす身体的課題
関係的課題6情報や人脈へのアクセス格差
工学的課題4設備・保護具・制服など、物理的な不便さ
心理的課題3インポスター症候群(自信のなさ)、野心と現実とのギャップ

56個のうち44個(79%)は、企業の制度・文化・インフラの側にある「外的」な壁です。会社が変えられる壁、と言い換えてもかまいません。一方、ロールモデルによる支援、キャリアセミナー、女性社員の自信を高めるワークショップといった定番の施策が働きかけているのは、残りの21%にあたる「内的」な壁です。しかも内的な壁の多くは、外的な壁にぶつかった経験から生まれます。施策が効かない最大の理由は、働きかける相手を間違えていることです。

壁は時期によっても変わります。キャリア初期は野心に満ちている時期ですが、56個のうち39個の壁がすでにこの時期から影響し始めます。中堅期には昇進・妊娠・育児が重なり、離職や昇進辞退が最も多くなります。シニア期には「決断力があるときつい、協調的だとリーダーシップがない」という評価の板挟みに、更年期という身体的課題が重なります。人材が最も多く失われるのは、実は最初の昇進の段階です。入口には女性が大勢いても、最初の昇進でつまずき、女性役員が必要になるころにはパイプラインが空になっています。

女性管理職が増えない理由をデータで見る:ある地方銀行の人事データ分析

Floraがある地方銀行(正社員約2,000名規模)の人事データを分析した事例です。2018年以降の入社・昇進・評価・休職の時系列データと従業員サーベイを統合し、年齢・勤続・性格特性30項目を統制した多変量モデルで「女性であること」の固有の効果を推定しました(観測データに基づく関連で、因果を断定するものではありません)。

入口で半分に、係長への昇進でさらに半分に。 女性の51.5%は非正規雇用で入社し、男性は82.4%が正社員系でした。正社員の入口では女性比率48.9%とほぼ均衡ですが、主任・担当層71.7%→係長・課長代理層36.6%→管理職層10.1%→経営層1.7%と、段階ごとに削られていきます。5年間の昇進率で見ると、主任から係長への昇進は女性29.1%に対し男性77.9%。差は48.8ポイントで、ここが最大のボトルネックでした。

評価は同じか女性が上、処遇は女性が下。 人事評価の平均は女性がわずかに高く、統制後も差はありません。ところが性格・年齢・勤続をそろえてもなお、5年後のグレード階位は女性が約4.7段階低く、月給は約15万円低い結果でした。評価では差がついていないのに、評価を等級や登用に変換するところで差が生まれています。賃金差の34.2%は初期グレードの差だけで説明できました。

管理職に到達した女性56名に、産休・育休の経験者は一人もいませんでした。 既婚率は64%で、男性管理職の90%と大きく異なります。一方で、育休取得そのものは5年後の昇進に不利益を与えておらず(グレード階位の差は+0.29で有意ではない)、離職率も未取得者と同水準でした。差が出たのは働き方です。5年間在籍し続けた女性正社員のうち育休経験者は年間残業83時間・月給約24万円、非経験者は279時間・約37万円。グレードは同じまま、復帰時に時短勤務へ移った層が長時間勤務を前提とするコア業務から離れ、長い目で見ると管理職トラックから外れていました。育休そのものより、時短勤務と今の管理職像がかみ合っていないことが問題でした。

健康負担は30代女性に集中していました。 正社員の私傷病休職率は女性が男性の2.5倍、30代に限ると3.7倍です。出産・育児期と職場負荷の重なりが、体調不良として表面化している可能性があります。

「時間が経てば自然に増える」も成立しませんでした。 現在の管理職男性の性格プロファイルをベンチマークにすると、40歳未満の女性は指導性・支配欲求・積極性のいずれも効果量d=−0.6〜−0.7と大きく離れています。若手男性の差はその3分の1程度です。管理職に到達した女性56名はというと、男性管理職とほぼ同じプロファイルでした。評価軸を変えないかぎり、男性管理職に似た特性を持つ女性だけが上がる状態が続き、世代交代を待っても比率は動きません。

