私傷病休職とは?休職率の出し方と平均が男女差を隠す理由
2026年 9月 11日

休職者数を毎月集計しているのに、その数字から施策が決まったことがない。健康経営の担当者からよく聞く話です。原因の多くは、集計の粒度にあります。全社の休職率をひとつ出すだけでは、どこで何が起きているかが平均に飲み込まれます。この記事では、私傷病休職の定義と休職率の計算方法を整理したうえで、雇用形態を揃えて数え直すと同じデータから何が見えるかを、実際の人事データで示します。
私傷病休職とは
業務外の傷病、すなわち仕事が原因ではない病気やけがによって働けなくなった従業員に対し、雇用関係を維持したまま一定期間の労務提供義務を免除する制度です。労働基準法に定めがある制度ではなく、就業規則で各社が設計します。
業務上の傷病による休業とは扱いが分かれます。労災による休業は療養中とその後30日間の解雇が制限され、休業補償の対象になります。私傷病休職はこれに当たらず、賃金の支払いも法律上の義務ではありません。多くの企業では無給とし、健康保険の傷病手当金で本人の生活を支える設計にしています。
就業規則で決めておく項目は、対象者の範囲、勤続年数に応じた休職期間、期間満了時の扱い、復職の判定方法、そして休職期間中の社会保険料の負担方法です。とくに期間満了時の扱いは、退職とするのか解雇とするのかで手続きが変わるため、曖昧にしていると後で争いになります。
対象者の範囲では、有期雇用の従業員を含めるかどうかが論点になります。契約期間の残りより休職期間のほうが長い場合の扱いを決めていないと、運用のたびに個別判断になります。制度を適用しないと決めるなら、その旨を規則に明記してください。書いていないことは、後から不利に解釈されがちです。
休職の開始にあたっては、診断書の提出を求めるのが通常です。求める内容として、傷病名、療養が必要な期間、就業が可能かどうかの3点を最低限そろえてください。期間の記載がない診断書だけで発令すると、いつまで休職なのかが定まりません。
私傷病休職の休職率の計算方法
分母と分子の取り方には複数の流儀があります。実務でよく使われるのは次の2つです。
| 指標 | 計算式 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| 休職発生率 | 期間中に新たに休職を開始した人数 ÷ 在籍者数 × 1,000 | 新規に起きた件数を追う |
| 休職者比率 | ある時点で休職中の人数 ÷ 在籍者数 × 100 | 現在の負担を把握する |
前者は在籍1,000名あたりの件数で表すことが多く、企業規模が違っても比べやすくなります。後者は期間の長い休職者が滞留すると上がるため、両方を持っておくと状況を読み違えません。
分母には休職中の本人も含めます。除いてしまうと、休職者が増えるほど分母が減り、率が二重に上がります。集計対象の期間は、年度で切るのが一般的です。
もう一つ、何日以上の欠勤から休職として数えるかを決めておいてください。就業規則上の休職発令をもって数えるのが最も明確ですが、発令までに1か月の欠勤が先行する設計であれば、その1か月は集計に現れません。制度の運用と集計の定義がずれていると、他社の数字と比べたときに自社だけ低く出ます。
休職の開始日で数えるか、終了日で数えるかも揃えてください。長期の休職者は年度をまたぐため、どちらで数えるかによって年度ごとの件数が変わります。開始日で数えるほうが、新たに起きた事象を追う目的には合います。
全社平均で見ると、差は見えない
ここからが本題です。Floraがある地方銀行(正社員約2,000名規模)の人事データを数年分たどった集計では、全社をひとまとめにした私傷病休職の男女差は1.24倍でした。気に留めるほどの水準ではありません。
同じデータを雇用形態で分けると、見え方が変わります。
| 区分 | 発生件数(在籍1,000名あたり) |
|---|---|
| 正社員系・女性 | 31.6 |
| 正社員系・男性 | 12.5 |
| 非正規系・女性 | 2.7 |
| 非正規系・男性 | 5.0 |
正社員系にそろえると、女性は男性の2.5倍です。全社をまとめたときの1.24倍とは意味の違う数字になります。年代を30代に絞ると、差は3.7倍まで広がりました。
非正規系では逆転していることにも注目してください。女性2.7に対して男性5.0です。「女性は休みやすい」という一般化では、この並びを説明できません。起きているのは、正社員として働く女性に負荷が集中している状態です。
なぜ平均が差を薄めるのかというと、女性の在籍が非正規側に多く寄っているためです。休職の少ない層が女性側の分母を膨らませ、正社員女性の高い水準を打ち消しています。雇用構成の偏りが、健康指標の見え方まで動かしていることになります。
