治療と仕事の両立支援|制度のつくり方と両立支援プランの実務
2026年 9月 11日

がんや難病の診断を受けた社員から相談があってから、どう対応するかを考え始める。多くの企業がこの順序になっています。制度がないまま個別対応を重ねると、担当者によって扱いが変わり、前例が残らず、次の相談で一から悩むことになります。この記事では、治療と仕事の両立支援の進め方を、厚生労働省のガイドラインが示す手順に沿って整理し、両立支援プランの作り方、主治医とのやりとり、就業規則で決めておく項目、そして制度があっても支援が届かない理由までを扱います。
治療と仕事の両立支援とは
病気の治療を続けながら働き続けられるよう、企業が就業上の措置や職場環境の整備を行う取組です。厚生労働省は「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を示しており、進め方の標準的な手順が整理されています。
対象は特定の疾病に限られません。がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、難病など、反復的な通院や一時的な体調の変動をともなう疾病が広く含まれます。仕事が原因ではない私傷病である点で、労災による休業とは扱いが分かれます。
診断技術と治療法の進歩により、入院期間は短くなり、通院しながら働き続ける形が主流になりました。長期に休んで復帰するという想定だけで制度を組んでいると、実際に起きる場面と噛み合いません。数週間の入院より、その後に何か月も続く通院と体調の波のほうが、就業への影響としては大きくなります。
年齢構成の面でも避けて通れません。就業者の高齢化が進むほど、在職中に治療を要する疾病を抱える社員の割合は上がります。今は相談がなくても、数年のうちに複数の事例が同時に起きる可能性は高いと考えてください。制度は、必要になってから作るより前に作るほうが、はるかに安く済みます。
制度としては、休職・復職の枠組みだけでは足りません。両立支援で中心になるのは、働きながら通院を続ける局面です。月に数日の通院、副作用のある期間の業務調整、体力の回復に合わせた段階的な勤務。これらは休職の制度では扱えません。時間単位の年次有給休暇、時差出勤、テレワーク、短時間勤務といった選択肢を、休職とは別に用意しておく必要があります。
休職と復職の制度設計そのものは「私傷病休職とは?休職率の出し方と平均が男女差を隠す理由」にまとめています。
進め方の手順
ガイドラインが示す流れは、おおよそ次のとおりです。
- 本人からの申出:支援は本人の申出から始まります。会社が病名を把握して先回りする仕組みではありません。
- 情報の収集:業務の内容と勤務の状況を会社が整理し、主治医に伝えます。
- 主治医の意見:就業の可否、望ましい就業上の措置、配慮すべき事項について意見を求めます。
- 産業医等の意見:主治医の意見に、業務内容を踏まえた判断を重ねます。
- 両立支援プランの作成:就業上の措置と配慮の内容、期間、見直しの時期を決めます。
- 実施と見直し:定期的に状況を確認し、プランを更新します。
このうち2が抜けている企業が非常に多く見られます。診断書だけを主治医に求めると、返ってくるのは「就業可」か「療養が必要」という二択に近い内容になります。どのような業務を、どの時間帯に、どの程度の負荷で行っているかを先に伝えて初めて、実務で使える意見が返ってきます。厚生労働省は勤務情報を主治医に提供するための様式例を公開しており、これを使うと項目の抜けを防げます。
産業医面談の位置づけと運用は「産業医面談とは|義務となる基準・対象者・流れと拒否への対応を解説」で扱っています。
両立支援プランに書く項目
プランは長い文書である必要はありません。次の項目が埋まっていれば実務は回ります。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 就業上の措置 | 労働時間の短縮、時差出勤、作業内容の変更、出張や深夜業の制限 |
| 配慮事項 | 通院に要する休暇の取り方、休憩の頻度、就業場所 |
| 期間 | いつからいつまで。見直しの時期も明記する |
| 関係者 | 本人、上長、人事、産業保健スタッフの役割分担 |
| 情報の共有範囲 | 誰に何をどこまで伝えるか |
最後の項目を必ず入れてください。病名や治療の内容は機微な個人情報です。上長に共有するのは、業務上必要な配慮の内容にとどめるのが原則で、診断名まで伝える必要はありません。本人の同意を得た範囲を書面で確認しておくと、後の行き違いを防げます。
期間と見直しの時期を書いておくことも重要です。措置を出したまま見直しの機会を設けないと、体調が回復しても制限が残り続け、本人が言い出しにくい状態になります。3か月ごとなど、あらかじめ確認の時点を決めておいてください。
制度があっても支援が届かない理由
