育休復職後に女性のキャリアが止まる仕組み|時短勤務とキャリアトラックを人事データで見る

2026年 9月 10日

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女性の育児休業取得率は86.6%、男性も40.5%まで上がりました(厚生労働省 令和6年度雇用均等基本調査)。取ること自体はもう珍しくありません。それでも「育休を取った女性は管理職になりにくい」という感覚は、人事の現場に残っています。この記事では、Floraがある地方銀行(正社員約2,000名規模)の人事データを分析した結果をもとに、育休そのものがキャリアを止めているのか、それとも復職後の何かが止めているのかを分けて見ていきます。あわせて、2025年施行の育児・介護休業法改正で使える措置と、復職後のキャリアを止めない設計を整理します。

育休そのものは昇進を止めていない

分析では、2018年から2026年までの人事データに、性格特性・年齢・勤続年数の影響を取り除く統計処理(傾向スコア重み付け)を加えて、育休を取った人と取らなかった人の5年後を比べました。

結果は、5年後のグレード(等級)に差はありませんでした。統計的に意味のある差が出なかった、という意味です。人事評価、仕事を続ける意欲、ウェルビーイングの指標にもほとんど差がありません。5年以内に辞めた割合は、育休を取った人が22.0%、取らなかった人が25.4%で、取った人のほうがむしろ残っています。

差が出たのは月給で、育休経験者は5年後に月額で約8万円低くなっていました。グレードは同じで給与だけ低い。この組み合わせが、育休のペナルティがどこで生じているかを示しています。

育休復職後の女性のキャリアは、時短で止まる

5年間在籍し続けた人だけを取り出して比べると、理由がはっきりします。育休を取った人(39名)の年間残業時間は83時間、月給は約24万円。取らなかった人(776名)は残業279時間、月給約37万円。グレードは同等です。月給の差は、復職後の短時間勤務による労働時間の差で説明できます。

ここまでなら「時短の間は給与が下がる」という当然の話です。問題は、その先の昇進です。同じ銀行で、主任から係長への5年昇進率は女性29.1%に対し男性77.9%、差は48.8ポイントでした。管理職に到達した女性56名のうち、産休・育休の経験者は0名です(到達していない女性530名には経験者がいます)。

育休で止まるのではありません。復職して時短に切り替えた時点で、長時間勤務を前提にした管理職候補の枠から外れています。分析報告書はこれを「復帰後の時短スイッチ × 長時間勤務前提の管理職像」と表現しています。時短勤務の間に管理職候補の選抜時期が来てしまい、本人が手を挙げない、あるいは上司が推薦しない。制度としての育休は機能しているのに、復職後の運用がキャリアトラックからの離脱を生んでいます。

管理職候補になる年代と時短の年代が重なることは、更年期と昇進時期の重なりと同じ性質の問題です。「更年期による女性管理職の離職・昇進辞退——企業が取り組むべき支援策」もあわせて参照してください。

2025年の育児・介護休業法改正で、復職後の選択肢は増えた

2024年に成立した改正育児・介護休業法は、2025年4月1日と10月1日の2段階で施行されました。復職後の働き方に関わる主な措置は次のとおりです(出典:厚生労働省「育児・介護休業法 令和6年改正内容」)。

施行日措置内容
2025年4月1日残業免除(所定外労働の制限)の対象拡大3歳未満の子から、小学校就学前の子を養育する労働者まで請求可能に
2025年4月1日子の看護等休暇対象を小学校3年生修了までに拡大。感染症に伴う学級閉鎖や入園式・卒園式も対象に。勤続6か月未満を除外する労使協定を廃止
2025年4月1日テレワークの努力義務3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選べるよう措置することが努力義務に
2025年4月1日短時間勤務の代替措置短時間勤務が難しい業務の代替措置にテレワークを追加
2025年4月1日育休取得状況の公表義務対象を従業員1,000人超から300人超の企業に拡大
2025年10月1日柔軟な働き方を実現するための措置3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者について、始業時刻等の変更、テレワーク等(月10日以上)、保育施設の設置運営等、養育両立支援休暇(年10日以上)、短時間勤務制度の5つから事業主が2つ以上を選び、労働者が1つを選択
2025年10月1日個別の意向聴取と配慮妊娠・出産の申出時と、子が3歳になる前に、勤務時間帯・勤務地・両立支援制度の利用期間などの意向を個別に聴取し、配慮する義務

人事の運用を変えるのは、10月施行の2つです。3歳以降は「時短か、フルタイムか」の二択ではなくなり、始業時刻の変更やテレワークで労働時間を減らさずに両立する選択肢を会社が用意することになりました。そして、子が3歳になる前に本人の意向を聴く場が義務になりました。この面談は、時短をいつまで続けるか、どのタイミングでフルタイムやキャリアトラックに戻るかを本人と話す機会として使えます。

