男性更年期と企業の対応|1人あたり年間281万円の損失をどう減らすか

2026年 9月 11日

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更年期の支援というと女性が対象という前提で議論が始まりますが、企業内で最も大きな損失が観測されているのは男性の更年期です。本人にも周囲にも自覚がなく、不調が数年続いたまま管理職として働き続けている、という状態が起きやすいためです。この記事では、損失額の推計とその出し方、男性の健康リテラシーが低く出る理由、管理職が聞いてよいことといけないこと、そして企業が取れる打ち手を整理します。症状や治療そのものは「男性の更年期とは」にまとめています。

男性更年期の損失額は1人あたり281万円

Flora株式会社が2024年11月に公表した「男性の健康課題と仕事に関する調査」では、1人あたりの推計年間労働生産性損失額は、男性不妊が30万円、育児に伴うメンタル不調やうつが41万円、更年期症状が281万円でした。合計すると352万円です。同じ調査の女性の平均的な損失額は217万円でした。

この推計は、Wellflowの導入企業(当時60社以上)で実施した調査と、サーベイ事業で蓄積した2万人以上の男性データの分析にもとづくものです。更年期症状の影響でパフォーマンスが3割前後低下しているという結果が、多くの企業で共通して観測されました。損失額は、この低下幅を給与水準に換算して算出しています。

背景として、経済産業省は男性の健康課題による経済的損失を年間約1.26兆円と推計しています(経済産業省「経済産業省における女性の健康支援について」2024年3月)。社会全体の推計と、1人あたりの数字を並べて社内で説明すると、規模感が伝わりやすくなります。

なお、この281万円は自社の損失額ではありません。稟議に使う場合は、自社の該当年代の人数と給与水準で試算し直してください。試算の手順は「更年期による離職・昇進辞退の企業コスト」で扱っています。

なぜ男性のほうが損失が大きく出るのか

同じ調査で、更年期に関するリテラシーを4点満点で聞いた結果があります。「適切に情報収集できているか」「適切な行動は取れているか」「医療従事者に相談できているか」の3点です。

設問女性の平均男性の平均
適切に情報収集できているか2.982.10
適切な行動は取れているか2.701.70
医療従事者に相談できているか2.661.15

!更年期に関するリテラシーの男女比較(4点満点、情報収集・行動・医療相談の3設問)

差が最も大きいのは医療への相談です。4点満点で1.15という水準は、ほとんど相談できていないことを意味します。

順番に読むと、何が起きているかが見えます。情報を集めていないので、自分の不調が更年期によるものだと気づかない。気づかないので行動を取らない。行動を取らないので医療にもつながらない。この連鎖が数年続くと、不調を抱えたまま働く期間が長くなります。損失額が大きく出るのは、症状の重さというより、この期間の長さによる部分があります。

女性の場合、月経や妊娠を通じて婦人科という受診先が生活の中にあります。男性には、これに相当する定期的な接点がありません。泌尿器科が相談先になることを知らないまま、内科で「異常なし」と言われて終わる、という経路をたどることになります。

年代の重なりも効いています。男性の更年期にあたる40代後半から50代は、管理職として責任範囲が広がる時期と重なります。判断力や意欲の低下として現れた場合、本人も周囲もそれを健康の問題としてではなく、能力や姿勢の問題として受け取ります。評価面談で指摘され、本人がさらに無理をする、という進み方をたどることがあります。

自覚しにくい症状であることも、期間が長くなる理由です。倦怠感、集中力の低下、意欲の減退、睡眠の質の低下。いずれも単独では受診の理由になりにくく、忙しさや年齢のせいとして処理されます。

東京都の指針も男性の更年期障害を挙げている

東京都が女性活躍推進に関連して示している指針では、事業者が対応すべき健康課題の一つとして男性の更年期障害が挙げられています。女性の健康支援を進める文脈の中で、男性の更年期にも言及されている点は、社内の説明で使えます。

女性向けの施策を進めようとすると「男性はどうなるのか」という声が出ることがあります。この指摘に対して、男性の更年期も対象に含めた設計を最初から示しておくと、議論が施策の中身に移ります。研修を全社員向けにする、セルフチェックの機能を性別で限定しない、といった設計で対応できます。

健康経営度調査への接続という観点でも、対象を広げておくほうが書ける材料が増えます。研修の対象を全従業員としていれば、参加率の分母が全社になり、テーマの広がりと対象の広がりの両方を示せます。女性向けのみで実施した場合、記載できる範囲はそこで止まります。

