生理痛体験研修の賛否|「意味がない」という批判と効果の限界にどう答えるか

2026年 9月 11日

生理痛体験研修を検討していると伝えると、社内から「意味がないのでは」という声が返ってくることがあります。2025年末に東京都の条例をめぐって議論が起きて以降、この反応は珍しくなくなりました。批判には理のある指摘が含まれており、無視して進めると社内で反発が残ります。この記事では、批判の中身を具体的に確認したうえで、研修で実際に変わるものと変わらないもの、同意と安全をどう設計するか、そして実施しないほうがよい場合を整理します。研修そのものの流れは「生理痛体験研修とは」にまとめています。

生理痛体験研修の賛否と批判は何を指しているのか

議論の発端は、東京都が女性活躍推進に関する条例の検討過程で、男性管理職が生理痛を疑似体験する取組に言及したことでした。SNSでの反発を受けて、複数のメディアが批判的な記事を出しています。

時期を並べると、何が議論されたのかが見えやすくなります。

時期出来事
2025年12月都議会で、都が指針に示す取組例として男性管理職向けの生理痛体験会に言及。報道され、SNSで賛否が広がる
2025年12月17日東京都雇用・就業分野における女性の活躍を推進する条例が都議会で可決・成立
2025年12月26日プレジデントオンラインに医師の筒井冨美氏が批判的な寄稿
2026年1月20日ダイヤモンド・オンラインが賛否両論を報じる記事を掲載(武藤弘樹氏)
2026年6月1日都が指針と取組事例集を公表
2026年7月1日条例が施行

対象になったのは、議会答弁で例として挙がった手法です。条例の条文で体験会が義務づけられたわけではありません。ここを取り違えたまま賛成・反対を論じている投稿は、当時かなりの数がありました。

批判は大きく3つに分かれます。

痛みは再現できない、という指摘。 ダイヤモンド・オンラインの記事では、電気刺激で再現できるのは腹部の痛みの一部であり、月経に伴う吐き気、眠気、精神的な負担、そしてそれが毎月数日続くという時間の要素までは体験できない、という声が紹介されています。数分の体験で「分かった」と思われることのほうが危うい、という趣旨です。

同意のない苦痛は正当化できない、という指摘。 プレジデントオンラインに寄稿した医師の筒井冨美氏は、理解のために他者の身体に痛みを与える権利は誰にもない、という漫画家の言葉を引きながら、この取組を批判しています。集英社オンラインの記事でも、業務命令として強制した場合には法的な問題が生じうるという弁護士の見解が紹介されました。

参加者の感想は当てにならない、という指摘。 会社の研修として実施される以上、参加した管理職が正直に「意味がなかった」と言える状況にはならない、という指摘です。満足度アンケートの数字が高く出ることそのものが、評価の材料にならないという主張になります。

3つとも、実施する側が答えを用意しておくべき指摘です。とくに2番目は、設計次第で本当に問題になります。逆に言えば、設計で答えられる指摘でもあります。批判をまとめて感情的な反発として片付けると、答えられるはずの部分まで放置することになります。

生理痛体験研修の効果として実際に変わるもの

Floraが実施した生理痛体験研修の参加者調査では、管理職を対象とした回では、参加者の98%が「今後の行動を変えようと思った」と回答しました(Flora社調べ、2025〜2026年・4社201名)。自由記述では、体調不良を訴える部下への声のかけ方、業務の振り分け方、休暇を取りやすくするための言い方といった、具体的な行動に言及するものが多くを占めています。

社名を公表している実施例もあります。2025年8月に豊通ヒューマンリソース株式会社で実施した管理職中心・約40名のワークショップでは、参加者全員が「体験してよかった」と回答し、9割以上が「今後の行動を考え、変えようと思った」と回答しました。詳細は実施リリースに掲載しています。

ここで変わっているのは、痛みの理解そのものというより、痛みの存在を前提に行動する構えです。 「体調が悪いなら早退して」と言えるかどうか、月次の締切と重なったときに業務を代われる体制を作っておくかどうか。研修が効いているのは、こうした判断の場面です。