非正規系で休職率が低く出ること自体にも、解釈の注意が要ります。契約期間が短ければ、体調を崩したときに休職制度を使うより契約を終える選択になりやすく、そもそも休職として記録に残りません。低い数値が健康であることを意味するとは限らない、という点は押さえておいてください。
同じ理由から、休職率は雇用の安定性が高い集団ほど高く出る傾向があります。正社員系の数値を非正規系と直接比べるのではなく、それぞれの区分の中で男女や年代を比べる。この使い方であれば、制度の使いやすさの差に振り回されずに済みます。
この集計は1社の中で観察された関連であり、因果を断定するものではありません。自社で同じ切り口を試すための見取り図としてお読みください。
自社で確かめる手順
新しい調査は要りません。手元の休職記録と在籍者名簿だけで足ります。
- 休職の発生件数を、正社員系と非正規系に分ける
- それぞれを、対応する在籍者数で割り直す
- 同じ区分の中で男女を比べる
- 年代を重ねて、30代・40代を切り出す
この4手順で、全社平均では見えなかった集中が浮かびます。表計算ソフトで十分に足りる作業です。件数が少ない区分では年次の変動が大きくなるため、3年程度をまとめて数えると安定します。
集計の際は、傷病の種類を精神疾患とそれ以外に分けておくと次の判断が早くなります。両者は平均的な休職期間も復職後の経過も異なるため、合算した平均日数はどちらの実態も表しません。個人が特定されない粒度に丸めることを前提に、大分類だけでも分けてください。
もう一点、休職に至らなかった短期の欠勤も並べておくと状況がつかめます。休職の手前で断続的な欠勤が続いている層があれば、そこが次に休職として表に出てくる集団です。
休職期間の設計でよくある論点
就業規則を見直すときに議論になるのが、休職期間の長さと通算の扱いです。
期間は勤続年数に応じて段階を設けるのが一般的で、勤続1年未満は3か月、5年以上は1年半といった形が多く見られます。健康保険の傷病手当金が支給される期間が通算1年6か月であることから、これに合わせる設計も広く使われています。
見落とされやすいのが復職後の再発の扱いです。復職から短期間で同じ傷病により再び休職した場合に、前の休職期間と通算するかどうかを定めていないと、休職と復職を繰り返すたびに期間がリセットされます。「復職後6か月以内に同一または類似の傷病で再休職した場合は前後を通算する」といった条項を置くのが実務的です。
復職の判定基準も明文化してください。主治医の診断書だけで判断すると、業務内容を踏まえた就業可否の評価にならないことがあります。産業医の意見を必須とし、判定に用いる資料と手順を規則に書いておくと、個別の判断がぶれません。
休職に出るのは、起きていることの一部
休職は最終段階の指標です。表に出るのは、働けなくなった人だけです。Floraが別途実施した従業員サーベイ(就業中の女性 約60名)では、何らかの不調を挙げた人が87%にのぼり、そのうち8割近くは欠勤がゼロでした。不調を抱えたまま出勤を続けている人が、休職者の背後に相当数いることになります。
このため、休職率だけを健康施策の効果指標に置くと、施策が効いているかどうかの判断が遅れます。出勤していてもパフォーマンスが落ちている状態の測り方は「プレゼンティーズムの測定方法:損失額の計算や分析方法から対策まで」に、欠勤と出勤の両面から損失を捉える考え方は「アブセンティーズムとプレゼンティーズムとは?企業が知るべき健康経営の課題と対策」にまとめています。
復職の局面で見落とされやすい健康課題は「産休・育休明けに見落とされる健康課題——復職支援で企業ができること」で、治療と仕事の両立支援は「不妊治療休暇とは?仕事との両立支援で休職する女性を減らす取り組み」で扱っています。
Floraの支援:平均に埋もれた集中を見つける
Flora株式会社の「Wellflow」は、従業員が日常的に使うヘルスケアアプリと管理職・全社員向けの研修に、導入前後を同じ指標で測る効果検証サーベイを組み合わせた健康経営支援サービスです。休職記録を雇用形態と年代で分け直し、どの層に集中しているかを特定するところから支援します。生理痛体験研修とあわせて、これまでに150社以上に導入されています。
まとめ
私傷病休職の休職率は、計算式より切り口で結論が変わります。全社をまとめた一つの数字は、雇用構成の偏りに引きずられて差を薄めます。正社員系と非正規系に分け、それぞれの在籍者数で割り直し、年代を重ねる。この手順を踏むだけで、手を打つべき層が具体的になります。
あわせて、休職として表に出ていない層にも目を向けてください。不調を抱えたまま出勤している人のほうが、件数としては多く存在します。自社の休職記録で同じ集計を試す進め方は無料相談でご案内しています。
よくある質問
私傷病休職中の賃金は支払う必要がありますか。
休職率の分母に休職者本人を含めますか。
男女で休職率に差が出るのは自然なことですか。