一つひとつの効果量は小〜中程度です。ただ、雇用形態、評価軸、昇進の絞り、健康負担、処遇の5つが連鎖して、管理職の9割が男性という結果になっていました。この銀行の場合、育休・時短・復職支援というマミートラック対策だけを続けても比率は動きません。データが示した優先順位は、主任から係長への昇進段階への直接の介入、評価を登用に変換する段の透明化、30代の健康負担と時短への切り替えに対する制度的な手当てでした。更年期世代の管理職離職については「更年期による女性管理職の離職・昇進辞退」で扱っています。

自社の壁を特定するための4つの視点

女性管理職比率という一つの数字を眺めていても、原因は分かりません。次の順番で見ていくと、手を付ける場所が絞れます。

  1. 診断:56の壁のうち、自社にどの壁があるかを知る。単年度の管理職比率より、職位ごとの昇進率を複数年度分、男女で比べるほうが、どの段階で絞られているかが見えます。
  2. 分析:その壁が女性にどのくらい影響しているかを測る。人事評価に男女差がないのに昇進率に差があるなら、評価を処遇に変換するところに問題があります。
  3. ベンチマーク:同じ業種・規模の他社と比べ、自社の位置を把握する。女性活躍推進法の公表データベースを使えば、業種別の分布と照らし合わせられます。
  4. 優先順位づけ:どこから手を付ければ効果が最も大きいかをデータで決める。実施中の施策が定着率、エンゲージメント、女性管理職比率といったKPIにどう効いているかをシミュレーションすると、投資の順番が決まります。

必要なデータは、役職・部門・給与・評価、育休や時短の利用記録、休職・離職の記録、エンゲージメントサーベイなど、多くの企業がすでに持っているものです。足りないのはデータそのものより、それらをつなげて読む視点です。

打ち手は「壁に対応しているか」で選ぶ

壁が特定できれば、打ち手の選び方は変わります。両立を諦めさせる前提が壁なら、先に手を付けるのは意欲研修より、時短勤務のままでも登用できる仕組みと復職後のキャリア支援です。評価を処遇に変換するところに問題があるなら、評価基準の明文化と、推薦の場に女性候補者の名前が挙がる仕組みを整えます。人脈や情報へのアクセスに差があるなら、就業時間内に接点をつくる設計が要ります。身体的課題が壁なら、月経・更年期への職場対応と柔軟な働き方が土台になります。

判断の基準は、施策そのものの良し悪しより、自社で特定した壁に対応しているかどうかです。時短・育休のしわ寄せが職場に残ったままなら、制度を増やしても不公平感が先に立ちます。この点は「時短・育休の「しわ寄せ」で不公平感が出る職場の立て直し方」で扱っています。

よくある失敗

  • 女性向け研修だけを増やす。内的な壁に働きかけても、79%を占める外的な壁はそのまま残ります。
  • 数値目標だけを掲げる。どの段階で絞られているかを見ずに目標を置くと、現場は登用の理由を説明できません。
  • 単年度の比率で判断する。母数の違いで見え方が変わるので、複数年度の昇進率で見てください。
  • 意欲調査で結論を出す。意欲は結果です。低い理由は組織の側から探す必要があります。
  • 認定基準や行動計画の項目だけを追う。えるぼし認定や一般事業主行動計画は通過点で、基準を満たしても壁が残れば比率は伸びません。「えるぼし認定とは?」「一般事業主行動計画とは」もあわせてご覧ください。

まとめ

女性管理職が増えない本当の理由は、女性の意欲や資質より、評価、配属、両立を諦めさせる前提、人脈形成の偏り、身体的課題への対応不足といった組織の側にあります。56の壁のうち79%は組織側の壁で、意欲の低下はその結果です。課長相当職12.3%という現在地を公的統計で確かめ、自社の人事データで壁を診断・分析し、他社と比べ、優先順位を付けてから打ち手を選ぶ。この順番が、比率を動かす最短の道筋です。Floraのダイバーシティデータプログラムは、この診断から施策の実行、効果検証までを一貫して支援しています。

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