もう一つ観察されるのは、話題にできるようになることです。 月経に関する話は、職場では話題にしにくいものとして扱われてきました。全員が同じ体験をした直後は、この話を業務の文脈で口に出す心理的な障壁が下がります。相談窓口や休暇制度の周知を、研修と同じ日に行うと利用が伸びるのはこのためです。窓口の設計は「女性の健康相談窓口」にまとめています。

研修で変わらないもの

一方で、研修だけでは動かないものがはっきりしています。

制度は変わりません。 生理休暇の規定がない、あっても有給扱いでない、申請時に上長への口頭説明が必要、といった状態は、研修を実施しても変わりません。

業務量の設計も変わりません。 一人が休むと業務が止まる体制であれば、理解が深まったところで休みは取りにくいままです。バックアップの体制、締切の設定、要員の余裕。ここに手を入れない限り、行動は変わりようがありません。

痛みの理解そのものも、完全には変わりません。 批判が指摘するとおりです。数分間の体験で再現されるのは、症状の一部にすぎません。研修の場では、これを隠さずに伝えるべきです。「これで分かった」ではなく「これは一部でしかない」と結ぶほうが、参加者の行動には長く残ります。

つまり研修は、制度と業務設計に手を入れる意思がある組織で、その動きを加速させる道具です。制度に触らないまま研修だけを実施すると、批判が言うとおりの結果になります。

同意と安全をどう設計するか

2番目の批判に答えるのは、設計の問題です。次の条件を満たしていない実施は、避けてください。

  • 参加は任意にする。 業務命令として全員に受けさせない。参加しない選択をした人が不利に扱われない旨を、案内の時点で明示する。
  • いつでも中止できるようにする。 体験中に本人の申し出で即座に止める。強度も本人が選ぶ。
  • 健康上の理由がある人を除外する。 心臓疾患、ペースメーカーの使用、妊娠中など、電気刺激を用いる機器の適用外にあたる条件を事前に確認する。
  • 撮影と公開の範囲を先に決める。 苦悶する表情を社内報やSNSに載せることは、参加者にとっての負担になります。顔が写る撮影を行うかどうかは、本人の同意を個別に取ってください。
  • 見せ物にしない。 大人数の前で一人が体験する形式は避け、体験する側と観察する側が固定されない設計にします。

任意参加にすると参加率が下がるという懸念はあります。ただし、強制して受けさせた研修で得られた「理解した」という回答には、批判が指摘するとおりの信頼性の問題が残ります。任意で集まった参加率そのものが、施策への関心を測る指標になると考えるほうが実務的です。

実施しないほうがよい場合

次のいずれかに当てはまるなら、研修は後回しにしてください。

制度に手を入れる予定がない場合。 研修だけを実施して制度を据え置くと、「体験させられたが何も変わらなかった」という記憶だけが残ります。次の施策への協力も得にくくなります。

女性活躍の取組が研修しかない場合。 相談窓口も休暇制度の見直しもない状態で体験研修だけを行うと、対外的な発信の材料を作るための取組と受け取られます。

参加者の心理的安全性が確保できない場合。 上下関係の強い職場で、上長が参加する場に部下が同席する形式は、率直な感想が出にくくなります。階層を分けるか、外部のファシリテーターを入れてください。

すでに社内で強い反発がある場合。 反発がある状態で強行すると、研修の内容とは無関係に、施策そのものへの反感が固定されます。この場合は、まず座学の研修と制度の整備から始めるほうが確実です。半年後に、制度が動いた実績を持ったうえで改めて提案すれば、受け取られ方は変わります。

東京都の指針は何を求めているか

議論の発端となった東京都の動きについて、実務上おさえておくべき点があります。東京都が示している指針は、事業者に対して研修の実施、休暇制度の整備、相談体制の構築、プライバシーへの配慮を求める内容です。体験型の研修を実施することを求める記載ではありません。