管理職が聞いてよいこと、いけないこと

不調に気づいた管理職が最初に迷うのは、どこまで聞いてよいかです。線引きははっきりしています。

聞いてはいけないこと。 症状の内容、通院しているかどうか、診断名、服薬の有無。これらは要配慮個人情報にあたり、本人が自ら話す場合を除いて、上長が聞き出すべきものではありません。「最近元気がないけど、どこか悪いの」という善意の問いかけも、答えを求める形になっていれば同じです。

聞いてよいこと。 業務に関することです。今の業務量が適切か、締切の設定に無理がないか、困っていることがあるか、必要な配慮があるか。本人が体調について話した場合に限り、その範囲で何ができるかを一緒に考える。この順序を守ってください。

知っておくべきこと。 相談先がどこにあるかです。産業医、産業保健スタッフ、外部の相談窓口。管理職自身が対応するのではなく、適切な先につなぐのが役割です。本人が話し始めたときに「産業医に相談してみるのはどうか」と言えるかどうかで、その後の経路が変わります。

本人から聞いた内容の扱いも決めておいてください。上長が知り得た健康情報を、人事や他の管理職にどこまで共有するか。本人の同意なく広げると、次から誰も話さなくなります。業務上の配慮に必要な範囲に限り、共有先を本人に伝えたうえで扱うのが原則です。

同じ調査では、管理職のリテラシーについて自己評価と他己評価の両方を取っています。自己評価では男女に差がほとんどありませんでしたが、他己評価には差が出ました。男性の部下が男性の上司に相談しやすいと感じる割合は、女性同士の場合より低く、相談したあとの対応への評価も低くなっています。自分は対応できていると考えている側と、相談しにくいと感じている側のずれがあるということです。対応の具体は「更年期世代への対応マニュアル」にまとめています。

男性更年期に企業が取れる3つの打ち手

リテラシーの3項目それぞれに対応させると、打ち手は整理できます。

1. 気づく手段を配る。 情報収集の点が低いのは、自分に関係のある話だと認識していないためです。セルフチェックの機能や、症状を日々記録する仕組みを全社員に配ると、自覚の段が動きます。研修で知識を配るだけでは、自分の症状と結びつきません。

2. 医療につながる経路を作る。 最も差が大きい項目です。泌尿器科が相談先になること、オンラインで相談できる窓口があることを、具体的な入口とともに周知してください。「相談窓口があります」という案内文だけでは、1.15という水準は動きません。予約の方法まで示す必要があります。

3. 管理職の対応を変える。 自己評価と他己評価のずれを埋めるには、部下側の評価を測ることから始めます。相談しやすさを匿名で聞き、結果を管理職に返す。そのうえで、聞いてよいことといけないことを研修で扱う。抑うつ症状との重なりも押さえておく必要があります。更年期の不調がうつと見分けにくい点は「更年期うつとは」で扱っています。

3つのうち、最も早く着手できるのは2番目です。制度の変更を伴わず、周知の作り直しだけで済みます。既存の相談窓口の案内文に、どの診療科が対応するか、どう予約するかを書き足すところから始められます。

効果を測る指標も、着手と同時に決めておいてください。相談件数、セルフチェックの利用率、そして翌年の同じ設問でのリテラシーの点数。3つ目は、施策の前に一度測っておかないと比較ができません。

なお、男性の更年期に関する追加の調査レポートを11月に公開する予定です。公開後、本記事にも結果を反映します。

Floraの支援:男性を含めた設計にする

Flora株式会社の「Wellflow」には男性版があり、症状の記録とセルフチェック、専門家監修のAIチャットへの相談、オンラインクリニックや近隣の医療機関の検索までを一つのアプリで提供しています。あわせて、自社の従業員と組織の課題を可視化して他社と比較するサーベイと、泌尿器科医による研修コンテンツも用意しています。女性の健康支援と同じ枠組みの中で、男性の更年期を扱える形にすることを目的とした設計です。これまでに150社以上に導入されています。

まとめ

男性更年期による1人あたりの年間損失額は281万円という推計があり、男性の健康課題全体では352万円になります。数字が大きく出る要因は、症状の重さより、気づかないまま働き続ける期間の長さにあります。

リテラシーの3項目のうち、医療への相談が4点満点で1.15と最も低くなっています。気づく手段を配り、医療につながる経路を具体的に示し、管理職の対応を測って変える。この順で進めてください。まず医療への経路の周知から着手できます。自社での進め方は無料相談でご案内しています。

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