規程を整備した企業でも、実際の利用が伸びないことがあります。理由は制度そのものより、申し出のしやすさにあることがほとんどです。
支援は本人の申出から始まる建て付けであるため、言い出せない環境では制度が起動しません。評価への影響を心配する、迷惑をかけたくない、そもそも制度の存在を知らない。この3つが典型です。
打てる手は限られますが、効果はあります。制度の周知を人事からの一斉案内だけに頼らず、管理職向けの説明に含めること。相談の窓口を上長経由に限定せず、産業保健スタッフや外部窓口も選べるようにすること。そして、申し出が評価に影響しないことを明文化して伝えること。
Floraが別途実施した従業員サーベイ(就業中の女性 約60名)では、何らかの不調を挙げた人が87%にのぼり、そのうち8割近くは欠勤がゼロでした。不調を抱えたまま勤務を続けている人は、休職者としても相談者としても表に出てきません。制度の利用件数がゼロであることは、必要とする人がいないことを意味しません。
女性特有の疾病に関する制度設計は「不妊治療と仕事の両立支援制度のつくり方|休暇・就業規則の実例」に、早期発見の入口となる検診の受診率については「女性のがん検診受診率はなぜ低いのか?企業ができる受診率向上策と補助制度」にまとめています。
管理職が担う部分と、担わせない部分
両立支援の運用でつまずくのは、管理職に判断を丸投げしたときです。就業上の措置の内容は産業医等の意見にもとづいて会社が決めるもので、上長が個別に裁量で決める性質のものではありません。
管理職に期待するのは、業務の調整と、相談を受けたときに人事や産業保健につなぐことの2つに絞ってください。医学的な判断や、配慮の内容を独自に決めることは含みません。ここを曖昧にすると、部署によって扱いが変わり、公平性の問題になります。
同時に、業務の調整は管理職にしかできません。通院日に会議を入れない、負荷の高い案件の担当を一時的に外す、繁忙期の見通しを本人と共有する。こうした運用は現場でしか回せません。プランに書いた措置を実際の業務に落とすところが管理職の役割だと、明確に伝えてください。
管理職向けの説明では、制度の一覧より、実際の場面での対応例を扱うほうが定着します。相談を受けた最初の一言、伝えてよい範囲、人事に引き継ぐタイミング。この3つを具体的に示すだけで、現場の迷いは減ります。
就業規則と休暇制度で決めておくこと
両立支援を個別対応で回し続けると、担当者が代わったときに前例が失われます。規程に落としておく項目は次のとおりです。
- 時間単位または半日単位の年次有給休暇の取得可否
- 通院や治療に使える休暇制度(法定外の特別休暇を設ける場合はその要件)
- 短時間勤務、時差出勤、テレワークの適用条件と期間
- 休職と復職の判定手続き、および両立支援プランとの関係
- 申出の窓口と、情報の取扱いの範囲
法定外の休暇を新設するかどうかは、既存の年次有給休暇でどこまで対応できるかを見てから判断してください。時間単位年休を導入するだけで、月に数回の通院には対応できることがあります。制度を増やすより、既にある制度を使いやすくするほうが、早く効くことが多いところです。
失効した年次有給休暇を積み立てて療養に使える制度を設けている企業もあります。新たな原資を必要とせず、勤続の長い社員ほど手厚くなる設計のため、導入のハードルは比較的低いところです。ただし、積立の上限と使途の範囲を明確に定めておかないと、運用時に判断が分かれます。
制度を整えたら、年に一度は利用実績を確認してください。件数がゼロの状態が続いているなら、制度の問題ではなく周知か申し出やすさの問題である可能性が高くなります。利用件数と、相談窓口への相談件数を分けて記録しておくと、どちらの段階で止まっているかが見えます。
Floraの支援:使われる制度にする
Flora株式会社の「Wellflow」は、従業員が日常的に使うヘルスケアアプリと管理職・全社員向けの研修に、導入前後を同じ指標で測る効果検証サーベイを組み合わせた健康経営支援サービスです。制度の設計だけでなく、管理職の理解と相談のしやすさを測り、制度が実際に使われる状態まで支援します。生理痛体験研修とあわせて、これまでに150社以上に導入されています。
まとめ
治療と仕事の両立支援は、休職と復職の制度だけでは足りません。働きながら通院を続ける局面を想定し、時間単位の休暇や勤務時間の調整といった選択肢を用意することが出発点になります。
進め方では、勤務情報を主治医に伝える手順を飛ばさないこと。プランには期間と見直しの時期、そして情報の共有範囲を必ず書くこと。そして、制度の利用がゼロであることを、必要とする人がいない証拠として読まないこと。自社での制度設計は無料相談でご案内しています。
よくある質問
会社が病名を把握してもよいのですか。
主治医の意見書は診断書で代用できますか。
両立支援プランはどのくらいの頻度で見直しますか。





