人的資本開示の女性活躍3項目|女性管理職比率・男性育休・男女間賃金差異の出し方
2026年 9月 10日

有価証券報告書に女性管理職比率を載せる段になって、手が止まる企業は少なくありません。数字は揃っています。ただ、なぜこの水準なのかを問われると、答えに詰まります。人的資本開示の実務で、いちばん多い相談がこれです。3つの数字を集めるところまでは、多くの企業がすでにできています。難しいのは、その水準の理由を述べ、達成できる目標を置くことです。この記事では、開示が求められる3項目の算出方法と期限、2026年4月に広がった対象範囲、数字を説明に変えるための考え方を順に整理します。
人的資本開示で女性管理職比率など3項目が求められる理由
2023年1月31日に改正された「企業内容等の開示に関する内閣府令」により、2023年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書から、人的資本に関する記載が求められるようになりました。
記載事項は大きく2つに分かれます。
- 「サステナビリティに関する考え方及び取組」:人材育成方針と社内環境整備方針、それらに関する指標・目標と実績
- 「従業員の状況」:女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金差異
後者の3項目は、提出会社および連結子会社が女性活躍推進法・育児介護休業法にもとづいて公表している場合に、有価証券報告書にも記載する、という建て付けです。有価証券報告書が独自に義務を課しているわけではなく、入口にあるのは各法律の公表義務です。ここを取り違えると、対象範囲、とくに連結子会社の扱いを誤ります。
もう一つ、記載事項の並びから読み取れることがあります。方針を掲げ、それを測る指標を選び、目標を置き、実績を報告する。内閣府令が求めているのはこの一連の流れです。3つの数字だけが前段の方針や目標と結びつかずに置かれていると、読み手には説明のない実績として映ります。
2026年4月の改正で対象が101人以上に広がった
2025年6月11日に公布された改正女性活躍推進法が、2026年4月1日に施行されました。情報公表義務の対象は、従来の常時雇用する労働者301人以上の企業から101人以上300人以下の企業にも広がり、公表必須項目に女性管理職比率と男女間賃金差異が加わっています。
男性の育児休業取得率は根拠法が異なり、育児・介護休業法にもとづく公表義務が段階的に広がってきました。3項目を並べると次のようになります。
| 項目 | 根拠法 | 公表義務の対象 |
|---|---|---|
| 女性管理職比率 | 女性活躍推進法 | 101人以上(2026年4月〜) |
| 男女間賃金差異 | 女性活躍推進法 | 301人以上(2022年7月〜)/101人以上(2026年4月〜) |
| 男性の育児休業取得率 | 育児・介護休業法 | 1,000人超(2023年4月〜)/300人超(2025年4月〜) |
公表の期限は、改正法の施行後に最初に終了する事業年度の実績を、翌事業年度の開始後おおむね3か月以内に出すことです。上場企業の場合、自社はもともと301人以上で対象だったとしても、これまで対象外だった連結子会社が新たに入ってきます。子会社ごとに数字を集める体制があるか、早めに確認しておきたいところです。改正の全体像は「女性活躍推進法改正2026|公表義務拡大(101人以上)と企業の実務対応」で詳しく整理しています。
3項目の算出と公表期限を押さえる
3つの指標は、算出の考え方も公表の期限もそれぞれ異なります。順に見ていきます。
女性管理職比率は、管理職に占める女性の割合です。管理職の範囲は自社の役職体系にもとづいて決め、その定義を開示に明示します。課長相当職以上とするのが一般的ですが、部長相当職以上との併記や、係長相当職を含めた段階別の開示も認められます。
男女間賃金差異は、男性の平均賃金を100としたときの女性の割合を、全労働者・正規雇用労働者・非正規雇用労働者の3区分で算出します。算出範囲や除外する手当の扱いで数値が動きますから、一度決めた定義は変えずに、毎年同じ物差しで出してください。実務上の細かな判断は「男女間賃金差異の計算方法|実務担当者向けガイド」にまとめています。
男性の育児休業取得率は、「①男性の育児休業等の取得率」と「②男性の育児休業等と育児目的休暇の取得率」のどちらかを選び、年1回、事業年度終了後おおむね3か月以内に公表します。②は育児目的休暇まで含むため、①とは数値の出方が変わります。どちらを採ったかは必ず明記してください。制度側の設計は「男性育休の取得を後押しする企業の実務|2025年改正と制度設計」で解説しています。
参考値として、厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」では、女性管理職比率は部長相当職8.7%、課長相当職12.3%、係長相当職21.1%でした。同「令和6年賃金構造基本統計調査」では一般労働者の賃金が男性363,100円・女性275,300円で、男女間賃金格差は男性を100として75.8です。自社の数値を置いてみるときの目安になります。
「数字は出せるが説明できない」で止まっている
各社がいまどこにいるかは、PwC Japanグループの調査がよく示しています。東京証券取引所プライム市場の非金融1,014社について2025年3月期の有価証券報告書を分析したもので、実績値を開示した企業の割合と、目標まで示した企業の割合に大きな開きがありました。