復職後のキャリアを止めない4つの設計

法改正への対応を制度の整備で終わらせず、昇進の運用まで届かせるには、次の4つが要ります。

  1. 時短の出口を、入口で決める。 復職面談で「いつまで時短にするか」「その後どう戻るか」を本人と決め、3歳前の意向聴取で見直します。期限のない時短は、本人にも上司にも「この人は当面このまま」という前提をつくります。
  2. 時短のまま就ける管理職ポジションをつくる。 長時間勤務を前提にした管理職像のままでは、時短中の人は候補から外れます。会議時間の設計や権限の分け方を変えて、時短でも務まるポジションを明示します。
  3. 評価と昇進の判断を労働時間から切り離す。 残業時間と昇進率の相関を自社データで確認してください。相関が強ければ、それは成果ではなく時間で評価している証拠です。
  4. 上司の運用を揃える。 時短勤務者に責任のある仕事を任せない、男性の育休取得に否定的な態度を取る、といった対応はハラスメントにあたります。「時短ハラスメントとは?具体例と原因、企業がとるべき解決策を解説」と「パタニティハラスメントとは?男性育休推進で得られる経営メリットを解説」、妊娠・出産期については「マタニティハラスメントとは?企業が知るべき定義・原因・リスク・対策」で扱っています。

男性の育休・時短が増えると、この4つは女性だけの課題ではなくなります。男性の取得率が40%を超えた今、時短と昇進の関係を整理しておかないと、数年後には男性側でも同じ離脱が起きます。

自社のデータで確かめる手順

自社で同じことが起きているかを確認する手順です。

  1. 育休取得者のコホートをつくる。 過去5〜10年の育休取得者を、取得年・性別・取得時のグレードで一覧にします。
  2. 5年後のグレードと給与を、取得しなかった同年代・同グレードの人と比べる。 グレードに差がなく給与に差があれば、労働時間の差です。
  3. 時短の利用期間を出す。 復職から時短終了までの期間の分布を見ます。長期化している層があれば、その層の昇進率を確認します。
  4. 残業時間と昇進率の関係を見る。 昇進した人としなかった人の残業時間の分布を比べます。
  5. 男性の育休・時短取得者で同じことを見る。 人数が少なくても、傾向が同じかどうかは分かります。

数字が揃えば、女性活躍推進法の行動計画や、えるぼし認定の評価項目にもそのまま使えます。えるぼしの基準は「えるぼし認定とは?3段階の基準・プラチナえるぼしの違いを解説」にまとめています。

よくある失敗

育休の取得率だけを見る。 取得率はすでに高く、問題はそこにありません。復職後5年の昇進率と時短利用期間を見なければ、どこで止まっているかは分かりません。

復職支援を手厚くして終わる。 復職セミナーや保育の支援は離職を防ぎます。ただ、昇進の運用を変えなければキャリアトラックへの復帰にはつながりません。分析報告書も、育休・時短・復職支援だけでは不十分だと結論づけています。

時短を本人の希望として処理する。 本人が時短の継続を希望していても、それが「フルタイムに戻ると管理職候補として長時間勤務を求められる」という前提への反応であることがあります。管理職像を変えれば、希望も変わります。

管理職の対応を個人任せにする。 時短勤務者への仕事の任せ方は上司によって大きく違います。「更年期世代への対応マニュアル|管理職が知っておくべきこと」と同じように、時短勤務者への対応も管理職向けに明文化しておくと運用が揃います。

Floraの支援:ダイバーシティデータプログラム

Flora株式会社の「ダイバーシティデータプログラム」は、企業の人事データを分析し、女性管理職比率が上がらない要因を採用・配置・評価・昇進・退職のどの段階にあるかを特定するコンサルティングです。この記事で紹介した分析は、そのプログラムの一環として実施したものです。育休・時短の取得者コホートの追跡、残業時間と昇進率の関係、評価と処遇の乖離といった分析を、自社のデータで実施し、どこに手を打つべきかを報告書の形でお渡しします。

まとめ

育休そのものは、5年後のグレード・評価・定着に影響していませんでした。キャリアを止めているのは、復職後の時短勤務と、長時間勤務を前提にした管理職像の組み合わせです。2025年の育児・介護休業法改正で、3歳以降の柔軟な働き方の措置と、3歳前の個別の意向聴取が義務になり、時短一択ではない復職の設計ができるようになりました。

時短の出口を入口で決める、時短のまま就ける管理職ポジションをつくる、評価を労働時間から切り離す、上司の運用を揃える。この4つを、自社のデータで確かめながら進めてください。

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