つまり、条例や指針への対応という観点であれば、体験研修は必須ではありません。求められているのは、知識を得る機会があること、休める制度があること、相談できる先があること、そして健康情報の取り扱いが適切であることです。体験研修は、このうち最初の項目を実施する方法の一つという位置づけになります。指針の中身は「東京都の女性活躍推進条例と健康課題」にまとめています。

成立した条例の条文にも、2026年6月1日に公表された指針にも、生理痛体験会という言葉はありません。指針にあるのは、従業員等に対する研修や普及啓発という表現です。

指針とあわせて公表された取組事例集を見ると、都が想定している範囲がもう少しはっきりします。女性特有の健康課題等への対応の章に都内事業者の事例が10件収められていますが、生理に関する2事例はどちらも体験型ではありません。建設業の例は、社内有志のワーキンググループと女性従業員アンケートから、会議時間の見直し、スタンディングデスクの導入、女性の健康課題を学ぶセミナーの開催に至ったというものです。医療業の例は、男性用トイレへのPMS理解促進ポスターの掲示と婦人科検診の補助制度でした。広告業の例では、研修をきっかけに立場や性別を問わず健康課題について意見交換が行われるようになり、休暇制度の見直しにつながったとあります。

都が事例として示しているのは、職場の制度や運用が実際に変わったところまでを含む取組です。体験したかどうかは問われていません。

この整理は、社内で説明するときにも使えます。体験研修をやるかどうかと、指針に対応するかどうかは別の話です。前者は手段の選択であり、後者は制度と体制の話です。月経随伴症状と業務の関係そのものは「PMSと仕事の両立」で扱っています。

社内の反対意見にどう答えるか

実務でよく出るのは、次の3つです。

「痛みを与える研修は問題ではないか」。任意参加であること、強度を本人が選べること、途中でやめられることを先に説明してください。設計を示さずに意義だけを語ると、この懸念は解けません。

「東京都が言っているからやる、ということですか」。条例と指針は体験会を求めていません。やるとすれば自社の判断です、と言い切ったほうが議論は前に進みます。

「研修をやって何が変わるのですか」。ここは測り方の話になります。事前・事後で同じ設問を取る設計にして、行動に関する設問を入れておけば答えられます。公表されている各社の数値をどう読むかは「生理痛体験研修を「効果」で選ぶ」に整理しました。

いずれも賛否そのものに踏み込まずに答えられます。批判した人を論破する必要はありません。自社の設計を説明できれば足ります。

採用広報や社外発信で触れる場合は、もう一段の注意が要ります。体験している場面の写真は、本人の表情が入るほど反響が割れます。撮影と公開の可否を事前に本人の同意として取り、顔が写る写真は使わない運用にしておくと、発信の段階で迷いません。発信する中身も、体験した事実より、そのあと職場で何を変えたかに置いたほうが伝わります。

Floraの支援:制度と一緒に設計する

Flora株式会社の「生理痛体験研修・ワークショップ」は、体験のパートと、月経随伴症状の基礎知識、そして管理職が実際に取る行動の設計までを一続きにした研修です。参加は任意を前提とし、中止の申し出、強度の選択、撮影の可否をあらかじめ定めた形で実施しています。研修の前後で同じ設問を取り、行動の変化を測るところまでを含めて設計します。これまでに150社以上に導入されています。費用は実施形式と規模により異なりますので、個別のお見積もりでご案内しています。

まとめ

生理痛体験研修への批判のうち、「痛みは完全には再現できない」という指摘と「同意のない苦痛は正当化できない」という指摘は、実施する側が受け止めるべきものです。前者には、体験が一部でしかないと研修の場で明言することで答えられます。後者には、任意参加、中止の自由、健康上の除外条件、撮影の同意という設計で答えます。

研修で変わるのは、痛みの理解そのものより、体調不良を前提に業務を組む構えです。制度と業務設計に手を入れる意思がある組織では、その動きが早まります。手を入れる予定がないのであれば、研修は後回しにしてください。自社での進め方は無料相談でご案内しています。

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