| 指標 | 実績を開示 | 実績と目標の両方を開示 |
|---|---|---|
| 女性管理職比率 | 97% | 82%(前年74%) |
| 男性育児休業取得率 | 79% | 1桁%台 |
| 男女間賃金差異 | 70% | 1桁%台 |
女性管理職比率は1年で目標設定が大きく進みました。一方、男性育児休業取得率と男女間賃金差異は、実績を出したところで止まっている企業が大半です。数字を集める段階はほぼ全社が通過し、その数字をどう説明するかで差がつき始めています。
目標が置けないのは、担当部門の熱意が足りないからではありません。現状の水準がなぜそうなっているのかが分からないまま「2030年までに30%」と書いても、翌年の進捗報告で、上がらなかった理由を説明できなくなります。要因が分かっていれば、目標はそこから逆算して決められます。
3つの数字を1つのストーリーとして説明する
3項目は別々の指標に見えますが、採用時の格付け、評価、昇進、雇用区分という同じ人事の流れを、違う角度から切り取ったものです。1社の人事データを丁寧に追うと、そのつながりが具体的に見えてきます。
ある地方銀行(正社員約2,000名規模)の人事データをFloraが分析した事例を紹介します。2018年から2026年の人事時系列データと従業員サーベイをもとに、性格特性・年齢・勤続年数を統制した多変量回帰などを用いています(相関であり、因果を断定するものではありません)。分かったことは4点です。
- 男女間賃金差異のうち34.2%は、初期グレード階位の違いで説明できました。入社時点の格付けの差が、その後の賃金差の3分の1をつくっていたことになります。
- 人事評価に男女差はありませんでした。評価点はむしろ女性がわずかに高く、性格特性などを統制しても同じ傾向です。それでも5年後のグレードと月給には差が残っていました。評価は公平でも、それを処遇と登用に反映させる段階で差が生まれていた、ということです。
- 昇進の絞りは特定の1段階に集中していました。5年間の昇進率は、主任・担当層から係長・課長代理層への段階で女性29.1%、男性77.9%。48.8ポイントの差で、ここが最大のボトルネックでした。
- 非正規雇用の75.4%が女性でした。全労働者ベースの賃金差異が大きく出る直接の理由はここにあり、雇用区分別に分けて見なければ施策の当て先を間違えます。
ここまで分かれば、開示の文章は書けます。賃金差異の水準には、初期格付けと雇用区分の構成という説明がつきます。女性管理職比率の目標は、主任から係長への昇進率を何ポイント上げるかという中間指標に置き換えられます。施策も、その1段階に絞って打てます。
3つの数字をばらばらに載せるのと、一つのつながった説明として載せるのとでは、投資家の読み方が変わります。
開示実務でよくある5つの失敗
- 定義を明記しないまま数値だけ載せる。 管理職の範囲、賃金の算出範囲、育休取得率で①②のどちらを採ったか。定義のない数値は、他社とも自社の前年とも比べられません。
- 年度によって定義を変える。 数値が改善して見えても、原因が定義変更なら開示の信頼を落とします。変える場合は理由と影響を併記してください。
- 全労働者ベースの賃金差異だけを見て焦る。 非正規比率の男女差が数値を押し下げている場合、正規・非正規に分けて見ないかぎり、何をすべきかは見えてきません。
- 根拠のない目標を置く。 「2030年に30%」は、そこへ至る昇進率の道筋がなければ翌年に説明できなくなります。階層別の昇進率など、中間指標に分解しておきます。
- 健康と定着の要因を人事データから切り離す。 30代・40代の離職や昇進辞退の背景に健康課題があるケースは珍しくありません。更年期世代については「更年期による女性管理職の離職・昇進辞退——企業が取り組むべき支援策」で扱っています。
えるぼし認定の取得も視野にあるなら、認定基準は情報公表の項目と大きく重なりますので、同じ作業の中で設計しておくと二度手間になりません(「えるぼし認定とは?3段階の基準・プラチナえるぼしの違いを解説」)。
Floraの支援:数字の背景を人事データから特定する
Flora株式会社の「ダイバーシティデータプログラム」では、すでに社内にある人事データと従業員サーベイを使って、女性管理職比率が上がらない要因と男女間賃金差異の内訳を特定し、開示にそのまま使える形に整理します。
上の事例のように、どの昇進段階が絞りになっているか、賃金差のどれだけが初期格付けで説明できるか、評価と処遇のどこで差が生まれているかを数値で示します。そのうえで、有価証券報告書に載せる指標と目標の設計から、根拠となる分析、施策の優先順位づけまでを一続きで支援します。
まとめ
人的資本開示の女性活躍3項目は、2026年4月の改正で対象が101人以上に広がり、実績を出すこと自体は当たり前になりました。問われているのは、その数字を説明できるかどうかです。実績と目標の両方を開示している企業が女性管理職比率で82%、他の2項目では1桁%台にとどまるという分布に、各社の伸びしろがそのまま表れています。
目標を置くのに要るのは、自社のどこで何が起きているかを示すデータです。賃金差異を雇用区分別に分け、昇進率を階層別に並べる。まずこの2つの表をつくるところから始めてください。
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よくある質問
非上場企業でも人的資本開示の3項目は必要ですか。
女性管理職比率の「管理職」はどう定義すればよいですか。
目標値はどの水準に設定すべきですか。





